第71話 人生ニュートラル操作で楽しそうですね
正月インタビュー!
瀬野くん。
(今年の抱負を四字熟語で教えてください)
「そうだな、昨年の抱負であった『生真面目』は今後も継続するとして…」
瀬野くんは腕を組みながら頭を捻る。
「…じゃあ『五穀豊穣』で」
(その意図は?)
「内戦の影響で飢饉が生じてる国もあるだろ? 現地で困ってる人たちが少しでも多く食事をとることができるように、という意味で」
だから五穀豊穣を今年の抱負に、と呟く。
ワールドワイドな男になる、と豪語する瀬野くんでした。
夜野さん。
(今年の抱負を四字熟語で教えてください)
「『御社貢献』です」
(その心は?)
「私の好きなゲームを開発、運営している会社は上場企業なんです。四半期の財務諸表を拝見したのですが、前年同四半期と比較して収益性が軒並み悪化していました。企業側はその原因について外部環境の影響と説明していましたけど、それをどうやって改善するかの説明が不十分かと」
(なるほど)
「でもユーザーの1人としてできることは売上高の改善くらいですよね」
(そうですね)
「なので、今年も課金をして微力ながらも企業を応援したいと思います」
(話は変わりますが、年越し配信しました?)
「私、配信って苦手なんですよ」
(どうしてですか?)
「まずSNSで『この時間帯に配信します』みたいなこと告知するじゃないですか」
(はい)
「その時間の直前にやっぱりやりたくないなぁって思うけど、もう告知しちゃったし、どうしようもないか、っていう気持ちになるのが嫌なんですよ」
(結局、配信はしたんですか?)
「しました。視聴者の圧に負けて」
唇を噛む夜野さん。
(…大変ですね)
「でも普通に『年越し配信』っていうのだと視聴者の言いなりって感じが出るじゃないですか。ですので『年越し配信は絶対にしたくない配信』をしました」
(どんな内容だったんですか?)
「私がどうして年越し配信をしたくないのかの理由について説明をしました」
そもそも私って、配信とか収録をしたあと4、5時間は寝ることができないんですよ。私の睡眠時間を奪ってるという意識を視聴者に持ってほしい、という話をしました、と説明。
(それで、視聴者はどういう反応を?)
「『結局年越し配信しちゃってるじゃん。あけおめー』って感じでしたね」
意外と盛り上がったので午前3時くらいまで配信をしました、と付け加えた。
自分の睡眠時間を削ってでも視聴者を喜ばせるサービス精神旺盛の夜野さんことミューさんでした。
楠本くん。
(で、楠本くんは?)
「俺のときだけ雑すぎない?」
もうちょっと丁寧に、と楠本くん。
(わかったわかった。で、四字熟語なに?)
「さっきと変わってねぇじゃん…まぁ俺は『無為徒食』かな」
(どうしてですか?)
「俺たちの年齢って『心理社会的モラトリアム』って言われてるじゃん。だから特別なことはしなくてもいいかなって」
(人生ニュートラル操作で楽しそうですね)
「面白い言い方だな」
俺もこれから使おう、と楠本くんは呟く。
(あ、そういえばミューの配信みた?)
「雑談みたいな聞き方だな」
まあ見たっていうか、聞いたっていうか、と楠本くん。
(話した内容覚えてる?)
「なんも覚えてねぇわ」
朝起きたら配信が止まっていたらしいです。
人生エンジョイ勢の楠本くんでした。
一旦、中断します。
深山家。
「初詣行くから準備して」
「無理。面倒くさい」
ソファに寝転がりながら応える妹。
「もうお母さんたち車乗ってるからさ」
「お姉ちゃんだけでも良くない?」
「私も行きたくないんだけど…」
そう応えると妹はこっちを見た。
「いや、普通にメイクしてるじゃん」
それで行きたくないってどういうことなの?と尋ねる。
外出するときにノーメイクだと落ち着かないし。
駄々をこねていた妹だったが、渋々車に乗り込んだ。
神社に到着。
「もしかしてお姉ちゃんさ、」
クリスマスのときの人に会えると思ってない? とこちらを見ないで尋ねる。
「どうだろうね」
濁した解答をした。
ほら私って少女漫画の主人公だし。
ヒーローと会わないとかありえないし。
周りをちらちらと見ながら神社に近づく。
あれ、本当にいない?
普通に拝殿まで来て、普通にお祈りをする。
終わっておみくじでも引いてみようかな、ってときに見つけた。
吉川くんと秋谷さんがいる。
正月にそういうばったりイベントに遭遇することってあるの?
そう思いつつ2人の場所に向かう。
「吉川くんと秋谷さんじゃん」
あけおめ、と言って近づいた。
どちらとも着物姿ではなかった。
まぁそんなものだよね
「あ、深山さんじゃん」
あけおめ、と返す2人。
「どうして一緒に?」
何気なく尋ねてみる。
「普通に初詣に来てたらね」
「うん」
そう応える2人。
そんなことある?
