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第60話 投資家、作家、マーケッター、ラブコメ主人公

「勤労感謝の日ってさ、高校生が休日になるのっておかしくない?」

「おかしいけど、それを言ったら高校生から嫌われそうだよね」


せっかく休めるんだから余計なこと言うな、みたいに、と深山さんは付け加える。



休み時間。



「教師たちが休むから高校生も結果的に休みになるって感じじゃないの?」

「学校の中心は生徒だ、みたいなことを言う割には、教師が中心なんだね」

「なに、吉川くんは学校に来たいの?」


そういってこちらに視線を向ける。

そんなわけない。


「学校に行かなくてラッキーだね」


明日は溜まってたラブコメでも読もうかな。


でもさ、と言って僕は続ける。


「勤労感謝の日っていう名前だと、働く人全員に感謝する、みたいな意味でしょ?」

「まぁそうだろうね」


深山さんは頷く。


「全員に感謝してたらさ、感謝される特別さがなくなっちゃうと思うんだよね」

「感謝される特別さってあるの?」


別に減るものじゃないと思うんだけど、と呟く。


「考えてみてよ、もし自分の好きな人がさ、」

「いきなり踏み込んでくるね」


話を遮って深山さんが応える。


少し深山さんの方を見てから、気にしないで続ける。


「まぁフィクションとかでもいいけどさ」

「うん」

「自分の好きな人に好きって言われるのはめちゃくちゃ嬉しいでしょ?」

「もちろん」

「でもその人が色んな人に言ってたら、好きって言われてもそこまで嬉しくないじゃん」

「まぁ…」


好きな人に好きって言われたらどんなことがあっても嬉しいけどね、と深山さんは小さく呟く。

それで何が言いたいの、と話を促されたので、僕は続ける。


「勤労感謝の日は、もっと職業を細分化して祝うべきなんじゃないかと」

「なるほどね」


とりあえず深山さんは納得したようだった。

教科書を取り出しながら、僕の話を聞く。


「そもそもさ、勤労感謝の日って何なの?」


よく知らないんだよね、と深山さんは付け加えた。


スマホで『勤労感謝の日 意味』と検索。


「働くことを尊び、生産を祝い、国民がお互いに感謝する日、って書いてるね」


もともとは別の行事だったけど、戦後に名前が変わったらしい。


「まぁ、勤労を感謝するってことね」


そのままの意味じゃん、と呟く深山さん。


「祝日にしなくってもさ、休日はこの職種に人たちに感謝しましょう、みたいな日を設けるべきだと思うんだよね」

「へぇ」


そこまで興味がなさそう。

僕も暇だから喋ってる感じだし別に良いんだけど。


「ここで使えるのが日本標準産業分類(Japan Standard Industrial Classification)だよ!」


あえて英語を話すことで、注意力を高める裏ワザ。

僕が楠本くんたちと話をしている中で獲得した能力だ。


深山さんがこっちを見た。

他の人でもうまくいくことを確認しつつ、僕は説明を続ける。


「これは経済活動を種類ごとに分類したものなんだけど、大体20分類くらいあるんだよね」

「うん」

「これを52週あるうちに等間隔くらいで配置すれば、色んな業種の人がその日は感謝されるということに!」


そしてその日は同じ業種の人とのつながりを感じることができて離職率の低下につながるはず、と付け加えて説明した。


へぇーと呟いてから数秒間、沈黙が生まれた。


何かを考えている様子。

深山さんが考えているときは、顎に手を当て、上の方を眺めることが多い。


それってさ、と言って深山さんは続ける。


「2週間に一回くらい来るわけでしょ、ある業種に感謝する日が」

「まぁそうなるね」

「それだったらさ、感謝する頻度が増えて2年くらいしたらみんな慣れちゃうんじゃない?」

「というと?」


深山さんによれば、その業種に感謝するといっても徐々に形骸化され、何のための日か分からなくなるのでは、とのことだった。


既に勤労感謝の日という1年に1回しかない祝日の意味さえも分からなくなっているんだからさ、とそれなりに真面目な考えを説明された。


確かにそうかも。


「でも本当の狙いはそれじゃなくってね」

「感謝することじゃないの?」

「うん」


僕は一呼吸置いて続けた。


「この隔週に感謝されるイベントに、ラブコメ主人公が感謝される日を設けることなんだよ」

「ラブコメ主人公になることって労働なの?」

「天職だから」


それ、説明になってないと思うけど、と深山さんは付け加える。


「20分類あるうちに1個くらい関係なさそうなものが混ざっていても気づかないはず!」


そう言いながら、僕はノートに書きこむ。


農業・林業

漁業

鉱業

建設業

製造業

サービス業

宿泊・飲食サービス

ラブコメ主人公

電気・ガス・熱供給・水道

生活関連サービス・娯楽

情報通信業


「ほら、意外と分からないでしょ?」

「カタカナのところで上手く隠れてる感じだけど…」


もし漢字で挟まれたら一発で気づくと思うよ、と呟く。

そうなったら、カタカナのヤツで挟むことにしよう。


「これならラブコメ主人公が入ってもおかしくないはず!」

「日本国民の誰も気づかずにラブコメ主人公に感謝すると?」


都合よすぎない?と呟く


少し間が空いて深山さんは続ける。


「それだったら私、少女漫画主人公が感謝される日が欲しいな」

「え、少女漫画主人公?」

「うん」

「まぁ入れても…」

「なんで嫌そうなの?」


ラブコメ主人公の日があるんだったら、別にあっても問題ないでしょ、と深山さんは不満そうだ。


流石に2つ変なのがあるとバレそう。

産業4つ分は離した方が良い。


「もしできるんだったらアレだ、SNSの肩書を書くところに『ラブコメ主人公』とか『少女漫画主人公』って書かないといけないね」


感謝されるためにはちゃんと公表しておかないと。


起業家、投資家、作家、マーケッター、ラブコメ主人公…って感じ。


「それはちょっと恥ずかしくない?」


当日、友人とかから「おめでとうございます(笑)」ってメッセージが届きそうだし、と呟く。


僕のイメージだと、 #ラブコメ主人公の日 で検索して、投稿されているイラストを鑑賞するっていう日になると思ってたんだけど。


それだと二次創作のイラストしか投稿されなくって、僕は感謝されない?





「…っていう話をしたんだよね」

「へぇ」


深山の話に軽く相槌を打つ。


休み時間によく話をするものだ。

私にとっての貴重な睡眠時間だから、起きて話をするという活力に驚かされる。


「夜野さんはどう?」

「どうって?」

「ほら、自分が感謝される日が欲しいかってこと」

「えぇ…」


私は少し考える。


この話の流れだったら職業関連だよね。

ゲーム実況者ってそもそも仕事なの?


偶にゲーム実況者本人が「ゲーム実況は仕事じゃない」ってネタで言ってるのは聞く。


実際、公に取り扱われるのはちょっと違和感がある。


「…世間に知られたくないかも」

「なに、夜野さんって闇の組織に入ってるの?」

「夜だけに闇の組織ってね」


「面白いこと言うじゃん!」と深山は背中に軽く触れた。


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