第27話 じゃあ僕が骨折するから、深山さんはクッキーを作って指を怪我してよ!
「吉川くんはクラスマッチの競技もう決めた?」
「うーん、流石にもうそろそろ決めないといけないよね・・・」
休み時間。
隣の深山さんとクラスマッチの話をしていた。
風邪をひいた日に競技選択があったらしい。
僕と深山さんを除くクラスの全員がもうすでに参加競技を決めていた。
競技はサッカー、バスケ、卓球。
最初、サッカーはナシだと考えていたが、男子は2チームで参加するらしい。
必然的にサッカーの上手いチームと初心者チームに分かれることになる。
もし、僕がサッカーに参加すれば初心者チームになるはず。
意外と穴場。
バスケは突き指が怖いからヤダ。
しかも、僕の高校はバスケ部が全国大会に出場するほどの強豪。
僕のステージじゃないね。
最後に卓球。
参加する人が最も少ないため、ひっそりと始まりひっそりと終わるというクラスマッチの外縁。
「そもそもさ、クラスマッチってなんのためにあるのかな?」
正直、僕が読んでる作品にはクラスマッチというイベント自体があまり出てこない。
おそらくだけど、
1. 主人公が運動部じゃない
2. クラスマッチで大した活躍なんてできない
3. 活躍しない主人公にヒロインの好感度は変わらない
4. よし、主人公のためにクラスマッチはカットしよう
という作者の粋な計らいがあるのではないかと睨んでいる。
「よく考えたら、クラス対抗で競うっていう意味ってないような気がするね」
「もしかして、クラスで共通の敵を認識することによって一体感アップ!!みたいな思惑があるのかも」
「そうなると、クラス間の仲が悪くなりそうだけど」
確かに。
「正直、サッカー以外ならどれでもいいかなって思ってるけど」
吉川くんは? と聞いてきた。
「バスケ以外ならどれでも」
中学校のとき、体育の時間にバスケで突き指をしてからバスケ=怖いという認識が強まった。
「へぇ、サッカーもありなんだ」
「初心者のチームになったら、一回戦で負けて終わりになるからね」
「一回戦負けだとクラスの士気下がりそうじゃない?」
「いやほら『負けたアイツらの分まで頑張るぞ!!』みたいな感じになるかもしれないし」
そうかな、と呟いて深山さんは少し笑みを見せる。
「そっか、じゃあサッカーにするの?」
「でもサッカーってサッカー部が活躍するじゃん」
「まぁいつも練習してるし」
「サッカー部がサッカーで活躍してる姿なんて見たくないよ!」
「そんなこと私に言われても・・・」
サッカー部が活躍してるのを見るだけの主人公って情けなさすぎる。
じゃあさ、と深山さんは続ける。
「私と一緒に卓球に参加しない?」
「僕が?」
他に誰がいるの?と聞き返された。
「卓球って参加する生徒が少ないから、すぐ負ければ適当に時間をつぶせるじゃん」
興味があれば他の球技とか見に行けばいいしさ、と付け加える。
バスケもサッカーもしたくない2人がいるんだったら、ペアで卓球に出ればいいということか。
良い考えだね。
僕はすぐに了解し、一緒に担任の先生のところまで行くことにした。
職員室から出る。
「そういえばさっき、クラスマッチが何のためにあるかわからないって言ってたじゃん」
職員室を出た帰り、僕たちは廊下を歩いていた。
ちなみに担任には「卓球って人がいないから助かるわ」と言われた。
「言ったね」
「球技自体が、とかじゃなくって、終わった後とかにみんなで写真撮ったりしない?」
「したかも」
それがクラスの一体感につながるんじゃないの?と深山さん。
「深山さんは中学校のときクラスマッチがあったときにクラスで写真撮ったりした?」
「あぁ、2年の時はあったけど、1年と3年のときは記憶ないな・・・」
2年だけ記憶に残ってることってある?
「ああいうのって、友達とかの少人数で撮るから記憶に残る気がするんだよね」
そうかもね、と深山さんは頷いた。
深山さんも2年生のときだけ、友達と写真を撮ったらしい。
「しかもさ、活躍した人と一緒に写真撮りたい、みたいなこと考える人もいるわけでしょ?」
「まぁいてもおかしくないかも」
「そうなったら、活躍した人が更にモテちゃうじゃん」
サッカー部のそんな姿、僕は見たくないよ!
