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第66話 現実世界って異世界だったんだ…

「そろそろ二学期末テストあるじゃん」

「うん」

「自信ある?」

「…もちろん」

「なんか間が空いたけど」


お前、本当に自信あるのか?



帰宅途中。



吉川と俺だけで帰るのは久しぶりだ。


「いやそんなことないけどね」


吉川の呟きはトラックの音にかき消された。


「トラックと言えばさ、なろう系の小説でよく見かけるよね」


いきなり話が変わったな。

テストの話はしたくなかったのか?


「あれだろ、異世界に転生する前に交通事故にあうヤツ」

「そうそう」


そういって吉川は満足そうな表情を見せる。


テストの話に戻したらコイツ、困りそうだな。

まぁしないけど。


「現世で最後の記憶がトラックに轢かれるのって最悪すぎるだろ」

「どうせだったら眠ってるときにいつの間にか転生してるとかが良いな」

「寝てるときの異世界転生は夢だろ」


流石に夢落ちはあまり見たことがないかも、と言って吉川は続ける。


「異世界から来た主人公が現世で無双するっていうのも異世界転生って言うのかな?」

「裏の裏は表みたい考えだな」


まあ異世界転生って言うんじゃないか、と俺は応える。


正直、俺もそこまで詳しいわけじゃない。

吉川におすすめされたものを何作か読んだくらいだ。


「でもあれだ、異世界転生系って結局主人公がチートで無双するのが面白いんだろ?」


普通なら運営から垢バンくらいそうなのになぜかお咎めなしなヤツ、と付け加える。


「まぁ運営もグルだし」

「ご都合主義な感じするけど、結局主人公が活躍するなら問題なしって感じか」

「そうだね」


吉川は頷く。


「実際、やってることはシンデレラと同じだよ」

「いきなりメルヘンだな」


なんでも主人公がただ活躍するのではなく、相手に一旦見くびられてから逆転する、という流れがお約束らしい。


「なるほど、つまり読者を嫌な気分にさせてからそれを解消する出来事が起きれば良いてことだな」

「まぁそうだね」


じゃあ俺がやってみるから、ちゃんとカタルシスが生まれているか教えてくれ、と言って俺は説明を始める。




タイトル: 転生したら掃除番だった件




俺は宿屋で働いている。


異世界転生した俺は現在、宿屋の主人に面倒を見てもらっている。


「おーい、ちょっと来てくれないか」

「わかりました」


主人に返事をし、呼ばれた部屋に向かう。


仕事だ。


「この部屋、11時までに片付けといてくれ」


次の客がすぐに来るから、と言って主人は自室に戻る。


「これはひどいな…」


俺は部屋を見回して身体を震わせた。


ベッドには、誰のものか分からない髪の毛がところどころ絡みついている。

壁には、湿気を吸ったばかりの黒いカビがじわりと広がっていた。

客が置いていったらしいゴミが積み上がり、

ゴミ箱には収まりきらず、湿った残飯が床にまで零れ落ちている。


俺の身体が囁いている。



この部屋を今すぐ綺麗にしろ、と。



「――掃除を始める」


その呟きは部屋に吸い込まれた。



20分後。



「どうだ、掃除は終わったか?」


そういって宿屋の主人は部屋を見に来た。


「たった今終わりましたよ、主人」


俺は呟き扉を開ける。


「な、なんだこの部屋は…!」


主人の言葉の余韻が部屋に響く。


部屋は空気の軽さを取り戻していた。


こもった匂いはなく、窓から入った乾いた風がそのまま部屋の奥まで通り抜けている。床には埃ひとつ落ちておらず、窓から差し込んだ光がそのまま淡く反射していた。ベッドのシーツは皺ひとつなく張られ、白い布地が静かに光を返している。枕も中央にきれいに置かれていて、少し触れればまた同じ形に戻りそうなほど整っていた。机の上には必要なものだけが並び、ペンもノートも向きが揃えられている。


