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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第83話 それって罰ゲームなの?

「深山さんって好きな季節ある?」

「春以外かな」


マスクをつけている深山さんは鼻を啜る。



休み時間。



2月下旬と言うこともあって、花粉症の生徒が増えてきた。

そして隣の深山さんも花粉症らしい。


「花粉症ってきつそうだね」

「吉川くんは花粉症を理解してないよ」

「どんな感じなの?」

「私もよく理解してない」

「じゃあ誰が理解してるの?」

「本場の花粉症持ちの人たち」

「花粉症に本場ってあるの?」


深山さんの花粉症はそこまで重いものではないらしい。


だからこそ、本当に花粉症で苦しむ人にリスペクトを送っているようだ。

何に対するリスペクトなのかは不明だけど。


「深山さんはどんな症状が出るの?」

「花粉症に興味ある?」

「まぁ、暇だから聞いてる感じかな」


「なるほどね」と応えて、深山さんの花粉症について説明してくれた。


とにかく鼻が詰まるのと、咳が出るのと、涙が止まらなくなるらしい。


「学校生活を送る上で花粉症って本当に厄介なんだよね」

「というと?」

「まず鼻が詰まるから鼻をかむでしょ?」

「うん」

「でも、音を立ててするのって上品ではないじゃん」

「まぁそうかもね」


僕はそこまで気にしないけど。


「授業中の静かなときに、何回も音を立ててするわけにもいかないから、どのタイミングで鼻をかむのが最適か、見計らっているんだよね」

「花粉症持ちの数人が『このタイミングだ!』って思って同時に鼻をかむとかもありえそうだね」

「けっこうあるよ」


授業中でも水面下で駆け引きが行われているようだ。


「咳はどうなの?」

「一番厄介なのが咳なんだよね」

「そうなんだ」

「うん。この時期ってインフルも流行ってるじゃん」

「あーそれは大変そうだ」


花粉症で咳をしてるけど、それがインフルだと間違えられるっていうことだろう。


「学校にいるときとか『私、インフルじゃなくて花粉症なんで』っていう帯を首にかけたいんだよ」

「人から距離を取られないようにってこと?」

「うん」


だから私、マジでインフルじゃないから距離とか取らないでね、と深山さんは真面目な表情で口にした。


その圧に押され、僕は何度も頷いた。


「涙が出るっていうのはどうなの?」


話題を変えて少し空気を軽くする。


「春といえば、卒業式じゃん」

「だね」

「そのとき、花粉症で涙が出てるのを感動して涙が出てるのと勘違いされるんだよ」

「別にそこまで問題なさそうだけど」


感動して泣いてるんだな、くらいにしか思われないだろうし。


「でもさ、考えてみてよ」

「なに?」

「中学校のときとか予行演習あったじゃん」

「あったね」

「中一の生徒が予行練習初回で号泣してたらどう思う?」

「あの人、めっちゃ感受性豊かなんだなって」

「それは恥ずかしいって」


だから卒業式のとき『私、卒業式だから泣いてるんじゃなくって、花粉症なんで』っていう帯を首にかけたい、と深山さんは付け加える。


また帯が出てきた。


「他にもあるんだけどさ」


なんか深山さんいつもより饒舌だな、と思いながら話を聞く。


「花粉症のときとか、箱ティッシュを家から持って来るのね」

「あーよく見かけるね」


この時期、クラスの何人かは机の上に箱ティッシュを載せている。


「でもテストのとき、箱ティッシュを机に置くの禁止なんだよ」

「へーそうなんだ」


自分には関係のないことなので、そんなルールがあることを知らなかった。


「持ち込みができるのはなけなしのポケットティッシュくらい」

「なけなしって」


貯金みたいな言い方じゃん。


「ポケットティッシュを使い切ったときの絶望感はマジでヤバいんだって」


頭の中と解答用紙が真っ白になるらしい。


「花粉症持ちの人が一度は考えたことあると思うんだけどさ、花粉症の原因になってる木を全部伐採できないかなって考えるよね」

「持続可能な社会の実現に反旗を翻すような行為じゃん」

「いや、そんなこと知らないよ」


今の私にチェーンソーを持たせたら何しでかすか分からないよ、と付け加えた。


深山さんってそんな破天荒な感じだったっけ?


「さっきも言ったけどさ、鼻をかむって話したじゃん」

「うん」

「鼻をかむと鼻周りのメイクって落ちるのね」

「そうかも」


普段、深山さんが言わないことを話し始めた。


「鼻をかんだあと、ティッシュにファンデついてるって気づくんだよ」

「うん」

「そうなったら、もうファンデ塗る必要ないじゃんって考え始めるワケ」

「じゃあ今も?」


深山さんはこくりと頷いた。


ちらっと深山さんを見る。


「なに?」

「いやそういう話、普段の深山さんはしないよなって」

「……ごめん、今言ったこと忘れて」


花粉症で頭が回らなくなってきてるかも、と深山さん。


「薬とか飲まないの?」

「今も飲んでるよ」

「飲んでてその状態?」

「めっちゃ失礼なこと言うね」


効き目が強い薬は眠くなるらしい。


「私に失礼なことを言った罰として、吉川くんには花粉があり得ないくらい飛んでる映像を1時間見続けてもらおうかな」

「それって罰ゲームなの?」

「私は耐えられないね」


気が狂っちゃうよ、と言う深山さんは、本当に深刻そうな様子だった。


授業の開始を知らせるチャイムが鳴って先生が教室に入ってくる。


「授業中、私が華麗な鼻かみを見せるからちゃんと見ててよ」

「そんなテクニックあるんだ」

「あるある」


超一流の技術を見せるから、と言って深山さんは前を向く。


そこで僕たちは会話を終えた。



授業終了。



「吉川くんちゃんと見てた?」

「え、深山さん鼻かんでたっけ?」


深山さんが鼻をかんでいた記憶がなかった。


「これが超一流の鼻かみテクってヤツだよ」


吉川くんも練習したらできるようになるから、と言って僕の肩をポンポン叩く。



別にできなくてもいいけどな、と思ったが空気を読んで「頑張ります」と応えた。

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