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第30話 で、どう、このクッキーおいしい?

「それでは、一回戦に出場する生徒から移動を始めてください」


校内アナウンスがあった後、僕と深山さんは気だるげに席を立った。



クラスマッチ当日。



雲一つない晴天。

予定通りクラスマッチは行われることになった。


体育館シューズを抱えて、ゆっくりと階段を下る。


「卓球、どういう感じにする?」


深山さんが尋ねてきた。


そういえば、ダブルスの練習はしていない。

大まかに守備と攻撃を決めといたほうがいいのかな。


「僕は守備やるよ」

「じゃあ私も守備」

「え、誰が攻撃するの?」


結局、臨機応変に対応すればいいじゃんということになった。


「重要なのは、どうやって自然に負けるかだよね」

「卓球初心者だから、基本的に何やっても技術不足で片付けられそうだけど」


だから普通にやればいいと思うけど、と応えた。


サッカーに参加する生徒がグラウンドに向かっている。


なんか楽しそうだな。


「スポーツするのに楽しいとかないと思うんだけど」


ちょうど同じことを考えていたのか、深山さんが呟く。


「なんか、運動すると脳から気持ちが良くなる物質が出るらしいよ」


何かの動画で見た、と付け加える。


「じゃあ運動って薬物と同じじゃん」

「合法薬物だね」

「合法って呼ばれるもので本当に合法なものはないって授業で習わなかった?」

「じゃあ違法薬物だ」


お巡りさん、あのグラウンドに向かっている生徒たちを捕まえてください。



目的地に到着。


体育館シューズに履き替える。

卓球場に向かうと、審判をする生徒たちが談笑していた。


あまり気にせず、先日の体育の授業で使ったラケットを手に取る。


「前と同じラケット使うの?」

「一回使うと他のラケットは嫌だなって思わない?」


ラバー外れかけてるけど、と言って深山さんは僕の持つラケットを指さした。


「ここで出会ったのも何かの縁だからね」

「それって人とラケットでも?」


まぁ別にいいけど、と言ってラケットを取った。

深山さんも前回と同じラケットじゃん。


試合開始まで少し時間がある。

適当にラリーをして時間を潰していた。


「相手が誰か知ってる?」

「いやまったく」


同じ学年の生徒らしいけど、と付け加える。


負けるんだったら誰とやっても同じでしょ、と思っていたので相手のことは気にしていなかった。


「・・・あの、すいません」


おずおずと話しかけられた。


卓球ボールをキャッチしてから、声がした方に顔を向ける。


「1-Cですか?」


はい、と応えた。


目の前にいたのは、女子生徒二人組だった。

気の弱そうな感じ。


そういえば卓球って参加者が少ないから男女関係なく対戦するって言ってたな。

僕たちも混合だし。


深山さんがいる方に移動して、相手に場所を譲った。


「なんかさ、あの2人大丈夫?」

「どういうこと?」

「いや、勝つ気がないじゃん」

「あれはないね」


普通にラリーしても勝っちゃいそうなんだけど、と深山さん。


その可能性は高い。


審判の生徒が近づいてきて、相手とじゃんけんして勝った方がサーブかレシーブを決めてください、と言われた。


僕は近づいて、審判に言われたことを相手に説明した。


「あっ、どっちでもいいですよ!」

「いや、僕もどっちでもいいんですけど」


譲り合いをしたのち、審判がどうぞ、と言って試合が始まった。


いつもどおりサーブをする。

卓球ボールはそのまま相手の方に向かって跳ねた。


相手の一方が返そうとしてラケットを振ったが、ボールはあらぬ方向へ。


一点先取。


その後、サーブ権は向こうに移ったが、そもそもボールがこちらまで届かないので、僕たちの点数だけが増えていった。


そのまま1ゲーム先取。


「ちょっと」


深山さんは少し不機嫌な様子で対戦相手に近づく。


「真面目にやってるの?」

「すみません、ちゃんとやってるんですけど・・・」


相手の2人は申し訳なさそうに呟く。


「ちゃんと返してきてよ」


このままだと勝っちゃうじゃん、という言外の意味を滲ませる。


ちゃんとボールを見て打ち返して、と深山さんは相手に伝える。


相手にアドバイスし始めたな。

というか目の前に卓球部いるけど、そんなことやっていいの?


