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第32話 ほら、吉川くんも主人公じゃないじゃん!

「男性向けラブコメねぇ・・・」


ベッドに寝転がりながらスマホを眺める。



『男性向けラブコメディ(男性向けラブコメ)とは、主として男性読者を対象に、感情移入のしやすさを重視して構成された恋愛コメディ作品の一類型である。

多くの場合、物語の中心には男性の主人公が据えられ、その視点を基軸として叙述が展開される。

読者は主人公への自己投影を通じて、ヒロインとの関係性の変化や、周囲の人物から寄せられる好意、すれ違い、誤解といった一連の出来事を追体験する構造を持つ。』



「まぁ少女漫画と似たようなものなのかな」


続きを読み進める。



『主人公の造形には一定の傾向が見られる。

すなわち、際立った個性をあえて付与しない点である。

多くの場合、主人公は平均的、あるいは受動的な性格として描写され、能力面においても極端に優秀でも無能でもない中庸的な位置に置かれる。

このような「普通さ」は、読者が自己を重ねやすくするための装置として機能し、物語への没入を促す役割を担う。』



「これも少女漫画と同じかも」


普通の女の子、みたいな感じで始まるのは少女漫画でもあるし。



『ヒロインの配置については、複数の人物が登場する構成が一般的であり、それぞれに判別しやすい性格類型(いわゆる属性)が付与されることが多い。

具体的には、クール系、幼なじみ、ツンデレ、年上、後輩といった類型が挙げられる。

その一方で、これらのヒロインは総じて容姿に優れた人物として描写される点に共通性が見られる。』



「少女漫画だったら、お金持ち、白髪、俺様系とかかな」



『物語の主題は、多くの場合、複数のヒロインの中から主人公が最終的にいずれを選択するかという関係性の帰結に置かれる。

主人公は、体育祭や文化祭といった学校行事、あるいは雨宿りや看病といった日常的な出来事をきっかけに各ヒロインとの接触機会を重ね、その過程で関係性を段階的に深化させていく構造をとる。』



「あー、ここからが重要そう」


適当に読み流していたが、ここから先はしっかり読もう思いベッドから起き上がる。



『主人公がいずれのヒロインを選択するかについて、明確な選定基準が体系化されているわけではないが、ジャンル内には一定の慣習的傾向(いわゆる「お約束」)が存在すると指摘される。以下では、その一端として、いわゆる「負けヒロイン」に該当しやすい特徴を簡潔に示す。


1. 幼馴染

2. 姉や妹

3. 青髪

4. 金髪

5. ツインテール


これらの特徴を有していたとしても、作品によっては当該ヒロインが最終的に主人公に選択される場合もあり、絶対的な基準として機能するものではない。

しかしながら、物語の構成上、作者が意図的にいわゆる「負けヒロイン」とされる属性を特定の人物に付与し、役割分担を明確化する傾向も認められ・・・』



「私、負けヒロインの条件一つも入ってないじゃん」


別にどうでもいいんだけど。


少しスクロールすると、気になることが書かれていた。



『負けヒロインのその後は悲惨である。


高校が舞台の作品である場合、長い間好きだった主人公から選ばれず、自分は何のために高校に来たんだろ、と肩を落とす。


主人公の彼は優しいからいつも通り接してくれる。

でも正直、その姿を見るのがキツイ。


選ばれたヒロインと彼がイチャイチャしてるのを目撃することもある。

Ifストーリーがあるらなまだしも、私って負けヒロインじゃん、と思いながら学校に行く支度をする金髪ツインテールの幼馴染の気持ち、作者はちゃんと考えてたことあるわけ?


もし、これを作者が見てるんだったら、負けヒロイン代表として言わせてもらいますけど、



もし夜道を1人で出歩くことがあれば、ちゃんと後ろに気を付けたほうがいいですよ?





