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第20話

ねっむ。


昼休み時間。


隣にいる深山の話に頷きながら、うつらうつらとしていた。

昨日はベッドに入ったのが午前2時とかだったから、多分5時間くらいしか寝ていない。


5時間目が始まるまであと15分。


深山を適当にあしらえば、少なくとも10分は眠ることができるはず。


「・・・あのさ、」


そういって深山に話しかけようとしたとき、どこからか聞こえたある言葉で私の目は完全に冴えた。


「吉川、お前さ、ゲーム実況者の“ミュー”っていう人知ってる?」



私のチャンネルの話をしてるんだけど。



中学生の時から私はゲーム実況を投稿している。

なんで始めたのかはよく覚えていない。


多分、承認欲求だったと思う。


最初はほとんど見られなかった。

でも今はそれなりにチャンネル登録者数が増えた。


普通に運が良かったのだと思う。


チャンネルのミューという名前は、数学の記号をランダムに入れてルーレットで決めた。


今思えば、シグマとかオメガみたいな硬い名前じゃなくって良かったと思う。


パイとかだったら、「なんだコイツ?」と思われて、ある意味人気になったのかもしれない。


ネットのおもちゃとして。



そういえば、私のことを話している生徒は誰なんだろう。

声がする方をちらっと見ると、楠本くんだった。


話に耳を澄ませる。



「それで楠本くんはこのゲーム実況者の何が好きなの?」

「この人さ、ゲーム実況者なのに死ぬほどゲーム下手なんだよ。」


え、そんなにゲーム下手?

こっちの認識と違うぞ。


「そんなゲーム下手な人の実況って見てて面白いの?」

「いや、この人がミスるたびに言い訳しながらゲームをしているのが面白いんだよ。」


いや、言い訳はしてるかもしれないけど。

そこがセールスポイントじゃないって。


「わざわざ人の言い訳とか聞きたくないけどね」

普通に聞いてて不快じゃない?と付け加える。


吉川くん、さっきからかなり辛辣だな。

実況始めたての頃にそんなコメントがされてたら、返信して噛みついてたぞ。


「正直さ、この人話すのは下手なんだけど、言い訳の引き出しだけはたくさんあるんだよ」

聴き心地が良くって、と楠本くん。


それ、ゲーム実況者という以前に人としてどうなのかな。



例えば、と言って楠本くんは切り抜き動画を吉川くんに見せた。


切り抜き動画は元動画を編集して投稿しているものだ。

他の人に見てもらえるきっかけになれば別にいいか、と思って私は黙認している。


だから私はその動画を初めて知った。


その切り抜きは、私がゲームの難易度を選択しているときのものらしい。



冒頭。


『えー難易度はイージー、ノーマル、ハードの3種類か・・・常に高い景色を目指しているんで、ハードで行こうかなって思ってたんですけど、地に足付けて物事を考えないといけないって言うじゃないですか。ノーマルにします。』



数分後。


『初心忘るべからずっていう言葉があるじゃないですか。達人って言われる人ほど、初歩的なところから始めるっていうので、イージーにしましょう。』



別の動画。


『えっと、難易度はノーマルと非常識(Insane)ね・・・常識的な人間の私はノーマルにします。』



また別の動画。


『難易度はイージー、ノーマル、ナイトメアですね。このゲームは得意なのでナイトメアでも正直楽勝なんですけど、最近寝不足なんですよね。夢見が悪いのは困るのでノーマルにしましょう。』



さらに別の動画。


『今日はちょっとアレなんで、イージーで。』



私、こんなに言い訳してた?

最後とかもはや言い訳にすらなってなかったぞ。


しかし、楠本くんは、

「な、この人めっちゃ面白いだろ?」

と満足気だ。


吉川くんはそうかな、と納得がいっていないようだった。


ほら、やっぱ楠本くんがおかしいんだって。

でもこういう人がいるおかげで私の動画が再生されてるわけだよな。


この状況って喜んでいいの?

