第56話 ハロウィンの日は二次元と三次元の境界も弱まるんじゃないかな
「冷え性が実は妖精の仕業だったら面白いのにね」
「メルヘンな見た目で人を困らせる大罪人じゃん」
そもそも妖精って人なの?と吉川くん。
11月上旬の休み時間。
私と吉川くんは雑談をしていた。
次の時間は提出する宿題もないので気が楽。
もし課題があれば、吉川くんは「やばい、やばい」と言ってファイルから宿題を探し始める。
授業が始まる前から「宿題はちゃんとしたんですけど持ってくるのを忘れました」の演技しなくてもいいと思うけど、と思うが見ている分には面白いのでいつも黙っている。
「そういえば10月31日ってハロウィンだったよね」
次の授業の準備をしながら吉川くんは話をする。
休み時間に話すときは、顔を見ずに話すことが多い。
そんなに重要な話じゃないし。
「そもそも何のためにハロウィンってあるのかな」
「かなり歴史があるらしいよ」
吉川くんはスマホをこちらに向ける。
起源は約2000年前のケルト人の祭りサウィン祭という祭りにあるらしい。
「ケルト暦っていうのでは11月1日が新年で、その前日の10月31日は生者と死者の境界が弱まる日とされていたらしいよ」
他にも、人間と精霊の境界、夏と冬の境界が弱まると考えられていたとか、と付け加える。
「じゃあ吉川くんが冷え性なのが妖精のせいだとしたら、妖精は年中吉川くんにくっついているってこと?」
「境界が弱まった日に人間界に来て、気に入って棲みついたのかな」
それなら僕には守護霊がいると言っても過言ではないね、と口にした。
冷え性の原因になっているのであればむしろ悪霊側では?
「ハロウィンってコスプレするじゃん」
「テレビとかでよく見かけるね」
ハロウィンの時期になると、テレビだけではなくSNSとかでもコスプレの写真を投稿している人もいる。
一部の人は年中しているけど。
だから、と言って話を続ける。
「ハロウィンの日は二次元と三次元の境界も弱まるんじゃないかなって思ったんだよ」
人間はコスプレしているからこの世界に入ってきやすいし、と付け加える。
色んな境界が弱まるからと言って、そこの境界も弱まるの?
「でも二次元のキャラから来てくれるとは限らなくない?」
むしろこっちが二次元の世界に行ってみたいんだけど。
観光で二次元の世界のツアーとかあったら面白そう。
「なぜかハロウィンって人間は精霊が来るのを待つだけじゃん」
だから二次元のキャラがこっちに来てくれるのを待つしかないんだよね、と吉川くんは付け加える。
行き違いになるのを防ぐためなのかな、とぼんやり考えていると、「だから」と言って吉川くんは一呼吸置く。
「ハロウィンになったら、コスプレをして座して待つ必要があるわけ」
キャラの好きな食べ物とか用意すれば成功率アップ!と的中率10パーセントくらいの占い師みたいなアドバイスを吉川くんは真面目な顔で言った。
「それで、吉川くんは二次元のキャラに会ってどうしたいの?」
次の授業の教科書を眺めながら尋ねる。
今日は授業中に当てられそうな気がしているからだ。
ちゃんと先生の話は聞いておかないと。
「そのキャラには3次元にとどまってもらうかな」
ちらりと横をみると腕を組んで考えている。
そんなに真剣に考えるものなの?
私は教科書から目を話し、とりあえず聞く姿勢を取った。
「10月31日は境界が弱まるけど、11月1日になれば境界は再び閉じるってことでしょ?」
「そうらしいね」
よく知らないけど。
「つまり、二次元のキャラクターを10月31日の23時59分59秒まで三次元の世界に居させることができれば、少なくとも1年間はこの世界にいてくれるはず!」
そうなると問題はどうやって時間を忘れてくれるかにかかってくるわけだよ、と吉川くんは口にする。
……よくわからないけど、家にある時計は全部外した方が良いんじゃない?
「トリックオアトリートってあるじゃん」
「うん」
お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、ってヤツね、と私は呟く。
「こっちが2択のうち1つしか選ぶことができないんだったら、時間が短くなるよね?」
「う、うん?」
なんだか難しくなってきた。
「だから、僕はお菓子を上げたうえでイタズラもしてもらうことで時間を稼ぐ!」
「トリックアンドトリート?」
こっちに良いこと何もないじゃん。
「いつもより部屋を綺麗にしておくことで、イタズラするモチベーションを高めることも重要!」
「ワンポイントアドバイスみたいだね」
誰も真似しないと思うけど。
「そしてダメ押しはコレ!」
吉川くんはスマホを操作してこちらに画面を見せた。
「え、ナス?」
スマホの画面に映っていたのは、お盆であるらしいけど私は見たことのない、ナスに爪楊枝を刺して乗り物にするヤツ。
精霊馬というらしい。
キュウリは馬、ナスは牛に見立てているとか。
「もし時間に気づいて帰りそうになったとしても、こっちは牛しか手配してないから、二次元の世界に帰るのには時間がかかるはず!」
「移動手段も人間側が用意するんだ」
ていうかハロウィンって現地解散なの?
「二次元のキャラからしたら、吉川くんのこと嫌いになりそうだけど」
この世界に監禁してるようなものだしさ、と私は付け加える。
そうかもしれないけど、と一応肯定して吉川くんは続けた。
「ほらあるじゃん、最初は印象悪かったけど、ちょっと良いことしたら印象が急上昇する、ってやつ」
吉川くんが言っているのは多分、ゲインロス効果のことだろう。
不良が捨て猫を拾ったら、なぜかいい人に見えるってヤツ。
「最終的に良い印象になるから、次のハロウィンの頃には帰りたくなくなっているはず!」
そしてこの世界の住人に……
「いろんな法律破ってる気がするけど、相手が二次元のキャラだから多分裁かれない!」
「その思考は完全に犯罪者だけどね」
アウトロー吉川じゃん、と私は呟く。
ちょうどそのとき、授業の開始を知らせるチャイムが響いたので話を切り上げた。
昼休み。
秋谷さんが教室に来た。
「秋谷さんって、実はハロウィンでこの世界に閉じ込められたラブコメヒロインだったりしないよね?」
「どういうこと?」




