第59話 なんかアメリカのCEOとかが言ってそう
「動画投稿サイトの年齢制限ってどうやって外せるか知ってる?」
「よからぬコンテンツを視聴しそうだな」
寺田に応える。
昼休み時間。
俺たちは4人で昼ご飯を食べていた。
「まぁそれは自分で検索するとして」
よからぬコンテンツを見るつもりなのか?
「前見た動画が結構面白かったんだよね」
そういって寺田はスマホの画面を見せる。
「面白い面接の質問、ねぇ…」
吉川がタイトルを読み上げる。
うん、と寺田が頷き軽く説明をする。
「入社試験で普通は聞かれないような質問をされたときにどう答えるかっていう内容をまとめた動画らしいんだよ」
ちゃんとは見てないんだけど、と付け加える。
これって知らない振りをして正解を言って周りの人を驚かせるってヤツじゃないよな?まぁ寺田がそんな手の込んだことをするとは思えないが。
「どんな企業が変わった質問をしてるんだ?」
瀬野は興味を示しす。
寺田は概要欄を開き、企業名を読み上げる。
俺でも知ってるような企業が多かった。
「時間を潰せそうだから、質問に答えてみよう」
そういって寺田はおにぎりを頬張る。
いつも昼休みは手持無沙汰になるので参加することにした。
「まず1問目」
そういって寺田は文章を読み上げる。
あなたは小さくなってミキサーの中に入れられました。刃は60秒後に回ります。どうやって生き残りますか?
(解答例: 体が小さくなっても筋力は体重に比例して軽くなるので、相対的なジャンプ力は大きくなる。だからミキサーの壁を飛び越えて脱出する。 )
「とりあえず、楠本くんが答えてみてよ」
いきなり場を仕切り始めた寺田を横目に俺は腕を組んで考え始める。
「そうだな、ミキサーの中に入れられたらびっくりするだろ?」
「もちろん」
吉川が頷く。
「それで20秒くらい使ってしまうと思うんだよ」
「それはそうだ」
瀬野も肯定する。
「とりあえずミキサーの刃から身体を離そうするけど、震える手に力が入らず、いつまでたってもミキサーの底に転がり落ちる…」
「なんか神話で似たようなのあったよね」
巨大な石を山の頂上まで転がすヤツ、と吉川は呟く。
転がるのは俺の身体だけど。
「そうこうしているうちに…」
スイッチオン!
「俺の身体はみじん切りだな」
「何そのバッドエンド」
聞いてる方も嫌な気持ちになりそう、と寺田は付け加える。
「こういう質問って本当に出るのか?」
「最近は出ないらしいけど、聞かれたことはあるらしいよ」
俺はペットボトルのキャップを開け、水を流し込む。
「じゃあ僕が答えてもいい?」
「もちろんいいよ」
「吉川、お前やけに自信がありそうだな」
この質問には抜け穴がある、とまるでデスゲームに参加する頭脳キャラみたいなことを呟いた。
ミキサーに入れられて60秒後に刃が回転するのはある意味デスゲームっぽいが。
「まず、ミキサーに入れられるってことは自分の身体が小さくなったか、ミキサー自体が大きくなったか、の2つが考えられるよね?」
「確かにそうだ」
瀬野が頷く。
「この場合は自分の身体が小さくなったと仮定する」
「おぉ、なんか模範解答っぽいな」
素直にそう応える。
仮定するってところがなんか頭よさそう。
「小さくなると、人間のある機能が相対的に変化するはず」
完全に同じ状態にはならないんだよ、と吉川は言う。
出題者の寺田はうんうん、と頷いている。
合ってるのか?
