第70話 何がハッピーニューイヤーだ。
「好きな鍋料理とかある?」
「俺はキムチ鍋」
「豆乳鍋」
「僕はカレー鍋かな」
それぞれ好きな鍋料理を挙げる。
「みんな好み偏ってるじゃん」
決められないんだけど、と吉川。
「もう折衷案で闇鍋とかでよくない?」
どこの間を取ったら闇鍋が出てくるんだ。
「まぁ闇鍋でも…」
瀬野は渋々頷く。
え、闇鍋でもいいの?
賛成多数で俺たちの忘年会は闇鍋に決定した。
12月30日。
俺たちは吉川の家に集まり忘年会として闇鍋をすることになった。
そもそも、なぜ忘年会をすることになったか説明しておこう。
二学期最後の登校日。
「そういえば忘年会ってあるじゃん」
「あぁ」
社会人とかがやってるヤツな、と応える。
「あれってなんのためにやってるのかな?」
俺も詳しくは分からない。
「それに関しては僕、ちょっとうるさいよ?」
いきなり吉川が話に入ってきた。
「ほらあるじゃん『この作品はもう一度、記憶を消して読みたい』みたいなヤツ」
アレの為にみんな忘年会をやってるんだよ、と吉川は言い切った。
忘年会参加者の全員がそのために?
ただ詳しく知らない以上、否定することはできない。
だから俺たちは忘年会をすることになった。
そして現在に至る。
自分たちの好きな鍋料理の具材を持ってきて、と吉川に言われた。
俺はキムチ鍋が好きだから白菜と豆腐、そして豚肉。
全員が最低限、鍋として食べられる具材を持って来れば困ることにはならないはず。
「ちゃんと『食べられる』ものを持ってきたよな?」
「もちろん。『食べられはする』ものだよ」
と寺田。
なにか違和感を覚える。
「お前ってカレー鍋だったよな」
「そうだけど?」
「じゃあ牛肉とか豚肉とかになるわけか」
「うん」
“カレーの鍋”だから、とその箇所を強調する。
こいつ怪しいな。
具材は冷蔵庫に入れている。
俺は椅子から立ち上がり、静かに冷蔵庫に向かった。
冷蔵庫を開いて中身を確認する。
豚肉、鶏肉、野菜、卵。
いや、普通に大丈夫そうだな。
「どうしたの楠本くん?」
「闇鍋って、最低限鍋としておいしく食べられるものって認識で合ってるよな?」
「そうなるね」
少なくとも吉川はちゃんとしたものを用意したらしい。
俺は一抹の不安を抱きつつ、元いた場所に戻る。
不安の原因は寺田だ。
コイツ、鍋に変なもの入れようとしてないよな?
寺田と瀬野が話をしているときに、ちらっと寺田のバッグの中身を見る。
寺田はサッカー部のバッグで吉川の家に来た。
リュックが大きく開いているので、中身を確認することは容易だった。
「おい寺田、まさか鍋にチョコレートとか入れようと思ってないよな?」
中にあったのはチョコレート。
そして黙る寺田。
「…それでさぁ、」
何事もなかったかのように、瀬野との話を再開した。
確信犯じゃねぇか。
インターネットで『闇鍋 ヤバい具材』で調べたら一番に出てくるのがチョコレート。
「大丈夫だって多分!」
「『多分』じゃダメだろ」
困ったら僕が全部食べるから、と胸を叩く寺田。
なんで寺田が一人で闇鍋を食ってるのをみんなで見ないといけないんだよ。
「でもさ、よく考えてみてよ」
寺田が続ける。
「カレーの隠し味でチョコを入れるのはあるじゃん」
「まぁあるな」
カレーの隠し味でよく聞くのはチョコレートとかインスタントコーヒー。
「コクが深くなって辛さがマイルドになる、ってネットに書いてあったし!」
だから闇鍋でも同じ効果が得られるはず、と付け加える。
Q. チョコレートは闇鍋に入りますか?
A. No.
チョコレートは絶対入れるな。
なんなら寺田が今チョコレートを食え、ということになった。
渋々チョコレートをリュックから取り出す。
「素材本来の味だね!」とか言いながら食べていた。
そして闇鍋が始まった。
適当に材料を取り、口の中に放り込む。
普通の鍋だ。
普通にうまい。
ただうまいだけ。
…チョコレート入れたほうが良かった?
いつも通り雑談をして、忘年会は終わった。
何のために闇鍋をしたのか、終わったころには思い出せなかった。
「じゃあ来年だね」
玄関に向かいながら吉川呟く。
「そういえばこういうときって『よいお年を』って言うよね」
「あれって何?」
「よいお年をお迎えください、の略だな」
瀬野が応える。
「迎える瞬間くらいは幸せだと良いですね、っていうこと?」
「ネガティブすぎだろ」
他の瞬間は不幸せだと思いますが、みたいなニュアンスだな。
他にもさ、と言って吉川は続ける。
「年が変わる瞬間にジャンプする、みたいなのあるよね」
「あぁあれか」
カウントダウンして0になった瞬間にジャンプする
↓
空中にいる
↓
その瞬間、地球に足を付けていなかった
↓
年が変わる瞬間を地球上で経験していない
↓
まだ新しい年ではない
みたいな考え。
「つまり、年越しジャンプでタイムトラベラーになれると」
「そこまで仰々しくないけどな」
寺田に応える。
「本気でやるんだったら大気圏までは少なくとも超えないと駄目だろ」
瀬野が腕を組んで呟いた。
遊びだしそこまで真剣に考えなくていいのでは?
例えばさ、と言って吉川は続ける。
「一か所に集まって大きなカウントダウンモニターがあるとするじゃん」
「あぁ」
「それで1月1日0:00:00にみんなジャンプすると」
「そうだね」
寺田は頷く。
でも自分のケータイを見て気づくんだよ、
「今、自分がスマホを確認した瞬間が1月1日0:00:00だったって」
つまりカウントダウンモニターはフェイク。
そのとき、参加者は自分が騙されたことを理解する。
そして主催者らしきの人物がニヤリと笑みを浮かべ、拍手をしながらこう呟く。
「皆さん、あけましておめでとうございます」
ハッピーニューイヤーじゃねぇよ。
ひとしきり話をしてから、俺たちは吉川の家から出た。
12月31日の23時59分。
ベッドで横になりながら、僕はスマホをいじる。
あと1分で来年か。
年越しジャンプ、そういえばしたことないな。
僕はベッドから立ち上がり、現在時刻を確認する。
23:59:40
あと20秒ある。
なんか1人でやるのさみしいかも。
そう思いつつも、残り時間を待つ。
10.
9.
8.
7.
6.
5.
4.
3.
2.
1.
「せーのっ」
ジャンプをして、着地する。
0.
「…まぁ、だからと言って変わるわけでもないんだけどね」
スマホの画面を開くと、何人からか「あけましておめでとう」の連絡が着ていた。
去年と変わらない、という意味では年越しジャンプは成功?
ちゃんと返信をしてから眠りについた。




