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第68話 『価値観が360度変わりました!』とかだったら面白そう。

「サンタクロース、いつまで信じてた?」

「クロースかぁ」

「そっちで呼んでる人初めて見た」


普通サンタの方で呼ぶと思うんだけど、と秋谷さん。



12月25日のショッピングモール。



僕と秋谷さん、そして深山さんの3人は飲食店に来ている。


「実際どう?」


深山さんが僕に尋ねる。


「親にお金を渡されて好きなもの買っていいよ、みたいな感じだったからな」


そもそもサンタを信じるっていうのがなかったかも、と付け加えた。


サンタが親にお金をプレゼントして、それを僕に渡していたみたいな可能性は考えなかったな。親がサンタのプレゼントを横流しにしているとは思えない。


「秋谷さんは?」


深山さんは次に秋谷さんに尋ねた。


「まぁ小学校の低学年くらいだったかな」


突然親から「今年のクリスマス、何か欲しいのある?」って聞かれたらしい。


「じゃあ深山さんは?」

「私の家は力入れてたからなぁ」


気づいたのは小学校の高学年とかだったかも、と少し上を見ながら応える。


「どんな感じなの?」

「サンタってさ、365日あるうちの1日だけ来てプレゼントを渡して去っていくっていう感じでしょ?」

「まぁそうだね」


僕たちは頷く。


「うちの場合はそうじゃなくって、ときおりサンタの気配を感じさせる演出とかあったんだよね」

「オフサンタが家の中に?」


職場で何をしているんだ。


例えば、と深山さんは説明を始めた。




ある日。


「あれ、床にこんな髪の毛落ちてる」


白くて長い髪の毛を拾い上げる。

家にこんな髪を持つ人はいない。


え、幽霊?


「ねぇお母さん」


私はその髪を持ってお母さんに尋ねた。


「あぁこれはね、サンタさんの髪の毛だね」

「サンタさん?」

「うん、かなでちゃんが1年間ちゃんといい子にしてたかを定期的に観察しに来るんだよ」


だからちゃんと良い子にしててね、とお母さんは笑った。



別の日。


テレビを見ていたときだった。

さっきから背後に気配がする。


振り返ると、その人物は逃げて行った。

その人物の足元だけが私の視界に入る。


真っ赤な衣装に黒いブーツ。


その赤が私の網膜に焼き付いて離れなかった。



クリスマス当日。


サンタさんが来た。


他のクラスの子たちは寝ている間にサンタさんがプレゼントを置いていくと言っていた。


私の家は違う。


普通に正面から来てくれる。

サンタさんは人の家にこっそり忍び込むような悪党じゃないって信じていた。


「やあかなでちゃん。今年も良い子にしていたかな?」

「はい!」

「そんな君にプレゼントだ」


そういってサンタは袋の中からプレゼントを取りだした。


「はい、どうぞ」


私の目線に合わせてプレゼントを渡す。


ありがとうございます、と言って私が包装を開ける頃には、サンタさんはいなくなっていた。


「あれ、いつの間にサンタが来たんだ?」


お父さんが私の部屋に入って、プレゼントを見て言った。


「ちょうど今来たよ!」

「そうか、それは良かったな」


お父さんは柔らかく笑った。




「めっちゃ良い話じゃん」


お父さん張り切ってるな。


「なんでサンタが親だって気づいたの?」


この流れだったら深山さんが気づくはずなくない?


「あれは小学5年生の時だったんだけど……」


深山さんは再び説明を始める。




小学5年生の12月中旬。


そろそろクリスマス。


これまでのクリスマスを振り返り、私は1つの疑問が生まれていた。


サンタさんはどうやって私の行動や趣味を把握しているのか。


サンタさんは1人で世界中の子供、20億人以上の行動を把握しているということになる。たとえ365日あるとしても1人にかけることのできる時間は限られている。


計算すると、


1年=31,536,000秒

31,536,000 / 2,000,000,000 = 0.015768秒


結局私って20億人に1人の存在でしかないんだ。



クリスマス当日。


「やあかなでちゃん。今年も良い子にしてたかな?」


毎年同じような言葉をサンタさんは言う。


そのセリフ、他の子にも言ってるんでしょ?

