第77話 マスクつけたら美人に見えるものなの?
「最近インフルエンザが流行ってるじゃん」
「流行ってるね」
深山さんが明空さんに応える。
「ミーハーならすぐに罹患するだろうね」
流行に弱いじゃん、ミーハーって、と明空さんは笑みを零す。
免疫力って個人の趣味に影響されるの?
昼休み。
今は4人でご飯を食べているところ。
よく話をする深山さん。
同じくよく話をする明空さん。
たまに話に入る私。
一度も話に入らない夜野さん。
ちょっと待って、と深山さんは口を開いた。
「インフルって感染性じゃん」
「そうだね」
「インフルを使って間接的な恋愛描写できない?」
「というと?」
明空さんが話を促す。
そして深山さんは説明を始めた。
学校。
「えー、今日の欠席は……」
先生は本日欠席した生徒の名前を読み上げる。
いつも無口な彼と女の子が欠席。
そして理由は同じくB型インフルエンザ。
学校ではまだインフルは流行していない。
それにもかかわらず同じタイミングでインフルに罹るということはもしかして—
「……みたいな!」
結構面白そうじゃない?と深山さん。
インフルに罹ってる本人たちはキツそうだけど。
「もし感染経路が飛沫接触だったら、かなり至近距離にいるということが仄めかされるね」
そういう視点での描写も面白そう、と明空さん。
キャッチコピーは『アルコール消毒でもなくせない、あなたへの変異株』かな。
そういえばさ、と言って深山さんは続ける。
「マスク美人ってあるじゃん」
「あるね」
マスク美人というのは、マスクで顔の下半分が隠れて髪型とかの上半分の印象が際立つ、というもの。
「あれってなんで美人に見えるのかな?」
良く分からないんだよね、と零す。
私も良く分からないけど、目とか髪の印象が強調されるんじゃないかな。
「脳が補正してるからだと思うよ」
「脳?」
頷く明空さん。
脳は予測する能動的な装置、という考え方があるらしい。
例えば、『だいjbぶです』という文章を『大丈夫です』に予測している、ということ。
「これがマスク美人を生み出している可能性があるかもね」
「なるほどー」
実際さ、と深山さんはマスクを取り出した。
「マスクつけたら美人に見えるものなの?」
そういってマスクをつける深山さん。
マスク美人になってる、と言ったら傷つける可能性もある。でもマスク美人になっていない、と言ったら顔の上半分の印象がそこまで、ということを言ってしまうようなものかも。
どういう返答が適切か頭の中で考えていると—
「……うーん、マスクつけてるだけの深山だね」
夜野さんがスマホから一瞬目を離して呟いた。
ありがとう、夜野さん。
夜野さんの言葉に気にせず、深山さんが続ける。
「マスク美人と竹取物語でかぐや姫が美人だって噂が立ったのってほぼ同じような理由じゃない?」
だいぶ話が広がったね。
「どういうこと?」
「ほら、かぐや姫ってさ自分の姿を大衆にお披露目したみたいな感じじゃないじゃん」
どちらかと言えば、周りがこっそり見ようとしていた感じでしょ? と深山さん。
竹取物語で言えば、
『そのあたりの垣にも、家の門にも、居る人だにたはやすく見るまじきものを、夜は安き寝も寝ず、闇の夜に出でて、穴をくじり、垣間見、惑ひ合へり。』
の箇所かな。
たしかに、かぐや姫の姿を一目見ようと頑張ってるから、正面から見た人はかなり少なそう。
「でもさ、かぐや姫ってキャラ設定的にそもそも美人でしょ?」
しかも平安時代の創作だし、と付け加える。
「まぁそうだけどさ、最近もあるじゃん」
「最近も?」
「ほら、ネット活動者で顔を隠しているから、めちゃくちゃ美化されてる、みたいな」
「あぁ」
顔バレしたときにファン層が二極化するのとか見たことがある。
「顔バレは基本的に悪いイメージを持たれちゃうけどさ、」
「うん」
「普通の生活だったらいいイメージに変えることもできそうじゃない?」
「例えば?」
「眼鏡をかけた女の子、眼鏡をはずすと実は美人」
「普通の生活かな、それって」
創作限定の話じゃない?
レンズがなぜかぐるぐるしてるキャラが何かの拍子でコンタクトに変えた、とかハプニングで眼鏡が取れた、とか。
……よく考えたら、顔を隠してるのに美化されてないね。
例外もあるみたいだ。
男の子たちの会話の場合。
「隠されてるものを暴きたくなるのが男の性ってヤツだと思うんだよ」
寺田が神妙な面持ちで呟いた。
「そうか」
とりあえず頷いて話を促す。
「例えば竹取物語ってあるじゃん」
「ある」
「あれって男たちはかぐや姫を一目見ようと頑張るシーンあるじゃん」
「ある」
「まさにあれが男の性ってやつなんだよ」
「ほう」
「だから年齢制限のかかっている作品を見たくなるのはあくまでも隠されているものを見たいからであって、」
「いや、普通に性欲だろ」
寺田の言葉を遮って俺は応えた。
性というより性だと思う。




