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第31話 まぁ私ってラブコメのヒロインっぽい普通の女の子だし。


『吉川くんと深山さんって付き合ってるの?』

『そんなの私に聞かれても』

『じゃあさ、私が吉川くんに確認してもいい?』

『なんか面倒なことになりそうだから、私がいないとこでして』

『明日1-Cの教室に行くときに聞きたいんだけど・・・』

『もっと面倒なことになるじゃん。お引き取り願います。』

『それは聞かないからさ、普通に教室に遊びに行くね!』


溜め息を吐いた。


今は4時間目。


この後のことを考えると気が重い。


原因はほとんど秋谷さん。

写真を交換するためにアカウントを交換したその日の夜に聞かれた。


深山と吉川くんが付き合ってるのか。


はっきり付き合っていない、と言うことができればよかった。

でもクラスマッチの夕方くらいから深山の様子がおかしい、ような気がする。

話し方とか、ちょっとした仕草だったりでなんとなく感じ取ることができるレベル。

付き合ってない、と確信できるほどの根拠がなかったので困っていた。


秋谷さんも秋谷さんだ。

別に他人の人間関係に首を突っ込まなくてもいいじゃん。

吉川くんと中学のときに仲が良かったらしいけど、それだけでこんなに関わろうとする?


漫画だったら吹き出しがあって、他の人が何考えているかわかるのにな、と思いながら時計を見つめる。


残り時間のあと5分、長すぎない?