なんで私だけのサンタさんじゃないんだろ。


「ねぇ……」


サンタさんの白いファーを掴む。


「うん、何かな?」


サンタさんは困ったように私を見つめる。


「なんで他のところにも行っちゃうの?」

「……サンタさんはこの日が繁忙期だから」


他の日なら、と零す。


そうじゃなくって。


「今年のプレゼントはいらないから、今日だけ一緒にいて欲しい……」


他の子のところに行かないで。

私はサンタさんに抱き着いた。


赤いモコモコした服の下には、確かに人間の体温が感じられた。


「フォッフォッフォ、まったく困った子だね、かなでちゃんは」


そういってサンタさんはサンタ帽を外す。


「……え?」


そこにいたのはお父さんだった。


「ほら、どこにも行かないから」


サンタさんからのプレゼントをどうぞ、そういって私に一冊の本をプレゼントする。


私の好きな少女漫画の最新刊だった。


「今日だけじゃなくって、1年中一緒にいるからね」


私だけのサンタさんは、小さな私を優しく抱きしめた……



「……それ以降は普通にプレゼントを渡してくれるようになったって感じ」

「そんなドラマチックになることあるんだ」


秋谷さんは驚いたようだった。


僕も驚いた。


「深山さん、今日ここにきてよかったの?」


クリスマスの今、普通に飲食店で話をしているのが深山さんのお父さんに申し訳なくなってきた。


「大丈夫だよ、今日は家で妹の誕生日パーティーやってるし」

「クリスマスと同じ日に誕生日かぁ」


なんか良いね、と秋谷さんは零す。


「本人はクリスマスと誕生日のプレゼントが一緒になるから嫌だ、って言ってたけど」


深山さんは笑った。


「今年で何歳?」

「13かな」

「じゃあ中学1年生か」


良いね、妹がいるのって、と秋谷さん。


「秋谷さんって一人っ子?」

「うん」


妹がいるのって結構憧れあるんだよね、と零す。


「そういえば吉川くんも弟いるよね」


秋谷さんに尋ねられた。


「いるね」

「仲はどう?」

「まぁまぁって感じかな」


特に仲がいいわけでも、悪いわけでもないし。


「そういえばさ私の妹、なんか中学校に好きな人がいるっぽいんだよね」

「えーマジ?」


秋谷さんのテンションが一段階上がったような気がする。


「私も良く分からないんだけどね、なんか花火大会の時とか会ったりしてたっぽい」

「付き合ってないの?」

「多分付き合ってないんじゃないかな」

「うわー本人に話とか聞きたいなぁ」


秋谷さんは本当に知りたそうだった。


「そういえばさ、秋谷さんと吉川くんって中学校同じだったよね?」

「うん」

「そのときと今って変わってるの?」


僕たちに尋ねてきた。


「秋谷さんは性格は変わってないよね」

「他は変わったみたいな言い方だね」


実際、見た目とか変わったしなぁ。


「吉川くんはねぇ……」


秋谷さんは僕の顔を見つめた。


今日の秋谷さんのメイク、気合入ってるな。

……やば、褒めるの忘れてた。


あとでなんか言われるかも。


「あれ、全然変わってないかも」

「本当に?」


うん、マジで変わってない、と秋谷さん。


「まあ僕の価値観とかは中学生の段階で完成したってことだ」

「現状維持って退化って言うし」


退化っていう意味では変わってるんじゃない?と秋谷さんは応える。

こういう時に悪い意味で言う人っているんだ。


「なんか同じ中学校って良いよね」


深山さんは零す。


「高校に同じ中学校の人とかいないの?」

「私の中学校って小さかったからさ」


1人もいないんだよね、と言って続けた。


「ちょうど今年の3月で閉校になったから」


そういえば、と言って深山さんは更に続ける。


「私の中学校と秋谷さんたちの中学校が合併したんじゃなかったかな」

「え、そうなの?」

「私もよく聞いてなかったけど」

「じゃあ私たちが1年ずれてたら同じ中学校だったってことか」


惜しかったね、と秋谷さんは零す。


「え、じゃあさ」

「なに?」

「今の深山さんの妹と吉川くんの弟は同じ中学に通ってるっていうことになる?」

「あーそうかも」


確かに。


「まぁ僕たちの中学校って結構大きいし」


すれ違うとかはあり得ても面識はなさそう。


その後、秋谷さんと深山さんはデートのときに食事はアリかナシか、というテーマで盛り上がっていた。秋谷さんはアリで深山さんはナシらしい。



しばらくして飲食店から出る。



「次はどこに行くの?」

「どうしよっかな」


とりあえず歩いてみようか、という秋谷さんの言葉を合図に僕たちは歩き始めた。


「あ、このピアス可愛い」


深山さんが足を止める。

目の前の店舗ではイヤリングが陳列されていた。


「ちょっと見ていい?」

「いいね、私も興味ある」


2人は店の中に入っていった。


手持無沙汰になる。


こういう時ってどうすればいいんだろ。

僕はそこまで興味がないのでスマホを片手に時間を潰すことにした。


「ちょっと君」


秋谷さんに声をかけられたので僕は顔を上げる。


「こういうときは興味なくても一緒に入っていくべきだとは思わない?」

「そうですね」


深山さんはまだ商品を眺めていた。


「じゃあ今から入るべき?」

「いや、もう私外に出てるし」


今から行くと私に何か言われて店に入ったみたいになるじゃん、と零す。

そのつもりで行こうと思ったんだけど。


「そもそもピアスとかってさ、校則で禁止されてるじゃん」


今見たってどうしようもなくない?


