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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第72話 ここは楠本くんに任せて先に行け!

「みんなに集まってもらったのは他でもない、宿題が終わらないときの言い訳を考えてもらうためだよ」

「聞いてた話と違うぞ」



近くのファミレス。



俺たち3人は寺田に集められた。

目的は『宿題を終わらせるのを手伝って欲しい』というものだったはず。


「まだ宿題終わってないの?」

「終わってないね!」


堂々と寺田は吉川に応える。

なんでそんな自信満々なんだ。


「なら宿題を終わらせるところからだな」


何が残ってるんだ、と瀬野。


それには答えず寺田が続ける。


「宿題ってのはね……踏み倒せるんだよ」

「借金みたいに言うな」


先生が取り立てに来るぞ。


「でも夏休みの宿題はちゃんとやってなかった」

「……まあね」


誠に不本意でしたが、みたいな雰囲気を出して寺田は吉川に答える。

コイツはさっきからどういう立場でものを言っているんだ。


「夏休みは流石に提出しないとヤバかったけど、冬休みの今なら行けると思うんだよ」


だからどうにかして言い訳を考えて欲しい、と寺田。

宿題を取り組まないことに対して、ここまで本気になるヤツっているんだな。


感心はしないけど。



「ご注文のフライドポテトでーす」


やる気のなさそうな大学生くらいの店員が呟く。

俺がオーダーしたフライドポテトだ。


「普通に三学期になっても冬休みの宿題の提出を迫られるだけだと思うぞ」

「そうなったら、ここは僕に任せて先に行けってことで」


寺田は俺のフライドポテトの皿を少し自分に近づける。


注文したの俺だって。


「まぁ実際、宿題忘れても大丈夫そうな科目とかはありそうだよね」

「どの科目?」


寺田が尋ねる。


その隙にポテトの皿を自分の方に寄せた。


「例えば数学とか」


あの先生は宿題忘れましたって言えば意外と許してくれるし、と吉川は付け加える。


「でも担任の先生は余計な仕事を増やすなっていうから無理だろうね」


国語は駄目、と。


「じゃあ教科によっては可能性はあるって感じ?」

「まあ踏み倒せるかどうかまでは分からないけどね」


吉川は苦笑した。


「次は言い訳を考えないと……」


どうすればいいかな、寺田はポテトを口に入れる。


あれ、いつの間にか寺田の方に皿が寄ってる。


「持ってきたけど忘れました、は流石にテンプレすぎるよな」


瀬野が腕を組んで応える。


優等生の瀬野が宿題を忘れるなんてこと見たことないが、他の生徒が言っているのは見たことがある。


隣にいる吉川とか。


「『持ってきたけど忘れました』は宿題が完成しているけどここにはない、っていうことでしょ?」

「そうだな」


つまり、期待値100→0になるということだ、と吉川。


「あと先生は『ここにないならやってきてないのと同じ』みたいなことも言うよね?」

「うん」

「つまりこの落差をできるだけ少なくすれば、言い訳をしても許される可能性が高いのでは?」

「そうなってくると、宿題を持ってきている状態はマストって感じ?」


ふざけたトピックの割には、やけに芯の食った質問をする寺田。


そして当然の如くポテトを摘まむ。

だからそれ、俺のポテトだって。


普通に宿題をしろよ、と思ったがいざというときに使えるかもしれない。

俺は黙って様子を見守ることにした。


「だから、ちゃんと宿題には取り組んだけど事情があって未完成ってことを説明すればいいと思う」


そうなると期待値100→50~60でそこまで怒られないはず、と吉川。


先生を最小限に怒らせるってことね。

それはイメージできる。


でもその数字、どこから来たんだ?


「じゃあ未完成であることを納得させる理由が必要ってことか……」


寺田は顎に手を当てて考え始める。


レオナルドダヴィンチとかどうだ、と瀬野が切り出した。


「ダヴィンチは未完成とか製作途中で放置されたものが多いって聞いたことがあるぞ」


絵画とかだと15点くらいしか完成していないらしい。


「完璧主義だから、とか興味が分散しているから、とかが理由らしいね」


吉川はスマホを見ながら補足する。


「じゃあ完璧主義かつ興味が分散していることを示すべきってことだな」


どうだ、と寺田に尋ねる。


「完璧主義ではないね」

「だろうな」

「興味も分散してないね」


サッカーをしてる自分が好きなだけかな、と付け加える。

コイツ、マジでどうしようもねえな。


「でもさ、未完成の作品でも高い評価を受けてるのってあるじゃん」

「ただの宿題が世界的に高く評価されることはないと思うぞ」


いやー困ったね、と言って寺田はポテトを口に放り込んだ。

あれ、俺のポテトもうほとんど残ってない?


「和の心を説く、とかどう?」

「どういう感じ?」

「兼好法師の『徒然草』を国語の時間やったじゃん」

「寝てたからあんま覚えてないけど」


平然と応える寺田。


本当にコイツに宿題を忘れたときの言い訳、教えていいのか?

しかし吉川はそこまで気にせずに続ける。


「その中で『家の作りやうは、夏をむねとすべし』っていうのがあったはず」

「どういう意味?」

「『家の作り方は夏を中心にした方が良い』って言う意味」

「それで?」

「その中で『造作は用なきところをつくりたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよしとぞ、人の定めあひ侍りし』っていうのがあるんだよね」


吉川はスマホを見ながら話す。

インターネットの記事を読み上げているのか。


「家の建築は何かのためにきっちり完成させるよりも、ちょっと欠けてたほうが趣があっていいじゃん、みたいな意味らしいんだよ」


未完成の宿題に趣を感じることのできない先生は感性が育っていないあなたの方が『未感性』だって言えばいいんじゃない? と吉川。


この流れで先生を批判するの?


「……ていうかこれ宿題だって」


せめて建築じゃないと駄目だろ、と話を戻す。


ちらっと見ると、俺のポテトもう全部なくなってた。

最後の一つは寺田の口の中へ消えた。


「引き算の美学ってあるじゃん」


おもむろに寺田は話を変える。


「あれを使って説明したほうがいいと思うんだよね」


どういう感じで? と吉川は話を促す。


「人が新しい価値を付けるときはプラス思考になるって言ってたんだよ」

「お前の意見ではないのね」

「僕がそんな賢いこと言えるわけないじゃん」


それもそうだな。


「でも本当にすごい人たちは引き算で物事を考えるんだって」

「へーそうなんだ」


吉川が応える。

俺も初耳だった。


「つまり宿題も引き算の美学を適用することで、価値を高められる余地があるはずなんだよ」

「へーそれどうやってするの?」

「何も記入しないかな」

「白紙提出じゃねぇか」


普通に宿題を終わらせろよ、と言うと寺田は宿題を渋々取り出した。

そしてそこまで時間もかからずに寺田は宿題を終わらせた。


言い訳を考えてる時間、マジで無駄だったな。



精算時、寺田が『ここは楠本くんに任せて先に行け!』とファミレスの飲食代を俺持ちにさせようとする珍事も起きたが、いつも通り割り勘で支払った。





次は三学期!

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