第28話 同棲してるのかな?
「あっ深山もう来てたんだ」
待った?と尋ねる夜野さん。
「いや、今来たところだけどさ・・・」
腕を組んで私は応えた。
今私たちがいるのは近くのショッピングモール。
遊びに行こうよ、と言っても頑なに首を横に振る夜野さんであったが、ついに一緒に遊びに行くことができた。
今回遊びに誘うときに「行くとこはどこでもいいから」と言うと、「マジでどこでもいいの?」と聞き返された。
山登りに行こう、とかだったら流石に困るけど。
いろいろ準備しないといけないし。
「女の子ふたりが遊びに行くっていうのに、現地集合って邪道じゃない?」
「深山は待合場所に何を期待してたわけ?」
「ほらよくあるじゃん。彼との初デート、どこからともなく現れるナンパ男」
そして最高のタイミングで彼が登場!
「コイツ、俺の彼女だから」って言いながら連れ出してくれるみたいな!
それだと、私が彼氏役しないといけないみたいじゃん、と夜野さんは溜め息を吐く。
「そもそもなんだけどさ」
「なに?」
「ナンパってここでは起きないと思うよ」
「え、そうなの?」
私周りの友達もこの辺りでナンパされたっていう人いないし、と付け加える。
どこにでもいるものだと思ってたけど、違うみたい。
「この辺りはナンパする人いないけど、他だと普通にいるらしいから気を付けてね。マジで」
深山を見てるとなんか怖いんだよね、ホイホイついていきそうで、と付け加える。
「そんなことないよ!私、もしナンパされたらちゃんと断ることができるように練習してきたんだから!」
今日のために?と聞かれたので、私は頷く。
「じゃあ、私がちょっとナンパする感じで話しかけるからやってみてよ」
「もちろん!」
そういうと、夜野さんは少しだけ私と距離をとってから近づいてきた。
歩幅が大きめで男の人っぽい歩き方に見える。
ちゃんと演技するんだ。
意外。
「あっ君今ヒマ?よかったら俺らと遊びに行かない?」
俺『ら』?
一人かと思ったら複数人だった。
「すいません、私待ってる人がいるので・・・」
「えー誰?教えてよ」
夜野さんはさらに距離を詰めてくる。
ナンパの男の役、なんか板についてるな。
私は満を持して応える。
「私のことを連れ出してくれる王子様です!」
「ちょっと深山。それOKしてるようなものだって」
いきなり元に戻った。
「えっ、本当のこと言っただけなんだけど」
「深山の待ってるって、違う意味で言ってない?」
あと5分後に来る人と一生に一度会えるかどうかの人とさ、と付け加える。
「こういうのって『普通に友達を待ってます』とか言っとけばいいんだって」
あと女の子の友達より、男の子のほうがいいと思う、とアドバイスされた。
「それなら、まだお互いのことを詳しく知らないけど、将来的に大事なパートナーになるかもしれない人を待ってます、って言えばいい?」
「それもナンパ男にOKしてるように聞こえるけど」
ちゃんと気を付けなよ、と言って夜野さんは溜め息を吐いた。
ところで、と言って私は話を変える。
「こういうところ、よく行くの?」
そういって目の前にあるポップアップストアを指さした。
今日の目的地。
夜野さんが好きなゲームアプリのグッズの販売が行われている。
いわゆる音ゲー。
私も勧められてダウンロードはしたけど、チュートリアルで止まってしまっている。
正直、あんまりハマらなかった。
夜野さんが好きなのは、そのゲームに出てくるキャラクターらしい。
「そうくん」と夜野さんがよく言っているため覚えた。
本名は知らないけど。
「この地域でポップアップストアが出るって結構珍しいんだよね」
だから今回が初めてだという。
とりあえず入ろうか、と言って入店する夜野さんの少し後ろに続いた。
ほとんど何も知らないゲームのグッズを見ても、こんなのあるんだ、くらいの印象しか受けない。
夜野さんは店内を見回しながら、「そうくん」のグッズがどこにあるのか確認しているみたいだ。
私は特にすることもなく、お客さんをぼーっと観察していた。
年齢的には高校生から社会人まで幅があるけど、女性が多いような気がする。
ゲームには男の子も女の子もいるらしいから、不思議ではないか。
しばらくすると、夜野さんがどこかに行ってしまった。
店内をうろうろしていると、店内の片隅にグッズを手に取っている夜野さんを見つけた。
欲しいのが見つかったのかな、と思い声を掛けようとすると、
「これ見て!このそうくんめっちゃ可愛いくない?!」
と興奮した様子で尋ねられた。
そのグッズは、何人もキャラクターがいるタペストリーだった。
どこにそうくんいるかな、と思って眺めてみるがどこにもいない。
「え、どこ?」
私が尋ねると、ここだよ、ここ、と指をさす。
え、これ?
そうくん、小さすぎない?
