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第29話 スポーツマンシップの精神で正々堂々と一回戦敗退をしよう!

「結局、フルーツタルト作ったんだけどさ」

「作ったんだ」


吉川くんは卓球ボールを打ち返す。


今は体育の時間。


クラスマッチに備えて準備するように言われ、私たちは体育館の上の階でラリーをしながら話をしている。


「包丁を使うのって、果物をカットするときだけだったんだよね」


わざわざフルーツタルトを作る必要なかったかも、と付け加える。


包丁を使うだけなら生地を作る必要がないことを盛り付けの段階で気づいた。

そもそも私が少女漫画の主人公ほど不器用じゃなかったし。


作ったフルーツタルトは妹と一緒に食べた。


「やっぱり不参加って無理かな」


吉川くんが呟く。


静かな卓球場では卓球ボールの跳ねる音だけが響いていた。


「当日に2人とも風邪を引けば何とかなると思うけど・・・」


前みたいに、という言葉は飲み込む。


「あっごめん」


吉川くんの打ち損じたボールが私の後ろまで飛んで行った。


ボールを拾いに行ったときに下のバスケの様子を眺める。

夜野さんはベンチに座って、ぼーっと試合を眺めていた。


練習も参加しないんだ。


キュッキュッという体育館シューズの音が体育館にこだましている。


卓球台の方に戻ると、吉川くんがラケットを置いていた。


「よく考えたらさ」

「うん」

「今の時間に卓球の練習してうまくなっちゃったら、本番困らない?」

「あー確かに、もし勝ったりでもしたら大変だもんね」


ラケットのラバーの部分を指でなぞりながら応える。

だいぶ前から使われたものみたいで、表面はつるつるしていた。


特に話すこともないのでしばらく無言になる。


なんとなく窓の外を眺めると、気味が悪いほどの青空が広がっていた。


「あーあ、クラスマッチの日、雨降らないかな」


吉川くんの方に視線を戻す。

ラケットを団扇替わりに仰いでいた。


接着剤が弱くなっているのか、仰ぐたびにラバーが板にぶつかってぺちぺち音を立てている。


「でも卓球とバスケって屋内だから関係ないよね」


雨天決行だと思うよ、と応える。


「よく考えたらおかしくない?なんでサッカーに卓球とバスケが合わせないといけないんだろう」


なんか悔しそう。


「前から思ってたんだけどさ、なんでそんなにサッカーが嫌いなの?」


興味本位で聞いてみた。


「サッカーは別にどうでもいいんだけど、サッカーをしてる人が好きじゃないんだよね」


特に、中高生のサッカー部、と付け加える。


やけにピンポイント。


「サッカー部なんて、自分が一番っていう思い込みで現実が見えてないんだよ」


いきなりすごいこと言い出した吉川くん。


「まぁ、私もサッカーっていうかスポーツ全般嫌いだからいいんだけど」


そういうの、サッカー部の人に知られない方が良いと思う、と応える。


「サッカー部の人がそう言ってたんだけど」


なんでも、サッカー部は自分が好きでサッカーしてて、本当にサッカーが好きでやってる人なんてほとんどいない、と友達に言われたらしい。


本人たちも自覚してるんだ。


話はそこで一旦途切れ、少し移動してバスケの試合を観戦する。


一応ラケットは持つ。

もし先生が見回りに来てサボってると思われたくないし。


下の階ではそれなりに盛り上がっていた。


「そういえば瀬野くんバスケって言ってたな」


体育館の後方では男子がバスケをしている。

強面の瀬野くんが頑張って手を伸ばしていた。


「吉川くんって仲いいの?」


瀬野くんと、と尋ねる。


「まぁ、いつの間にか仲良くなったね」


教室とかでも普通に話すし、と吉川くん。


「いつの間にか仲良くなることってある?」

「話すようになったのは、帰宅途中に瀬野くんが中学生にカツアゲされてるのを見てからだね」

「すごい場面に遭遇してるじゃん」


それ、いつの間にか仲良くなった、みたいな感じじゃないよ。


「まぁ、それから色々あって数か月が経ったって感じかな」


吉川くんは男子のバスケを眺めながら応えた。


時計を見ると、あと数分で休み時間。


最後にちょっとだけラリーしようよ、と誘って再び卓球台に戻る。


「クラスマッチどうする?普通に参加して負けたほうがいいかな?」


しばらくは無言でラケットを振っていたけど、気になったので尋ねる。


「そうだね、よく考えたら指怪我したくないし・・・」


と吉川くん。


「だからスポーツマンシップの精神で正々堂々と一回戦敗退をしよう!」

「それってスポーツマンとしてどうなのかな」


そう応えたタイミングで休み時間に入るチャイムが鳴った。


じゃあまた後で、と言って私たちは別れた。

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