表面には指でなぞっても跡が残らないほどの滑らかさがあった。


部屋の隅まで視線を向けても、生活の濁りのようなものはどこにも見当たらない。

まるで、この部屋だけ時間が静かに整えられているみたいだった。


「あの短時間でこれだけの掃除を…」

「与えられた仕事をこなしただけです」


俺は自分の部屋に戻った。



「悪いけど、あの部屋にもう一回行ってくれないか」


しばらくたったあと、俺は主人に再び呼び出される。


「いいですけど、どうして?」

「なんでも、あの部屋に宿泊しているお嬢さんが『この部屋を掃除した人に会いたい』だと」


分かりました、と応えて俺はすぐに部屋に向かう。


「すみません、お呼びでしょうか」


そういって俺は扉を開ける。

そこにいたのは息を吞むほどに美しい少女だった。


「あなたがこの部屋を…?」


俺は頷く。


「感心しました。そんなあなたに折り入ってお話があります」

「なんでしょうか?」


少女は笑みを浮かべながら口にした。



「あなた、私の屋敷の掃除番になりませんか?」



完。




「そういうカタルシスじゃないと思うけど」


吉川は不満そう。


「いや読者を不快にさせてからちゃんと掃除して綺麗にしただろ?」


人間っていうのは本能的に病原菌がいそうなものを嫌悪する仕組みが備わっているんだよ、と付け加える。


そして新天地での活躍を感じさせつつの幕引きという綺麗な締め。


完璧だと思うが。


「『この部屋を掃除した人に会いたい』ってどういうことなの?」


高級レストランとかでありそうなセリフ、宿屋の掃除番にすることってあり得る?と批判されてしまった。


ほら、そういうのがなろう系小説にとって都合の良い展開って言うか。


「チートスキルを使ってないってところが一番良くないかな」


忘れてたわ。


「これだったらただの綺麗好きな人が異世界で掃除してるだけじゃん」

「ここから国王にまで上り詰める予定なんだが」


掃除してるだけの人が国王になることってあるの?と吉川は呟く。




「なろう系小説のカタルシスって結構序盤にあるんだよね」

「ほう」


とりあえず返事をする。


「例えばギルド加入にあたって能力の査定を行う、とかさ」

「あぁ、たまに見るわ」


そこでFランクと査定されて色んな人に馬鹿にされるけど、実は…みたいな感じか。


確かに読んでて楽しそう。


僕がちゃんとカタルシスを生むようにするからちゃんと聞いててよ、と言って吉川は説明を始めた。




タイトル: 農家の息子なのでFランクスキルですが、意外とやっていけるようです。




「この仕事って受けられますか?」


そういって僕は掲示板に貼られていた用紙を見せる。


受付の女性はその紙を見る前に僕が付けている手袋を一瞥した。

確かに、この季節に手袋をつけている人は珍しいか。


大丈夫ですよ、と言われたので僕はその仕事を引き受けることにした。



目的地に到着。



僕は豪邸の前で従者が出てくるのを待っていた。

提示された時刻から30分過ぎている。


ちゃんと場所は合っていることを何度も確認して自分を安心させていた。


「あーあなたですか」


そういって男は扉を開ける。


「僕の名前は…」

「あ、別に言わなくていいですよ」


名乗る直前に男は遮った。


「君、Fランクなんでしょ? 僕ね、弱い人に興味ないんですよ」


そうですか。


何も応えずに従者の後ろをついて行く。


「あなたにしてもらいたいのは、この畑の害虫駆除です」


目の前には農作物が踏み荒らされた畑が広がっていた。


「正直、あなたみたいな方にこの仕事が務まるとは思いません」

「どうして?」


とりあえず尋ねてみる。


「害虫と言えば小さい生物を想像すると思います。しかし、この畑に出るのはそういう類のものではないんですよ」

「というと?」


これを見てください、そういって男は地面を指した。


「この足跡を持つ巨大生物が『害虫』と呼ばれているものです」


夜行性なので今はいませんが、と付け加える。


「なるほど」


そういって足跡の形をできるだけ近くで見る。


「へぇーそんなことできるんですか」


そういうの、僕は汚らわしくってできませんけど、とわざと聞こえるように言った。


