第92話 # エイプリルフール じゃねぇよ。
「いやあ、それにしてもいい天気だね!」
「今、大雨だぞ」
お足元の悪い中ってレベルじゃねぇよ。
「ジョークだよジョーク」
どうせ嘘を吐くんだったら、もっとマシな嘘を吐けよ。
「実は僕、宿題もう終わってるんだよね!」
「虚偽申告やめろ」
寺田は自分を騙そうとしているのか?
春休みの終盤、俺たち4人は近くのファミレスにいた。
集まった理由は、宿題を今日中に終わらせるため。
ちなみに瀬野は、すでに宿題を終わらせたらしい。
普通に羨ましいんだけど。
「ご注文のフライドポテトでーす」
やる気のなさそうな店員が注文の品を届けに来た。
以前はフライドポテトを寺田に食べられてしまったので、全員で食べるようにした。
「寺田、箸を取ってほしいんだけど」
「普通に手で食べれば良くない?」
「宿題しながらだと手が汚れるの嫌じゃん」
「オッケー」
そう言って寺田は、指の隙間に箸を挟んでこちらに渡してきた。
「箸でバルログ持ちするヤツ、初めて見たわ」
そう言いつつ、おとなしく箸を受け取る。
フライドポテトを口に放り込んでから、俺たちは宿題を始めることにした。
「そういえば今日ってエイプリルフールじゃん」
「そうだな」
吉川の顔を見ないで応える。
「何か嘘を吐いた?」
「俺はまだだな」
そもそも嘘を吐く予定もないし。
「そういえば楠本くん、テンションが上がったときに奇声をあげながらダンスするって話を聞いたことあるね」
「適当な嘘吐くなよ」
「え、それ僕も聞いたことあるかも……」
ガチっぽい雰囲気にしたら、ガチっぽくなるからやめろ。
言ったこともないし、したこともねぇよ。
「どうせだったらもっとマシな嘘を吐けって」
「楠本くんの宿題を実は僕が肩代わりしてるって話?」
じゃあ、いま俺がやってる宿題は何なんだよ。
「それは僕もびっくりした!」
「寺田のそのポジションも、普通にやってるからな」
流石に自分でしてるわ。
そのとき突然、男の悲鳴がスマホから聞こえた。
「あー悪い。着信音切ってなかったわ」
そういって瀬野はスマホを取り出す。
いつも通りスマホを操作して、すぐに鞄に入れた。
「瀬野くんの着信音、特殊過ぎない?」
「そうか?」
「フリー素材の男の叫び声じゃん」
動画とかでよく聞くヤツ。
「遠くからでも連絡が来たことに気づけていいんだよ」
何も知らない人が聞いたら事故があったのでは、って勘違いしそうだけどな。
飲み物を口にしてから、瀬野が再び口を開いた。
「そういえば、エイプリルフールって企業がSNSで発表したりするよな」
「よくあるね」
フライドポテトを食べながら、寺田は頷いた。
「4月1日より前にやってたりするの見たことあるんだけど、もし前倒しをしすぎて、4月2日にエイプリルフールネタをやっても大丈夫なのか、って気になるな」
「それ、一周回って乗り遅れてるだろ」
# エイプリルフール じゃねぇよ。
「エイプリルフールネタを3月中旬とかにやる企業とかもいるんだよね?」
「まぁいるな」
頷く瀬野。
「じゃあこの宿題も実はエイプリルフールネタってことない?」
「存在自体が嘘でやる必要ないですよ、みたいな!」と吉川。
俺もそうであってほしいわ。
その後しばらくは真面目に宿題を片付けた。
寺田は席を立ったりスマホを触ったりしてるけど大丈夫なのか?
「やっとできた!」
「なにが?」
「いいから見てみてよ!」
そういって寺田はこちらにスマホを見せてきた。
それは、一見すると俺たちがファミレスで宿題を広げている写真だった。
しかし、なぜか俺の横に白装束の女が座っている。
「生成AIを使って加工してみた!」
「心霊写真として白装束の女はまんますぎるだろ」
このセンシティブな現代に、生成AIで加工する寺田の倫理観に苦言を呈したかったが、それはとりあえず飲み込んだ。
「じゃあこれはどうかな?」
すぐに寺田は画像を見せる。
俺の横にファンシーなウサギが座っていた。
心霊写真にウサギってどうなの?
そういうと、溜め息を吐いてから寺田がスマホを操作して、すぐに見せてきた。
「これなら楠本くんも満足してくれる?」
「……俺、びっくりするくらい幽霊に囲まれてるじゃん」
その写真は、俺の半径数十センチに幽霊の大群が結集していた。
コレ、魑魅魍魎ってレベルじゃねぇぞ。
「ていうか寺田」
「なに?」
「せっかくファミレスに来たんだから、普通に宿題やれって」
本来の目的忘れそうだったけど、エイプリルフールで集まったわけではない。
宿題を終わらせるために、わざわざ春休みに集まったんだ。
その後は寺田も真面目に宿題に取り組み、今日中に終わらせることができた。
全員の宿題が終わり、席を立って精算に向かう。
「今日は僕の奢りにしようかな」
「え、マジ?」
「それは助かる」
俺たちは寺田に対し、口々に感謝を述べる。
「ほら、ここはツッコんでほしいんだよ!」
「なんて?」
「『偽善者みたいなことするなよ』って!」
「別に奢るヤツが全員偽善者ってわけではないだろ」
これは当初から寺田が考えていた、渾身のエイプリルフールボケだったらしい。
それよりは生成AIネタの方が、切れ味抜群だったと思うけどな。
普通に割り勘で支払って、俺たちは別れた。




