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第61話 さながらファーストペンギンですね。

最悪のコンディション。


おはようございます。

サッカー部の寺田です。


今日はサッカーの練習試合で他校のグラウンドに来ています。

天気は大雨、そしてクレイコート、普通の土ですね。


そして11月下旬。


かなり寒い雨の中のクレイコートは地獄です。

他校の選手もテンションが低そう。


いつもと変わらないのは雨に濡れない顧問だけ。


みんなゆっくり着替えながら雨が弱まるのを待っています。


「おいお前ら、さっさと準備しろよー」


キャプテンが声をかけ、選手たちは気の抜けた返事をする。

でも僕、さっき聞いたんです。


「こんな天気の中サッカーなんてするもんじゃないだろ」と零すキャプテンの姿を。


上に立つ人って大変ですね。


「どうせ濡れるんだから、諦めて外に出るぞ!」


そういってテントの外に出る先輩。

さながらファーストペンギンですね。




「お前もさっさと出ろって」


仲の良い先輩に声をかけられた。


「僕はここから一歩も動きませんよ」

「なにお前、守るものがあるの?」

「自分の身体に決まってるじゃないですか」


こんな日にサッカーしたら風邪ひくでしょ、と付け加える。


「じゃあお前、今日サッカーしないの?」

「しなくていいんだったら…」

「俺もしたくねぇよ」


お前道連れな、と言って僕をテントから引っ張り出した。


「これは雨降ってるって言わねぇって」


そういってコートの近くにあるテントに向かう先輩。


「このくらいの雨なら洗濯物干して外出するね」

「じゃあ晴れてたらどうするんですか?」

「洗濯物取り込むかな」

「そんなことあります?」


話をしながらテントに辿り着く。



ウォーミングアップをしてから、練習試合が始まった。

スタメンではないのでベンチに腰を下ろす。


この時が一番キツイ。


一度、雨に濡れてからそのまま動かないと体温がめちゃくちゃ下がる。

あと、服が身体に張り付いて気持ちが悪い。


「おい寺田、アップしとけ」


顧問の先生に声をかけられる。


このタイミングで出るの?

今、雨がめちゃくちゃ強くて前見えないけど。


先生が僕の代わりに試合に出てくださいよ、という言葉を飲み込み、僕はテントの外に出る。


以前、先生にそれを言ったら「お前、次の試合フルな」と言われた。

先生も雨の中でサッカーするの、罰ゲームだと思ってるじゃないですか。


「うわ、本当にイヤなんだけど」


ブツブツ呟きながら身体を温める。

しばらくしてからグラウンドに入る。


僕のポジションはLWG(レフトウィング)


僕がサッカーに左翼的な考えを持っていることを顧問の先生は把握しているからLWGなのではないかと睨んでいる。



雨の中のサッカーはとにかく雑念が混じる。

なんなら口の中に雨が混じる。


雨って水みたいな味じゃなくってちょっと酸っぱい感じの変な味がするんだよ。


サッカーをしながら地球温暖化の影響を身体で感じることができるね!

関係あるのか分からないけど。


ハーフタイム。


テントに入って水分補給をする。


「アイツが引っ張ってるんだよなー」

「おい、お前誰に言ってるんだよ」


偶にこういう風に喧嘩っぽくなることもある。

「さっきの失点、お前のせいだろ」とか「お前がなめたプレイしてるから点取れなかったわ」みたいな。


僕は無関係だろうと思ってボトルに口を付けようとすると、


「やっぱ寺田だよな、引っ張ってるの」

「そうだよな、俺もそう思ってたんだよ」


2人の視線は僕に向かう。

意見が一致しちゃった。


「僕なんか悪いプレイしました?」

「いや、お前多分勘違いしてるわ」

「え、どういうことですか?」

「みんなを引っ張ってくれてありがとなって」

「あぁ、本当ですか…」


この流れで味方に褒められることある?