審判も苦笑いだ。


結局、3ゲーム先取して、僕たちの勝利が決まった。


「あんなやり方で負けようとするなんて卑怯だよね」


深山さんは納得できない様子。


むしろ、アドバイスをしたせいで相手は緊張してミスをしていた気がしたけど。



「1回戦は勝てたな」

「不本意だけどね」


深山さんと別れたタイミングで楠本くんに声を掛けられた。

僕たちは自動販売機に向かった。


「まぁ不本意なのかもしれねぇけど、次も頑張れよ」

「頑張りはするけどね」


負けるために。


「そういえば楠本くんってサッカーだったよね」

「そうだな」

「試合どうだったの?」

「普通に負けた」


楠本くんは当然のように言った。


「僕と交代しない?」

「いや、深山さんと話したことないし」


真面目に返されても困るんだけど。


ペットボトルの水を飲み切ってから、僕と楠本くんは別れた。

次の試合は少し時間があったので、バスケの試合を見ようと思って体育館に戻る。


そういえば、同じ時間帯に瀬野くんのチームの試合があったな。

体育館の入り口には観戦している生徒がたくさんいたので、窓の方から覗き込んだ。


瀬野くんが活躍していた。


相手にマークされていない瀬野くんは普通にドリブルしてシュートを決めていた。

外しても相手はリバウンドを取ろうとしない。

そのため、バスケの個人練習みたいに何度もシュートをして点数を決めていた。


なんか、見てはいけないものを見た気がする。

バスケの試合を忘れようと思いながら卓球場に向かった。


卓球場にはすでに深山さんがいた。

上からバスケの試合を見ていた。


そういえば、卓球場は選手と卓球の試合を観戦する生徒しか入らないから、バスケを見るんだったら、こっちの方が良かったかも。


観戦する人がほとんどいない卓球場はかなり静かだった。


「あれ、女子も今の時間に試合やってたんだ」

「そうだよ」


深山さんは頷く。


「やっぱすごいなぁ」

「誰が?」

「夜野さん」


コートの中を見回しても夜野さんはいなかった。


「ごめん、夜野さんってどこいる?」


尋ねると、ほら、あそこにいるじゃんと指さした。


え、ベンチ?