「禁止されてても可愛いいピアスあったら欲しくなるでしょ」


すぐにつけなくても買うことはできるから、と説明された。

確かにそうかも。


ところで、と言って秋谷さんは僕の方を見る。


「なんか私に言ってないことあるよね?」

「くると思ってたよ」

「じゃあ教えて?」


秋谷さんの服装を上から下まで眺めてみた。


「……こういうのってどう表現したらいいんだろ」


褒める語彙がない。


「ごめん、その前にちょっと調べてもいい?」

「駄目に決まってるでしょ」


思ったことを言えば良いんだよ、と秋谷さん。

思ったことがまとまらないから困ってるんだけど。


「えっと……」


そういって僕は今一度秋谷さんを正面から見る。


ゆったりとしたブラウンのアーガイル柄カーディガン。

インナーにはシンプルな白のトップス。

ボトムはコンパクトなブラウンのショートボトム。

足元はダークブラウンのロングブーツ。


「アレだね、ブラウン系で落ち着いた感じだ」


思ったことを口にする。


「そうだけどさ、まだ足りないなぁ」

「まだ?」

「うん」


秋谷さんは腕を組む。


「ほら水族館に行ったときに言ってくれたじゃん」

「僕の好みに合ってて、みたいな?」


夏休みの頃の話だ。


「そう。それ」

「あーそっちだったか」


納得する。


「はい、だからそれを今言って?」

「え、分かった上で?」

「うん」


じゃあ、どうぞ、と言って僕の方を見る。


「そのコーデ、僕の好みに合ってて好き」


素直にその言葉を口にした。


「……なんか違うなぁ」


なんだろ、私が言わせてる感じがして、と秋谷さんは唇を尖らせた。


「以後、気を付けるので……」

「本当に気を付けてね」


そう言い終わるのと同じタイミングで深山さんは店から出てきた。


「やっぱりピアスって高いね」


欲しいヤツあったけど流石に今は買えないかな、と零す。


「ネットとかだと色々あるけど、やっぱり実物を確認した方が良いからね」


また今度機会があればかな、と言って僕たちは歩き始めた。



「今からコスメストア行ってもいい?」


しばらく静かに歩いているなか、秋谷さん切り出した。


「私は良いけど」

「僕もいいよ」


とりあえず肯定する。


イヤだ、ということはできなかった。


「絶対吉川くんさ、今イヤだって思ってるでしょ?」


秋谷さんは笑みを浮かべる。


「イヤってほどではないよ」

「でも書店と比べれば?」

「そうなったら書店一択かな」


僕は正直に応えた。


「それなら一旦別れる?」


提案する深山さん。


「そうなったらさ、親が買い物してる間はゲームセンターで時間を潰している子供みたいな感じになっちゃうじゃん」


それはちょっと嫌だからついて行くよ、と応えた。



コスメストアに到着。



2人はそれぞれ興味のある商品を見に行った。


こういうとき、従業員の人に話しかけられると困るんだよね。

僕は従業員との距離を一定に保ちつつ、店舗内を歩き回る。


陳列されている商品は輝いて見えるけど、照明の影響でしょ。


「吉川くん、やっぱ気まずそうじゃん」

「まぁね」


こういう場所はあんまり来たことないし、と深山さんに応える。


「まぁここは女性向けのコスメがほとんどだからね」


吉川くんが頻繁に来るような場所じゃないか、と深山さんは零した。


「でもさ、」


深山さんは僕に商品を見せる。