しかし、布教するほど熱心な視聴者はありがたい。


とりあえず、楠本くんには感謝しておこう。



楠本くんたちの話はまだ続く。


「俺さ、ミューのこと好きすぎて『ミューさんが苦しむ姿って本当に良いですよね』ってコメントしちゃったよ」


楠本くん、もしかしてアンチ?


でもこういう勘違いされそうなコメントって返信欄で叩かれてることが多い。

『勘違いするようなコメントはしないでください!』みたいな返信があったり。


返信欄で100件超えて喧嘩しているやつとかたまに見る。


「そういうのって、ファンの人に誤解されて怒られない?」

「いや?1,000件くらいのいいねが付いただけだったけど」

返信もなかったな、と楠本くん。


そんなことある?

・・・私のチャンネル、悪質な利用とかされてないよね?



気になったのでSNSで#ミューで検索してみる。

こんな投稿が目についた。



『今回の #ミュー さんの動画、ずっと泣きそうな声でめっちゃよかったです!!』


え、マジでそう思われてるの?



『悲しいことがあったときに #ミュー さんの声を聞くと、世の中にはこんなに大変な思いをしている人がいるんだなって感じて、吹っ切れることができました!!』


そういうのって、新興国のドキュメンタリーとか見て感じることでしょ。



『ずっと泣いててほしい #ミュー』


もはや隠す気ゼロだな、コイツ。



「楠本くんはこの人の動画を結構見てるの?」

吉川くんが尋ねる。


「もちろん。でもこの人の実況眠くなるんだよなぁ。だから、寝るときにこの人の実況を流してる」

最後の方まで見た動画は一本もないかも、と呟いた。



私の動画、睡眠用BGMにされてるんだけど。



そうこうしているうちに、5時間目の予鈴が鳴った。


「それでね、私が廊下を歩いてた時に・・・」

深山はずっと話をしていたみたいだ。


こっちが何も反応しなくても話し続けることができるってすごいな。

そのトークスキルは素直に羨ましい。



「ほら、次は移動教室だからさっさと準備して」


深山を席に戻らせ、引き出しから教科書とノートを取り出した。





家に帰る途中、さっきの切り抜き動画を確認し、楠本くんらしきコメントをしているアカウントを発見した。



ユーザー名は、『チャンネル登録で最新ゲーム機プレゼント!』



・・・俗っぽすぎるでしょ。


ちなみに、公開されている再生リストの中には、私の全実況動画が入ってあり、「睡眠用」というタイトルが付けられていたものがあった。





家に着き、学校の鞄をベッドに向かって放り投げる。


「今日も実況撮らないと」


着替えながら小学生の時に買った勉強机の下にあるPCとやけに高かったミキサー、そしてネットで適当に見繕ったマイクに何気なく視線を向けた。


「今日は、5年くらい前にSNSで話題になったホラーゲームをやろうと思ってたんだっけ」


私は椅子に座り、収録するための準備を始める。


そういえば、今日の宿題ってかなり重ためじゃなかった?

実況を撮り終わって編集してからで間に合うかな。


「右、左、上、下、左、左」


録画開始ボタンを押し、声がちゃんと入っているか確認する。


「・・・・」

音合わせのところは後でカットするため、少し間を置く。

ズレてたらあとで直すしかない。


今日はいろいろあって頭がごちゃごちゃしているけど切り替えよう。



椅子を少しだけ、机に近づけた。





数日後。


「ミュー、また動画出してるじゃん」


ベッドに入って動画投稿サイトを眺めていると、ミューの最新動画が流れてきた。



数年前に話題になったホラーゲームをやっている。


眼を閉じて、俺は声とゲーム音だけに意識を向けた。


『ゲームの難易度は・・・あっノーマルしかないですね。今日はハードでもナイトメアでも全然いけるっていう気分だったんですけど、まぁノーマルしかないんだったら仕方がないか。じゃ、ノーマルで。』

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