「怖すぎでしょ」


すぐにブラウザバックした。


この記事、絶対負けヒロインご本人が書いてるじゃん。


「とりあえずこのジャンルの作品、ちょっと読んでみよう」


『男性向けラブコメ おすすめ』と検索して、表紙が印象的だった作品を読んでみることにした。



「・・・なんかよくわからなかったな」


スマホを充電器に挿してから、ベッドで仰向けになる。


一作品読み終わった。


「主人公とヒロインが付き合うまで、長すぎじゃない?」


告白した後はほとんどエピローグだったし。

付き合った後の方が面白いと思うんだけど。


「でもあのヒロイン、めっちゃ秋谷さんだったな・・・」


秋谷さんがヒロインに似ている、といったほうが正しいのかもしれない。

ラブコメヒロインになるために頑張った、みたいな話をしてたし。


「じゃあ何をするべきかな」


そもそも私、何と戦っているんだっけ?






月曜日の朝。


僕の靴箱には手紙が一通入っていた。


ベタなイベントだな、と思い、教室に入ってから開いた。

そこには、丸文字でこう書かれてあった。


『吉川くんへ


今日の放課後、視聴覚室で待ってます!

必ず来てください!!』


絶対変なことに巻き込まれるやつだ、コレ。


まさか自分がこういう手紙をもらうことになるとは思わなかった。


でも、こういうのってアレじゃん。

告白されるんじゃないかと勘違いさせて、本当は違うことを伝えようとするヤツ。


僕はこういうのに引っ掛からないよ。



それにしてもこの手紙、誰が入れたんだろう?


テンプレ的なのは、ヒロインの取り巻きの子が「なんであなたがあの人と親しくしてるんですか?」って詰められるのは見たことがあるな。



そうなってくると秋谷さん周りの人かも。


昼休みに聞いてみよう。





昼休み。


「秋谷さんってさ、女の子からモテてたりする?」

「私が?」


こちらをまじまじと見る秋谷さん。


「え、吉川くんって百合系も好きだったっけ?」

「そこまでかな」


ジャンルとしては面白いと思うけど。


「じゃあなんで?」

「えーと・・・」


これって秋谷さんに伝えてもいいのかな。


特に意味もなく、秋谷さんのいない別の方向に視線を逃がす。


そういえば深山さんがいない。


「実は今日の放課後、視聴覚室に来いって呼び出されてて・・・」

「え、吉川くんも?」


同じ内容の手紙が秋谷さんのところにも来ていたらしい。


「視聴覚室っていうのもよく考えたら変だよね」

ラブコメ的にさ、と秋谷さんが付け加える。


よく考えたらそうだ。

普通、校舎裏とか屋上とかじゃない?





放課後。


「結局さ、誰が呼び出したか分かった?」

「流石に聞けないでしょ」


この手紙誰が書いたか知ってますかなんて、と秋谷さん。


僕と秋谷さんは廊下を歩きながら話していた。


秋谷さんはシャツの襟元に指をかけてパタパタと中に空気を送り込んでいる。

暑いときによくするヤツだ。


「どうしたの?」


秋谷さんと目が合う。


「今さ、襟元に指かけてパタパタさせてたじゃん」

「させてたけど」

「それ、めっちゃ好きかも」

「・・・」


秋谷さんは腕を組んで、窓の外に視線を逸らした。




少し沈黙が生まれたが、僕たちは視聴覚室に辿り着いた。


「こういうときってノックしたほうがいいのかな?」

「まぁ一応」


3回ノックをしてから扉を開けた。


後方の席には夜野さんがスマホを触っており、いつもは先生が座っている場所に深山さんがいた。


「よく来たね!」


そういって深山さんは席を立ち、お好きな席にどうぞ、と案内する。


少し前方の席に腰かけた。


「私が呼び出したってことは流石にわかると思うけど」

「まぁこれで夜野さんだったらびっくりだね」


と秋谷さんが言って後ろに視線を向ける。


しかし夜野さんは何も言わない。

深入りしないスタンスなのかも。


「どうして私が呼び出したのかは分かった?」

「あの丸文字からは何もくみ取れなかったよ」


僕が口を開いた。


「え、放課後に呼び出されるといえば、何が起こるかなんて決まってるでしょ。」


そういって深山さんは説明を始める。





学校一の王子様と仲良くなりだした主人公。


差出人不明の手紙で放課後に呼び出しが。


校舎裏に来ると数人の取り巻きの女の子がいた。

あんたモブのくせに生意気なのよ、と言われ傷つく主人公。


泣き出しそうなタイミングで王子様登場!