「この害虫を駆除する、というのは『この畑に害虫が来ないようにする』ということで間違いはありませんか?」

「そうですね」


主人からはそう伺っております、と付け加える。


「期限は?」

「主人からは2日以内に、と」


しかしあなたには不可能と思うので今日中にお願いします、他の上位ランクの方を明日呼ぶつもりなので、と説明された。


1日以内に害虫を駆除すればいいのか。


分かりました、と応えて作業を開始することにした。


「こんな大きな足跡を残す害虫なんて一種類しかいないよな…」


僕は畑の中でぐるぐる回って考える。


その名はサプラニッド。


大きさに違いはあれど、習性はアブラムシとかハダニと同じようなもの。


「この耕土がそもそも問題なんじゃないか?」


土に触れてみる。


「pHは4、強酸性だな」


コレが僕の能力の1つ。

土壌のpHを測定することができる。


「害虫が寄り付かないようにすればいいってあの人は言ってたから」


畑を見回す。


そもそも、害虫を毎回駆除するというやり方は適切ではない。

もっと再現性のあるやり方で対処しないと。


「pHは6から7が良いかな」


これからの作業を頭で整理する。


窒素を減らす: 窒素が多いとアミノ酸が増加してサプラニッドが増える

カルシウムを増やす: 作物の細胞壁の構造を安定化

カリウムを増やす: 細胞壁強化

ケイ素を増やす: 葉にシリカ層が形成


「調整する元素はそこまで多くないし、1日以内に終わるかな」


手袋を外し耕土に手を当てる。


僕のもう一つの能力。


それは、土壌の元素バランスを調整すること。


確かに戦闘には向いていない。


でも農業では他の追随を許さない、完璧なチートスキルだった。


どの範囲の土壌の元素を操作するかイメージして元素の名前を呟く。


「窒素、カルシウム、カリウム、ケイ素…」


そしてどの指で調整するかを割り当てる。


右手親指: 窒素

右手人差し指: カルシウム

右手中指: カリウム

右手薬指: ケイ素


今回操作する元素は4種類。



この仕事、片手で足りる。



地面を割り当てた指で何度か叩き、元素バランスを調整した。


「よっし、これでいいかな」


そして手袋を再びつける。


再び地面のpHを確認してみる。


pHは6、弱酸性だ。


「終わりましたよ」

「え、何がですか?」

「害虫の駆除ですけど」


僕は男に話しかける。


「まだ夜になっていませんが」

「害虫が来ないようにする、が僕の仕事でしたよね?」

「そうですが…」


そういって僕とその男は畑に向かう。


「何もしてないじゃないですか」

「いえ、害虫が寄り付かないような土壌に変えました」


男は容器に土を載せるように言った。

僕は言われた通りに土をその容器に入れる。


「この土に何かしたということですか?」

「そうです」


僕は応える。


「どう見ても普通の土じゃないですか」

「そう見えますか?」

「私はあなたみたいな田舎者と違いますからね」


ずっと思ってたけど、従者なのにやけにあたりが強い。

自分の主に帰属意識を感じているタイプか。


「わかりました。それでは夜まで待ちましょう」


夜行性なので、夜の間に畑が踏み荒らされなければ問題は解決したということで、と説明した。


その男は問題ないと呟いた。



夜。



男は館の窓辺の椅子に座り、僕は畑に立っている。


「いつもどの時間帯に来るかご存じですか?」

「そうですね、大体22時から23時の間かと」


わかりました、と僕は言い畑に視線を向ける。


現在時刻は22時10分。


本来なら来てもいい時間帯のはず。



22:20


まだ何もない。


22:30


まだだ。


22:40


まだ来ない。


22:50


来ない。



「おかしいですね、いつもは来るはずなのに…」


残り10分となって、従者は少し様子が変わり始める。


「今日はたまたま来なかったという可能性も…」

「それはあり得ないです」


僕は断言した。


「私たちに生活リズムがあるように、害虫たちにも生活リズムがあります。虫は私たちと同じかそれ以上に合理的な活動をします。例えば夜行性であることは捕食者から回避することや乾燥を防ぐこと、そして変温動物であるため昼は体温が上がりすぎる、といったことが理由です」