でも昼休みには入ってほしくない。


今から1時間くらいタイムスキップできないか考える。

夕方にもなってほしくない。

ゲーム実況の収録をしないといけないし。


そうこうしているうちに昼休みを告げるチャイムが鳴った。


深山のところまでコンビニで買った昼食を持っていく。


「今日さ、秋谷さんが来るって言ってたよ」

「秋谷さん?」


ほら、クラスマッチで写真撮った、と言うと、深山は曖昧な表情になった。

そんな顔するからわからなくなるんだってば。


ちなみに深山の隣には吉川くんもいる。

よく楠本くんたちと昼食をとっているが、毎日ではない。


今日は一人でスマホ片手におにぎりを頬張っていた。


「やあやあ、吉川くん。ひとりで食べるおにぎりはおいしい?」


吉川くんの机に顔を載せてて見上げる秋谷さんがいた。

いつの間に教室に入ってきたんだ。


「あぁ秋谷さん、ラブコメヒロインみたいにあざとい登場してきてびっくりしたよ」


少しずれた反応を見せた吉川くんは自分の机のスペースを少し開けて、秋谷さんの弁当も置けるようにした。


どうもどうも、と言って近くの席に座る。


「あっ、もしかして深山さんって吉川くんの隣の席なの?」


こちらに向いて話しかけてきた。

深山は何も言わずに頷く。


「前言ったじゃん。卓球のペアになった話」


吉川くんは簡単に説明した。


「あぁ、そういうことだったのね」


あのときはちゃんと話を聞いてなかった、と秋谷さん。


っていうかさ、と言って秋谷さんは続ける。


「本当にラブコメ好きだよね、吉川くん」

「僕とラブコメは一心同体だし」

「概念になってるじゃん」


そういって笑みを零す。


私たちは蚊帳の外なので静かに食事を進めた。


「・・・なるほどねぇ」


深山はスマホを操作しながら呟く。


「何がなるほどなの?」

「いや、何でもないけど」


そう呟いてスマホの電源を落とそうとした。

その時にちらっと検索窓に見えたのは、『男性向け ラブコメ』の文字だった。


こちらを気にせず、隣の2人は話を続ける。


「なんでさ、そんなに・・・変わったの?」

「何が?」

「ほら、失礼って言ったじゃん」

「あぁ、私がなぜ見目麗しき美少女に生まれ変わったかってこと?」

「めっちゃ自己評価高いじゃん」


まぁそういうことだけど、と言って吉川くんが話を促す。


私も初めて秋谷さんを見たとき、こんなに可愛い人っているんだってびっくりした。

その時は何も言わなかったけど。


「吉川くんさ、昔言ったこと覚えてない?」

「何か言ったっけ?」


秋谷さんは溜め息を吐いた。


「私をこんな風にしたのは、吉川くんなんだよ?」

「誤解を生むようなこと言わないで?」


吉川くんは手を横に振って否定する。


「いやいや、そのままの意味だけど」


むしろ何か別の意味がある?と秋谷さん。


いや別に、と言って吉川くんは腕を組んだ。


「ちょっと待って。今から秋谷さんとの出会いを回想するから」


そうすれば、なんで秋谷さんがこうなったか分かるかも、と付け加える。


「そういうところ、マジで変わってないね」


お好きにどうぞ、と言って秋谷さんはペットボトルのキャップを開けて、水を口に含んだ。





中学校の入学式の日。


桜は泥に張り付き、湿った地面の中で無惨に潰れていた。


「最悪な情景描写から始めないで?」


秋谷さんは応える。


僕は体格に合わない制服を身に着け、慣れない道を歩いていた。


「あっ、そういう感じでお願い」


目の前には段ボールに入った小さな子猫と大きな荷物を抱えて歩く老婆が。


「入学式当日の朝に、そんなベタなイベントが両方起きたの?」


どちらを助ける?

A. 段ボールに入った子猫

B. 大きな荷物を抱えて歩く老婆


「トロッコ問題みたいな聞き方しないでよ」


えーと、じゃあ老婆で、と少し悩んでから秋谷さんは応えた。


この場合は?