「彼女に傷つけるような真似はやめてもらおうか」



震える少女たち、そして彼は私の頬を優しく包み込み、涙を拭う・・・





「・・・ていう感じになる!」


呼び出したのは深山さんなら、話の流れ的に深山さんが取り巻きの女の子側になりそうだけど、それでいいのかな。


「でも残念、ここに王子様が来ることはないよ!」


やっぱり深山さん、取り巻きの女の子じゃん。


「せいぜい来ても情報の先生だけ!」


それは僕たちも困る。


「で、結局深山さんが何がしたいんだっけ?」


秋谷さんが催促した。


「私が今からプレゼンをするから、吉川くんと秋谷さんはちゃんと見ておいてね」

「え、プレゼン?」


うん、と言って彼女はパソコンを操作する。


目の前のスクリーンには、大きな文字が映し出された。



「『おいお前、俺のモノになれよ』・・・?」


文章を読み上げる。

スライドにはかっこいい男のイラストも添えられている。


・・・なんか、ヤバいプレゼンが始まりそうだな。


正直帰りたい。


「『俺のモノになれよ』っていうのが今回のプレゼンを通して言いたいなんだけど、どういう意味で言ってるかわかる?」


首を横に振った。


「じゃあ、この言葉の意味が分かるように今から私が説明するから」


そういって深山さんは次のスライドを示す。


そのスライドには、僕たちの設定が簡単に記載してあった。

1人ずつ表示されるようになっている。


吉川くん: 男性向けラブコメの主人公 (自称)


「自称ってとこが気になるけど、まぁ合ってるね」


秋谷さん: 男性向けラブコメのヒロイン (自称)


「前教室に来た時にちょっと言ったし、合ってるかな」


そして、深山さんの設定が表示される。


私: 少女漫画の主人公 (Official)


「Officialって動画サイトのアカウントで公式ですっていうヤツじゃん」


あとOfficialのフォントサイズがめちゃくちゃ大きい。


「これは分かるよね?」


色々言いたいことはあったけど黙って頷いた。



深山さんは次のスライドを表示する。


『少女漫画と男性向けラブコメの共通点と相違点』と書かれていた。


今は共通点の箇所だけ表示されている。


「まず共通点として挙げられるのが、主人公が平凡であるということ、それに対して少女漫画ではヒーロー、男性向けのラブコメではヒロインがめちゃくちゃ美化されていることがある」

「まぁ、男性向けラブコメはその通りだね」

「少女漫画でも似たようなものだよ」


次に相違点、と言って深山さんはマウスをクリックする。


『出会ってから付き合うまでの期間』


と表示されていた。


そして次のページには3と13という数字だけが映し出される。


「この数字は同じボリュームの少女漫画と男性向けラブコメの漫画で、どの巻で主人公が付き合い始めたかを示しています」


3が少女漫画で13が男性向けラブコメ、と補足する。


少女漫画の方が付き合うまで短いってことは分かるよね?と確認された。


まぁその通りなんだろう。

少女漫画のことはよくわからないけど、男性向けのラブコメだったら付き合うまで長い。


「これを私たちの関係に当てはめるとこういうことに!」


エンターキーを叩く。


吉川くん: 時間をかけて、ヒロインを選びたい


「まぁ、だいぶ単純化してるような気もするけど、ラブコメ主人公だったらそうなるのが自然かな」


秋谷さん: 最終的に吉川くんに選ばれたい。


「別に私、吉川くんに選ばれたい、なんてひとことも言ってないんだけど?」

「いやいや、私にはわかるよ、秋谷さん」


深山さんは秋谷さんに近づいて肩を叩いた。


秋谷さんは僕の方を見る。


僕も何も言ってないんだけど。

首を横に振った。


「当たり前だけどさ、ヒロインがいるんだったら、それに対応するキャラもいないとおかしいじゃん」

「物語だったらね」


と応える秋谷さん。


「そして物語であれば普通の人物と不釣り合いな相手がいるはず」


深山さんは一拍置いた。


「つまり、吉川くん、きみが秋谷さんの相手であるということは明らかなんだよ!」


そんな『犯人はお前だ』みたいな感じで言われても。



「次は私なんだけど、ここで一つ大きな問題が!」


視聴覚室に深山さんの声が響いた。



私: 早く王子様と付き合いたい(急ぎです)



