表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/81

第73話 来月の今日って何の日か知ってる?

「ごめん吉川くん、体育ジャージ貸してくれない?」


小さな声で吉川くんにお願いした。



昼休みも終わり、掃除時間が始まる数分前。



昼休みは1-Cでご飯を食べていた。

自分の教室に戻ってから、体育ジャージを持って来るのを忘れていたことに気が付いた。


この時期にジャージ無しはきつい。


借りることのできるのは1-Cしかいないので、教室に残っていた吉川くんに体育ジャージを貸してくれるよう頼んだ。


「午前中に体育あったからジャージ使ったよ?」

「気にしないから良いよ」


吉川くんから体育ジャージを受けってリュックの中に入れる。


「ごめん、マジで助かる!」


またね、と手を振って教室から出た。



私の掃除の担当場所は家庭科室。


机の上にリュックを置いて、クラスの人と話をしながら掃除する。


「この時期の体育ってマジでキツイよねー」

「ほんとほんと」


グラウンドでこけたらめっちゃ痛そう、と女の子。


「でもさ、この時期だったら彼氏のジャージとか貸してもらうチャンスあるじゃん」

「いや、流石にばれたら恥ずかしいって」


そもそも頼みに行くのが恥ずかしいから、と女の子は呟いた。


やっば、めっちゃ気まずいんだけど。


「秋谷さんはどう?」

「え、何が?」


話を聞いていたが、とりあえず聞き返す。


「ほら彼氏からジャージ借りるの」

「うーん、彼氏いないから良く分からないかな」


肯定も否定もしない答えを選んだ。

とりあえず様子見の一手でもある。


「そういえばずっと思ってたんだけどさ」


その女の子は箒を机に立てかけてこちらを見る。


「なに?」

「秋谷さんってなんで彼氏いないの?」


いきなり核心を突くような質問をされた。


「あ、それ私も聞こうと思ってたんだよねー」


女の子2人の視線は私に向かう。


「まぁ、今は良いかなって」

「ふーん、でもさ文化祭のアレは?」

「そうそう、あの男の子」


このくらいの答えでは引き下がらないか。


教室だったら人の目もあるからそこまで追求されないけど、やっぱり人が少ないとこういう話は止まらない。


「中学校からの友達って感じ」


中学校からの友達に体育ジャージを借りるってことは普通ないけど。


「ほんとにー?」

「ほんとほんと」

「まぁそういうことにしておこうかな」


そろそろ先生くるし、と言って再び掃除に取り掛かった。


私もそれなりに真面目に掃除をしてから体育館に向かう。



更衣室に到着。



更衣室と言えば、色々な話で盛り上がる。

恋愛とか陰口とか色々。


いつも私はさっさと着替えて授業開始の2分前くらいまで適当に時間を潰す。


まずは着替えないと。


人前で着替えるのが恥ずかしい私は、中学校時代に体育服を上から着てから後で制服を脱ぐという技術を習得した。


やってる人も意外といる。


吉川くんから借りた体育ジャージを着た。

なるべく自然な感じで匂いを確かめてみた。


全然変な匂いしないじゃん。


体育の授業のとき、ほとんど動いてなかったのかな。

体育ジャージはいつもの吉川くんの匂いだった。


問題は胸のところについている苗字の刺繍。

ほとんど見られないけど、バレたら普通に恥ずかしい。


3日くらいは引きずるかも。


始まる前から早く終わってくれ、と念じつつ体育館に整列する。


いかに『吉川』の文字から注意を逸らすか。

それがこの時間のミッション。


そういえば人って動いているものに注意が向きやすいって話を聞いたことがある。

今日は真面目に体育の授業を受けようかな。


いやちょっと待って。


真面目に動くってなったら胸とか揺れるじゃん。

そうなったら逆に気づかれやすい?


