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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第76話 シャーロックホームズの異名はどこ行ったんだ。

「イカとイカダって最初の『イカ』は同じじゃん」

「まあそうだな」


とりあえず頷く。


「なら実質イカダの3分の2がイカってことにならない?」


水上構造物の半分以上がイカ由来?



「ていうか寺田くんのそれってなんなの?」


寺田は筒形の弁当箱を分解していた。


「これは保温弁当だよ」


弁当が3つに分かれてて、一番上がおかず、真ん中がご飯、そして最後がスープになってるヤツ、と説明する。寒い日のサッカーの練習試合の時とか持っていく事が多いらしい。


「寒い日に学校でもスープが飲めるって結構羨ましいな」


瀬野が呟いた。

俺もちょっとうらやましい。


学校の自動販売機で買うことができる温かい飲み物はお汁粉くらい。


そもそもお汁粉って飲み物なのか?

カレーを飲み物って言ってるのと同じような感じがするけど。


そういえば、と吉川が続ける。


「スープと言えばさ、ウミガメのスープってあるじゃん」

「ウミガメのスープってアレだろ?」


そういって瀬野は説明を始めた。



ウミガメのスープは「はい」か「いいえ」でしか答えられない質問を使って、不可解な状況の真相を推理するゲーム。


水平思考ゲームとも呼ばれている。


ウミガメのスープの問題が有名だから、「ウミガメのスープ」で通っている。



「めっちゃ簡単にできるから、暇つぶしに良いんだよね」


僕は生成AIと一対一でやってる、と吉川。

このゲーム、サシでやる感じじゃなかったと思うけど。



「例えばどんな感じ?」


寺田は興味を持ったようだ。


「じゃあちょっと調べてみようかな」


そういって吉川は問題を調べ始めた。


「意外と僕、こういうの得意なんだよね」

「本当に意外だな」


俺は寺田に応える。


「僕、現代のシャーロックホームズって呼ばれてるし」

「大きく出たな」


誰から呼ばれてるんだよ。


「謎解きの達人とも呼ばれてる」

「ほう」

「そして世界の謎は最終的に僕に行きつくとも」

「ん? まぁ……」


少し気になったがとりあえず流す。


「ミスタークエスチョンとも」

「寺田が謎になってるじゃねぇか」


謎を解く方じゃないのかよ。



「とりあえず簡単そうなヤツを1個選んでみたから」


吉川が問題を読み上げる。



『ある生徒は居眠りをしていたのに先生から起こされなかった。だが特別扱いをされていたわけではない。なぜ?』



普通にありえそうなヤツ、と付け加える吉川。

学校でありそうなことか。


「普通にあり得るんだったらさ、正解までいけるんじゃないの?」

「まぁ正解になる可能性も全然あり得るね」


吉川は寺田に応える。


じゃあ一旦解答してみようかな、と言って寺田は解答を述べる。


「その生徒、実は僕。どの授業でも眠っている結果、先生にとって起こさないという選択が当たり前になった。だから起こされなくなった」


それ、自分で言ってて悲しくならないの?


吉川は違うね、と応えた。

質問をせずに正解を出すのはかなり難しい。


「俺、ウミガメのスープ自体は知ってるんだけど、やったことないんだよな」


どういう質問をすればいいんだ? と瀬野。



基本的に5W1Hを確定させれば正解には辿り着く。

重要なのは前提条件を確認すること。


「先生と生徒以外に登場人物はいる?」


俺は典型的な質問をすることにした。


答えはNo。

つまり登場人物は2人だけ。


そういう感じか、と言って瀬野は続ける。


「特別扱いをされていないってことは、起こさないのが普通の状態ってわけだろ」


あぁ、そういうことね。

おそらく瀬野が考えている解答は『そもそも授業中じゃない』とかだろう。


意外とありそう。


なるほど、分かったと寺田は呟いた。

寺田も同じことを思いついたのか?


「生徒と先生というのは実は登場人物の名前だったりしない?」

「というと?」


吉川は説明を促した。


「生徒というのは教師の名前、そして先生というのは学生の名前っていうこと」


つまり、先生が授業中に寝ていても生徒たちは先生を起こそうとは思わない、だって

授業を受けなくっていいから! と寺田。


確かに、刑事っていう名前の人はごく稀にだけど見たことがある。

でも、名前が生徒ってどうなの?


