第69話 そういえばクリスマスプレゼント、あげてなかったなって
ガチャ。
玄関のドアを開く。
そこには見覚えのない靴が何足か。
まだ妹の友達はいるみたいだ。
リビングから声が聞こえるから、まだ誕生日パーティーは続いているみたいだ。
いきなり入っていくと気まずい雰囲気になりそう。
リビングには向かわず、私の部屋に直行する。
階段を上っている途中、リビングから男の子の声が聞こえた。
自分の家に男の子を入れるなんて積極的だな。
…あれ、もしかして妹が気になってる人だったりしない?
好奇心が勝り、私は荷物を自分の部屋においてからリビングに向かった。
あとで妹に「なんで入ってきたの?」って言われそうだけど。
素知らぬ顔でリビングのドアを開ける。
そこにいたのは妹とその友達、そして男の子の3人だった。
意外と少ないな。
「あ、失礼してます」
その男の子が私にすぐに気づいて挨拶をしてくれた。
ふーん、普通に良い子っぽいじゃん。
妹は一瞬、嫌そうな表情になったがすぐに切り替える。
「なに、お姉ちゃん?」
「いや、飲み物を取りに…」
適当な言い訳をしながら冷蔵庫を開ける。
妹はすぐに出て行ってほしそう。
私も長居する気はない。
さっさと自分の部屋に行こう。
ちょうどその時、
ピンポーン。
インターホンの音が聞こえた。
「ごめんお姉ちゃん出てくれない?」
「オッケー」
言われた通り、私は玄関に向かう。
鍵を開けて扉を開ける。
「こんばん…」
男の人か、と思いながら私は相手の顔を見た。
「…え?」
目の前にいたのは、さっきまで一緒にいた吉川くんだった。
「…どうも」
小さく呟く吉川くん。
ちょっと待って。
え、どういうこと?
一旦、私は玄関の扉を開けて吉川くんを家に入れる。
「なんで吉川くんがいるの?」
「弟の迎えに来たんだけど」
「…マジ?」
「うん」
あれ、吉川くんの弟だったんだ。
ちゃんと顔見てなかったから気づかなかった。
「え、どうする?」
「何が?」
「吉川くん来たけど」
自分でも何を言ってるかよくわからなかった。
正直、びっくりしすぎて頭が正常に働いていない。
「弟をさっさと連れ出したいかな」
うちのお母さんってせっかちだから、と付け加える。
「じゃあちょっと待って」
私が呼びに行くから、と言ってリビングに向かう。
「ごめん、えーと名前なんだっけ?」
リビングにいる吉川くんの弟を見て吉川くんが来たことを言おうと思ったが、肝心の名前が分からない。
吉川くんに弟の名前を尋ねる。
「はるきだね」
「あ、ごめんはるきくん。吉川くんが迎えに来たんだけど…」
弟くんのほうを見る。
私の妹、眉間に皺が寄っている。
やっぱり好きなんじゃん。
「ごめん、お母さんが待ってるから」
帰る準備してくれない?と吉川くんは弟くんに伝える。
いつの間にか、私がいるところまで来ていた。
「オッケー」
特にごねることもなく、弟くんはさっさ準備を始める。
「ごめん深山さん、うちのお母さんってめっちゃせっかちなんだよ」
「じゃあ仕方ないか」
弟くんは妹に言ってリビングから出た。
名残惜しそうな妹だったが、玄関までお見送りに向かう。
「じゃあまた来週かな?」
「そうだね」
ばいばい、と言って妹は手を振った。
私も一緒に外に出る。
まだ外出時の恰好をしていたから助かった。
「こんなことってあるんだね」
「びっくりだよ」
歩きながら、吉川くんと話をする。
でも弟くんがいるからそこまで話はできない。
「…じゃあまた来週」
「うん」
ここらへんで、といって吉川くんと弟くんと別れた。
家に戻って自分の部屋に向かった。
今日は特にすることがない。
私は妹の誕生日パーティーが終わるまで適当に時間を潰してからリビングに向かう。
「どうだった?」
楽しかった?と私は妹に尋ねる。
「楽しかったけどさ…」
口をもごもごさせながら食器をシンクに運ぶ。
「いやーびっくりだね」
「何が?」
「まさか吉川くんの弟とはるかが友達だったのが」
「そう?」
当の本人はそこまで驚いてなさそう。
「お姉ちゃんさ、」
「なに?」
「さっき吉川くんのことはるきくんって言ってたじゃん」
「まぁ」
吉川くんがいたから名前で呼んだ方が分かりやすいかなって思って、と付け加える。
「あれさ…」
「う、うん」
困った。
私の妹は拗ねると機嫌がよくなるまでかなり時間がかかる。
「それってさ、吉川くんの弟のこと、」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね?」
「…へぇー」
「なに、その意味深な間」
「別に?」
なんでもないから、と言って私はリビングから出ていこうとする。