これがジレンマってヤツかな。


結局私は他の人から距離を取ることに決めた。



体育の授業開始。



「じゃあ2人ペアでパスの練習を始めてください」


体育の先生の言葉を合図に生徒たちは距離を取り始める。


「明空さん、一緒にやらない?」

「いいよ」


基本的に自由にペアを組んでいいときは明空さんに声をかける。

話をしなくてもいいからだ。


「じゃあ私バスケットボール取ってくるから」

「オッケー」


ボールをカゴの中から取ってきた。

なんか空気が抜けてる感じするけど、真剣にやるわけじゃないし別に良いか。


元の場所に戻る。


「じゃあ練習やろっか」

「うん」


私からボールを受け取ったとき、明空さんの視線は一瞬私の胸元に落ち、すぐに顔へ移ったあと、また胸元へ戻った。


「まあ後で聞こうかな?」

「……あとでね」


じゃあ始めようか、と呟いて明空さんと距離を取った。

その後は何事もなく体育の授業は終わった。



さっさと着替えて更衣室から出る。

色んな制汗剤の匂いが混じった空間、私は好きじゃない。


「飲み物買いに行かない?」


明空さんがいつの間にか隣まで来ていた。

いいよ、と応えて自動販売機まで一緒に向かう。


「いや、普通に忘れただけだから」


何か聞かれる前に、こちらから口を開いた。


「まあ持ってきたのに他の人の借りるってことはあり得ないよね」

「うん」


明空さんの言葉に軽く頷く。


「それで?」


なんで吉川くんに借りたの? と尋ねる明空さん。


「今日の昼休み1-Cに行ったじゃん」

「行ったね」

「で、教室に帰ってから自分のジャージないじゃんって気づいて」


1-Cにいた吉川くんに借りたって感じ、と本当のことを説明した。

夜野さんと深山さんはそのとき教室にいなかったし。


「じゃあそのとき深山さんか夜野さんがいたらそっちに借りてた?」

「もちろん」


普通、異性のジャージ借りるってことあり得ないでしょ。


あるとしても付き合ってないと。

でも私、吉川くんと付き合ってないし。



自動販売機まで到着した。



いつも通り200ミリリットルのミネラルウォーターを買う。


「つめた~い」だから本当に冷たい。

手で持つのは耐えられないので、制服の裾をちょっと伸ばして間接的に持つことにした。


「なにそれ、可愛いじゃん」


萌え袖みたいで、と明空さんは私を見て呟く。

明空さんも私を見て同じようにペットボトルを持った。


本当に可愛い?



