第33話 まず、突然チンピライングリッシュスピーカーに絡まれたとする
「マジで意味が分からないんだけど」
「なんだ」
吉川に尋ねる。
「学期末なのになんで学期末テストやるわけ?」
「学期末だからだな」
それならいつ期末試験をするんだ。
昼休み。
俺たちは珍しく食堂で昼食を取っていた。
なんでも「食堂のうどんがありえないくらいおいしい」という話を寺田が友人から聞いたらしい。
そのうどんを食べているが正直、普通のうどんと味は大して変わらない。
寺田はガセネタ掴まされたんじゃないか?
「一学期末とかさ、普通夏休みに向けて色んな計画を立ててるところだって!」
テストが入ってくる隙間なんてないよ、と吉川。
「吉川くんは夏休みの計画をしっかり立ててる?」
「まぁ、最終日までに宿題を片付ければいいかな、っていうくらいは…」
「試験が入る隙間大ありじゃねぇか」
さっきから何を言ってるんだ。
「勉強したくないから期末試験なんてやってる場合じゃないってことだろ?」
瀬野が尋ねる。
「そりゃそうでしょ!勉強するために学校来てるわけじゃないんだよこっちは!」
「それもそれでどうかと思うけどな」
ちなみに、隣の寺田は食堂の七味唐辛子をあり得ないくらい自分の容器に入れている。
一瓶丸ごと使う気じゃねぇよな。
「勉強の最中に「今勉強してるわ」って思いながらやるからきつくなるんだよ」
「あー勉強のときは何も考えてないかも」
勉強するマシンになってるね、と吉川。
他の人がどうしてるのか知らねぇけど、と瀬野が続ける。
「勉強してるときにできるだけ内容を自分事に置き換えてやると楽しいぞ」
「自分事にねぇ…」
「瀬野はどういう感じで勉強してるんだ?」
この四人の中で飛びぬけて成績の良い瀬野の勉強方法について聞いてみることにした。
ちなみに、隣の寺田の容器はすでに七味唐辛子で一面真っ赤。
おそらくコイツは何も考えないで瓶を振っている。
思考停止のマシン吉川と同じだな。
こいつこそ瀬野の話を聞いたほうがいいと思う。
「例えば数学だったらどういう感じで勉強してる?」
「何も考えてないね」
僕は、と吉川。
「俺はまだ数学は好きな方だから、ちょっと楽しいって思いながら解いてるかな」
「流石に楠本くんがインテリキャラは難しいと思うよ」
まずは眼鏡を付けるところからだね、と吉川は口にした。
それは聞き流しつつ、瀬野の話に耳を傾ける。
「数学で一番楽しいのは解答を出すことだけどさ、ガチの数学だったらそもそも解答がない問題とか解かなきゃいけないらしいんだよ」
「そうなんだ」
「だから、『あー俺、作問者の掌の上で踊ってるわ』って思いながら問題解いてると結構楽しいぞ」
「話を聞いてる感じ、全然楽しくなさそうだぞ」
誰かに操られてると思いながら問題解きたくねぇよ。
「まぁ解答出してるときが一番楽しいんだったら、普通に問題解けばいいんじゃないか?」
「瀬野の話を聞いてからだと数学が嫌いになりそうなんだけど」
「実際、自分で作問して問題を解けば楽しいぞ」
「そっちから聞きたかったわ」
情報の出す順番間違えてるだろ。
で、次は歴史なんだけど、と言って瀬野は続ける。
「歴史って覚えないといけないことが多いだろ?」
「そうだよね、今だったら検索すれば出てくるんだから覚える必要ないじゃん、って思うし」
吉川は応える。
「だよな、それなら検索することができない状況を想像すればいいんだよ」
我が意を得たり、という様子の瀬野。
こっちの気持ちが伝わっているとはまるで思えない。
「まずタイムスリップしたとする」
「前提からぶっ飛んでるな」
「例えば数百年前だったら、ネットで検索もできないだろ?」
「それはそうだね」
その時代にはWi-fi飛んでないし、と吉川。
「そうなったら誰でも、せっかくタイムスリップしたんだし時代に自分の名を残したいって考えるはず」
「普通はどうやって現代に戻るか考えそうだけど」
その状況で功名心の優先順位が一番になることあるか?
歴史に自分の名を残す最も簡単な方法は、と言って瀬野は一呼吸置いた。
「歴史の知識を使って重要っぽい出来事を予測する預言者になればいいんだ」
神からのご神託です、って言いながら2、3回予言を的中させれば注目の的だろ、と付け加える。
そのあとは預言者を育成するための塾を開講し、指導者側へ…
預言者さん、いきなり俗っぽくなったな。
「そこまではしないとしても」
どこまでするつもりだったんだ。
「歴史の知識とかは、自分がタイムスリップしたらどうするか、みたいな感じで覚えようとするとそこまで苦痛にならないぞ」
「僕も不慮の事故で異世界転生したらどうしよう、って思ってるから似たようなものだよね!」
「全然違うと思うぞ」
異世界で歴史の知識は使い物にならなさそうだし。
「じゃあ英語もどうすれば楽しく勉強ができるかってところなんだけど…」
瀬野は普通に続ける。
「も」っていうか、楽しく勉強できるアドバイス、現時点で1つももらってないぞ。
「まず、突然チンピライングリッシュスピーカーに絡まれたとする」
「本当に突然だな」
その状況設定から英語を楽しく学ぶ気にならねぇって。
「そして相手がいきなり金をよこせ、と言ってピストルを頭に突きつける」
気づかぬうちに渡米していたらしい。
「で、そのときにどうやって…」
そう言って瀬野は間を開ける。
この状況だとどうやって相手を落ち着かせて自分の身を守るか、って流れかな。
「拳銃を突き付けてきた相手を自分の部下にできるか考えるわけだ」
「いや、そうはならないだろ」
多分チンピラも銃を突きつける相手を間違えてるぞ。
「なんやかんやあってチンピラを部下にできたら、そいつに俺の仕事を手伝ってもらい、俺は衣食住を保証する」
なんやかんやあって部下にするところも気になるが。
「そして最終的に俺と部下はかけがえのない最高の友人になるわけだ」
「一緒に暮らす中で親睦深まってるじゃん」
…これって、なんの話だったっけ?