「いますよね、ここにひとり可哀そうな人が!!」


そういって机を叩く。

涙目のウサギも添えられていた。


「でもさ、」


秋谷さんが何か言いだすのを待たず、深山さんは次のスライドを示す。


『おいお前、俺のモノになれよ』


最初に見たスライドが再び出てきた。


「いやいや」


秋谷さんがプレゼンを遮る。


「これさ、吉川くんに言ってるってこと?」

「そういう捉え方もできるね」


深山さんははっきり言わずに応える。


「それってつまり、深山さんは吉川くんのこと好きっていうことでしょ?」

「・・・」


深山さんは何も言わない。


「吉川くんはさ、ラブコメの主人公なんだよ?」

鈍感主人公くんがここでOKするわけないじゃん、と呟いた。





中学生の頃。


「秋谷さんってさ、男性向けのラブコメって呼んだことある?」

「いやないけど。そもそも恋愛がメインの作品って好きじゃないんだよね」

「本当に?秋谷さんはラブコメのヒロインになれると思うんだけど」


一度読んでみて、と言ってラノベを手渡した。



数日後。


「とりあえず読んだよ」


秋谷さんは僕に本を返した。


「どうだった?」

「吉川くんってさ、ああいう女の子が好きなの?」

「そうだね。現実にはああいう女の子って存在しないじゃん」

「存在しないんだったらさ、普通に妥協すればよくない?」


近くの子とかでも、現実はそれなりに楽しいと思うんだけど、と呟く。


「男の子は完璧なヒロインに夢を見るものなんだよ」


夢を見ること自体が楽しいんだって、と言った。


よく席が一緒になることが多かったので、僕と秋谷さんはよく話した。



ある日の放課後。


僕は週番で教室に残っていた。

そのとき、教室には僕と秋谷さんしかいなかった。


「ちょっと今、席外せる?」

「うん」


ベランダに出た。


その日は、風がやけに強かった気がする。

ベランダの入り口に2人で座った。


秋谷さんの雰囲気から、僕は今から何が起きるか分かった。


多分僕は秋谷さんに告白される。


告白されたことのない僕でもわかるくらい、秋谷さんは感情が表に出ていた。


「物語っていうものは、あるべきところに収まると思うんだよね」


そして僕は言った。


「僕はラブコメ主人公だから、秋谷さんがどう思ってるかわからない」


「・・・そっか」

小さな返事だった。


かなり長い間、秋谷さんは無言で外の景色を眺めていた。


しばらくして秋谷さんは立ち上がった。


「風強いし、そろそろ教室に戻ろっか」


これまでと変わらない表情だったと思う。

でも戻った教室は前よりも重たい空気に包まれていた。





「私もそう思ってるんだよ!」


全く同じ意見、と言って秋谷さんと握手をする。


秋谷さんは明らかに戸惑っていた。


「吉川くんは良くも悪くもラブコメ主人公」


今からそれについて話すね、と言って深山さんは自分の場所に戻った。


「そもそも、私が吉川くんをどう思ってるのかについて確認しようか」


そういうの、自分で公言しちゃっていいの?


スライドが示される。


吉川くんのことをどのように思っているか


1. 嫌い

2. やや嫌い

3. 普通

4. やや好き

5. 好き


こういう時、3番とか選びたくなるよね。


「で、私が吉川くんをどう思っているかと言えば・・・」


そこで深山さんは間を置いて次のスライドが示された。


1. 嫌い

2. やや嫌い

3. 普通

4. やや好き

5. 好き

☑6. よくわからない


「調査の結果、よくわからないということになりました!」


6個目の選択肢、どこから出てきた?

