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第53話 何そのロマンティックなパブロフの犬

「少女漫画のヒーローってさ、実はめちゃくちゃ少女漫画好きって可能性ない?」

「イケメンたちが黙々と少女漫画を読んでたらシュールだね」



今は休み時間。



私と吉川くんは少女漫画について話をしていた。


文化祭の日に本を渡してから数日、ちゃんと最後まで読んだ上で本を返してもらった。


読み終わったら図書室に返しに行かないと。


「乙女心を把握しすぎて怖いな、って思ったんだけど」


その少女漫画をぱらぱらめくりながら話を聞く。


吉川くんは次の時間の準備をしている。


「逆に全く乙女心が分からない男の子がヒーローになるっておかしくない?」


確かにそうだけど、と言って吉川くんは続ける。


「例えばほら、このヒーローって主人公と同い年の16歳じゃん」


少女漫画の表紙を指さす。

そこまで読んでいないけど、同い年ということは最初の人物紹介で書かれていた。


らしいね、と頷く。


「完璧なセリフを言うことができるのって、少女漫画の熱狂的なファンくらいしか無理だと思うんだよね」


あれは相当読み込んできているよ、と吉川くんは付け加える。


「主人公と同い年には荷が重い、と?」

「少なくとも、主人公のことをリードするのは難しいんじゃないかな」


年齢を偽っていれば話は別だけど、と呟く。


「別に全員が完璧ってわけじゃないけどね」


不器用な優しさが好き、っていうのも王道だし。


「僕がヒーローになるのは結構厳しいかな、って思うんだけど」

「別に私、吉川くんにヒーローになれ、なんて言ってないけど?」

「そうだったっけ?」

「ヒーローを目指してって言ったんだよ」

「それ、ヒーローになれって言ってるようなものでは?」


困ったなぁ、と言って頭に手を当てる。


「まずは外見と内面のどっちから目指すつもり?」

「わかりやすい二択だね」


そうなると第三の選択肢を探したくなるけど、と言って吉川くん。


ひねくれすぎじゃない?


「ぱっと見でヒーローっぽくなるんだったら外見だよね」

「うん」


私は頷く。


「そうなったら、動画投稿サイトで『高校生 かっこよくなる方法 男子』で調べるわけだよ」

「めちゃくちゃ俗っぽいね」


そんなものだけど、そう言うのって他の人に言うヤツじゃないのでは?


「ヘアセットとかの美容系の話を聞きながら気づいたんだよね」

「というと?」

「絶対的な正解はないって」

「まぁそうでしょうね」


化粧品とかも肌質で合う合わないがあるし。


「つまり、僕のいつもしているやり方も正解なはず!」

「何もしたくないだけでは?」

「…いや、別にそんなことはないよ?」


吉川くんは間を開けて応える。


図星かな。


「こういうのは、まずは同じのを試してみて、違ったら別のを試してみるって感じで自分に合ったのを探すのが必要だよ」


メイクの話って休み時間に男の子に話すことじゃないかも、と思いながらアドバイスをする。


「じゃあ内面は?」


話を変えたそうな吉川くんを特に追及せず、どうすればヒーローっぽくなれるか考えた。


「まずは少女漫画を読んで相手を理解することかな」

「そうだよね」


あのヒーローたちも主人公のためにシチュエーションとセリフを暗記したのかな、と吉川くんは言って遠くを見つめる。


セリフって使いまわしなの?


「そもそもセリフを暗記してるだけだったら、主人公のこと全然理解できてないじゃん」

「でもよく考えてみてよ」


と言って吉川くんは説明を始めた。


「まずヒーローは自分が少女漫画で言えばどういうシチュエーションにいるか判断するよね」

「そこまでメタに考えてるヒーロー好きになれなさそうだけど、まぁ、うん」

「次にその場で最も主人公を恋に落とせそうなセリフは何か考える」

「一歩間違えたらロマンス詐欺だね」


渡航費用とか要求してきそうで怖いんだけど。


「最終的にヒロインはヒーローのことが好きになるはず!」


それを何回も繰り返せば、同じシチュエーションに主人公が立っただけでヒーローは何もせずとも好きになる、だから主人公のことを理解することは不要、と言い切った。


「何そのロマンティックなパブロフの犬」


じゃあ少女漫画にヒーローいらないじゃん。



次の授業の予鈴が鳴る。



「とりあえず、容姿のところは動画を見ながら頑張ればいいんじゃない?」


マッサージとか簡単にできるヤツも多いしさ、と私は付け加える。


「それくらいならできるね」

「それで内面はとりあえず少女漫画を私が貸すから、感想を教えてもらおうかな」


面白かったんでしょ?と尋ねる。


「面白かったけど、主人公にもヒーローにも共感できなかったんだよね。一番共感できたのはヒーローの知り合いの知り合いだった安田くん」

「友達の友達以上に疎遠だね」


そんなキャラ、作品通して1コマくらいしか出てこないのでは?


「『ここは僕に任せ、うっ…』って言ってた」

「安田くん、言い切る前に力尽きた?」


吉川くんに貸した少女漫画、日常系だったはずなんだけど。


「とりあえず、深山さんから貸してもらう少女漫画はちゃんと読もうかな」


面白いんだったら、と言って吉川くんはこちらを見る。


「じゃあ明日は1冊持ってくるよ」

「深山さんのセンスに期待だね」

「大丈夫、夜野さんに『数学得意なら計算できる女じゃん』って言われたことあるから」

「多分それ悪い意味だよ」


センスを裏付ける二つ名じゃないと思う、と吉川くん。


何か言おうかと思ったけど、授業の開始を知らせるチャイムが鳴ったので話を終えた。

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