何もしていないのに今日たまたま害虫がこの畑に来ない、ということはあり得ないです、と付け加えた。


「つまり、僕の仕事をした結果、この畑に害虫が来なくなったと言える」


僕は従者の方を見る。


ちょうどそのとき、23時を知らせる鐘が遠くから聞こえてきた。


「時刻になりましたね」

「え、ええ」


男は戸惑いながら頷く。


「そ、それでは主をお呼びいたしますので、館内にてお待ちください」


男は部屋から出ていった。


他の従者に案内され、僕は部屋の中で主が来るのを待った。


「おや、君かね。害虫を駆除してくれたのは」


恰幅の良い老紳士が近づいてきた。

お辞儀をしてから「そうです」と呟く。


「いやぁ助かったよ」


最近はあの害虫の足音のせいで夜も眠れなかったから、と零す。


従者は後ろで気まずそうに立っていた。


「それにしても…」


老紳士は僕の顔を覗き込む。


「なんでしょう?」

「いや、見覚えのある顔をしていてね」

「はぁ」

「君には関係のない話だとは思うが、せっかく来てくれたんだ、話をさせてくれ」


年寄りっていうのはみんな昔話が好きなんだ、といって笑みを浮かべる。


椅子に腰を下ろす。


「君と同じくらいの年のころだったかな、」


そういって話を始めた。




昔、一世を風靡した伝説の勇者がいた。


王族から絶大な信頼を寄せられ、爵位を与える話も出た。


しかし勇者はその話を断り、まだ30代そこらで隠居することに決めたという。


老紳士がその男に出会ったのは、隠居の話が出て数か月後のことだった。



「もしかしてあなたは…」


老紳士は男に声をかける。


「なんです?」


気さくそうな男は、間違いなく伝説の冒険者だ。


「あの、すみません、とりあえず握手してもらっても?」


緊張しながら言うと、その男は手袋を外してから握手に応じた。


「ありがとうございます!」


そういってとすぐにその男は手袋を付けた。




「…っていう話さ」


別にそこまで面白い話じゃないだろ、と言って笑う。


「それで、見覚えのあるって言うのは?」

「いや、大したことじゃないんだ」


君の顔とその手袋が、彼にそっくりだなって思ってね、と言って僕の手袋を指す。


確かにこの手袋は父から譲り受けたものだった。


「そんなこともあるんですね」


そう応えてから報酬をいただくことにした。


「じゃあ君、あれを持ってきてくれ」


そういって従者に指示を出す。

従者の男はそそくさと部屋から出て行った。


「いやぁ大変だね」


君はFランクらしいね、と言って窓辺を見る。


「そうですね、農家の息子なので」

「まぁ私も似たようなものだったよ」

「本当ですか?」


目の前の老紳士をまじまじと見つめる。


「スキルっていうのは親からの遺伝って言うじゃないか」

「そうらしいですね」


僕も詳しいことは良く分からない。


ただ、親からスキルが遺伝するというのは誰もが知る事実だった。


「でも若いころはそれなりに頑張ったさ」


そういって笑顔を見せる。


顔には深い傷があった。


でも、と言って老紳士は続けた。


「私が頑張ってこれたのは一重にあの人の言葉があったからなんだよ」

「というと?」

「さっき言っただろ、伝説の勇者の話」

「はい」

「その時、彼に聞いたのさ」


あなたのランクは何ですか?ってね、と。


「それで?」

「びっくりしたよ」


そういって老紳士は一呼吸置いて言った。




君と同じFランクだったんだ。




「報酬をお持ちしました」


丁度そのとき従者が部屋に入ってきた。


「ありがとうそれを彼に」


そういって僕の方を指さした。


「…どうぞ」


納得がいかないような顔で、その男は僕に報酬を渡す。


「ありがとうございます」


僕はその従者と老紳士に視線を向けて言った。


「ともかく、君のおかげで助かったよ」


ギルドの人には仕事は完了したことを伝えておくから、と付け加える。


「それでは僕はこれで」


そういって屋敷を後にした。




自宅。



「ただいまー!」

「今日は遅かったな」


そろそろ寝ようと思ってたんだ、とお父さんは笑う。


「仕事を1つ終わらせてきた!」

「やるじゃないか」


お父さんは僕の頭を乱暴に撫でた。


「そういえば依頼主に面白い話をされたんだけど…」