答えはNo。

やっぱり違うか。


その後、さっき思いついた『授業中じゃない説』に関する質問もしたが違った。


「ヒントちょーだい」

「寺田、さっきこういうの得意って言ってただろ」


シャーロックホームズの異名はどこに行ったんだ。


吉川は少し考えてからヒントを与える。


「重要なのは時間だね」

「さっき授業中じゃないって言ったけど」

「授業中ではあるけど、って感じかな」


瀬野に対して吉川は応える。


今のところ分かっているのは、


1. 登場人物は先生と生徒の2人だけ

2. そして授業中


くらいだ。


実際、このくらいで解答は出せると思うよ、と吉川は呟く。

そう言われてもなぁ。



現在の3人の状態を説明しよう。


「結局必要なのは時間、つまりどの授業かってことだろ」


つまり科目を特定するべきだ、と呟く瀬野。


真面目に考えている。


「俺もそう思う」


じゃあまずは理系科目か文系科目かで質問をするか、と俺は付け加える。

諦めかけているが、いちおう真面目に考えている。


「『ウミガメのスープ 調理方法』っと……」


寺田は諦めたみたいだ。

真面目に考えろ。



答えは『英語の時間、リスニングを行っていた。目を閉じてアナウンスを聞く生徒も多いため、先生はその生徒が居眠りをしているのか核心が持てなかった』というものだった。



ありえそうなラインだ。

実際俺も、リスニングするときは目を閉じて聞くことが多いし。



吉川がちらっと時計を見たので俺もそれにつられて俺も時刻を確認する。

昼休みが終わるまでまだ10分はある。


「僕が問題出して良い?」


もちろんいいよ、と吉川。

出題者は寺田、そして解答は俺、吉川、瀬野の3人になった。


「あ、結構面白いのがあった」


これにしよう、と言って寺田は問題を読み上げる。



『AさんはBさんに告白された。最初は躊躇ったAさんだったが、その後Bさんの告白を受け入れた。一体なぜ?』



「おぉ、なんかそれっぽい問題だね」


確かに、水平思考ゲームっぽい。


「これって性的嗜好は関係ある?」


いきなり重めの質問をする吉川。


そこまで重要じゃないけど、今回の場合はAさんとBさんの性別は異なる、という風にしたほうが考えやすいかも、と説明する。


つまり、どちらかが男性でどちらかが女性、ということか。


「Aさんは女性?」

「違うね」


つまり男性ということか。


流れとしては、


女性が告白

男性は躊躇

男性は受入


っていう感じか。


そして聞かれているのはその理由だ。


「『いったいなぜ?』っていうのは、男が躊躇ったのに受け入れた理由ってことか?」

「そうそう」


瀬野に寺田は応える。


「そこまで好きじゃないけど、二次元に夢を見るのも年齢的にキツイよな……」


そして女性からの告白に受け入れたっていう可能性もありえなくはない、と吉川は付け加える。

なんか色々可哀そうだな。


「なぜ最初に躊躇ったのか、その後受け入れたのはなぜか、の2つの理由を明らかにするべきだろ」


真っ当なことを提案する瀬野。


じゃあ、と言って俺は寺田に尋ねることにした。


「AさんはBさんのことが好きだった?」

「うん」

「え、好きだったのに躊躇したのか?」

「そうなるね」


この問題だと、とスマホを眺めながら寺田は応える。



しばらくは膠着状態が続いた。



現在分かっているのは、両想いなのに男が躊躇ったということだけ。



「この展開どこかで見たことあるんだよなぁ」

「実際、吉川くんは分かりそうだと思う」


寺田が応える。


ちなみに、と吉川は続ける。


「告白されて躊躇ってから受け入れたまでに時間はある?」


10年くらいとか、と付け加える。


そういう考えもあるな。


しかし結果はNo。

関係ないらしい。


良い質問だと思ったんだけど。


「ちなみにどういう想定だった?」


ラブコメとかでよくあるじゃん。主人公に『将来結婚する!』っていう幼馴染とか妹とか、と吉川。


そのときは躊躇ったけど10年越しに応えるというストーリー。


Aが『大人になっても変わらなかったら考える』みたいな返答をする、みたいなのもある。


だから時間が空いたかどうかが重要になったわけか。


「今のところ吉川くんが一番近いね」


そろそろ正解までたどりついてもおかしくない、と寺田。

ラブコメのネタってことか?


