第48話 吉川になるってある意味罰ゲームみたいなものだろ?
「文化祭で最も効率的な方法を見つけたんだけど」
「3秒以内に教えてくれ」
珍しく食いつきがいい楠本くんに驚いた。
3.
2.
1.
「……3秒経ったか、じゃあこの話はなかったってことで」
「手のひら返すの早すぎない?」
ちょっと待って、と楠本くんを引き留める。
昼休み。
次第に近づいている文化祭について4人で話をしていた。
「それで?」
瀬野くんが話を促す。
「他のクラスの出店費用をすべて賄って、売上は全部僕たちがもらえるようにすればいいんだよ!」
「文化祭っていうクラス内で交流を深める機会に買収みたいなことを?」
その考えが出てくること自体驚きだわ、と楠本くんは応えた。
「でも、もし一人当たり1万円持ち寄れば3クラスくらいはコントロールできそうだよねー」
食事を続けながら寺田くんが呟いた。
「しかも、学校中の出店の費用を出せば、クラスごとに違う商品を提供できてお客さんの満足度も上がるはず!」
「商品を提供する側の満足度は下がりそうだけど」
勝手に商品決められるし、と楠本くん。
「出店で赤字になるリスクを下げることができますよ、っていえば受け入れてくれそうだけどね」
「そうなったら買収しようとしているクラスの出店費用を出して逆に買収するな」
ごちゃごちゃしてきた。
「でも1-Cってたこ焼き出すからもうどうしようもなくね?」
瀬野くんは話を聞いてから呟いた。
まぁ、そうなんだけど。
結局、僕たち1-Cはたこ焼きを販売することになった。
理由は冷凍を温めてソースをかければいいから。
僕も賛成だった。
残された作業は、デザインと材料の調達くらい。
やる気のある生徒が代わりにやってくれて、残された生徒たちは当日に調理をするだけ。
僕も賛成だった。
文化祭と言えば色んな事が起こりそうだけど、当日参加するくらいなら普通に終わりそうだよね。
「ワードウルフって知ってる?」
しばらくしてから、みんなに尋ねた。
「知らないけど、ワードは単語でウルフは狼ってことだよな?」
「うん」
「それなら……」
そう言って少し考える楠本くん。
答えるのを待つ。
「……そういえばあの漫画の最新話読んだ?」
「読んだ読んだ」
寺田くんが頷く。
「ちょっと、僕の話流そうとしてない?」
「え、今漫画の話してるんだけど……」
「なんでそんな被害者みたいなこといえるの?」
で、なんだっけ、と楠本くんは話を元に戻す。
「ワードウルフは、言葉を使った人狼ゲームなんだよね」
「俺も聞いたことあるな」
瀬野くんが応える。
知ってたんだったら、早く反応して欲しかったけど。
「それで?」
「簡単にできるから、ちょっとやってみたいなって思って」
まぁ簡単にできるなら、と楠本くんも乗り気になった。
「配られたお題について話すんだけど、一人だけ違うお題の人がいるから、多数派も少数派も空気を読みながら情報を出すってゲームだよ」
ワードウルフができるサイトを開きながら説明する。
「じゃあいきなりお題を言ったらだめって感じ?」
「もちろん」
寺田くんに応える。
それだと、ただの雑談になるし。
「一人だけ話題に入れなくって歯がゆい思いをするゲームじゃないの?」
「やってて楽しい?」
「何について話しているか分からないけど、一応知った感じを出してながら会話に参加することってあるじゃん」
友だちが全然知らない漫画の話をしてるけど、一応読んだ雰囲気だけ出して相槌だけ打つヤツ、とやけに解像度の高い説明をされる。
さっき「漫画の最新話読んだ?」って聞かれたときに寺田くん、「読んだ読んだ」って言ってた。
……本当に最新話読んだの?