簡潔に話をする。


「そうかそうか」

「もしかしてお父さんだったりしない?」

「あはは、まさかそんなわけないだろ」


冗談を言うのはよしてくれ、と応える。


「俺はそろそろ寝るから」


お父さんはそう言うと、背を向けて寝室に向かった。


その背中を黙って眺める。



お父さんの首や腕は皮膚が少し盛り上がった夥しい傷で塗れていた。

さっき話した老紳士とは比べ物にならないほどの深い傷。


お父さんは農作業でできた傷だと言ってるけど、そんなことってあり得るのかな。


「まるで伝説の勇者みたいな…」


途中で言葉を切った。


僕が何を考えたとしても、お父さんに否定されたんじゃどうしようもない。


服を着替えて僕も寝る準備を始めた。



完。




「話長すぎないか?」


疲れたように、楠本くんは溜め息を吐く。


「でもカタルシスを感じるシーンが何回かあったでしょ?」

「まぁあったけど…」


そういって楠本くんは腕を組む。


「チートスキルというより、知識無双系の話じゃないか、コレ?」


途中に出てくる知識のおかげで害虫駆除してる感じだし、と付け加える。


チートスキルという才能を持ってたとしても、それを十分に生かし切る知識がないと駄目だからね。


「ちなみに続きは?」

「続き?」

「そうだよ」


ちょっと気になったんだけど、と楠本くん。


少し考えてから口を開く。


「じゃあ結末は馬車に轢かれて現世に異世界転生した、って感じで!」

「大分前の話に戻ったな」


異世界から現世に転生したら異世界転生と言えるかみたいな話。


「…っていうかそれが結末だったらデッドエンドじゃないか?」

「そこから後継作品を作るってことだよ」


タイトルは『異世界で無双した農家、現実世界でも一大経済圏を築く』かな。



分かれ道に差し掛かったので僕たちは別れた。





翌日。



「そういえばさ、悪役令嬢系の話ってたくさんあるじゃん」

「あるね」


深山さんに頷く。



1時間目が始まる前。



「悪役令嬢が転生して悪役令嬢でした、みたいなヤツとか流行らないかな」

「輪廻だね」


いつまでたってもヒロインになれないのは可哀そう。


「そういえば異世界系の話で相手のステータスが分かるヤツとかあるな」

「まぁあるかもね」


私は現実寄りの作品の方が好きだけど、と付け加える。


「あれ、現実でも使えそうだよね」

「現実で戦闘能力って必要ないと思うけど」

「戦闘能力はまぁいらないけど」

「じゃあ違うステータス?」

「うん。好感度とかどう?」


えー? と深山さんは僕に顔を向ける。


「それって自分に対する好感度?」

「うん」


ギャルゲーでもたまにヒロインの好感度を見ることができる作品がある。


「それって吉川くんが見るんでしょ?」

「もちろん」


僕じゃない誰かが僕の好感度見てもなんも得しないし。


「もしできたらどうするの?」

「そうだね…」


少し上を見ながら考えてみた。


「自分にとって都合のいいように好感度を調整するかな」


自分が嫌いな人の好感度が高かったら下げるようにするし、と付け加える。


「じゃあ好きな人だったら?」


更に質問をされる。


「好きな人には自分のことも好きになってもらいたいでしょ」


なんとか努力して好感度を上げるかな、と呟いた。


へぇ、と呟いてから深山さんも考える姿勢を取る。


「もし吉川くんが相手の好感度をわかっているっていう情報があれば、だよ?」

「うん」


話を遮らない程度に頷く。


「吉川くんの行動だけで自分がどう思われているか分かりそうじゃない?」


別に特殊なスキルとか必要なくってさ、と付け加える。


確かに。


好きな人には近づきたいが嫌いな人には近づきたくない、という行動原理があるとする。もし相手が自分の行動原理を理解しているとすれば、その原理に応じた行動をとると、それに付随して自分の好感度という情報を相手に渡してしまうことに繋がるかもしれない。


それなら実質、現実世界でもステータスオープンのスキルを手に入れていると言っても過言ではない。


「現実世界って異世界だったんだ…」

「たぶん違うと思うよ」


深山さんは当たり前のように呟いた。

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