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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第86話 お前もそっち側に行くのかよ。

「テストどうだった?」

「テストってどのテスト?」

「学年末テスト」

「あーそっちね」


他に何のテストを受けたんだ。



昼休み。



総合成績表が前の時間に渡された。


頼んでないのに余計なもの渡してくんな、といつもなら思うが、

今回はそれなりに良かったので、早く渡せと思っていたところだった。


「ちなみに僕はほとんどいつも通りだったけど、英語の成績だけ良くなってた」


今回は出し抜けるんじゃないかと思っていたが、

苦手科目の英語の成績が良かったのであれば話は変わってくる。


後で確認しておこう。


「俺はいつも通りだったな」


瀬野のいつも通りは普通に成績が良かったという意味だ。


「僕もいつも通りだったね」


寺田のいつも通りは普通に成績が悪かったという意味だ。


「俺はいつもより良かったな」

「楠本くん、まあまあ」


そう言いながら寺田に肩を叩かれた。


「なんでたしなめられているみたいな言い方するんだよ」


普通に成績良かったんだって。



「そういえば寺田、サッカー部の中で一番成績が悪いヤツが奢り、みたいな罰ゲームしてるって言ってなかった?」

「うん」

「結果は?」


すでに全科目の点数は昨日の段階で出ていたはず。


寺田に視線が集まった。


「……いや正直、ここからでも逆転できると思ってるわけなんだけど」

「その言い方、お前が一番最下位だったって言ってるようなものだぞ」


惜しくもビリだったようだ。


「まだ逆転の手はあるはずなんだって!」


まだあきらめていないようだ。


「でもサッカー部の同じ学年の部員の飲食代を払うって感じだろ?」


うちの高校のサッカー部はそこまで規模が大きくない。

そして俺たちの学年のサッカー部の人数は他の学年よりかなり少ない。


だから寺田の出費はそこまで多くならないはず。


そのくらいの罰ゲームなら受けても良いと思うけど。


「楠本くんはサッカー部の恐ろしさを理解してないよ」

「ほう」


そもそも理解するつもりもないんだけど。


「まずサッカー部って食べる量が尋常じゃないくらい多いんだよね」


子供の頃からコーチたちに吐くまで食えって言われるんだから、と付け加える。


それも問題な気がするけど、実際そういう人もいるらしい。


「それだけじゃないよ」


そういって寺田が言葉を切ってから続ける。


「サッカー部が恐ろしいのは、罰ゲームのために本気で注文するところだよ!」

「最初のと同じに聞こえるけど」


食べる量が異常に多いってことなら。


「ファミレスに行く前に誰かがフードファイターのテクニックを調べるでしょ?」


ガチすぎるな。


「例えば『水を飲むと胃が伸びて満腹感が感じやすくなる』っていう知識があったら、ドリンクバーを頼んで一回も飲み物を飲まない可能性すらあるよ!!」

「ファミレスでドリンクバーノータッチってことある?」


寺田は、深刻そうな面持ちで震えていた。


「寺田くんは罰ゲームを回避したいの?」

「そうだね」


寺田が吉川に頷く。


あと3点あればいいらしい。


「もし罰ゲームを回避できたらどうするんだ?」

「そうなったら『できるだけ多く食べることのできる方法』で検索してみんなに教えて、ドリンクバーを注文するけど何も飲まないで注文し続けるね」

「お前もそっち側に行くのかよ」


「やっぱ罰ゲームだから、罰ゲームっぽくしないと」と寺田。


ならその罰ゲーム、受け入れてもいいだろ。


「実際、今の状態で点数をあげるって難しいよね」

「そうだな、もう成績表が返された状態の今、点数は確定してるだろうし」


成績が変わるのは、テストが返却されたその時間だけ。

採点ミスなどを指摘すればたまに点数を貰えたりする。


「いや、僕の成績を上げなくてもいいでしょ」

「でもお前、3点足りないんだよな?」


そうだけど、と言って寺田が続けた。


「僕以外全員の点数が3点下がれば、結果的に最下位を回避できるじゃん」


逆転の発想だな。


「ほら言うじゃん、高くて届かないものは、届く位置まで引きずり降ろせって」

「初耳だわ」


でもそのフレーズ、なんかカッコいいな。

俺も明日からそのフレーズを使っていこう。