それは気にせず、さっそくワードウルフを始める。
スマホを回しお題を確認してもらった。
僕のお題は「サッカー」
おそらく、他の人たちはスポーツ関連のお題が配られているはず。
「スポーツ、だよね?」
僕は3人の顔を確認しながら尋ねる。
「まぁ、そうだな」
楠本くん含め3人は頷いた。
「このスポーツ好き?」
寺田くんが聞いてきた。
客観的な事実よりも主観的なことを聞いたほうが話やすいし、少数派の人はぼろが出る可能性が高い。
このゲームについてよく知らなそうな寺田くんだったが、いい感じの質問をしている。
「まぁ嫌いかな」
と僕。
「俺はまぁまぁ好きだけど」
楠本くんは応える。
「かっこいいよな」
瀬野くんは少し情報を付け足したうえで応える。
「寺田くんはこのスポーツ好き?」
もし僕と同じお題だったら、好きと応えるはず。
「うーん、あまり好きじゃないかな」
え、嫌いなの?
寺田くんとは違うお題かな。
「これまでこのスポーツをプレイしたことは?」
楠本くんが尋ねる。
ある程度お題にあたりを付けながら考える。
おそらくサッカーと野球だろう。
「体育の時間にあるよ」
僕は応える。
寺田くんと楠本くんは確かに、と頷いた。
「体育の時間で、実質的に」
と怪しい解答をする瀬野くん。
『実質的に』ってどういうこと?
ぱっと見は違うってことだよね。
サッカーと陸上とか?
でも体力テストとかで普通に走るし……
「このスポーツってさ、球技?」
寺田くんが核心に迫る質問を瀬野くんにする。
ここで意見が割れれば、誰が少数派かはっきりするはず。
まだそこまで情報が出ていないから、相手のお題を予測することは難しい。
「球技だな」
瀬野くんは自然な様子で応える。
二分の一で当てた感じじゃなさそう。
まだ誰が少数派か分からない。
「瀬野くん、僕に質問してみてよ」
まだ質問をしていなかった瀬野くんに言ってみた。
僕が少数派の確率は25パーセント。
質問の内容次第だけど、自分の仲間を見つけることができるはず。
じゃあ、と言って瀬野くんは少し考え始めた。
「これって身体のどの部位を一番使うイメージ?」
かなり踏み込んできた。
野球とかだったら腕、とかになりそう。
まぁ球技だから、大体身体のどの部位も使うんだけど。
「……脚、かな」
他の人の様子を見つつ僕は応える。
あれ、みんな頷いてる。
全員同じお題が配られてて、普通に雑談してるわけじゃないよね?
そこでタイムアップ。
投票の時間になる。
「この人が少数派だろうと思う人に指を指してね」
せーの、と言って一斉に指を指す。
僕は分からなかったので、瀬野くんに指を指す。
「え?」
3人は僕に指を指していた。
この少ない情報の中で意見が一致することある?
「まぁ、簡単だったしな」
楠本くんの言葉に他の2人も頷いた。
本当かな、と思いながらサイトで多数決に自分が選ばれた、というボタンを押す。
結果が出た。
少数派の勝利!
少数派: 瀬野くん
「負けてるじゃん!」
「全然分からなかったな」
「情報少なかったよねー」
もうちょっとお前が多数派っぽいムーブしてくれればなぁ、と楠本くんが文句を言い始める。
手のひら返すの早すぎない?
「瀬野くんのお題は何だったの?」
2人の言葉は聞き流しつつ、瀬野くんに尋ねる。
「俺のお題は『セパタクロー』」
セパタクローは足でプレイするバレーボールみたいなスポーツ。
体育でバレーをする時間に足でボールを触れたから『実質的に』という答え方になったらしい。
「そういえば、なんで僕が少数派だと思ったの?」
それは、なぁ?と3人は目を見合わせる。
「お前がサッカーのこと『まぁ嫌い』って言っただろ?」
「うん」
「サッカーだったら、「死ぬほど嫌い」っていうものかと……」
と寺田くん。
だから僕のお題はサッカーじゃないと思ったらしい。
周りから見た僕がサッカーに抱いてる印象悪すぎない?
