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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第81話 私の誕生日、いつだったか覚えてる?

「ていうか寺田はサッカー部だから、マネージャーからもらったらしいぞ」

「マジで?」


なんかずるくない?



2月14日の昼休み。



僕と楠本くんの2人で昼ご飯を食べていた。


「でもよかったな、クラスに義理チョコ配ってる人がいて」

「そうだね」


1-Cでは女の子たち数人で数十円程度のチョコをたくさん買い、欲しい人は棚に置いておくから取ってね、と女の子たちが知らせた。


何個チョコを貰ったかを男子側で操作できるという、バレンタインデーにおけるチョコの価値を供給量で相対的に低下させる斬新な試みだと思う。


「で、楠本くんはアレ取ったの?」

「俺は2個取った」

「1個じゃなくって2個というとこが楠本くんだね」

「貰えるものは貰って置いた方が良いだろ」


もちろん、と僕は頷く。


「中学の時とか1個も貰えなかったからね」


こういうのって普通に嬉しいよ、と付け加える。


「え、お前中学校のとき、1個も貰わなかったの?」

「楠本くんは貰ったと?」

「あぁ、クラスで配ってる人がいたじゃん」

「それって何年?」

「2年だったかな」

「……マジ?」


数年越しに知った事実だった。

2月14日の放課後に義理チョコを貰ったらしい。


僕は帰宅RTA勢だったから全く知らなかった。


「でもお前、マジで中学校の頃に1つもチョコ貰ってないのか?」

「うん」


「そんなことあるか?」と言って楠本くんは手前の方の席をちらっと見る。

おそらく今日は教室に来ていない秋谷さんを探したのだろう。


「……いや、まぁいいわ」


俺は人のプライベートは詮索しないって決めてるからな、と楠本くん。


その後はバレンタインデーに関係しない雑談をして、昼休みを過ごした。




5時間目の授業中。



先生が話し合いの時間を設けて、プリントのコピーに向かった。


隣の深山さんと話し合いの体で雑談をする。


「あれ、吉川くん取った?」


深山さんはチョコの入った箱を指す。


「取ってない」

「取らないっていう選択肢ある?」

「取ったら負けな気がして」

「誰に負けるの?」

「誰か分からないけど」


そう言うのとほぼ同時に先生が帰ってきた。


その後は普通に授業を受けた。





放課後になってすぐバス停に向かった。


学校で渡すのはアレだから、ちょっと離れたファミレスで、と秋谷さんに言われたからだ。


バス停にはすでにスマホを眺めていた秋谷さんが立っていた。

秋谷さんはこちらに気が付き、スマホを鞄の中に入れる。


「吉川くん、今日はどうだった?」

「いつも通りだったかな」


バスが来たので、一緒に乗り込む。


「どこのファミレス?」

「体育祭の帰りに行ったところ」

「あーあそこね」


そう応えてから、しばらく沈黙が生じた。


「……そんな黙られると気まずいじゃん」


なんか話をしてよ、と秋谷さんは呟く。


「そういえば今日、教室に来てなかったよね」

「うん」

「この曜日だったらいつも来てるイメージだったんだけど」

「まぁ、そこまで計画的に教室に来てるわけじゃないしなぁ」


鞄を持ち変える秋谷さん。


「……」

「……いや、もうちょっと話を続けて欲しいんだけど」


もう少しでファミレスに着くからさ、と付け加える。


「そういえば今日、1-Cでね……」


大量のチョコが箱に入れられていた話をした。


「へぇー、それで吉川くんはそのチョコ取ったの?」

「取らなかったね」

「なんで?」

「なんでって……うーん」


腕を組んで少し考えてから答えた。


「秋谷さんにチョコもらえるんだったら、別にいいかなって」

「……そっか」


秋谷さんがそう呟いたタイミングで目的地に到着したので、僕たちはバスから降りた。

ファミレスの入って注文をしてから、ドリンクバーを取りに行って席に着いた。


「今日は誰からも貰ってない?」

「そうだね」

「本当に?」

「うん」


秋谷さんは色々考えているようだったが、すぐに切り替えて続けた。


「じゃあコレが最初ってことになるね」


そう言って秋谷さんは鞄の中から包装のされた箱を取り出す。


高級感のある包装だな、と思った。


「欲しい?」

「もちろん」


じゃあどうぞ、と僕に手渡す。


「ありがとね」


そう言って僕が鞄の中に入れようとすると、


「それさ、私が見てるところで食べてくれない?」


と秋谷さんに言われた。


「今?」

「いや飲食店の中で食べるっていうのはアレだから」


ちょっと寒いかもしれないけど、外で食べて欲しい、と付け加える。


理由を聞くこともできたが、すぐに注文が来たので聞けずに終わった。



「前ここに来たのって体育祭の放課後だったじゃん」

「そうだね」