ていうか自分の気持ちくらい、調査せずともわかりそうなものだけど。


「有効回答数が1ということから、次の問いを立てました!」

「有効回答数1はほぼ無効では?」


僕の呟きは聞き流され、深山さんは次のスライドを表示する。


『少女漫画とラブコメの主人公が共存するためにはどうすればよいか』と書かれていた。


「私にはフラグはすべて生かされるべきという信念があるのね」

「初めて聞いたな、そんな信念」

「ちなみに吉川くん、これまでにそれらしいフラグが立ったのは何回あったと思う?」


深山さんとの出会いから現在に至るまでを思い出す。


「フラグなんてあった?」

「まぁ、せいぜいあって1個なんだけど」

「1個あったこと自体が驚きだよ」


自分では気づかなかったし。


「このフラグ、折ることは絶対に許されない!!」

少女漫画の読者として!と付け加えた。


少女漫画の主人公ってところは関係ないんだ。



「ちょっと待って」

「なに?」


深山さんは秋谷さんの話を促す。


「ラブコメ主人公は最終的にヒロインを選びたくて、少女漫画主人公はすぐに王子様と付き合いって感じでしょ?」

「間違ってはいないかな」

「それなら、その2人って合わないと思うけど」


付き合うまでのスピード感が違うわけだし、と付け加える。


「そうだね」


当然のように頷く深山さん。


「だったら、」

「なので、どうすればこのジャンルの違う2人が共存できるか考えました!」


秋谷さんの言葉を遮って深山さんはエンターキーを押した。



『イマジナリー彼氏の導入!!』



おっと、これはこれは。

なんかごちゃごちゃしてきたぞ。


「私は早くヒーローと付き合いたい。それならヒーローを自分で生み出せばいいという結論に至りました!!」


マッドサイエンティストかな?


こういう流れになります、と深山さんは説明し始めた。


「まず、私がイマジナリー彼氏、略して『れんくん』と付き合います」


どこをどう省略したら「れんくん」が出てくるんだ。


「しかし彼は、亭主関白気質で私に色んな雑用をさせます」


そして私はそんな生活に耐えかねて、別れを告げることに、と遠くを見て言う。


「私がいなくなったことで、彼は私への思いを募らせます」


前はあいつが隣にいるのが当たり前だったのにな・・・ みたいに、と補足する。



「最終的に改心して私のもとに!」


前は本当に悪かった、二度とあんなことしないから、俺にもう一度だけチャンスをくれ、と言ってくる予

定です!とテンション高めに説明する。


「この改心している間に吉川くん登場します!!」


吉川くんが入ることでフラグも回収できて一石二鳥!と深山さん。


僕、つなぎ役になってるんだけど。


「できれば、吉川くんがれんくんを煽って、早く私の元に来てくれるようにしてくれれば助かる!」


かなり重要な仕事も任されてた。


ところで、と言って深山さんは続ける。


「れんくんは少女漫画にピッタリの容姿だけど、途中の吉川くんはラブコメ主人公」


少女漫画の作風に合わない人物がひょっこり出てくることになるんですよね、と付け加える。


これって僕、傷ついた方が良い?


「ですので、私が少女漫画のヒーローっぽく認識するようにします!」


そういって次のスライドが示される。


左側にはフリー素材でよく見かける男の子のイラストがあった。


「これが、こうなります!」


そういって、右側にはかっこいい王子様が映し出された。

どんなに加工してもこうはならないでしょ。


深山さんは「これが、こう!!」と言ってスライドを示す。


最後のヤツ、お化けがヒーローになってたぞ。

転生したのかな?



だから、と言って深山さんは最後のスライドの文章を読み上げる。


『おいお前、俺の(2番目の)モノになれよ』


鍵括弧の中の文字が赤で強調されていた。


僕は誰に頼まれて、深山さんのつなぎ役をしないといけないんだっけ?

イマジナリー彼氏?