「でも、寺田くんも『あまり好きじゃない』って言ってたじゃん」
サッカー部なのにおかしいって思わないの? と付け加える。
「僕はサッカーをしてる自分が好きなだけで、サッカー自体は別に好きじゃないし」
当然のように寺田くんは応えた。
そんな答え方アリなの?
絶対お題が悪いよな、と楠本くんと寺田くんは不満を言いつつ、僕の答え方が良くなかったと指摘する。
「……それなら、僕が出題者側になろうかな」
昼休みが終わるまでに時間があったので、もう少し続けることにした。
ワードウルフしたいって言った本人がゲームマスターになっちゃってるけど。
まぁ自分で話せるお題が決めれるのはありがたい。
どうせだったらちょっと捻ったお題にしようかな、と思いノートの端を切り取ってお題を書いて3人に手渡す。
設定したお題は、『ラブコメ主人公』と『吉川』。
お題が書かれた紙を適当に混ぜてから渡したので、誰がどのお題を持っているか僕も分からなかった。
ゲームスタート。
「コイツ、こういうお題にすると思ったんだよ」
楠本くんは言いながら他の2人の出方を見る。
「じゃあさっきと同じで、これ好き?」
寺田くんが切り出した。
「そこまで良い印象ないんだよなぁ」
楠本くんがすぐに応えて瀬野くんに 話を振る。
「詳しくは知らないって感じだな」
「僕はあまり好きじゃない」
3人とも否定的な意見。
「これって人?」
寺田くんが前提を確認する。
「まぁ捉え方によっては人、だな……」
楠本くんは応える。
どう捉えても人でしょ。
「なりたいかっていえば?」
瀬野くんが踏み込んだ質問をする。
「なりたくは……」
「そこで止めても『ない』しか出てこないでしょ」
寺田くんに思わず言ってしまった。
「俺は絶対なりたくないかな」
楠本くんは断言する。
「お金渡されても?」
「10億円くらい渡されたら考えようかな」
ラブコメ主人公だったら、僕は10億円渡してでもなりたいけど。
今のところ、誰が少数派か分からない。
「……もっと踏み込んだ質問をしたほうがいいかもよ」
できればポジティブな質問で、と僕は付け加えた。
「じゃあ、コレのいいところは?」
瀬野くんが尋ねる。
もう人だって分かっているんだから「この人」って言って欲しい。
「無個性なところかな」
「あ、僕もそれ思った」
「え、俺も同じ意見なんだけど」
3人の意見が完全に一致した。
「タイムアップで……」
耐えきれず、残り時間を強制的に終わらせた。
「お前がしてるのはギブアップだろ」
と楠本くん。
聞いている僕が耐えられなかった。
「じゃあ少数派だと思う人に指を指して」
ひとり一票ずつ入った。
結果は引き分け。
「じゃあ誰が少数派だったの?」
「これって知る必要ある?」
「当たり前だろ」
何のためにゲームやってたんだ、と当然のように応える楠本くん。
僕はあまり良い印象を持たれていない人物を知りたくないんだけど。
「……じゃあ、お題の紙を開いて?」
寺田くん: ラブコメ主人公
瀬野くん: ラブコメ主人公
楠本くん: 吉川
「俺が少数派だったかー」
気づかなかったな、と軽い調子で楠本くんは呟いた。
「ちょっと楠本くんの回答を振り返ってみようかな」
「もちろんいいぞ」
なぜか自信ありげに楠本くんは応える。
Q1. これが好き?
A. そこまで良い印象がない。
「ほら、ちゃんと吉川のことだろ?」
「びっくりするくらい正直だね」
悪い印象がある、と言われるよりはマシだけど。
Q2. これって人?
A. まぁ捉え方によっては……
「人かどうかって言われるとちょっと怪しいところあるよなー吉川って」
「完全に人だからね?」
Q3. なりたい?
A. なりたくない。10億円もらえれば考える。
「吉川になるってある意味罰ゲームみたいなものだろ?」
「僕、前世で重い業を背負ってたわけじゃないよ?」
「まぁ、俺の意見だからあんま気にすんなって!」
「楠本くんが言ってるから困るんだけど……」
Q4. いいところは?