「お姉ちゃんもさ、」
ちょっと待って、と言って私を呼び止める。
「…なに?」
無視して逃げることもできたが、今日はその場に留まる。
「いやさっきの吉川くんのお兄ちゃんだけど」
「うん」
それがなに?と尋ねる。
「花火大会のときにさ、なんかうれしそうだったじゃん」
あの人?と言って妹は私に視線を向ける。
「もう3、4か月くらい前のことでしょ?」
覚えてないなぁ、と言って私は視線を明後日の方向に逃がす。
「…嘘つくの下手過ぎない?」
あの人なのね、と呟いた。
まぁ合っている。
そうだよ、と私は頷いた。
「…じゃあ私、自分の部屋に戻るから」
「…うん」
これ以上詮索するとお互いにマズい。
そういう感覚があったので、私たちは話を切り上げた。
自分の部屋に戻る。
お風呂に入って寝る支度を終えてからベッドに潜り込む。
寒いなか、温かい布団の中に入るのが結構好きだったりする。
分厚い布団が寒い空気から守ってくれてる感じがするから。
「あ、そういえば」
あることを思い出して私は布団から出る。
寒い。
今日、書店で買ったものを鞄の中に入れた。
翌朝の学校。
「…おはよう」
「あ、おはよう」
既に席についていた吉川くんに挨拶をする。
私が右側、そして吉川くんは左側だ。
いつも通り、鞄を右側に置いて教科書類を引き出しの中に入れる。
「昨日のさ、」
「なに?」
「あ、いや別に大したことないんだけど」
「うん」
吉川くんは頷く。
「他の人に言わないでおいてくれない?」
なんか妹が嫌そうだったから、と付け加える。
「わかった」
吉川くんは特に気にすることもなく了承した。
授業中。
吉川くんのほうをちら、とみる。
興味がなさそうな感じ。
あくびを噛み殺しながら授業を受けている。
目が合いそうになるかも、とか思いながら吉川くんをたまに眺めていた。
昼休み。
今日も秋谷さんが来た。
明空さんも一緒。
秋谷さんからは、この出かけたことは他の人に言わないように、とお願いされていた。だから私はいつもどおり話をする。
明空さんとよく目が合うような気がする。
気のせいかな。
昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る。
次は掃除時間だ。
「ちょっと深山さん」
「どうしたの?」
明空さんに声をかけられた。
「いま廊下出れる?」
「いいよ」
私たちは廊下に出る。
「なんかあった?」
いつもと違う感じだけど、と言って明空さんは私の顔を覗き込む。
「そんなことないよ?」
「本当に~?」
私の勘って的中率100パーセントなんだけど、といって笑みをこぼす。
「いいことだと思うんだけどなぁ」
それだけは教えてくれない?とお願いされてしまった。
こくり、と頷く。
「それはよかったね!」
じゃあ私は戻るから、と言って明空さんは自分の教室に戻っていった。
放課後。
「夜野さん、今日は先に帰ってていいよ」
「おっけー」
じゃあね、と言って私は夜野さんと別れる。
今日は吉川くんが風紀委員で見回りだったはず。
私は教室に残った。
どんどん生徒が少なくなり、最終的に私だけになった。
「あれ深山さん、まだ残ってた?」
早く帰った方がいいよ、と吉川くんは言って教室に入ってきた。
「あれ、もう一人は?」
「手分けしてやった方が早いってことに2学期になってから気づいてね」
今楠本くんはあっちがわの教室の見回りをやってる、といって吉川くんは指をさした。
「あのさ、吉川くん」
「なに?」
私は先週、書店で買った2本のシャープペンシルを吉川くんの前に見せる。
「そういえばクリスマスプレゼント、あげてなかったなって思って」
どっちか欲しいほうあげるよ、と呟いた。
「僕、深山さんに何も買ってないけど」
「まぁ今はいいからさ」
とりあえず選んで、と言ってシャープペンシルを少し吉川くんのほうに寄せる。
期間限定の柄。
緑色と白色。
「じゃあこっちにしようかな」
吉川くんは白色の方を手に取った。
私はこっち、と言って私は緑色のシャープペンシルをペンケースの中に入れる。
「なんかごめんね」
「まぁ別にそこまで困ってないからいいよ」
じゃあ私帰るね、と言って教室から出て行った。
翌日の授業中。
今日が今年最後の授業だった。
左側にいる吉川くんの手元に視線を向ける。
手元には白色のシャープペンシルが置いてあった。
でも使っているのは自分のもの。
そこに置くんだったら使ってよ、という言葉を飲み込む。
吉川くんの所有物に私が口を出すことはできない。
早く終わらないかな、と思いつつ緑色のシャープペンシルを使ってペン回しをした。




