第42話 学校のテストにも独占禁止法が必要ということだね
「こういうのってことわざでなんていうんだっけ?」
「僕の成績のこと?」
寺田が頷く。
「秋の日はつるべ落とし?」
「絶対違うな」
点数がいきなり下がった、という意味で使うことわざではない。
昼休み時間。
4時間目に返却されたテストの話をしながら昼食をとっていた。
ここにいるのは俺、吉川、寺田の3人。
吉川は得意の数学で平均点を下回ったことに納得がいってないようだ。
「点数が低いのは単に苦手分野だったからとかじゃないのか?」
「そうかもしれないけど、なんかおかしい気がするんだよね……」
そういって首を捻る。
「数学の授業中に寝てるんじゃないの?」
だからいい点数とれないんだよ、と自分のことを棚に上げる寺田。
ちなみに寺田は今回のテストの点数がいつもより良かったので喜んでいた。
これまでと比べれば、の話で俺たちの点数よりもかなり低いんだが。
吉川は真面目な表情で話し始めた。
「もしかしてテストの点数、仲介業者に中抜きされてない?」
「テストの話だよな?」
仲介業者が入る余地なんてないだろ。
「このテストって、先生が作って生徒が受けるって感じじゃん」
「どのテストもほとんどそうだな」
学校のテストは特に。
「テストの採点を仲介業者がやってて、その見返りにテストの点数を欲しがっていたら、先生たちは生徒の点数を少しずつ減らしているということになるのでは?」
「全員から同じ点数を差し引けば、順位は変わらないから問題ないだろ」
そもそも、仲介業者がどうしてテストの点数を欲しがるんだ。
「じゃあもし1点でよかったのに、何かの手違いで10点徴収された、みたいなことがあればこの謎は解決できるということに……」
ここにきてヒューマンエラー?
「他にもさ、もし仲介業者と生徒が組んでいたら、成績優秀者は一般生徒の点数を徴収して成績を維持しているということになるんじゃないの?」
なんかごちゃごちゃしてきたな。
「なるほど、学校のテストにも独占禁止法が必要ということだね、吉川くん!」
おそらく何も考えていないであろう寺田が乗っかった。
学校のテストにそんな複雑な市場環境はないと思うが。
「どうにかして、この気持ちを抑えることはできればいいんだけど」
しばらくしてから吉川が呟く。
点数が低かったことが本当にショックだったようだ。
その気持ちは勉強に向けるべきでは?
「僕の点数は平均より2点少なかった」
「それは事実だな」
俺は応える。
机を指でコンコンと叩きながら、吉川は何か考えていた。
「……そういえば、ゴルフは打数が少ない方がいいって聞いたことあるぞ」
なんか変なことを言い出しそう。
「2打数少ない状態でカップインできたと捉えれば、僕ってイーグルじゃん!」
「点数の意味を変えるのか?」
平均点より2点高い楠本くんはダブルボギーだね、と言って優しく肩を叩かれた。
点数が低いヤツにマウントとられたのは初めてだわ。
「じゃあ僕は?」
「寺田くんは平均点より20点低いから……」
吉川はスマホで検索し始めた。
「普通のゴルフって1ホール、パー3から6らしいから、打数マイナス20っていうのは……」
まぁ現実的にあり得ないな。
そもそも、点数って打数じゃねぇし。
「別次元の天才ゴルファーということに!」
そんなポジティブに解釈するの?
「まさか僕にゴルフの才能があったなんて……」
学校のテストでゴルフの才能は明らかにならねぇよ。
「お前、さっき点数が低いほうが良い、みたいなこと言ってたじゃん」
「うん」
「それならお前、これから低い点数を取るの?」
寺田が席を立った後に尋ねる。
「いや?」
否定する吉川。
じゃあさっきの何だったんだ。
自分を納得させる言い訳だよ、と吉川は呟いた。
「自分が言い訳だと理解していて納得できるものなの?」
「まぁ、こうやって言い訳しないといけないくらい悔しい思いをしたってことが重要なんだって」
それは正しいかもしれない。
「ほら言うじゃん、『臥薪嘗胆』って」
吉川は有名な故事成語を挙げる。
「聞いたことあるけどそれってどういう意味なんだ?」
「目的を果たすために苦労に耐え、機会を待つことだよ」
そういって説明を始めた。
呉王の闔閭が越に侵攻したが破れ、そこで負った傷がもとで亡くなる。後継者の夫差は3年以内に必ず仇を取るため、薪の上に臥す痛みでその屈辱を忘れないようにした。
結果として、越に攻め込み、越王の勾践の軍を破る。降伏した勾践は苦労を重ねたが、肝を嘗めることで屈辱を思い出した。 (参考: Wikipedia)
「この故事成語の『夫差が薪の上に臥す』ところを参考に、僕もテスト用紙をマットレスの下において自分が受けた屈辱を忘れないようにしよう!」
「テスト用紙がしなしなになるだけだと思うぞ」
親に見られないように隠そうとしてないか?
「ちゃんとマットレスを買い替えるころに受けた屈辱を思い出すって!」
それまでは忘れてもいいらしい。
ベッドで安眠してるだけのヤツが次のテストでいい点数をとれるとは思えないけど。
昼休みが終わるチャイムが鳴ったので、俺たちの話は終わった。
放課後、グラウンドにて。
「寺田、お前さっきからどうしたんだ?」
練習に身が入ってないぞ、と仲の良い先輩に話しかけられた。
「僕、もしかしてサッカーをしてる場合じゃないかもしれないと思って……」
「まぁ勉強も重要だからな」
お前が授業中に寝てるって話はサッカー部で有名だぞ、と苦笑する。
「僕、もしかしたら天才ゴルファーかもしれなくって……」
「え、ゴルフ?」
「プロゴルファーになった僕が4大メジャーでスーパーショットを決めて、ギャラリーを夢見心地に、」
「夢見てるのはお前だろ」
せめてサッカーしろよ、と言ってその先輩は離れていった。
プロゴルファーとしての将来を確信しながら、僕はサッカーの練習に取り組んだ。