「絶対にコートの中に入らないという強い意志を感じるでしょ?」

「まぁ、感じるけど」

「あんなことできるの、夜野さんだけだよ!」


少し声を張って言う深山さん。


試合中にベンチの人を観戦してテンション上がるってことあるんだ。



その後、ぼーっと試合を眺めていると、肩をとんとん、と叩かれた。


「二回戦の1-Cの人?」

「そうですけど」

「私、2年なんだけどさ」

「あっ、2年生」


とりあえず復唱する。


「次の試合、私たちに勝ってくれない?」


おっと、なんか面倒なことになってきたぞ。


「どういうことですか?」


深山さんはバスケの試合から目を離して尋ねる。


「いやさ、ほら・・・」


目の前の上級生は視線を泳がせた。


僕と深山さんは目を合わせた。

多分、僕たちと同じこと考えてる。


普通に試合するんで、と濁すとその上級生は離れて行った。


「どうする?」

「いやどうするも何も、1日に3回も卓球するのはしんどいって」


深山さんはかなり不満そう。


「じゃあ、真面目にやってるふりをしつつ負ければ相手の期待に応えながら負けることができるんじゃない?」

「大丈夫かなぁ」


深山さんは不安そうに呟いた。



試合が始まった。

最初は僕たちのサーブから。


しばらくのあいだ、僕たちと相手はラリーを続けた。

おそらく考えていることは同

じ。

どうやったら自然にミスをしたようにできるか。


相手がもっと上手いサーブしてくれないと自然じゃない。

試合なのに穏やかなラリーが数分間続いた。


そして、普通に僕がミスしてしまった。


床にコンコン、と卓球ボールが落ちる音。

相手は、本当に真剣に勝とうとしてる?という疑いの目を向けてきた。

僕はコクコクと頷く。


その後ものんびりとした試合運びで10-10のデュースに。


試合が進むにつれて、ミスのやり方が上手くなってきた。

どうやって返球すれば、相手が上手いサーブを打つことができるかを相手の態勢を見て判断した。


そして、10-11になる。

相手は明らかに焦っている。


さっき勝ってっていったのに、うちらが勝ちそうになってるんだけど。

いやでも真面目にやってるっぽいし・・・と話し合う声がこっちにも聞こえている。


ちなみに審判は明らかに退屈そう。

得点板のフリップを使って手遊びしている。


そして対戦相手はこちらを見つめてきた。

君たち、わかってるよね?と言わんばかりの表情。


とりあえず、ここで点数を取ってもすぐ勝ちにはならないので、ここは点数とろうかな、と思っていると、深山さんがあらぬ方向へボールを出す。


コンコン、と言う音は一旦インターバルです、という審判の声にかき消された。


深山さんは上級生に近づいて話しかける。


「クーベルタンという人物を知ってますか?」


え、誰?と戸惑う上級生。

っていうか、いきなり何の話?と言いたげな視線をもう一人が向けていた。


「クーベルタンはスポーツマンシップを世に広めた人なんですが、今私たちがやってるのってヤラセみたいなものですよね」

「まぁそうかも・・・」


認めるんだ。


一呼吸置いて深山さんは言った。


「先輩たち、クーベルタンにこの試合を見せられますか?」


重要なのは試合の勝ち負けよりスポーツに対するリスペクトでしょ、と付け加える。


リスペクトの欠片もない深山さんが何を言っているんだ。

ていうか、クーベルタンに試合見せられますかってなに?


だから、と言って深山さんはその上級生たちに宣言する。


「全力で私たちにかかってきなさい!!」


それ強者が言うセリフじゃないの?

負ける前提で言う人は初めて見た。


あと、私『たち』っていうのも気になる。

僕も同じ意見みたいじゃん。


その後、僕たちは真面目にプレイをして3ゲームを取られ、敗退した。


相手は勝って嬉しそうだった。

本当に良かったの?


「いや~疲れたね」


そう言いながら外に出る。


「これからどうするの?」

「サッカーの試合を見に行くかな」

「え、サッカー?」


吉川くんが?みたいな感じで言わないでほしい。

友達が出てるからさ、と説明する。


「今うちのクラスで残ってる競技って知ってる?」

「男子はバスケとサッカーで女子はバスケだけだったと思う」

「今からの時間、別にやることないから私もサッカー見に行こうかな」


夜野さんと一緒に行くから、またあとで、と深山さんは言って別れた。


一旦教室に帰って汗を拭いた後、グラウンドに向かった。


やっぱり写真を撮ってる人が多い。

グラウンドに向かう途中、カップルらしき生徒が一緒に写真を撮っているのを見かける。


校則的にはグレーゾーンなんだけど、この日に限っては教師は見て見ぬふりをするものらしい。

基本的に何も言われないので、そういうものなのだろう。



「あれ、吉川くんじゃん」


目の前の女の子に話しかけられた。

誰だこの人。


「すみません、誰ですか?」


本当にわからなかったので尋ねた。


僕の知り合いにこんな可愛い人いたっけ?

