第55話 六次の隔たりって知ってる?
「深山さんって姉妹いるの?」
「妹がいるよ」
「中学生?」
「うん」
今年入学したんだ、と付け加える。
図書室。
明空さんと雑談をしている。
「明空さんは姉妹いないの?」
「私は一人っ子」
妹いるとか結構羨ましいかも、と明空さんは呟く。
そんなにいいことないけど、傍から見ればそう見えるのかもね。
「もし妹がいたらどうするの?」
羨ましいってことはしたいこととかあるの? と興味本位で尋ねる。
「一緒に本を読んで感想を言い合いたいかな」
「それ、妹じゃなくてもできそうだけど」
いつも私が読む本、周りの人は読んでないから、と言って肩を竦める。
私のことは別にいいんだけど、と言って明空さんは続ける。
「少女漫画を吉川くんが読んで感想とか言い合ってるって聞いたけど」
「そうだね」
「吉川くんはなんて?」
「ヒーローにも主人公にも共感できないって」
「あはは、率直な意見だ」
でもそういうのも楽しそうだね、と言って笑う。
吉川くんに王道と呼ばれる少女漫画を2冊貸している。
「この描写って本当にいるの?」みたいな話をされることもある。
それは少女漫画家さんに聞いて欲しい。
でも、少女漫画のおかげで話すことが増えて休み時間に手持無沙汰になることがなくなったのはいいことだ。
夜野さん、いつも休み時間寝てるし。
「そういえば吉川くんにも弟居るんじゃなかったっけ?」
明空さんがおもむろに呟く。
「そんな話、吉川くんが前にしてたような気がするけど、ちゃんとは覚えてないかも」
「多分、深山さんの妹と同い年だったような気がするんだよね」
「よく覚えてるね」
私、記憶力には自信あるんだ、と明空さんは笑みを浮かべる。
秋谷さんもそうだけど、明空さんも変わった人だ。
びっくりするくらい可愛いのに、顔の良さを最大限に生かそうとしない。
あと、明空さんは自分の話をほとんどしない。
してもすぐに話を変える。
「深山さんは六次の隔たりって知ってる?」
「知らないかも」
世界中の任意の2人は、平均して6人の知人関係でつながる、という理論らしい。
分かりやすく言えば、友達の友達をたどっていけば誰にでも到達できる、という考え。
初めて聞いた。
例えば、と言って明空さんはプリントの裏に何か書き込む。
「ここにに深山さんの妹がいるとする」
明空さんは小さな円を描く。
そういえば妹さんの名前はなに?と尋ねられる。
「はるか」だよと応えた。
「そして、はるかちゃんから少し離れた場所に吉川くんの弟がいるとする」
少し離れた場所に同じような円を描く。
「六次の隔たりっていうのは、この2人が6人以内の知り合いを経由してつながることができるってことだよ」
「じゃあ、私と吉川くんが間に入れば繋がれるってことだね」
明空さんは二つの円を紙に書き込んだ。
「だから、はるかちゃんと吉川くんの弟は2人経由してつながるってことか」
「そうそう」
明空さんは嬉しそうに頷いた。
似たようなもので、と言って明空さんはさらに話を続けた。
「Getting to Philosophyっていうのもあるね」
哲学に到達するって意味だよ、と付け加える。
簡単に言えばWikipediaで最初のリンクをクリックし続ければ、90%以上は哲学の記事に行きつく、というアイディアらしい。
知識も人間も複雑なネットワークでつながっているから、意外と少ないステップで端から端まで辿れるんだよ、と明空さんはテンション高めに結論付けた。
明空さんって自分の話はあんまりしないけど、こういう話になると饒舌になる。
そういう本を読んでいるからなのかもしれない。
「あ、時間になったし帰ろっか」
明空さんは時間を確認するとすぐに準備を始めた。
そして図書館から出た。
雑談をして途中まで一緒に帰った。
「六次の隔たりって知ってる?」
「何それ」
家に帰ってから明空さんが教えてくれた話を妹にもしてみた。
夜ごはんを食べるときに学校の話をすることがある。
私は明空さんの話を簡単に説明した。
「へぇー、意外と面白いね」
まずまずの反応を見せる妹。
「でね、私は思ったんだよ」
「うん」
「私の知人を6人経由すれば、少女漫画のヒーローに辿り着くんじゃないかって!」
「次元の壁も超えちゃってるけど、そういうのってできるのかな?」
人間のネットワークは偉大だから多分できる、と私は口にした。
「そういえば、最近どうなの?」
「どうって?」
「ほら、花火大会でなんかいいことあったって言ってたじゃん」
その人と最近はどうなのかなって、と私は付け加える。
「まあまあかな」
妹はテレビに顔を向けながら小さく応えた。
「あれ、そういえばお姉ちゃんもなんかなかったっけ?」
花火大会のとき、と聞き返された。
「私もまあまあかな」
そういって食事を終えた。
翌朝の中学校。
「六次の隔たりって知ってる?」
隣の席の吉川くんに、お姉ちゃんが言っていた話を説明した。
六次の隔たり: 全ての人や物事は6ステップ以内で繋がっていて、友達の友達…を介して世界中の人々と間接的な知り合いになることができる、という仮説。(参照: Wikipedia)
深山妹と吉川弟が繋がるために経由すべき知人の数: 0人