それは、と言って吉川は一呼吸置いた。
「体感時間に違いない!」
「え?」
「ほら聞いたことない?人間と小動物は1秒の体感が違うって」
臨界フリッカー融解頻度っていうヤツ、と説明する。
「聞いたことないけど、それでどうするつもりなんだよ」
「そんなの決まってるじゃん。まずは人間の60秒と小さくなった自分の体感時間は異なるということを説明して制限時間を延ばすんだよ!」
ハエくらいの大きさなら、体感200秒くらいになってるはず、と付け加えた。
3回願いが叶うっていうときに、そのうちの1回で願い事の数を増やすみたいなやり方だな。ハエならすぐ脱出できそうだけど。
「とりあえず、聞いてみようか」
そういって寺田は話を促す。
「とりあえず」って言ってる時点で模範解答からは外れてそう。
「まず必要なのは自分の置かれている状況を確認することだよね?」
至極全うなことを言う吉川。
俺たちは頷く。
「ミキサーの刃がどういう構造で動いているかは分からないけど、刃を動かないようにすればいいはず」
「確かにそうだな」
刃が動かないようにすれば、脱出する必要もないのか。
「だから、刃を取り外せるかどうか、どの部品とつながっているか確認する」
寺田はなるほどね、と頷く。
「でも、もし確認に時間を取られすぎると、他の脱出方法にかける時間が無くなってしまう」
賢い人って言うのは常に複数の選択肢を持つものなんだよ、と吉川は付け加える。
言い方は少し癪に障るが、まぁ正しい。
「ほかに考えられるのは、単純にミキサーから脱出する方法と、60秒後に刃が回転するという前提自体を覆す方法がある」
「その通りだね」
寺田は呟く。
正解ルートに戻ったか?
ミキサーから脱出するためには、摩擦係数や脚力を考慮する必要、そして刃を回転するのを止めるためには、自分の声がミキサー内でどのように反響するか、そして相手とどうやって交渉するかが重要になってくる、と吉川は長々と説明した。
「どっちから手を付けるべきか考えているところで…」
スイッチオン!
「僕の身体はバラバラに!」
「ここまで考えて何も手を付けないってことあり得る?」
時間っていうのは有限なんだよ、と達観したキャラクターみたいなことを言われた。
ミキサーの中に落とされたヤツが何を言っているんだ。
「結局答えは…」
そういって寺田は答えを解説し始めた。
まぁ、吉川の答えはある程度正解だった。
制限時間を引き延ばすっていうのはなかったが。
「…次は僕が出題してもいい?」
「もちろん!」
そういって吉川は寺田のスマホを受け取る。
流れ的に寺田と瀬野が応える感じか。
「第2問目」
吉川は問題を読み上げる。
「この部屋にあるものを1つ選んで、それを私に売ってください」
(解答例: 何か書くものを持っていますか?→持っていない→それではこのペンが必要ですね)
「あ、ごめん、コレ僕知ってるヤツだった」
自信がありそうな様子で寺田は呟く。
「じゃあ、楠本くんに売ってみて」
「え、俺に?」
「ほら、客観的に見えるからさ」
そういって吉川は回答を促す。
「じゃあやるよ」
そういって寺田は俺と向き合う。
「楠本くん、何か書くものは持ってる?」
「あるぞ」
そういって俺はペンを出す。
寺田は「え、持ってるの?」と零す。
学校にいるんだから書くものは持ってるに決まってるだろ。
「…一旦、そのペンを僕に渡して?」
「え、まぁいいけど」
すると寺田はペンをポケットの中に入れた。
「他に書くものは?」
「え、さっきのは…」
「他には?」
繰り返し質問する寺田。
「まぁないけど」
「じゃあ僕のペンを1,200円で買ってください」
そういって寺田は自分のペンを差し出す。
ちょっとリアルな価格出してぼったくろうとしていないか?
「悪いけど、その価格で買うことはできないな」
「えー、じゃあ無理かも」
そういって寺田はあきらめた。
ここまでやって諦めるってことあるの?
価格交渉しろよ。
「じゃあ次は俺な」
そういって瀬野の回答の番になる。
「まず必要なのは、相手の需要を把握することだろ?」
「確かにその通りだね」
寺田は呟く。
「だが、相手は自分が何を欲しているかは正確に理解していないことが多い」
「おぉ、なんかアメリカのCEOとかが言ってそう」
吉川は呟く。
「偶然、この部屋には秘宝が転がっていた!」
そういって瀬野は秘宝の説明を始めた。
1. 聖杯: イエスが最後の晩餐で使ったとされる
2. エルドラドの黄金: 南米のジャングルにあるとされる
3. 契約の箱: モーセが十戒の石板を入れたとされる
「この秘宝の中から好きに1つ選ぶといい」
「いや、教室に世界の秘宝は転がってないだろ」
なんで存在するかどうかも分からないような宝物が教室に集まっているんだ。
「’この部屋’って別にこの教室にあるとは言ってないと思うんだが」
瀬野は不満そうに言う。
人類みんな家族くらいのスケールの大きさだな。
「間をとって楠本くんの自由を楠本くん本人に売るとかでいいんじゃない?」
「どこの間を取ったんだよ」
というか、倫理観ゼロの回答ってしてもいいの?