目の前の女の子はラブコメに出てきそうなヒロインみたいな見た目をしていた。


「え、本当に覚えてない?」


秋谷だけど、と口にした。


「え?秋谷さん?」


驚いた。


中学校の頃、秋谷さんと隣の席になることが多かったのでそれなりに仲が良かった。

同じ高校を受験したことは知ってたけど、その後の話は知らなかった。


正直、中学時代の秋谷さんとは印象が一変している。


高校デビューってヤツかな。


「なんか今、失礼なこと考えてなかった?」

「え、高校デビューかなって思っただけだけど」


それが失礼なことなんだけど、と秋谷さん。


「せっかくだし、一緒に写真を撮ろうよ!」


そういってスマホを触り始めた。

手招きされて秋谷さんに近づく。


「めっちゃ表情硬いじゃん、どうした?」


背中をぽんぽん、と叩かれる。


「こういうときってさ、男の方が嫌がって写真に写ってる方が価値高くない?」

「またそういうことを・・・」


そういうの、写真撮るときに言わないでよ、と秋谷さんは応える。


丁度、彼女の指がシャッターボタンに触れようとしたとき、え?という声が聞こえた。


深山さんだった。

夜野さんも一緒。


深山さんは「え、吉川くんが?」みたいな顔をしている。


「あの子たちと知り合い?」

「さっき、卓球の試合に一緒に出たんだよね」

「え、吉川くんが?」


秋谷さんにも同じようなこと思われてた。


「じゃあ一緒に写真撮ろうか」


秋谷さんは深山さんたちを誘った。


「あっそれなら、私写真撮りますよ」


夜野さんが自分のスマホを取り出した。


「え?一緒に入らないの?」

「入ってもいいけど全員の顔、アイコンで隠してもいい?」


当然のように深山さんに応える。

ネット活動者みたいなことを言うじゃん。


「ごめん、それなら写真撮るのお願いできる?」


もちろん、と言ってスマホを横に構える。


「じゃあ行きますよ、はいチーズ」


カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ・・・


「めっちゃ連写するじゃん!」


秋谷さんの笑いにつられて僕たちも笑った。


「あっ今の良かったかも」


夜野さんは呟き、写真を撮るのをやめた。

すぐに夜野さんと秋谷さんはSNSのアカウントを交換する。


「じゃ、後で送ってね」


あと、今度吉川くんたちがいる教室に行くから、と言いながら秋谷さんはどこかへ向かった。


「なんか、明るい感じだね」

「中学校のときはあんな感じじゃなかったんだけど」

「高校デビューってヤツじゃん」

「それ、本人に言ったら失礼って言われた」

「・・・私はそんなこと1ミリも思ってなかったけど」


吉川くんはそう思ってたんだね、と付け加える。


深山さんの言葉は聞かなかったことにした。



グラウンドに到着。


寺田くんたちのチームは上級生と戦っていた。

ちょうど僕たちがグラウンドに着いたタイミングでハーフタイムに入った。

僕は楠本くんや瀬野くんがいる方に向かう。


「今何対何?」

「1-2」


瀬野くんが応える。


「上級生のチームにサッカーが上手い人がいるらしい」

「え?サッカーに上手い下手ってあるの?」

「当たり前だろ。じゃあどうやってサッカーの日本代表って決まってるんだよ」

「日本国民の中からくじ引きで決まってるものかと」


自分からサッカーしたいって思う人なんていないでしょ。


「お前さ・・・いや、やっぱいいわ」


楠本くん、色々飲み込んだな。


出場した生徒たちの声が聞こえてきたので、そちらに意識を向ける。


「あの7番がマジで上手い」

「本当だよな、あの人が攻撃の起点になってる感じするし」

「あの人、めっちゃラノベ好きだよ!」

「いや、7番の趣味の話は聞いてねぇよ」


「問題はあの7番をどうするかだよな」

「でも、あのひとポジショニングめっちゃ上手いぞ、インターセプトしようとしたらカウンターくらいそうなんだよな」

「ラブコメだったら、受け身の主人公に共感を覚えるって言ってた!」

「恋愛のポジショニングは関係ねぇって」


「あの人って利き足左だよな。どっちのコースを切るかが重要だな」

「両刀極めたって!」

「雑に話に入ってくるな寺田」


っていうか、お前はサッカー部なんだから真面目に話せよ、と口々に言われる。


「いや待てお前ら!」


ある生徒が切り出した。


「なんだ?」

「よく見ろよ寺田の顔。こいつ、まだ試合を諦めてねぇって顔してねぇか?!」


俺たちを和まそうと冗談を言ってくれたんだろ、と付け加える。