「もう4か月くらい経ってるのってヤバいよね」

「確かに」


もう高校1年生も終わりそう。


その後はぽつぽつと会話をしながら過ごした。



レジに向かう。


「今日は僕が払うよ」

「へぇー?」

「なにその感じ」

「いや別に?」


ありがとね、と秋谷さんは小さく呟いた。



そしてファミレスから出る。


「めっちゃ寒いね」

「ほんとだよ」


2月中旬だから普通に寒い。

白い息を出しながら会話を続けた。


「どこがいいの?」

「あっちに公園あるよね」

「うん」

「じゃああっちに行こうか」


僕たちは公園に向かって歩いた。



公園に到着。



「ベンチに座るのキツイから立っておくね」


見下ろす形で立っている秋谷さん。

風も少し吹いているため、秋谷さんは前髪を手で押さえている。


「じゃあ食べるね」

「どうぞ」


そう言って僕は包装をできるだけ丁寧に開けた。


「めっちゃ丁寧に開けるじゃん」

「もちろん」


せっかくもらったんだし。


「……なに?」


何もせずに秋谷さんを見ていたので、尋ねられた。


「行動の全部が見られてる感じがして緊張するんだけど」

「でもバレンタインデーに渡すだけ渡して、本人が受け取った後はどうでもいいってのはどう思う?」

「なるほど」


それはちょっと嫌かも。


じゃあ見ててもらおうかな、と呟き僕は箱を開けた。

中に入っていたのはチョコクッキーだった。


「あえて?」

「何が?」

「チョコクッキーって」

「私、前に甘いもの好きじゃないって言ったよね」


12月くらいに聞いた覚えがある。


「チョコは好きじゃないけど、バレンタインデーにチョコを渡さないのはどうかなと思って」


だから結局、チョコにしたって感じ、と秋谷さん。



チョコクッキーを手に取る。



「これってどうやって作るの?」

「そこまで難しくないよ」


秋谷さんは簡単につくり方を説明してくれた。


「形を取る前にチョコを混ぜるって感じなんだ」


そうだね、という秋谷さんの言葉を聞きながら、チョコクッキーを一齧りした。


「そんなに甘くない感じだね」

「砂糖をちょっと減らして、カカオが多めに入ってるチョコを使ったからかな」

「そうなんだ」


チョコを甘さを自分で調整することができるらしい。


「私も1つだけ貰っていい?」

「もちろん」


秋谷さんはチョコクッキーを1つ取った。


「甘くないのがやっぱりいいね」

「うん」


そしてチョコクッキーを食べ終えた。



「本当にありがとう、秋谷さん」

「まぁ、お礼みたいなものだったし」

「そういえばそうだったね」


ちょうど1ヶ月前、秋谷さんにジャージを貸したときのお礼として、バレンタインデーにチョコを貰うことをお願いしたのだった。


秋谷さんにお願いするように言われたけれど。


「でもバレンタインデーにチョコを貰ったということは、吉川くんはお返しをしないといけないわけだ」


そうだよね? と秋谷さんはこちらの顔を覗き込んだ。


「そうだね」


本当はこれでジャージの件がチャラになるはずなんだけど。


「じゃあホワイトデーに、」

「まぁホワイトデーにお返ししてくれてもいいんだけどさ」


秋谷さんは僕の言葉を遮って続けた。


「私の誕生日、いつだったか覚えてる?」

「2月19日だよね」

「うん」


だから、と言って秋谷さんは一呼吸開けた。


「来週に誕生日が来るんだけどさ、今週末にちょっと出掛けない?」


2月上旬らしい風が、僕たちの間を吹き抜けた。


「……いや暇だったら、で全然いいんだけど」

「いいよ」


秋谷さんが否定するのを遮って、僕ははっきり口にした。


「それはよかった」

「でも僕、誕生日プレゼント買うとしても秋谷さんが欲しいのそこまで分からないよ?」

「じゃあ週末までちゃんと考えておいて」


予定とかは後で連絡するから、と言って秋谷さんは笑みを零した。





翌日の学校、5時間目が始まる前。


「ていうか昨日さ、バレンタインデーだったじゃん」

「うん」


僕は深山さんに応える。


「バレンタインが終わったら、チョコってかなり安くなるんだよね」

「そうだろうね」


チョコの需要はバレンタイン前がピークだろうし。


「だから今、チョコってかなり安いわけ」

「じゃあチョコ好きにとっては今が買い時ってわけだ」


深山さんは周りを見渡す。


「バレンタインデーなら、どうせだったらチョコ貰った方が嬉しいじゃん」

「もちろん」

「だからさ、」


15日だけど、と言って深山さんはチョコを渡してきた。

やや高めの市販のチョコレートだった。


「さっさとしまって」と深山さんが言ったので、僕はすぐに鞄の中に入れる。


「まぁこれはいいんだけどさ、昨日貸した漫画読んだ?」

「うん」


結構面白かったよ、と付け加える。

チャイムが鳴るまで、僕と深山さんはその漫画の話を続けた。

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