「これってラブコメとかであるヤツ?」

「そうだね」


僕はあんまり見たことないけど、と寺田は付け加える。


瀬野が確認してくれたおかげで、ラブコメのテンプレということが確定した。

でも俺も瀬野もそこまで詳しくないぞ。



今のところ出ている情報を整理すると、


・Aは男性(おそらくラブコメ主人公)、Bは女性(ヒロイン?)

・AとBは両想い。

・告白されて躊躇ったが、すぐに受け入れた。

・ラブコメとかである展開?


という感じか。


「告白されて躊躇った理由を考えてみるか……」


吉川は腕を組む。


「これって解答を聞いて納得できるヤツだよな?」

「納得できると思うよ」


でも現実ではほとんどないだろうね、と付け加える。


やっぱり、と言って吉川は続ける。


「躊躇った理由はAとBの関係があると思うんだよね」

「まぁそうだろうな」


ラブコメについて詳しくないが、基本は5W1Hを確認すること。

それは変わらない。


「両想いなのに躊躇する理由なんてラブコメで言えばアレしかない!」

「それは?」


吉川は一呼吸置いた。


「AとBは家族!」


多分兄と妹でしょ、と言って寺田を見る。


「その通り」


寺田は応える。


まぁ、現実ではほとんどなさそうっていうのは正しいかもな。


ラブコメと言えばよく妹が登場する。

そして妹は兄のことが好き、みたな展開も結構あるあるだろう。


つまり、最初に躊躇った理由は家族だからか。

でも主人公は告白を受け入れるんだよな。


「主人公がなぜ妹の告白を最終的に受け入れたのか、その理由が分かれば正解になるって感じか」


俺は半分諦めているので、特に口は挟まずその後の流れを観察することにした。


「主人公は理性的な人間?」

「一応、そうだね」


妹に手を出さない程度には、と寺田。


「妹に手を出さない理性がありつつ、最終的に手を出す……」


なんか主人公、ヤバいヤツになってきてないか?


「主人公は多重人格?」

「ノー」

「主人公の認識が変わった?」

「まぁ変わった、と言えるのかな」


妹の告白を受け入れたって感じだし、と寺田は付け加える。



「あ、わかった!」


しばらくしてから、吉川は大きめの声を出した。


「解答を言う前に質問をしても良い?」

「良いよ」

「妹って義理の妹だったりする?」

「うん」


手を叩き、もうこれほぼ解答だね、と吉川。


そして吉川は解答を述べた。



Aさんはラブコメ主人公。

そしてBさんはヒロインであり義理の妹。

BさんはAに告白した。

ただしAさんはBさんが義理の妹であることを知らなかった。

家族であるため、Aさんは返事をすることを躊躇。

そのとき、Bさんは自分が義理の妹であるということを明かし、Aさんはその告白を受け入れた。


時系列的には、


Bが告白

Aは躊躇(家族だから)

Bが説明(実は義理の妹)

Aは告白を受け入れる


っていう感じ。



「実際、義理の妹だって分かったからと言って告白を受け入れるのってどうなの?」


結構大変そうだけど。


「まぁ、それはそれで」


物語として面白いなら問題ナシ、と吉川は応えた。

コイツの守備範囲、本当に広いな。


昼休みが終わり、俺たちは自分たちの机の場所に戻った。





数日後。



「この少女漫画さ、義理の弟が出てくるじゃん」


そう言いながら漫画を深山さんに返す。


男性向けのラブコメと同様、少女漫画でも義理の兄弟という設定はたまに出てくる。

様式美ってヤツなんだろう。


「流石に義理でも弟と付き合うのは大変じゃない?」

「そうかな」

「家の中に知らない男の人がいるって怖いじゃん」

「赤の他人ってほどではないし」


ほとんど毎日顔は合わせるから、と深山さんは付け加える。

そう言いつつ、深山さんは漫画を鞄の中に入れた。


「まぁ現実だと大変そうだけど」

「うん」

「普通に創作として楽しめるなら何でもオッケーっていうスタンスだから」


吉川くんも似たようなものでしょ、と深山さんはこちらに視線を向ける。

男性向けのラブコメに限るけどね、と言って僕は頷いた。

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