「面白いじゃん」


秋谷さんは感想を述べた。


「ありがとう!」


日曜日に20分かけて作ったんだ!と深山さん。

宿題の片手間で作ってるじゃん。


質問なんだけど、と言って秋谷さんは深山さんを見る。


「ちなみに、この中で私はどのタイミングで入ってくるの?」

「・・・それはイマジナリー彼氏のれんくんに聞いて?」


間を空けて深山さんは応える。


「なるほどねぇ・・・」


秋谷さんは深山さんを頭から足元までゆっくり眺めた。


沈黙が生まれる。


そういえば、と後方から声がした。


「吉川くんは深山のことどう思ってるの?」


夜野さんが僕に聞いてきた。


「これって吉川くんがどう思ってるかにもよると思う」


ちゃんと聞いてなかったけどさ、と夜野さんは呟く。


僕に視線が集まった。


「・・・まぁ、よくわからないかな」


深山さんと同じで、と付け加える。


「じゃあ、あれだったら?」


と秋谷さんが、「おいお前、俺の(2番目の)モノになれ」の文章を指さす。


「・・・まぁ、2番目かな」


深山さんと同じで、と付け加える。


ふーん、と呟く深山さん。



「・・・ついでにさ、私のも教えてよ」

「何を?」

「何番目、みたいなヤツ」

「あー・・・」


腕を組んで上の方に視線を向けた。


こういうとき、ラブコメ主人公ならどう答える?

いや、秋谷さんが知りたいのは僕自身の答え。

ラブコメ主人公として、ではない。


秋谷さんの顔を見て、一呼吸置いて言った。


「秋谷さんは暫定トップだよ」


暫定っていうのもちょっとおかしいけど、と呟き視線を逸らす。


「・・・そっか」


少し間をおいて、秋谷さんは返事をする。



「今日のプレゼン、めっちゃ面白かったよ!これからもよろしくね!」


じゃあまた深山さんたちのいる教室に行くから!と早口で告げて秋谷さんは視聴覚室を後にした。




「これって、私のいる意味あったの?」


秋谷さんが出て行ってから、夜野さんが呟いた。


「あったに決まってるじゃん!」


やっぱ困ったときの夜野さんだね、と言って夜野さんに近づいて手を握る。



「結局、僕ってどうすれば・・・?」


居心地が悪くなってきて、僕は深山さんに尋ねた。


「吉川くんは、イマジナリー彼氏のれんくんが私にひどいことするまで待ってて!」

「ということは?」

「これからもいつも通りに過ごせばいいよ!」


明日も普通に話しかけてきてね!と言われた。



・・・これって、僕もいる必要あった?





家に帰りつき、駆け足で自室の扉を開ける。

私はベッドにダイブし、脚をバタバタさせた。


「やっば、やっば・・・」


吉川くんに言われたことを何度も噛み締める。


『秋谷さんは暫定トップだよ』


なにそれ。


そんなメタいこと、ラブコメ主人公くんが言うわけないじゃん。

こういうときは適当にはぐらかしたりするものじゃないの?


「私が一番かぁ・・・」


心臓ってこんなにドクドクするものだったっけ?