あんま使いどころないけど。



結局、寺田の答案の採点ミスを探して、担当の先生に修正をお願いしたほうが良い、ということになった。


「とりあえず、これが僕の解答用紙だね」


寺田は俺たちに答案を見せてきた。


「……採点ミスあったとしても、この答案だと先生たちは修正してくれないだろ」

「なんで?」

「いや、ほら……」


俺は数学の答案を指さす。


「テスト中に寝てる形跡があるヤツの採点ミス、今から修正したくなるか?」


解答の至る箇所に良く分からない線が散らばっている。

授業中でシャープペンシルを持ちながらうとうとしてるときにできるヤツだ。


「眠くなってはいたけど、寝てはないないから!」


そこにプライドがあるらしい。

でも寺田、授業中は寝てるじゃん。


「もし採点ミスがあって、寝てたからダメとか言われたら、もうVARだね」

「テストで?」


プロスポーツとかであるヤツだ。

サッカーなら、ゴール取り消しだったのがVARで認められるみたいなこともある。


そもそも、テストでVARなんてないけど。


「それで何を確認するんだ?」

「僕が寝てるかどうかでしょ」

「普通の先生だったら、うとうとしてる時点でアウトにすると思うけど」

「じゃあ先生の採点にVARを導入して、本当に採点が正しいか判断するべきだね」

「採点の過程は答案用紙を見ればわかるだろ」


そういって俺は答案用紙に視線を向ける。


……ん?


「ちょっと待てよ」

「どうしたの?」


寺田の言葉を聞き流し、俺はスマホを片手に計算を始める。

各設問の点数の合計を出した。


「これ、計算ミスしてないか?」

「え、マジ?」


ほら、と俺はスマホを見せる。


12 + 10 + 20 = 42点


しかし寺田の答案用紙には40点と書いてある。

こういう合計のミスなら、修正してもらえそうだ。


「ていうか寺田、このミスくらい普通に気づくだろ」

「テスト返却の時、寝てたから気づかなかったよ!」


こんなヤツのテスト点数、本当に上げていいのか?



すぐに担当科目の先生に言いに行って、寺田の成績は2点高くなった。



「あと1点あれば文句なしに最下位じゃなかったのになぁ」


悔しがる寺田。

同率最下位になったらしい。


「でも他のヤツと割り勘になるんだろ?」


それなら負担も半分に減るんじゃないか、と思ったがそうではないらしい。


「全員同じ点数になっちゃったんだよ」


寺田以外の同じ学年のサッカー部は全員同じ点数で、寺田よりも2点高かった。

しかし修正の結果、同じ点数になり、同率最下位かつ同率1位になったらしい。


「だから結局、普通の割り勘になっちゃうね」


もうちょっとで全員から奢ってもらうことができたのに、と寺田。



そんなことある?





5時間目。


「そういえばさっき成績表返されたじゃん」

「そうだね」


明空さんが頷く。


今は体育の時間。


私たちはバスケの練習をしながら雑談をしていた。


「明空さんはどうだった?」

「まぁいつも通りかな」


いつも通りの様子で応える明空さん。


具体的に何点だった、みたいな話は基本的にしない。

でも、明空さんが私よりも成績が良いのは確かだった。


「でも私より良いでしょ?」

「どうかな」


今回のテスト、結構難しかったから、と明空さんは濁した解答をする。


その後は黙って練習を続けた。


バスケの試合になる。


コートは男子たちと入れ替わりで行うため、空き時間ができた。


「明空さんってなんでそんなに成績良いの?」

「まぁ勉強をしてるからかな」


明空さんの順位を聞いたことがないが、多分学年で1位。

私はその周辺をうろうろしている感じ。


「まぁ勉強なんて遊びみたいなものだからさ」

「それ、よく言うよね」


明空さんがよく言う言葉だ。


「それさ、どこから来たの?」

「それって?」

「勉強は遊びだ、ってヤツ」

「親だねー」

「親ってそんなこと言う?」


普通は勉強しなさい、みたいなことしか言われないと思うけど、と付け加える。


「なんでだろうね」


私も良く分からないんだけど、と呟く。


「それってさ、」


「女子チームはコートに入ってー!」


体育の先生が指示をしたので私たちは腰を上げる。


世間話程度のつもりだったので、その言葉を飲み込んだ。

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