第91話 次の機会に返してもらおうかな。
「全校集会とかってさ、マジで暇だよねー」
「そうだな」
俺は寺田に頷く。
「そういうときってさ、どうやって時間を潰してる?」
寺田が尋ねる。
「俺は完全に思考を停止してるな」
「全校集会で座禅してるのかな?」
それ以外やることないし。
三学期の終業式が終わったあと。
教室に戻る傍ら、俺たちは話をしていた。
「こういうのってよくあるじゃん」
「何が?」
「いきなりテロリストが体育館に入ってきたらどうしよう、みたいな妄想」
そういうときにどうやって生き残るかみたいな、と寺田。
授業中とかにたまにするヤツだな。
「それ、俺もやったことあるな」
「瀬野くんもやったことあるの?」
「あぁ」
吉川に頷く瀬野。
「まず相手は銃を装備していると考えるだろ?」
「よくある妄想だけど、銃を持ってるヤツが体育館に来るっておかしいよな」
来る場所間違えてるだろ。
まあ妄想だし、問題ないか。
「テロリストが乱入する中でどう生き残るかって言ったら、やっぱ死んだふりだろ」
そう言って瀬野が説明を始めた。
静寂を切り裂く銃声。
すぐに俺は地面に伏せる。
闊歩する覆面のテロリスト。
銃口の熱を感じながら、静かに息を殺す……
「それだけだと面白くないと思うけどね」
寺田が瀬野に応える。
たしかに、物語としてシンプルな感じがする。
「生き残るくらいだったら、誰でもできそうじゃん」
「相手のこと、過小評価してる気がするけどな」
じゃあ寺田はどうするんだよ、と言って俺は話を促した。
静寂を切り裂く銃声。
逃げ惑う生徒たち。
覆面のテロリストはそれに気にも留めず、ステージまで向かう。
校長はステージ脇へ避難。
マイクを奪い取り、体育館を見回してからかすれた声で彼は呟いた。
『今すぐ全校集会を終わらせろ』
「生徒と全く同じ意見じゃねぇか」
覆面のテロリスト、たぶん生徒だろ。
「それで、寺田くんはどこにいるの?」
「ステージ脇に避難する校長かな」
「モブすぎだろ」
テロリストを一番近くで見たいらしい。
それにしても、寺田の配役はミスってるだろ。
「テロリストの意見ってもっと具体的なこと言いそうだけどね」
「全校集会を終わらせろってのも、かなり具体的だったと思うけどな」
僕ならこういう感じにするね、と言って説明を始める。
静寂を切り裂く銃声。
逃げ惑う生徒たち。
覆面のテロリストはそれに気にも留めず、ステージまで向かう。
校長はステージ脇へ避難。
マイクを奪い取り、体育館を見回してからかすれた声で呟いた。
『貧血の生徒が出ている。今すぐ全校集会を終わらせろ』
「そのテロリスト、たぶんさっきのヤツと同一人物だな」
覆面だけど、マスク脱いだら同じ顔が出てきそう。
「吉川くんはどこにいるの?」
「うーん、じゃあマイクで」
「人ですらねぇのか」
そんなくだらない話をしているうちに、教室に着いた。
「先生たちの話がつまらないのが問題だと思うんだよね」
「あーそれは間違いない」
あんなに長い話ができるというのも、逆にすごいとは思うけど。
「先生の話って長いのに、誰も聞いてないじゃん」
「まぁ、話してる本人以外は真面目に聞いていないと思うね」
「だからアレ、途中から物語とか読み上げてても気づかれないんじゃない?」
例えば、と言って寺田は続ける。
『みなさん、おはようございます。
今日は3学期の終業式です。
まず、この学期を振り返ってみましょう。
3学期にあった学校行事と言えば、
バレンタイン。
教室の空気がどこか落ち着かない。
男子たちはどこかそわそわして引き出しの中を確認している。
結局、放課後まで誰からもチョコを貰うことはなかった。
教室にはほとんど人が残っていない放課後。
窓の外から差し込む夕焼けは、いつもに増して赤みを帯びていた。
「……まだいたんだ」
声のした方向に視線を向けた。
そこにいたのは、幼なじみの少女。
「そっちこそ」
いつも通りの返しをしているが、この空気感に心臓が高鳴る。
「今日ってさ、バレンタインじゃん」
「そうだね」
だからさ、ほら、と言って鞄から取り出した。
差し出されたのは小さな箱。
いかにもって感じ。
「義理?」
「当たり前でしょ」
そう応える彼女の耳は、差し込む夕焼けのせいか赤みを帯びていた』
「校長がいきなりバレンタインの話をしてたら、流石に聞き入るわ」
なんかセリフも読み上げてるし。
ちなみに、吉川にだけは好評だった。
ロングホームルーム開始のチャイムが鳴ったので、俺たちは自分の席に戻る。
そしてその後は、普通に春休みに向けた説明が行われた。
ロングホームルームの終了を知らせるチャイムがなり、帰ってよいと言われた。
次に学校に来るのは始業式の4月上旬。
そこで2年次のクラスが発表されて、上の階に向かうという感じだ。
つまり今帰ったら、今後話すことのない生徒だっているということ。
だからといって、教室に残ることはない。
寺田は部活動。
瀬野は家に帰って宿題を片付けたい。
吉川は好きなラブコメの最新刊が出るから買いに行きたいと言っていた。
俺も早く家に帰りたかったので、いつも通り「じゃあな」と言って別れた。
「吉川くんはもう帰るの?」
「うん」
書店で買いたい本があるから、と付け加える。
「じゃあこれあげる」
そういって深山さんはお菓子を1つ、僕の手に載せた。
「なにこれ?」
「普通のお菓子」
一年間、お疲れ的な意味でね、と呟く。
そのお菓子は、どこにでも売っているようなクッキーだった。
小学生の時とかに、よく食べてたヤツ。
「僕、お返し的なの持ってないよ?」
「あはは、それは困ったね」
「どうしようかな」と、深山さんは手を顎あたりに置いて上を見る。
「じゃあ、次の機会に返してもらおうかな」
「次ってある?」
「4月になってからならあるかも」
「違うクラスになったら、そういうのできなそうだけど」という言葉は飲み込んだ。
「じゃあ4月以降に飲み物でも奢ろうかな」
「うん」
いつも通り「またね」と口にして、僕たちは別れた。
おまけ:
吉川くんと深山さんが9ヶ月連続して隣になる確率。
(2/39) ^ 9= 512/208,728,361,158,643,578 (≈0.00000000024%)