十分の一くらいのサイズのミニキャラが片隅にいた。
「まぁかわいいと思うけど、そうくんってメインキャラじゃないの?」
「そうだね、メインキャラの友達のお兄ちゃんだし」
そうくん、メインキャラとの関係が薄すぎる。
「今回、このグッズが出るって公式で公表されてたから来たんだよ」
もうここに他に用はないかな、と言ってレジにグッズを持っていき、すぐに精算を済ませた。
あのグッズ買うためだけに来たんだ。
私が知ってたのは、年上で生活力がない感じのキャラってことだけ。
サブキャラだということは今日、初めて知った。
今、公式サイトでキャラランキングを見ているが、堂々の圏外。
ポップアップストアを出て、ショッピングモールを歩く。
洋服でも見に行く?と聞いたが、インターネットでちゃんと調べてから行きたいから、と断られた。
「なんでサブキャラのそうくんが好きなの?」
メインキャラの方がたくさん出てくるし、好きになるきっかけは多いんじゃん、と付け加える。
「それさ、マジで好きな人に言うときは気を付けたほうがいいよ」
ずっとしゃべり続けるから、とよくわからない注意をされる。
すいません、できるだけ短くお願いします。
少し考えてから夜野さんは話し始めた。
「深山はさ、メインキャラがたくさん出てくると好きになるきっかけが多いって言ったじゃん」
「まぁ言ったね」
「確かにその通りだよ」
「うん」
「でもさ、好きになるきっかけが多いからって、実際に好きになるとは限らないでしょ?」
「そうかもしれないけど、サブキャラよりもイラストとかこだわってたりするじゃん」
「そうだね」
実際、そうくんよりかっこいいキャラはいるし、と付け加える。
「メインキャラって商業的につくられた感じがするんだよね」
一呼吸置いてから、夜野さんは口にした。
メインキャラは多くの人に好かれるように設計されているはず。
メインキャラは作品のメイン。
長所はもちろん、短所も人に好かれるようなものになっていることがほとんどだと思う。
「でもサブキャラってそこまで頻繁に出てこないじゃん」
「まぁサブだし」
物語を動かすためだったり、メインキャラを目立たせるために存在する。
「あくまでもサブで、みんなに好かれるために存在していないのがいいんだよね」
「・・・はぁ」
「全然理解してなさそう」
「だってさ、メインキャラは好かれるために存在するんでしょ?それならメインキャラを好きになるのが自然じゃないの?」
そうだけど、と言って少し間を置く。
「説明するのが結構難しいんだけど・・・」
「うん」
「メインキャラってみんな好きじゃん。みんなに好かれてるキャラって私のことちゃんと見てくれてないって感じがしない?」
彼が家に帰ってきたときも私以外の女のことを考えてるのを知りながら、おかえりっていうの嫌じゃん、と夜野さんは言う。
同棲してるのかな?
「私だけのそうくんでいてほしいの」
だから、好きなキャラランキングも絶対に投票しないし、SNSでも#そうくん で検索しない、という。
「・・・あれだね、夜野さんって独占欲強めな感じだ」
人との関わりは淡泊な感じだけど。
「でもそういう強い思いこそ、好きってことなんじゃないの?」
絶対に離れたくない、私だけ見てほしい、みたいな、と付け加える。
私の読む作品では、主人公がそこまでヒーローを好きになるということは少ない。
ヒーローと一緒に行動したり、会えない時間で徐々に好意を募らせるという表現が多い。
一定のラインを超えたら、後は上がったり下がったりを繰り返している感じ。
「独占欲が強いっていうのがいいことなのかわからないけど、そこまでなるくらい強い思いを抱いてるってことに気が付いたとき、あー自分はこのキャラのことめっちゃ好きなんだな、って感じがするけど」
「なんか恋愛経験豊富っぽい言い方だね」
付き合ったことないって聞いてたけど。
「今はそうくんがいるから幸せなんだよ」
「そっか」
取り合えず頷いた。
だから、と言って夜野さんは続ける。
「もしこのゲームがサービス終了したらどうしよう、っていう心配が常にあるわけ」
例えばゲームを作ってる会社が倒産するとかさ、と例を挙げる。
彼と別れるのが経済的な理由って、現実っぽいな。
「私が興味もないメインキャラに課金してるのは、その会社が少しでも長くゲームを提供し続けて欲しいからなんだよ」
確かに、夜野さんはこのゲームにかなり課金しているという話は聞いたことがある。
でもそんな思いで課金をしているということは初めて知った。
メインキャラに彼女が貢いでるのをサブキャラのそうくんはどんな気持ちで見てるんだろう。
ゲームキャラとの恋愛は複雑なんだな、とぼんやり考えた。
話しているうちにショッピングモールの入り口までたどり着いた。
じゃあ帰る、と言い出しそうな夜野さんを引き留め、近くの飲食店に入る。
どうせだったら一緒にご飯も食べようよ。
「私さ、男の子と一緒にご飯食べるの嫌なんだよね」
「ひょっとして夜野さん、私のこと男の子って認識してないよね?」
なんでちょっと嫌そうな顔してるの。