A. 無個性。
「ほら、なんにでもなれるって意味での無個性として捉えてくれよ」
「それ今考えてない?」
「そうだけど」
「じゃあさっきはどういう気持ちで答えたの?」
「『こいつに良いところなんてあるワケねぇだろ。でもそう言うとバレるから無個性くらいで濁すか……』って感じだな」
「知らなくていいことまで知っちゃったじゃん」
聞かない方がよかったかも。
「いやーでもお前って本当にラブコメ主人公なんだな」
全然分からなかったぞ、と楠本くんは肩を叩く。
「ラブコメ主人公が良い印象を持たれてなかったことも明らかになったけどね」
そっちもショックだった。
「結構楽しかったから、また今度やろうよ!」
「意外と面白かったしな」
瀬野くんも頷く。
「ワードウルフ、禁止です!」
5時間目が始まる少し前。
「僕っていいところないかな?」
「どうしたの?」
なんかテンション低いじゃん、と深山さん。
さっきの話をかいつまんで説明した。
「へぇーそれでどんな質問をしたの?」
教科書を机上に置きながら深山さんは尋ねた。
Q1. これが好き?
「……単刀直入だね」
深山さんは僕の目を見たのち、少し上を眺めて考える。
「……まぁ次の質問に行こうか」
次の質問を言うように催促された。
Q2. これって人?
「まぁ人なんじゃない?」
「なんで疑問形?」
「本当に人かどうかはちゃんと確認するまで分からないって言うじゃん」
「じゃあどうすれば人って確認できる?」
「もし、確認できるやり方を教えたら、それしてくれるの?」
「できることだったら」
「へぇー……」
そして、少し沈黙が生じた。
「で、次の質問は?」
僕の目を見ずに言う。
Q3. なりたい?
「これは難しい質問だね」
「単純に二択だよ?」
「じゃあ吉川くんは私になりたい?」
「……難しい質問だ」
次の質問に進もう。
Q4. いいところは?
「これの話をしてたのね」
深山さんは納得したようだ。
いいところねぇ、と言って深山さんは腕を組んで考える。
「あ、もう5時間目始まるじゃん」
授業中考えとくから後で教えるね、と言って話は途切れた。
6時間目の休み時間。
僕のいいところ考えた? と聞くのは恥ずかしいから、向こうが言い出すのを待つ。
何も言ってこなかった。
放課後。
あの話流されたのかな、と思いながら帰りの準備をする。
肩をとんとんと叩かれた。
「今、渡り廊下来れる?」
僕は頷く。
深山さんについて行く。
そこは人通りが少ない上に周りから死角になる場所だった。
クラスマッチの日にクッキーを貰った場所でもある。
「5時間目前に言ってたじゃん」
『いいところは?』って、と深山さん。
「ちゃんと覚えてたんだ」
「吉川くんが聞いてくれるの待ってたんだけど」
「僕は深山さんが言うのを待ってた」
自分から聞くのは恥ずかしかったし。
そっか、と言って深山さんは続ける。
「じゃあこれからはちゃんと吉川くんから言ってね?」
それで、と僕は話を促す。
「一回手出してみてよ」
「手?」
深山さんに左手を差し出す。
僕の手のひらを、深山さんは両手で包み込んだ。
「ほら、私よりも手が冷たい!」
「僕、冷え性なんだよね」
「どうりで」
どうりで、っていうリアクション合ってる?
「これって僕のいいところ?」
「私って体温が高いんだよね」
そう言いながら深山さんはすぐに手を放す。
確かに、深山さんの手は温かかった。
「これで吉川くんが人間かどうかも分かったね」
「手が冷たいのに?」
「めちゃくちゃ冷たいわけじゃなかったから!」
「まぁ確かに……」
吉川くんと私を足して2で割れば丁度いいね! と深山さんは言って教室に戻る。
……結局、僕のいいところって手が冷たいってことだけ?