「こういうのとか、吉川くんに合いそうだけど」

「本当に?」

「ほら吉川くんって乾燥肌じゃん」


意外とこういうのも合いそうだと思うんだけどな、と付け加える。


そもそも、自分が乾燥肌っていうことも気にしたことなかった。


興味があれば買ってみれば、と言って深山さんは他のコーナーへと向かった。



「まさに心ここにあらずだね」


秋谷さんは僕の方を見る。

本当にその通り。


正直、ここから出たい気持ちが優勢になりつつある。


どうせやることないんだったらさ、と言って秋谷さんは続ける。


「私にハンドクリーム選んでくれない?」

「ハンドクリーム?」


この3つの中からさ、と言って目の前の商品を指す。


「どれがいいと思う?」

「スマホで調べてもいい?」

「だめ」


秋谷さんにスマホを取り上げられてしまった。


「ちゃんと1つ選んで」


選んだらスマホを返してあげる、と言って秋谷さんはショルダーバッグの中に僕のスマホを入れる。


「そうだな……」


真剣にその商品を見る。


そういえばさっき、深山さんに「吉川くんって乾燥肌じゃん」って言われたな。


「秋谷さんって乾燥肌?」

「適当に選ばないのは高評価だね」


私は普通肌かな、と付け加える。


「そうなると……」


商品の説明を見ながら考える。

1つは乾燥肌向けの商品だから外せるか。


「この2つのうちどっちかになるね」

「うん」


秋谷さんは頷く。


どうしようかな。

他の情報、僕が見ても良く分からないんだけど。


価格は……同じか。


「そうだなぁ、こっちのパッケージのほうが綺麗だからこっちで」


選んだ商品を秋谷さんに渡す。


「こっちね」

「違うほうが良かった?」

「私もこのパッケージ好きだなって思ったから」


毎日使ってて楽しいほうがいいし、と言って商品を手に取る。


「スマホは……?」

「あぁそうだった」


秋谷さんはショルダーバッグからスマホを取り出した。


「今日、スマホ必要?」


私が帰るまで預かってても良いけど、と言って笑みを浮かべる。


それは困る。

秋谷さんからスマホを受け取った。



先ほど深山さんから提案された商品をもう一度手に取る。



「パッケージも気にするんだな……」


確かに毎日使うんだったら、使ってて楽しいもののほうが良さそうだ。


「この商品に興味がありますか?」


店員が音もなく僕に近づいてきた。


「まぁ、はい」

「この商品実は男性の方でも……・」


従業員の口車に載せられ、僕はこの商品を買った。

セールストークには敵わないね。



店舗から出る。


「結局買ったんだ」


すでに外に出ていた深山さんに声をかけられる。


「やっぱり何事も挑戦だから」

「その通りだね」


深山さんは笑った。




「もう結構いい時間だけど」


書店行く必要ある? と秋谷さんに尋ねられる。

意地悪だね。


「まあちょっとだけ」


正直、書店にこれと言った用はなかった。

でも書店があるのに通り過ぎるのはちょっと嫌なので、書店に向かうことにした。



書店に到着。



「この小説、最近話題だよね」


深山さん呟く。


「あぁこれね」


SNSで話題のヤツ、と応える。


「僕が調べた感じだと、途中で龍が出てくるって聞いたけど」

「吉川くん、多分だけど違う小説の話してるね」


この話、純愛モノって聞いたし、と秋谷さんは呟く。

情報源間違ってた?


