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第25話 受け身という残念な主人公特性は持ち合わせていた2人。

「「あっ、傘持って来るの忘れたー」」



「「え?」」



篠突く雨。



時間帯以上に薄暗くなった校舎を背に、玄関で吉川くんと深山さんは対面していた。


考えていることは同じ。



相合傘がしたい。



そして自分はあくまでも傘に入れてもらう側だと思っていた。


一般的にはお願いをする方とされる方では力関係ではお願いをされる側の方が強い。


しかし、相合傘という点に限っては傘に入れてほしいと頼む側のほうが強い、という共通認識がふたりにはあった。



嚙み合わない需要と供給。



完全に格下だと思っていた優越感は徐々に薄れていった。



「・・・本当に傘を持ってきてないの?」


深山さんは尋ねる。


どうせ相合傘がしたいから嘘ついてるんじゃないの?

全く同じことを考えているが、自分のことは棚に上げている。


「僕は持ってきてないけど、深山さんも傘を持ってきてないってことある?」


今日の降水確率、かなり高かったと思うけど、と吉川くん。


降水確率高いときは傘を持って来る。

それは正しい。

ならば吉川くんも傘を持ってきているはずだ。


しかし2人は小心者。


自分の嘘がバレないかと言うことしか頭にない。

実際、相手の発言などほとんど聞いていなかった。



「・・・」



しばらくの間、沈黙が流れる。


これはイケる、そう思って発言した手前、いまさら折り畳み傘を取り出すことができない。



さらに雨の勢いは増していく。




「じゃあ帰ろっか・・・」


口火を切ったのは吉川くん。

雨の中、傘をささないで歩き出した。


それに深山さんが続く。


必要なのは、相合傘で生まれる距離感の近さ。

それなら傘を差さなくても雨のなか近くにいれば問題ない、という結論に至った。


相合傘をしている体なのか、ふたりの距離感はかなり近い。


しかし今は豪雨。


制服は瞬く間に雨水を吸い込み重くなる。

せめてもの救いだったのは、高校が衣替えの移行期間でブレザーを着用していたため、雨に濡れても透けないことだろう。



2人が考えていることを覗いてみよう。


吉川くん: やっば、めっちゃ距離感近いんだけど!!

深山さん: 今の私、完全に少女漫画の主人公してる!!


ずぶ濡れの自称主人公、格下相手に大興奮である。



ちなみに相手のことなど全く考えていない。

授業中の気まずい沈黙など気にせず、ひとりで盛り上がっていた。



「「あっ」」


ふとした瞬間、互いの手が当たる。


「「ごめんっ!」」


すぐに謝る。


相手の手の感触を思い出しながら歩き続けた。



ふたりとも、この状況に酔っている。



相合傘をしてると2人は思い込んでいるが、相合傘はしていない。

雨の中、傘もささずに笑みを浮かべているだけだ。


傍から見れば、さぞ奇妙に見えただろう。


そうこうしているうちに、分かれ道まで来た。

こっちだから、と言って別れる。




家に到着。




成し遂げた偉業を胸に、満ち足りた気分でお風呂へと向かう。

しばらくして冷静になってきたころ、2人は1つの疑問を抱えていた。


『帰ってる途中、なんか喋った?』


実際、「あっ」と「ごめん」しか言っていない。


ラブコメでも少女漫画でも、気まずい沈黙を紛らわせるために学校や友人、家族の話をしながら下校することが多い。


だがあの状況に盛り上がっていたため、話すことを完全に忘れていた。



向こうが話さないのは違うじゃん。



受け身という残念な主人公特性は持ち合わせていた2人。


ふつう話しかけてくるのは向こうのはず、という結論を出す。

とはいえ、その出来事自体には満足していたため、深く考えることもなく宿題を片づけてから床についた。





翌日。


昨日とは打って変わってすがすがしい晴天。

窓の外にはほのかに雨が降りやんだあと特有の匂いが漂っていた。


2人は「うっ」と小さなうめき声をあげて起床し、額に手を当てる。


「「めっちゃ頭痛い・・・」」

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