寺田くんの顔を見る。


「・・・いやコイツ、何も考えてねぇって」


ていうかお前は試合、どう思ってるんだよ、とその生徒は尋ねられる。


「いや、今は寺田の話してるじゃん。話を逸らそうとするなよ」

「おい、仲間のなかにもう試合放棄してるヤツいるぞ!」

こいつを捕まえろ!と言ってごちゃごちゃする。


試合に負けてるのに楽しそう。


「結局何だっけ? 先輩が利き足を使わないようにすればいいんでしょ?」


寺田くんはチームのメンバーに尋ねた。


「まぁ、そうだけど・・・」

「じゃあ待ってて!」


そういって寺田くんは相手の7番に近づいて何やら話始めた。


「後半から右足だけでプレイしてもいいって!」


寺田くんはそういって自分たちのチームの元に戻ってきた。


「は?なんでそうなったんだ?」

「ラノベたくさん貸してあげるから、後半は右足だけでお願いできます?って聞いただけだけど」

「サッカーの結果はどうでもいいの?」


戸惑うメンバーを横目に、寺田くんは僕がいる方に視線を向けた。


とりあえず僕は頷いた。



そして試合が始まった。

試合が終わった。


「いやー、惜しかったね」


結果は2-3。


両刀極めた、という情報はある意味本当だったらしい。

右足だけでも全く問題なくプレイしているように見えた。


「やっぱり、運動靴だとプレイがすっごくしにくいんだよ。」


サッカーの靴はスパイクと言って靴の裏にゴツゴツしたものがついてるらしい。


足バージョンのメリケンサックみたいなヤツ、と言っていた。


そんな危険な靴を持ってる奴がこの学校に何人もいるの?

だって考えてみてよ、学校にメリケンサック持ち込んでる生徒とか絶対ヤバいでしょ。





クラスマッチが終わった。

担任の先生が少し話をしてから解散となった。


こういう日は、生徒はいつもより長めに教室に残ることが多い。

僕は楠本くんたちと一緒に帰るつもりだったので、スマホを見て時間を潰していた。


ちなみに、寺田くんは今日もサッカーの練習があるらしい。

あんなにサッカーしたのに、まだするつもりなの?


「あのさ、吉川くん」

「ん?どうしたの?」


まだ残っていた深山さんに話しかけられた。


「ちょっと今、席外せる?」

「いいけど」


深山さんについて行った。


人通りが少ない、渡り廊下で深山さんは立ち止まる。

夏の季節に似合わない、爽やかな風が吹き抜けた。


「前言ってたじゃん、クッキー作ったら欲しいって」

「あー、欲しいっていうか、中学校のときはもらえなかったとは言っただけだけど」

「だからさ、それって作ったら欲しいってことでしょ?」

「まぁもらえるなら」


欲しいです、と応える。


深山さんは小ぶりのタッパーを開けた。

中にあったのは2枚のクッキー。


「一個あげるから食べてみてよ」

「本当にくれるの?」

「今のやっぱなし、って言って納得してくれる?」

「いや、しないけど」


じゃあさっさと取って、と言われて僕は少し小さめのクッキーを手にする。


「私、他の人に配ったときに一緒に食べたから大きい方食べて」

「え、もう触っちゃったけど」

「まぁそういうことは良いからさ」


そういって、彼女は大きい方のクッキーを手渡してきたので、小さい方と交換する。


じゃあ、頂きます、と言ってクッキーを口に入れる。

深山さんもそれに続いてクッキーを口に運ぶ。


「こういうときってさ」

「うん」


クッキーを食べながら頷く。


「相手にどう、おいしい?みたいな感じで聞かれることあるじゃん」

「あるね」

「でもそういうときって、相手に失礼にならないようにおいしいです、って応えるしかないでしょ?」

「そうだね」

「で、どう、このクッキーおいしい?」

「全部説明したうえでそれ聞くんだ」


おいしいです、と呟いた。


甘い味だった。


しばらくの間、何も言わずにぼーっと外の様子を眺めていた。

多くの生徒が帰宅している。


「そういえば、今日のクラスマッチどうだった?」


深山さんが尋ねる。


今日あったことをいろいろ思い出した。


「うーん、まぁ普通だったかな」

「私も」


そろそろ教室戻ろっか、と言って僕たちは渡り廊下を後にした。

特別なあなたへ。

ご覧いただきありがとうございます。

リアクションや感想、本当に嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

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