「なんというか、スポーツに対する僻みがすごいね、吉川くん」
まぁ私もスポーツそこまで好きじゃないけど、と付け加えた。
教室に戻ると、カーテンが開いたままだった。
日差しが眩しい。
自分の席に座り、次の時間の準備をする。
「そういえば、中学校のときのクラスマッチでクッキーとか作って持ってきてる人とかいたな」
何気なく呟く。
やっぱりいたんだ、と言って深山さんは続ける。
「私も今年は作ってみようかなって思ってるんだけどね」
「中学校のときはもらえなかったなぁ・・・」
「その言い方、クッキー作ったら渡せって言ってるようなものだよ」
少し呆れた様子で深山さんは応える。
そこまでは意図してなかったんだけど。
「でも私、料理とかほとんどしたことないから、指とか怪我しちゃいそう」
絆創膏貼った手で卓球するのもちょっとなぁ、と零した。
その手があったか。
僕は閃いた。
「手を怪我したら卓球の試合も参加しなくていいんじゃないの?!」
「ペアだから、怪我してても頑張って参加するよ?」
「じゃあ僕もクッキー作るからさ、一緒に指を怪我しよう!」
「・・・そんな誘い、初めてされたかも」
ペアになった2人そろってクッキー作って指を怪我しました、っていう理由で不参加ってどうなの、と深山さん。
確かにその通りだ。
「じゃあ僕が骨折するから、深山さんはクッキーを作って指を怪我してよ!」
「いや、そうなったら吉川くんだけで不参加認められるんじゃないかな」
私は指を怪我しないように頑張ってクッキー作るから、と付け加える。
上手くいかないね。
「そもそもさ、そんなにクラスマッチ参加したくないの?」
「そりゃそうだよ!クラスマッチがあるくらいなら普通に授業やったほうがましだって!」
「傍から見ると、真面目そうな生徒なのにね・・・」
なんでこんなに残念に感じるんだろう、と深山さんは呟いた。
放課後。
「深山はどの競技に参加するの?」
隣を歩く深山に尋ねた。
「私、卓球にしたよ」
「卓球?」
少し驚いた。
「卓球ってペアで参加するよね」
誰と一緒にするの、と聞くと吉川くん、と応えた。
「意外だな、深山のことだから参加する人がたくさんいて、自分の存在感を隠せるバスケとかサッカーとかにすると思ったんだけど」
木を隠すには森の中っていうし。
「まぁ、サッカーは絶対ないなって思ったんだけど、卓球って体育館の上の方でやるじゃん」
しかも、卓球を見に来る人なんてほとんどいないから私にピッタリ!と付け加える。
それはそれで卓球してる人に失礼な気もするけど。
「吉川くんと一緒にやるんでしょ?」
「そういうことになったね」
へぇ、と意味ありげに呟く。
「たまたま、吉川くんが球技選択してなかったし、バスケは絶対にしたくないみたいだったから、一緒に
卓球した方がいいと思っただけだって!」
なんていうの、お互いの利害が一致したっていうかさ、と言って説明を続ける。
季節には合わない乾いた風が私たちの間を通り抜けた。
まだ夕方でも明るい。
「だいたい吉川くんって物語ではモブで人畜無害そうだったから一緒に誘ったわけで・・・」
深山はまだ言い訳を続けている。
っていうか深山、さりげなく吉川くんのことディスったな。
深山家。
「あー・・・」
なんか、面倒なことになったかも。
最初に吉川くんを誘ったときは何も考えていなかったけど、よくよく考えれば、一緒に同じ球技するって、傍から見ると色々マズい?
今からやっぱ辞めます、って言えるのかな。
いや、流石に無理か。
読みかけの漫画を手に取る。
それは、学校で一番のイケメンが主人公の女の子に付き合ってくれ、と言ってから物語が始まる、いかにも少女漫画、という感じの作品だった。
「このヒーローかっこいいな・・・」
そう呟きながらぱらぱらと眺める。
吉川くんは少女漫画でよくある学校一の○○、みたいな属性が合わない。
あえて挙げると、学校一普通の生徒ってところかな。
「そんなんじゃ、私の物語は始まらないよ・・・」
その小さな声は部屋の片隅に飲み込まれた。