それはいきなりご飯食べようって言われたからだけど、と言って続ける。
「学校とかでさ、食事中に口を開けてるとこを見られたくないって思わない?」
「あーそれはちょっとわかるかも」
もしデートをするんだったら食事は自分で済ませてから集合、とかで全然良い。
食べ方が汚い、とか思われたくないし。
注文してからしばらくすると、料理が運ばれてきた。
結構おいしそうじゃん、呟きながら料理の写真を撮る。
「この写真もSNSに上げないの?」
「うん。アカウントはあるけど基本見るだけだね」
これからも写真を上げるつもりはないかな、と応える。
「結構変わってるよね深山のそこらへん」
SNSに一切投稿しないっていうポリシーっていうの、と夜野さんは言う。
「だってもしSNSに投稿しちゃったらさ、一生残るかもしれないんだよ?」
そういうと、夜野さんはびくっと肩を震わせた。
「大人になったときに周りの人に高校生の頃の投稿とか知られたら黒歴史確定じゃん」
「まぁ投稿のクオリティによっては?高校生の頃にこんなにすごいの上げてたんだみたな感じで称賛される可能性も・・・」
「いやいや、高校生が出せるクオリティなんてたかが知れてるって」
私がそういうと夜野さんは黙って料理を食べ始めた。
なんか目が合わなくなったな。
食事も済み、私たちは一緒に帰ることになった。
2人ともバスで来たので、後ろの席に座る。
「そういえば、クラスマッチ来週の金曜日だね」
久しぶりに口を開く。
かなり長い間、夜野さんは黙っていた。
「夜野さんは競技何にしたんだっけ?」
「バスケ」
「うちのバスケって強豪じゃん。大丈夫?怪我しない?」
「私はずっとベンチに座っとくから大丈夫」
もし怪我人が出ても絶対コートに入らないから、と強い口調で言う。
不動の夜野、か。
ベンチで不動ってどうなの?
「深山は卓球なんでしょ?本番に向けて何もしなくてもいいの?」
ペアでやるんだからさ、と付け加える。
「私、クラスマッチの前日にクッキーを作るって言ったじゃん」
「あぁ、なんか前に言ってたね」
「だから、クッキーを作るときに指を怪我しないように頑張ることが私にとって、本番に向けての準備かな」
「深山さ、クッキーの作り方ちゃんと調べたことある?」
「ないよ?」
帰ってから調べようと思っていた。
「クッキーって基本的に生地作って型に入れる感じだから、包丁って使わないよ」
少女漫画みたいに、指を切って怪我するみたいなことは起きないから、と言われた。
「えっそうなの?」
「これまで一度も料理したことないの?」
クッキー作るのって結構定番だと思ってたんだけど、と夜野さん。
私はクラスのグループチャットで吉川くんのアカウントを友達登録し、そのことを伝える。
『ごめん吉川くん。クッキーって包丁使わないみたい』
『え、本当?』
『夜野さんが言ってた』
『ちょっとインターネットで確認させて』
そういって既読が付いてから数分間は返信が途絶えた。
「今、誰と連絡とってるの?」
「吉川くんだよ。クッキー作るのに包丁使わないっていうことを教えてあげたんだ」
「なんで?」
「え、クッキー作れば卓球の試合に参加しなくていいかもしれないからだけど?」
「ちょっと待って、ちゃんと理解するから」
クッキーを作ると、クラスマッチの卓球の試合に参加しなくてもよくなるかもしれない、ってことだよね、とゆっくり復唱して確認された。
私はそうだよ、と頷く。
丁度そのタイミングで、吉川くんから返信があった。
『本当だね・・・これじゃクッキーを作っても試合に参加しないといけないことになっちゃう・・・』
「それはそうでしょ。むしろクッキー作ったらなんで不参加になるって思ったの?」
夜野さんは横からやり取りを見て呟く。
『どうしよう、このままだと卓球をすることになっちゃうよ』と送信。
「卓球を選んだのは深山たちでしょ」
なんで最初から不参加のつもりなの、という夜野さんの呟きは聞き流した。
『結局、必要なのは包丁を使うかどうかってことだよね?』
と吉川くん。
『そうだね。今重要なのは包丁を使って指を怪我できるかどうかで、卓球は問題じゃないと思う』
と私は送信。
「いや、卓球だけの問題でしょ」
クラスマッチの話でいきなり包丁が出てくるってどういうことなの、と夜野さん。
『それなら、フルーツタルトはどう?調べた感じ、包丁使ってそうだよ!』
と吉川くん。
「フルーツタルトって、生地を作るのとか面倒だし料理未経験の深山にはちょっと・・・」
『いいね!包丁も結構使いそうだし、一旦調べてみる!』
と送信。
「なんで作るスイーツの選定基準が包丁を使うかどうかなの?」
「ごめん、深山さん。私次のバス停で降りるね!」
一旦、スーパーで材料買ってくる、と言った。
「まぁ、明日は日曜日だし」
やってみれば、と呆れたように夜野さんは付け加える。
じゃあ行くから、と言って席から立とうとしたとき、吉川くんから連絡があった。
『もしできそうだったら、僕もフルーツタルト作るね!!』
「吉川くんも作るの?」
戸惑う夜野さんを置いて私はバスから降りた。