「あ、いいの思いついたわ」
と瀬野は切り出す。
「あなたに会うことができてうれしいです」
「それは?」
「媚びを売った」
「俺は買わないぞ」
2人はお手上げということなので、吉川は解答を読み上げた。
「まぁ、半分以上合ってるから問題ないでしょ」
と寺田は応える。
まぁ、寺田の回答はほとんどあっているけど、覚えてたのを言っただけでは?
「最後は俺が質問しよう」
吉川から寺田のスマホを受け取る。
動画をスキップして、面白そうな問題を探した。
「お、コレとか良さそうだな」
そして俺は問題を読み上げる。
問: あなたは運が良い人ですか?
(無難な解答例: 否定も神秘化もしない)
「これって正解あるの?」
「多分ないな」
吉川に応える。
こういう明確な正解がない問題の方が相手の価値観とか分かりそうだし。
「じゃあコレを解答してみようかな」
「僕も」
寺田と吉川が解答するようだ。
「僕は運が悪いです」
「なぜ?」
とりあえずその理由を聞く。
「なぜなら…」
吉川は一呼吸置く。
「僕はラブコメ主人公なのに、女の子の着替えにばったり遭遇するっていうハプニングが起こらないから!」
「運が良いかどうかの判断基準ってそれでいいのか?」
普通のラブコメ主人公なら、夏頃に一回ないとおかしいでしょ、と説明する。
「だから僕は運が悪い方のラブコメ主人公です!」
「典型的なイベントに遭遇しないってことは、お前がラブコメ主人公じゃないっていうことを表していると思うんだが」
面白いこと言うね、楠本くん、と言って俺の肩をぽんぽんと叩く。
そんなに面白いか?
「じゃあ次僕ね!」
と言って寺田は解答をする。
俺は寺田の方に顔を向けた。
「あなたは運が良いです!」
「俺の運の話はしてねぇよ」
とりあえず「なぜ?」とその理由を聞いてみることにした。
「僕に会うことができて!」
「めちゃくちゃポジティブだな」
特に正解もないので、どう反応すればいいのか考える。
「僕も思いついた!」
俺の反応を待たずに吉川は続ける。
「あなたは運が良いです!」
「なぜ?」
「高額賞金を獲得したから。受け取りの為に個人情報の入力を…」
「当選詐欺じゃねぇか」
面接で詐欺するヤツとかいるのか?
でも、応募者は入社するために自分を偽ってるわけだから実質詐欺みたいなものか。
この問題には明確な正解がないけど、程よい距離感で解答すればいいらしい、という旨を簡単に説明した。
そんなので人の能力って測れないと思うけどな、と2人は不満そうだった。
むしろ、お前たち2人の回答は面接官に高く評価されるとでも?
昼休みを終えるチャイムが鳴る。
「結局さ、こういう面接ってその場で応えないといけないから、今練習しても何の得もないよね」
吉川は呟く。
「でも僕は昼休みに得たものが1つあるよ!」
やけに笑顔な寺田はそう応えた。
よく意味が分からないまま、俺たちは別々の掃除場所に向かった。
5時間目。
国語の授業。
俺はペンケースからシャープペンシルを取り出す。
…あれ?
ないんだけど。
不意に視線を前に向けると、寺田が俺のシャープペンシルを握っている。
そういえば寺田がポケットに入れてたな。
後で返してもらおうと思い、別のシャープペンシルを取り出した。
ていうか授業中寝るんだから、俺のシャープペンシルを持ってても使わないだろ。
本当に何がしたいんだ、寺田。