教室に到着。



明空さんとは別れて自分の椅子に座る。


スマホをちらっと見ると吉川くんから『放課後に返してくれればいいから』と来ていた。気を使ってくれたらしい。


『明日洗濯して返すから放課後にちょっとお礼させてよ』と送信した。


自分の来たジャージをそのまま吉川くんに返すことはできない。

数分後に吉川くんから『オッケー』という返信が来ていた。


6時間目の授業の間、放課後のことをぼんやり考えて過ごした。



放課後。



「ごめん体育ジャージ貸してくれて」


人通りが少ない渡り廊下の入り口付近に吉川くんを呼んだ。


流石に渡り廊下は寒いし。


「匂いとか大丈夫だった?」

「全然」


吉川くんが体育を真面目に受けてなかったのが分かったし、と付け加える。

笑って流しされたので、正解だったらしい。


「それで、他の人に気づかれなかった?」


吉川くんは話を変えた。


「明空さん以外には気づかれなかった」

「あぁ明空さんね」


あの人なら気づきそう、と吉川くん。


吉川くんは明空さんに対して敬語だ。

人に対してほとんど接し方を変えない吉川くんが珍しいと思っている。


「それでお礼なんだけど」

「うん」

「何か欲しいものある?」

「欲しいもの?」


そうだなぁ、といって吉川くんは考え始めた。



あれ、そういえば今日って1月14日じゃん。



「来月の今日って何の日か知ってる?」

「今日って何日だっけ?」


1月14日だね、と応えた。


「……え、マジ?」


流石ラブコメ読者。

察するのが早いね。


「別に私はいいけど」


「別に」というか、あげたいっていうか。


「あーそれはマジで嬉しいかも」


そう呟きながら吉川くんは視線を逸らした。


「ならちゃんと言って欲しいかな」

「え、この状況で僕が恥ずかしい思いしないといけないの?」

「それって恥ずかしいことなの?」

「いや、別に……」


視線を泳がせた吉川くんだったが、最終的に私の目を見て口にした。


「バレンタインチョコ欲しいです」

「オッケー」


楽しみにしててね、と私は付け加える。


「とりあえず飲み物奢ってあげるよ」

「来月もらえるなら別にいいよ」

「まぁほら、お通しみたいなものだから」

「お通しが飲み物ってことある?」


まぁいいじゃん、と言って私たちは階段を下り、靴を履き替えて自動販売機に向かった。


「飲みたいヤツ、教えてよ」

「え、じゃあコレ」


吉川くんが指を指したのは、200ミリリットルのミネラルウォーターだった。


「ずっとそれ飲んでない?」

「200ミリリットルくらいがちょうどいいんだよ」


吉川くんの話を聞きながら私は小銭を入れてボタンを押した。


なんか吉川くんにだけ買うと、気を使わせそうだから私も同じものを買った。

さっきも同じの買ったし、まだ飲み切ってないけど。


「なんかそれ良いね」


吉川くんは、制服の裾を伸ばしてペットボトルを持っていた私の手を指さす。


「ほんと?」

「うん」


吉川くんにもそう思われているのであれば、本当に可愛いのかも。

別れるまでは、ペットボトルをその状態で握っていた。



帰宅。



家に帰って吉川くんのジャージを洗濯機に入れる。


「どうしようかな……」


何種類かある柔軟剤を見ながら腕を組む。


おしゃれ着用の柔軟剤とか使った方がいいのかな?

でもいつもと違う匂いだったら意識してるのバレるかも。


「……いや、意識してるのはもうバレてるか」


小さく笑いながら呟いた。



悩んだ末、いつも通りの柔軟剤を使った。



帰宅途中に、『明日の朝、ジャージ返しに行くから』と連絡すると、『じゃあ放課後のところで』と返信があった。


普通に教室で渡してもいいんだけど。


しかし本人がそう言うのであれば仕方がない。

私は『オッケー』と返した。


洗濯した吉川くんのジャージを丁寧にたたんでリュックの中に入れた。


吉川くんの私物が私の部屋にあるのってそわそわするな、と思いながら眠りについた。


いつもより眠くなるのが遅かった。



翌朝の学校。



「はい体育ジャージ」


昨日はありがとね、と言って吉川くんに渡す。


「こちらこそ」


さっさと受け取って吉川くんは戻ろうとする。


「なに、めっちゃ急いでるじゃん」


どうしたの?と尋ねる。


「ここら辺さ、朝は結構通るんだよね」


なんか見られるの恥ずかしくない?と聞き返された。


「借りるときは恥ずかしいけど、返すときはそこまで」


と私は正直に応えた。


まぁ早く教室に戻りたいんだったらそうさせてあげよう。

じゃあね、と言って私は吉川くんと別れた。



吉川くんがいなくなってから、教室からとは反対のトイレに入る。


鼓動が落ち着くまで数分間待って、鏡で自分の姿を確認してから出た。




1-Cの体育の授業。



「あれ、吉川くん、いつもと匂い違くない?」


体育の時間、すれ違った深山さんに尋ねられた。


「え、本当?」

「うん。柔軟剤変えた?」

「洗濯は親任せだからなぁ」


ちょっと分からないかも、と僕は呟く。


「そうなんだ」


深くは追及せずに深山さんは女子が集まっている場所に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