いや、私が遭遇しているのも「そんなことある?」って感じかもしれないけど。
「おみくじ引いた?」
「今から引こうと思って」
「じゃあ一緒に行こうよ」
秋谷さんが先頭に私たちはおみくじを引くことのできる場所まで向かった。
妹に『ちょっと待ってて』という連絡をしてからスマホをポケットの中に入れた。
「そういえば弟くんは来てるの?」
小さめの声で吉川くんに尋ねる。
「来なかったね」
初詣、行く必要ある?って言ってたし、と吉川くんは付け加えた。
なんか妹に申し訳なく思ってきた。
帰りにコンビニでお菓子でも買ってあげるか。
到着。
「お金を横の箱に入れて1枚取り出す感じだね」
秋谷さんはすぐにお金を入れておみくじを一枚取り出す。
「いいよ、吉川くん取って」
「ほら言うじゃん、残り物には福があるって」
あと100枚くらいおみくじ入ってそうだけど。
じゃあ、と言って私はおみくじを一枚取り出す。
そして吉川くんも一枚引く。
「何だった?」
すでにおみくじの内容を読み終えた秋谷さんが私に尋ねる。
「私は吉」
「え、私もなんだけど」
秋谷さんと一緒だった。
それで吉川くんは、と尋ねる。
「僕も吉だね」
私たちに書かれている内容を見せる。
何が書いてあるかはそこまで興味なかったけど、『恋愛運』の項目だけはちゃんと目を通す。
待ち人来ず、ね。
まあ私もなんだけど。
「ラブコメ主人公で『待ち人来ず』ってどうなの?」
秋谷さんは吉川くんの内容に目を通して呟く。
同じところを読んでたらしい。
「まぁ、待ち人が来ないだったらこっちが向かえば良いってことでしょ」
吉川くんは特に気にしていないようだった。
とりあえず、と続ける。
「まぁ悪い内容のおみくじは持ち帰らないほうが良いっていうし」
結びに行こう、と吉川くんはさっさと向かう。
やっぱり気にしてるじゃん。
「そういえば秋谷さんはどうだった?」
隣を歩く秋谷さんに尋ねる。
こんな感じ、と言っておみくじを渡された。
えっと…
恋愛のところは『待ち人来ず』だった。
「じゃあ私もう帰るね」
家族待たせてるし、と伝える。
「僕も帰らないと」
「私もかな」
じゃあ次は3学期だね、と言って別れた。
帰る途中に妹に1つ、コンビニでお菓子を買ってあげた。
吉川くんの弟が来てなかったの、別に私のせいじゃないんだけど。
家に到着。
「お姉ちゃんさ…」
「なに?」
私のほうを見る妹。
「さっきさ、前クリスマスに来た人と他の女の人いたじゃん」
「いたね」
私の友達だよ、と付け加える。
「…まぁだからと言って別に何でもないんだけど」
1個、いる?といって私が妹のために買ったお菓子を渡された。
素直にそのお菓子を受け取る。
包装をはがして口に入れた。
少し酸っぱいレモンの味だった。
インタビュー再開。
寺田くん。
(そういえば寺田くんは駅伝が大好きと聞いたんですが)
「めっちゃ好きだよ!」
少なくともサッカーの試合観戦よりは、と寺田くん。
(どうしてですか?)
「サッカーって罰ゲームとか顧問の機嫌とかで走らされたりするんだよ」
(大変ですね)
「まぁ慣れたけど。で、例えばゲームをして試合に負けたほうは点数差×10周グラウンドを走れ、みたいなのがあるんだよね」
(なるほど)
「それで試合に勝った方は走らされてる人たちを見ながら冷たい水を飲めるっていう優越感!」
あれはマジで最高、と寺田くんは言った。
(それと駅伝には関係が?)
「駅伝ってテレビ中継やってるじゃん」
自分は快適な環境に身を置きながら、頑張って走っている選手を見ることができる、あれは罰ゲームで走らされてる人を見るのと同じくらい楽しい、と説明した。
サッカー部のニッチな悦びを駅伝に見つける寺田くんでした。
明空さん
(正月どうでした?)
「結構楽しかったよ」
(何をしました?)
「本を読んだかな」
(ジャンルは?)
「歴史と哲学の間なのかな」
(硬派ですね)
「そんなことないよ」
その人自体が面白いから、と付け加える明空さん。
(誰ですか?)
「ディオゲネスっていう人」
(存じ上げないですね)
「じゃあ私の本、貸してあげよっか?」
(気が向いたらで…)
「気が向いたらってさ『本を読む気がないです』って言ってるのと同じじゃない?」
(…そんなことないですよ?)
「へぇー…」
明空さんは笑いながらこちらを見てくる。
嫌な沈黙が生まれた。
(げ、現場からは以上です、スタジオにお返しします…)
インタビュアーの逃走本能により、変な空気のまま正月インタビューは終了しました。




