第21話
1時間目 英語表現
楠本くん
英語って学ぶ必要ある?
別に日本で生活している分には日本語でコミュニケーションができてるんだから問題ないじゃん。
海外に行くと苦労するっていうけど、別に海外に行くつもりないし。
ていうか、海外が来いよ、俺の家まで。
2時間目 古文
深山さん
現代文の物語はそんなに得意じゃないんだけど、古文の物語は結構得意。
作者がどう思って書いたのかという背景を踏まえて読んでると、理解しやすい。
今日は『源氏物語』を扱うみたい。
紫式部の作品だよね。
内容は良く知らない。
教科書に本文があって、解説がその後ろに載っている。
何気なくページをめくると、人物相関図が光源氏を中心にクモの巣みたいに広がっていた。
・・・紫式部さん、何を思ってこの作品を作ったの?
3時間目 数学
瀬野くん
なんだあの目力。
教師である私は顔が怖いと先生の間で有名な瀬野くんから目が離せなくなっていた。
「・・・この二次方程式は、平方完成をすることで頂点を求めることになります」
動揺を悟られないよう、丁寧に説明する。
それじゃあ、と言って私は黒板を見る。
「今日は14日なので、出席番号が14番の人は?」
私はその日の日付でどの生徒に当てるかを決めることが多い。
高校生の頃、先生たちがそうしていたからなんだけど。
瀬野くんがまっすぐ手を挙げた。
私にはわかる。
瀬野くんは『あっち側』の人間だ。
「・・・じゃあ、瀬野くんの後ろのあなた、答えは分かる?」
機転を利かせて、彼の後ろにいた生徒に当てた。
4時間目 科学と人間生活
吉川くん
僕は空腹に耐えていた。
今は授業中。
ここでおなかを鳴らすと、恥ずかしい思いをしてしまう。
ゆっくり息を吸って、おなかが鳴らないように細心の注意を払う。
しかし人間の身体は偉大だ。
小さかったもののおなかの音が鳴ってしまった。
すかさず挙手する。
「先生、今の僕じゃないです!」
「それを否定してるのって、吉川くんが犯人って言ってるようなものでは?」
昼休み
深山さんと夜野さん
「ねぇ、次移動教室だから、そろそろ行かないと遅れちゃうよ?」
「深山が連れてってよ」
半ば冗談でそう呟く。
「私、流石にお姫様抱っこして夜野さんを連れていくことはできないよ!」
普通、おんぶが最初に出てくると思うんだけど。
「でも1時間かけて頑張ればお姫様抱っこして教室までいけるかも!」
「他の授業中の生徒に見られるの恥ずかしいって」
しかも授業終わっちゃうじゃん。
仕方ない、行こうか、と言って私は立ち上がった。
5時間目 地理総合
寺田くん
「おい寺田、いつまで寝てるんだ!」
「あっ、すいません!!」
ビクっと身体を震わせてから、寺田は起き上がった。
「お前、いつも寝てるよな?」
どうしてだ、と寺田に尋ねる。
この生徒はどの授業も寝ていると教員の間で有名だ。
ひとつ、灸を据えてやろう。
「本当にすいません!!」
寺田は応える。
「だから、どうして寝てるのかって聞いてるんだ!」
怒っている雰囲気を出して問いただす。
すみません、と言って寺田は続ける。
「先生の授業が本っ当につまらなくって、つい寝ちゃってました!!」
そんな真正面から授業がつまらないって言われたの、教員になってから初めてだわ。
「・・・わかった、わかったから、次からは寝ないようにするんだぞ」
傷心を隠すため、落ち着いて言った。
え、俺の授業ってそんなにつまらない?
その後、何事もなかったかのように授業を再開する。
ちらっと寺田の方に視線を向けた。
おい寺田、もう寝てるじゃないか。
まだ5分もたってないぞ。
6時間目 情報
夜野さん
やっぱり、時計の針を見てると時間流れるの遅くなってるよね。
今は情報の時間。
情報は最初、インターネットがどうとか、どういう風に情報を送受信しているかといった基本的なことを教わる。
小学生でもSNSをやってるような今、こういう内容を教える必要なんてあるのかな。
「それでは、隣の席の人とインターネットなどを扱う上で困ったことを共有しましょう」
そういって、ペアワークを促される。
隣の人と話すとかかなり苦手なんだけど。
しかし、授業中に全くペアワークをしない、というのは隣の生徒にも悪い。
隣のおとなしめの生徒と向き合う。
「コメントで悪口とか言われたら、結構傷つくよね」
本当にイヤだよね、と私は大きく頷く。
「何かインターネットで困ったことがある?」
夜野さんは、とおずおず聞いてきた。
特に深く考えずに応える。
「画面のキャプチャ範囲のヤツをミスって映像だけ固まってたときとか」
「・・・へぇー」
つい、昨日やってしまったことを零してしまった。
音声だけで満足してくれないかな、と思ったが、コメント欄で悪口を言われるのはごめんだ。
そのため、昨日の動画は泣く泣くボツにした。
・・・今日はミスらないように頑張ろ。