顧問の先生が説明をしてから、後半戦が始まる。


コートの中に入る。

そういえばコートに入るとき、無意識にお辞儀をしてしまうんだよね。

中学校の時の癖が抜けない。


雨はまだ止まない。

多分、これ1日続くヤツだな。


試合開始。


そういえば今日のスケジュールってどうなってたかな。

今日は2チームに分けてそれぞれ2試合って感じだったはず。


試合に途中から出場してるのって1試合にカウントされるのかな。

このあと2試合するのは流石にきつい。


雨の試合のあるあるが1つある。

それはいかに顧問の先生から見て一生懸命サッカーしてる「っぽく」見せるか。


もちろん、本気でやってないと怒られる可能性が高いけど、今日は大雨。

視界が悪いから遠くの様子は意外と見えない。


サボる余地あり。


ボールがコートから出た。

僕は同じサイドの相手に軽く肩を叩く。


こちらを見た相手に何も言わずにアイコンタクトをする。


「本気でやる感じ出すから、君も手を抜いてよ」


本気でタックルとかしないでね、と何も言わずに伝える。


これがノンバーバルコミュニケーションってヤツだ。


雨の日のクレイコートの場合、80%以上の確率で‘OK’の意思表示を受ける。

偶に、「俺、そもそも本気でやってないんだけど」みたいなことを言われることも。


今回は、軽く肩を叩き返された。


交渉成立。


その後は声を出しながら真面目にプレイしているような雰囲気を出しつつ、時間が経つのを待った。


試合終了。


僕とその相手は軽くお辞儀をしてコートから出た。


その後は何も話をせずにテントまで戻った。

「立つ鳥跡を濁さず」ってヤツだよ。


…ごめん、使い方あってるか分からない。



そして1日が終わった。


顧問の総評的な話を聞いてから、後は各自解散ということに。

今日は近場だったから、親に送迎を頼んでいる。


『今、練習試合終わった』と連絡すると、すでに駐車場にいるとのこと。


僕はさっさと着替えて帰ろうとすると、


「そういえばさ、寺田」


と同じ学年のサッカー部員に声をかけられる。


部活中にときどき話をする人だ。

肩幅が広い。


「どうしたの?」

「お前ってさ、1-Cだよな?」

「そうだね」

「秋谷さんって知ってる?」

「あぁ、秋谷さんね…」


知ってる知ってる、と言いながら思い出す。

同じクラスに「秋谷」って苗字の人はいなかったと思うんだけど。


「お前、知ってるフリするの絶望的に下手だな」


もうちょっと上手くなったほうがいいと思うぞ、とその彼は付け加える。

まぁバレてたんならしょうがない。


「で、秋谷さんってだれ?」

「お前マジで知らないんだな」


1-Cの教室に来てるめっちゃ可愛い人だよ、と付け加える。


どっちだ。


確かに、1-Cに可愛い人は昼休みに来ている。

でも2人いる。


「…あぁ、あの人ね」

「お前、本当にわかってる?」

「まぁ確率は常に2分の1っていうし」


お前、全然わかってないじゃんと笑われた。

どっちかだから、半分は分かってるってことにしてくれないかな。


まぁ、別にいいけど、と言って彼は続ける。


「秋谷さんってなんで1-Cに来てるのか知らない?」


秋谷さんが可愛い人のうちのどっちか分からないけど、両方とも似たような場所に座っている。

深山さんの席の周りだったかな。


そういえば吉川くんも一緒に話をしているのを見たことがある。

何だったっけ、中学校の頃に仲が良かったとか。


「で、何が知りたいんだっけ?」

「秋谷さんが誰に会いに行ってんのか知りたい」

「あぁ、それは多分…」


そう言って時間を稼ぐ。

こういう時ってどうすればいいんだろう。


秋谷さんが男子生徒に会いに来てると言った方が面白い反応をしてくれそう。


「あぁ、その前に聞きたいんだけどさ」

「何だ」

「秋谷さんのこと好きな感じ?」

「それに素直に応えるヤツいなくね?」

「じゃあ好きってことで」


まぁ、お前が他のヤツに言わなそうだから別にいいけど、と言って先の質問の答えを促された。


「多分あれだね、1-Cの女の子に会いに来てる感じだと思う」

「マジ?」

「僕もくわしくは知らないけど」


適当にごまかした。


「よかったわ」


満足そうに彼は呟いた。


「SNSのアカウント、4月にフォローしたのに全然相互になれねぇんだよな」


忘れてるのかもしれないけど、と呟く。


「へぇ…」


同じクラスの人も、その「秋谷さん」から全然フォローが返されない、みたいな話を聞いたことがある。


多分、意図的にシャットダウンしてるんだろうね。


「良く分からないけど、まぁ頑張ってね!」


彼の肩を叩いて駐車場に向かった。





月曜日。


あんなに雨に濡れたのに、普通に元気ってどういうことなの?

自分の免疫力が憎い。


そういえば昼休みに秋谷さんっていう人が来るってサッカー部の彼が言ってたな。

今日は吉川くんと一緒に昼ご飯食べるから、昼休みに聞いてみよう。



昼休み。



「今さ、1-Cじゃない人たちが来てるじゃん」


あの辺に、と言って指を指す。


「そうだね」


吉川くんは頷いた。


「あれのどっちが秋谷さんなの?」

「どっちってどの2人のこと?」


「ほら、あそこの」


と言って2人を指した。


「左の方が秋谷さんで、右の方が明空さんだね」

「あぁ、こっちね」


やっと秋谷さんが誰か分かった。


「どうしてそんなことを?」


流石に、サッカー部員のことをそのまま言うのはできない。


「なんだろう、秋谷さんにことをサッカー部の人に聞かれたからさ」

「どんな風に?」


吉川くんがさらに踏み込んで聞いてくる。

僕、そういうのあんまり得意じゃないんだけど。


本当のこと言ってもいいかな

具体的な名前を伏せれば分からないだろうし。


まぁあの人のことを好きな人なんて、サッカー部にも何人かいるか。


「なんかサッカー部で気になってる人がいるみたいでさ、誰なんだろうと思って」

「…マジ?」


神妙な面持ちになる吉川くん。

余計なこと言っちゃったかな。


まぁいいか。

とりあえず自分が知りたいことは知れたし。


その後は普通に雑談をして昼休みを過ごした。





夕方。


吉川くんからの連絡が来ていた。

私から話をするのはあるけど、吉川くんからは数か月ぶりかも。


何だろうと思い、アプリを開いて内容を確認する。


『ごめん秋谷さん、ちょっと話したいことがあるんだけど』 17:32

『どうしたの?』 17:40 既読

『大したことじゃないんだけどさ、電話ってできる?』 17:40

『今、バスだから難しいかも』 17:41 既読

『じゃあ夜なら大丈夫?』 17:42

『うん』 17:43 既読

『8時くらいに連絡するね』 17:43

『オッケー』 17:44 既読

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