A. 大きな荷物を抱えて歩く子猫

B. 段ボールに入った老婆


「そこの条件が入れ替わることってある?」




そして僕は中学校に到着した。


「さっきのは?」


そして入学式が始まった。


「そういえば、入学式の日って結構寒かったよね!」


僕は背中と足の裏にカイロを計8個貼っていて体全体がひりひりしていたので、制服を脱ぎたくってしょうがなかった。


「低温やけどしてるじゃん」


でも、入学式にいきなり制服脱ぐって流石にまずいよな、という思い、カイロと身体の距離をできるだけ離そうともがいていた。


「入学式なのに情緒皆無だね」



そんな時に出会ったのが、秋谷さんだった。





「いやいや、この流れで私は出てこないって」


ていうか私と吉川くんって入学式で出会ってないから、と秋谷さんは応えた。


「私たちが話すようになったのって中学二年生で席が隣になったときでしょ」

「でもさ、実はもっと前から出会ってました、みたいな伏線があったほうが面白くない?」

「本当に出会ってたらね」


そういって秋谷さんは溜め息を吐いた。



「でさ、吉川くんが私に話しかけたとき、こういったんだよ」

「なんて?」

「秋谷さん、君には素質がある、って」

「僕、そんな厨二病拗らせボーイみたいなこと言ったっけ?」

「言ってたよ、まぁ正確には『秋谷さんはラブコメヒロインになれるよ』」


って言ってたかな、と呟く。


「初対面から飛ばしてるね」

「吉川くんが、だけど」


それから、吉川くんは男性向けラブコメを私に布教して読むようになったわけ、と付け加えた。


それでもさ、と言って吉川くんは秋谷さんをまじまじと見つめる。


「秋谷さんがこんな姿になるってことなくない?」

「こんな姿って何?」


変わり果てた姿でみたいなニュアンスだけど、と秋谷さん。


「私が最初に男性向けラブコメを読んだときに思ったのがさ」

「うん」

「こんな男の理想を詰め込んだ完璧なヒロイン、現実に存在するわけないでしょ、ってことなんだ」

「まぁそうでしょうね」


現実に存在しないから、物語で夢を追いかけるものなんだよ、と吉川くんは呟いた。


だから、と言って秋谷さんは続ける。


「もし私が完璧なヒロインになったら、世界で唯一の存在になれるじゃん!って思ったんだよ」



「秋谷さんってめっちゃすごいね!」


これまで静かだった深山が、いきなり秋谷さんに話しかけた。


「努力して何か成し遂げるって、なかなかできることじゃないよ!」


そんなのまるでさ、と言って間を開ける。


深山、なんか変なこと言いそうだな。


「少女漫画みたいじゃん!!」


深山、本当に変なこと言った。




ちょうどそのとき、昼休みが終わる予鈴が鳴った。


「あ、やば、次って移動教室だから早く行かないと」


じゃあまた遊びに来るから、と吉川くんと私たちに向けて言ってから席を立った。




廊下から、秋谷さんの声が聞こえる。


「あれ、楠本くんじゃん」

「え、誰?」

「私、秋谷だけど」

「え、秋谷?」

「もしかして、楠本くんも1-Cなの?」

「そうだけど」

「マジか、うわぁ私も1-Cが良かったんだけど」



「秋谷さん、さっさと教室戻った方がいいよ」


教室の外に出て秋谷さんに声をかけた。


「やば、あと3分しかない」


夜野さんもまたね!と言って小走りで教室に向かっていった。



「秋谷さんと知り合いだったんだ」

「あんまり話したことなかったけど」


だいぶ印象変わったな、と楠本くんは呟いた。


「前から秋谷さんって吉川くんと仲が良かったの?」

「あー、まぁよく話してはいたな」


何か言いにくそうに応える。


「話して‘は’いた?」


意地悪だとは思いつつも、『は』の箇所を強調して尋ねる。

いらないこと言っちゃったかな、と言って楠本くんは続けた。


「・・・今から言うことを俺が言ったって言わないでほしいんだけど」

「うん」

「中学校のときさ、秋谷って吉川のこと好きだったっぽいんだよ」

「へぇ」


まぁ、好きでもなければここまで積極的に関わろうとはしないか。


それは納得だった。


「で、それを誰に言わなければいいの?」

「いやー、これもちょっとごちゃごちゃしててさ・・・」


もうここまで言ったし全部話してもいいような気がするけど、と言って話し始めた。


「吉川さ、あいつ秋谷が自分のこと好きだってことに気付いてたらしいんだよ」

「結構鋭いんだね、吉川くんって」

「あぁ、で、そのときに本人に言ったっぽいんだよね」


僕はラブコメ主人公だから、秋谷さんが僕のことどう思ってるか分からないって。


「え、どういうこと?」

「ラブコメ主人公って、ヒロインたちの好意に全く気付かない鈍感なヤツがほとんどなんだよ」


だから、ラブコメ主人公なら、このタイミングで秋谷さんの好意に気が付くのはおかしい、ということらしい。


「それで、秋谷さんはなんて?」

「俺も詳しくは知らないんだけどさ、まぁ今の秋谷を見てなんとなく察してくれ」


マジで俺が言ったって言わないで、と釘を刺され、楠本くんは教室に入っていった。




面倒なこと聞いてしまった気がする。

廊下で楠本くんと秋谷さんが話してた時に、「なんか私の視聴者が浮気してる感じしてイヤだな」と思い近づいたけど、知らなくいいところまで踏み込んでしまった。


「あー今日の収録、平常心でできるかな・・・」

その小さな呟きは教室の喧騒にかき消された。





私は小走りで教室に向かっていた。

ちゃんと可愛くなった私のこと、吉川くんは見てくれたかな。


クラスマッチで出会ったのは偶然じゃない。

どのタイミングで、どういう雰囲気で会えばいいか、何度も頭の中でシミュレーションしたし。


でもやっぱり、久しぶりに話すとテンションが上がってしまった。

話せて嬉しかったってこと、本人は気づいたかな。

吉川くんのことだから、察していてもおかしくはない。



中学校のときに言われた。


『僕はラブコメ主人公だから、秋谷さんが僕のことどう思ってるか分からない』


それなら、主人公が気づくべきタイミングまで待てばいい。


男性向けのラブコメは、普通の男の子と可愛いヒロインが出てくる。

それなら、普通の男の子役の吉川くんと可愛いヒロイン役の私がいればいい。



中学校の頃、吉川くんが言ってた。


『物語っていうのは、すべてあるべきところに収まるようになっている』


でも、私は違うと思う。

物語があるべきところに収まるんじゃなくって、あるべきところに収まったものが物語になるんじゃないかな。


あるべきところに収まらないものは、物語にはならない。

だから私は吉川くんの期待するラブコメのヒロインとしてあるべき方向に導く。


勝ちヒロインの条件なんて手に取るようにわかる。

吉川くんのせいで、どれだけラブコメを読むようになったか。


もちろん深山さんのことは気になる。

でも邪魔をすると、ラブコメ主人公に選ばれなくなるに決まってる。

それで失敗してきたヒロインを何度も見てきた。


だから深山さんはスルーでいいかな。



こういうことを考えるのって、ラブコメのヒロインっぽくない?

まぁ私ってラブコメのヒロインっぽい普通の女の子だし。

特別なあなたへ。

ご覧いただきありがとうございます。

リアクションや感想、本当に嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。



短編もあります。


『振子は揺れない』

https://ncode.syosetu.com/n1386ma/


好きなもの、全部詰め込みました。

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