「この小説読んだことある?」

「私はあるよ」


僕はなかった。


帯には『この小説に出会って、価値観が180度変わりました!』と書いてある。


『価値観が360度変わりました!』とかだったら面白そう。

一周回って変わってないじゃん、ってなりそうだし。


その後は適当に時間を潰した。


「やっぱり書店にいると楽しいね」


僕たちは書店から出た。


結局、本は買わなかった。

予想外の出費がコスメストアであったから自重した。



「じゃあ帰ろうか」


僕たちは玄関に向かう。


「さっむ」


外に出ると、冬らしく冷たい空気が身体に触れる。


まだそこまで暗くはない。

うっすらと三日月が夜空に浮かんでいた。


「そういえばさ、『月が綺麗ですね』っていうセリフあるじゃん」

「あるね」


深山さんが応えた。


「あのセリフを使う作品とか結構多くない?」

「多いよね」


バス停に向かいながら僕たちは話を続ける。


「でもあれって結構前のセリフじゃん」

「夏目漱石が言ったとか聞くし」


情緒があって良い感じするけど、と秋谷さんは付け加える。


「もっと現代っぽくできないかなってそのセリフを聞く度に考えるんだよね」

「ロマンチストじゃん」


深山さんは冗談っぽく言った。


「まず必要なのは、なぜ『月が綺麗ですね』というのが‘I love you’という表現になるか、だよ」

「そんな真面目に考える?」

「夏目漱石の心情をセリフから読み解くことが必要ってわけ」


そしてその条件を現代に適用することで新しい表現になるはず、と僕は説明した。


「じゃあどうするの?」

「なんで月なのか、だよね」


そして僕は説明を始める。




そもそも月が出ているということは夜なはず。


美人に見える3つの条件がある。

それは夜目、遠目、傘の内。


夜だと顔がはっきり見えないため美人に見えるそう。


そして月は女性の象徴。


1. 月の満ち欠けと月経周期はほぼ同じ

2. 月の神秘さが女性らしさを暗示

3. 多くの文化では月は女神 (日本は男性だけど)


「つまり『月が綺麗ですね』というのは、間接的な表現ではなく目の前の綺麗な女性の美しさを称える真正面からの誉め言葉ということになる」

「なるほどね」


バス停に着いた。


「それで?」


どうやって現代っぽくするの? と秋谷さん。


「結局『月が綺麗ですね』は女性の美しさを褒めるわけだよね?」

「そうなるね」

「そして夏目漱石が’I love you’をこの言葉に当てたわけ」

「うん」


つまり、


女性が美しい→好き


という単純な関係がある。


「だから目の前の女性を褒めつつ、好きになったことを同時に伝えることが必要ってこと」

「なんか『月が綺麗ですね』って言う言葉の良さがなくなってきてるけど……」


そこまで直球に言われると、と秋谷さん。


現代っぽくするなら、と言って僕は続ける。


「『加工しなくてもめちゃくちゃ可愛いですね! SNSで相互になりません?』とかどうかな」

「現代っぽいね」


でももうちょっと短いほうが良いと思うよ、と深山さんは付け加える。


「じゃあ『顔が綺麗ですね』で」

「そのまんまじゃん」


秋谷さんがそう言うのと同じタイミングで、バスが到着した。



バスに乗り込む。



「今日は結構楽しかったね」

「うん」


僕も楽しかった。


「みんなはどこで降りる?」


秋谷さんが聞いたので、僕と深山さんはここ、と止まる場所を言う。


「あれ、吉川くんの家ってそこの近くじゃないよね?」

「うん。親がそこから弟の迎えに行くらしい」


なんか友達の家でクリスマスパーティーをしてるんだって、と説明する。


「家に友達入れるのって結構ハードル高くない?」

「そうだよね」


深山さんが応える。


ちなみに深山さんの家には夜野さんしか入ったことないとか。

まず秋谷さんが下りるバス停に着いた。


「じゃあまた」


僕たちは手を振って別れる。


そしてすぐに僕が下りるバス停に着いた。


「次会うのは週明けかな?」

「そうかもね」


またね、と言って僕は深山さんと別れた。




バス停から少し離れたコンビニでお菓子を買って、親の車に乗り込む。


「ただいまー」

「おかえり、楽しかった?」

「うん」


そしてお母さんは車を発進させる。


「一旦スーパー寄るから」


そのあとに弟がいる友達の家に向かうらしい。


僕はスマホを眺めながら時間を潰した。


肌の種類で化粧品って変わるんだな。

僕が今使ってるヤツ、実はあってないかも。


深山さんのおかげで気づくことができた。



そしてスーパーに寄って友達の家らしき場所に辿り着く。


「あれ、この時間に来てって言ってたのに、全然来ないな」


もう10分過ぎてるんだけど、とお母さんは零す。

お母さんはせっかちだ。


「なおき、家に行ってくれない?」

「え、僕が行くの?」

「あんたが行った方が良いでしょ」

「まぁそうだけど……」


せっかく盛り上がってるのに、水を差す感じがしていやだな。

しかしお母さんにそう言われたのであればしょうがない。


僕は車のドアを開けて外に出る。

母に「あの家」と言われた場所に向かった。


表札、はないか。

現代っぽい。


インターホンを押す。


「ごめんお姉ちゃん、出てくれない?」


少し離れたところから声が聞こえる。

すぐにこちらに近づいてくる足音。


ガチャ、という音に少し遅れて外に光が漏れた。


「こんばん……」


普通に挨拶をしようと思い、相手の顔を見る。



「……え、吉川くん?」



目の前にいたのは、さっきまで一緒にいた深山さんだった。


「……どうも」


僕の小さな声は冷えた夜空に吸い込まれた。


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