第114話 シュレディンガーの猫はどうやっても猫
「今回の期末テスト、縛りプレイでやろうと思ってるんだよね」
「縛りプレイ?」
尋ねるとすぐに寺田くんが頷く。
一呼吸おいてから、寺田くんは続けた。
「全く勉強しない状態でも良い点数を取れるかって」
「平常運転じゃねぇか」
すぐに楠本くんが応えた。
今日は珍しく4人で帰宅していた。
サッカー部はテスト準備期間だから部活動は休みらしい。
「マジでこの期間ってやることないよね」
「勉強があるだろ」
何のための準備期間だ、と楠本くん。
寺田くんによると、テスト明けの練習は本当にきついらしい。
この期間は運動しないから身体が鈍るとか。
「勉強するって言っても、全然やる気でないよね」
「間違いないね」
大きく頷いた。
勉強するために高校に来てるんじゃないんだって!
「俺はむしろ最近の方が勉強のやる気出るけどな」
黙って歩いていた瀬野くんがぼそっと呟いた。
「縛りプレイしてるから?」
「縛りプレイならそもそも勉強しないだろ」
「そうじゃなくって、」と言って瀬野くんは続ける。
「最近学んでる単語ってかっこ良いだろ」
なんか技名っぽくて、と付け加える。
「例えば?」
「『見えざる手』とか、不可視の攻撃みたいな感じするだろ」
見えざる手は最近習ったな。
「僕からすると、『見えざる手』はむしろ成人向けコンテンツっぽいけどね」
「手だけ不可視でも身体が見えてたら意味ないけどな」
寺田くんに楠本くんが応える。
「まぁ、そういう感じで面白そうって思うのが重要だと思うわけだ」
割と真面目なアドバイスだね。
「他に必殺技っぽい単語ってあったっけ?」
「習ったわけじゃねぇけど『絶対零度』とかかっこよくないか?」
英語に直すと”Absolute zero”だぞ、と楠本くんは補足する。
「実際さ、絶対零度って何度なの?」
「マイナス何百度とかだったと思うぞ」
相手を凍らせる魔法って感じかな。
「クールな中ボスが使ってそうだね!」
「あんまり強くねぇじゃん」
凍らせるのは中盤から終盤のボスっぽい。
「ラスボスが使ってそうな技だったら間違いなく『永劫回帰』だろ」
なにそれめっちゃかっこいいんだけど。
壮大なBGMが聞こえてくる。
「どういう意味なの?」
「俺も詳しくは覚えてないんだけど……」
そういって瀬野くんが簡単に説明してくれた。
「英語で言えば”Eternal Return”だな」
エターナルってところがかっこいい、と瀬野くん。
「僕ならもっとかっこよくできるね!」
「どんな感じで?」
寺田くんに尋ねる。
「”Eternal Return to Absolute zero”なんてもう厨二病の人たち大歓喜でしょ」
「安直に混ぜるな」
楠本くんがすぐ反応した。
ていうか、エターナルなのにゼロに到達するってなに?
「技ではないけどさ、ラスボスっぽい単語とかもあるよね」
「例えば?」
「最近習ったヤツだと『リヴァイアサン』とか」
『リバイアサン』ではなく、『リヴァイアサン』っていうのがポイント。
「ていうか実際、リヴァイアサンって怪物じゃなかったっけ?」
旧約聖書に出てくる巨大な海の怪物って聞いたことあるぞ、と楠本くん。
「なんでそんなこと知ってるの?」
「授業中先生が言ってただろ」
そんなこと言ってたっけ?
「そうなってくると『ラプラスの悪魔』は外せないな」
「あっそれ聞いたことあるかも」
瀬野くんに応える。
「そもそも『ラプラスの悪魔』のラプラスって何なの?」
「数学者の名前らしいぞ」
寺田くんに瀬野くんが応える。
「人の名前プラス生物、っていうヤツなら僕も知ってるよ!」
「シュレディンガーの猫はどうやっても猫だろ」
ラスボスっぽくないぞ、と楠本くん。
寺田くんが言う前に終わったな。
そういえば『モラルハザード』ってほぼ某ホラゲーのタイトルだよね、みたいな話をしながら、しばらく雑談をして歩いた。