ベッドで枕を抱きしめながら身をよじらせる。


「私が一番、私が一番・・・えへへ・・・」


何度も同じ言葉を口にする。


吉川くんの言葉に私は完全に溶かされていた。



少し冷静になろう。

ベッドから立ち上がった。


深山さんの内容で気になるところはあった。

例えば『どのタイミングで私が入ってくるか』を明確にしなかったこと。


かなり好意的に捉えれば、グレーゾーンを残すことで私の入る余地を残している、と考えることもできる。


少なくとも、私を排除しようとする意図はないと感じた。


そこまでして私を残そうとするのは主人公としてのプライドなのか寛容さなのか。



「ちゃんと明日、深山さんと話せるかな・・・」


その呟きは部屋の片隅に飲み込まれた。





翌日。


「MBTIって知ってる?」

「16種類に分類するヤツでしょ」


夜野さんが応える。


「・・・あーあれね」

「本当に深山さん知ってる?」

「いや、名前は知ってるんだけど・・・」

「名前だけ知ってるって、実際ほとんど知らないっていうのと同じだよ」


やったことないんだったら、やってみてよ、と言って深山さんにリンクを送る。


しばらくの間、深山さんはスマホの画面を操作していた。


ていうかさ、と言って夜野さんは私に小声で呟く。


「昨日のやつ、なんかごめんね」

「謝る必要ないって」

「私も何を謝ればいいのかわからないんだけど」

「じゃあ私は今、何を聞いてるの?」

「定評のある私の声かな」

「夜野さんも面白いこと言うじゃん」


『も』って深山と同じみたいで気になるんだけど、と夜野さん。



「終わったよ!」


そういって深山さんはこちらにスマホの画面を向けた。


INFJと表示されていた。


「これってさ、二つ名みたいなのあったよね?」


夜野さんは私に聞いてきた。


「あーINFJだったら提唱者だったかな?」

「ここで、ENFJにならないところが深山っぽいね」

「え、ENFJは何なの?」

「ENFJは主人公だよ」


ちょっと待って、と深山さんは私たちを見る。


「私ってINFJなんだよね?」

「そうらしいよ」

「で、なんだっけ?ENFJ?は主人公なんだよね?」

「うん」

「最初のEかIかの違いだったら、半分以上は主人公ってことでしょ?」


じゃあもう主人公って言っても良いよね!と深山さん。


ちょうどそのとき、吉川くんが教室に戻ってきた。


「吉川くんはMBTIやったことある?」

「あー名前だけは知ってるけど・・・」

「いや、名前だけ知ってるって知らないのと一緒だからね?」


深山さん、流れるように自分のことを棚に上げたな。



「あっ、僕INTJらしいよ!」


しばらくしてから、吉川くんはこちらに診断結果を見せた。


「ほら、吉川くんも主人公じゃないじゃん!」

「なんのこと?」


私は分類の二つ名とENFJについて簡単に説明した。


「・・・いやでもさ、16分類の中で2つの要素は共通してるわけでしょ?」

「うん」


なんかさっきも似たような確認されたな。


「それなら10メートルくらい離れたら僕も主人公でしょ」

「遠くから見れば、みたいな問題じゃないけどね」


私は応える。


「少なくとも3つは共通してないと主人公って言えないでしょ」


ハーフ主人公くん、一瞬で切り捨てられた。


「深山も主人公じゃないからね?」


そもそもだけど、と付け加える。


「いやいや、50%と75%って全然違うから。もし51パーセントなら私も吉川くんのこと、主人公だねって言ってあげたんだけど」

「11メートル離れたら50パーセントと51パーセントってほとんど変わらないって!」

「そのちょっと離れたら同じってヤツ、どこから来たの?」


さっきよりも1メートル遠くなってるけど、と深山さん。



こういう雰囲気、中学校のときみたいだな。


そう思いながら深山さんたちの会話に耳を傾けた。


「夜野さんのも教えてよ!」

「私、こういうの信用しないタイプだから」

「じゃあ『MBTI診断を信用しないMBTI』って調べたら、どのMBTIか分かるかも!」

「なんでそんな遠まわしな聞き方するの?」

「だって夜野さん教えてくれないから」

「そこまで言うならやるけど、なんて検索したらそのサイト出てくる?」

「『MBTI診断 無料』って調べたら出てきた!」

「その検索したいヤツの後ろに『無料』ってつける感じ、俗っぽくて嫌なんだけど・・・」




***********************************************************************************


「・・・ここはどこ?」


少し頭痛がする中、ここが自分の部屋ではないことが分かった。


早く収録を始めないといけないのに。


テーブルに紙が一枚載っている。

あれじゃん、何かしないとこの部屋から出られないヤツ。


テーブルに近づいてその紙をめくる。

冒頭に書かれてあったのは、「後に書かれている文章を読み上げてください」という文章。


「私がコレを読み上げればいいの?」

声は壁に吸い込まれるように消えた。


「・・・えーっと、この話では深山さんのプレゼンがありましたが、もしスライドに興味があれば以下のリンクをクリックしてください。全然怪しいサイトじゃないので安心して、大船に乗ったような気持ちで大丈夫ですよ、っと」



https://

bit.ly/

めちゃくちゃ安全なリンク


「こういうのって、強調すればするほど怪しくなると思うけど」


リンクのなかにも『めちゃくちゃ安全』って書いてるし露骨すぎない?


私だったらクリックしないな。


「・・・ってあれ?」


いつの間にか自分の部屋に戻っていた。

今のは何だったの?


まぁいいか。

早く収録の準備をしよう。


今日は昔のホラーゲームのリメイク版を・・・

**************************************************************


特別なあなたへ。

ご覧いただきありがとうございます。

リアクションや感想、本当に嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

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