まぁ、と言って瀬野は話し出した。
「少し脚色しているけど、俺が知り合いから聞いた話だな」
「どこら辺を脚色しているの?」
「衣食住を保証するってとこ」
衣服までは流石に用意できなかったらしい、と瀬野。
銃を突き付けられたのはノンフィクション?
そここそフィクションであってほしかったけど。
「あとその知り合いは英語ができなくてもアメリカで暮らせるって言ってたぞ」
それなら英語を勉強する必要なくね?
「…で、瀬野は英語をどうやって楽しく勉強してるんだ?」
話が脱線しそうだったので肝心な部分を尋ねる。
「ずっと言ってるだろ、チンピラに拳銃突き付けられたら論破して部下にしてからマイベストフレンズにするんだよ」
フレン「ズ」?
瀬野はチンピラ集団をまとめて部下にするつもりらしい。
その交渉術があるんだったら、それ専門の仕事に就いたほうがいいだろ。
タイムスリップして預言者するよりよっぽどマシだ。
「瀬野くんのヤツって拳銃を突き付けられないと始まらないと思うんだけど」
「あぁ、だから俺は拳銃を突き付けられるのを待ちながら楽しく英語の勉強をしてるってわけだ」
拳銃突き付けられる未来を考えると勉強手につかねぇって。
とりあえず、瀬野の感性がバグってることは分かったな。
それで結局、どうすれば勉強を楽しくできるんだ?
「…ん?」
そういえば寺田が隣にいない。
あいつはどこに行ったんだ?
寺田のいた場所には真っ赤に染まった器だけが残されている。
これ、食器を返却するときに「食べ物で遊ばないでください」って注意されるヤツだろ。
寺田の姿を探していると「寺田くんはだいぶ前に教室に戻ったよ」と吉川。
この食器、誰か持っていかないといけないのか?
最終的にじゃんけんをして負けたヤツが寺田の食器を返すことに決めた。
じゃんけんをして俺が負けたので、真っ赤の器を自分の器で覆い、そっと返却口に置いた。
「実はガチャって排出確率100%だってことに気が付いたんだよね」
スマホを触りながら夜野さんが呟いた。
昼休み。
今日は秋谷さんが教室にこなかったので、いつも通り2人で昼ご飯を食べていた。
「それなら夜野さんが課金する必要ないじゃん」
いつもガチャの確率に文句を言っていた人がいまさら何を。
「まぁ課金は息するみたいなもんだから、課金しないと生活できないんだけど」
アンコンシャス課金は問題ではないらしい。
「ほら、ガチャを当たるまで引き続ければ最終的に排出確率100%にならなるでしょ?」
「ちょっと待って…」
頭の中で夜野さんが言ったことを整理する。
欲しいキャラがいる
↓
ガチャを引き続ける
↓
いつかは当たる
↓
排出確率って100パーセントじゃん
「…あーでもガチャ一回の排出確率は低いままなんじゃないかな」
「廃課金勢がガチャ一回ごとの排出確率とか考えてると思う?」
もっと長い目で考えないと、と夜野さん。
正論を言っている感じだけど、間違っているのは夜野さんでは?
「1個、夜野さんに問題出していい?」
そう言って私は期末試験の範囲である数学の問題を一問出してみることにした。
問. 袋の中に赤玉8個、白玉3個が入った袋がある。
この袋から1個ずつ玉を取り出し、毎回元に戻すものとする。
この操作を3回行ったとき、赤玉が2個、白玉が1回出る確率を求めよ。
「これを解けばいいの?」
夜野さんは面倒くさそうに解答を記述した。
A. 3C2 × (8/11) ^2 × (3/11) = 576/1331
「なんで普通に正解してるの?」
「なんでって問題文に普通に書いてあるじゃん」
当然のように夜野さんは言った。
じゃあこれは、と言って私は問題を一つ作った。
問. ガチャの中には夜野さんの好きな『そうくん』がいる。
排出確率は3%と表記がされている。
この場合の『そうくん』を引き当てる確率を求めよ。
「さっきからさ、問題文に書いてあるまんまじゃん。わざわざ私が解答する必要ないと思うんだけど」
そういって夜野さんは解答をさらさらと記述した。
A. 100% (1/1)
「問題文に排出確率3パーセントって書いてあるじゃん」
「いやいや、問題文にちゃんと『そうくん』って書いてるし」
夜野さんは問題文の『そうくん』という箇所に何度もアンダーラインを引いた。
私、ちゃんとこの文章に従って解答したんだけど、と返される。
え、もしかして私が間違ってる?
特別なあなたへ。
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