第115話 家に行ったことあるの?
「なおきくんって今回のテストの成績ってどうだった?」
「総なめだね」
「え、めっちゃ成績良かったの?」
星宮さんが驚く。
「いや、全科目をナメて受けたからあんまり良い点数じゃなかった」
「その意味で総なめを使ってる人、初めて見たんだけど」
私も初めて見た。
放課後、すでに教室には人がほとんど残っていなかった。
深山さんは夜野さん、明空さんと一緒に教室を出て行った直後。
「秋谷さんはどうだった?」
「私はいつも通りだったかな」
正直に応える。
「秋谷さんの『いつも通り』は信用できないよ」
良い成績だったってことだから、と吉川くん。
……まぁ、いつも通りの成績だ。
「ずっと気になってたんだけどさ、」
私に向かって吉川くんが続ける。
「なんで秋谷さんってそんなに成績良いの?」
中学校の頃からじゃん、と補足した。
「勉強するのは嫌いじゃないし」
普通に勉強してるからってだけだよ、と説明した。
文理選択のときに吉川くんと同じ選択ができるように頑張ったっていうのもある。
でも勉強は中学校の頃から嫌いではなかった。
「じゃあ勉強が嫌いな僕はどうすればいいですか?」
「そんなこと私に聞かれても……」
自分で頑張る理由を見つけた方が良いんじゃない?
私みたいに。
「モチベーションを高めるためには、他の人の存在が必要なんじゃない?」
星宮さんが切り出した。
そうだと思う、と私は頷く。
私の場合は吉川くんだった。
「そうなってくると勉強会か」
真面目な表情で吉川くんが応える。
「他の人に見られていた方が集中できるって言う人もいるよね」
「そうそれ!」
私、絶対そのタイプなんだよね、と星宮さん。
「だから今度のテストのときは勉強会をしよう!」
前みたいに、と呟いた。
「前にもやったことあるの?」
なるべく自然に尋ねる。
「うん、なおきくんの家に行ったんだよね」
えっ?
「……吉川くんの家に行ったことあるの?」
「1回だけね」
いや、1回でもダメでしょ。
「中1の時ってこと?」
「そうそう」
ちょうど二学期の中間テストのときくらいだったかな、と補足する。
「いや、勉強会って言う体だったけど、全然勉強しなかったじゃん」
吉川くんは星宮さんに応える。
勉強会をしないですること?
……え、マジ?
「ラブコメの話で時間が潰れちゃったからね」
「絶対図書室のほうがよかった」
家だと集中できないし、と吉川くんが呟く。
そっちね。
本当に良かった。
それなら今度するときは図書室でしようか、と言って星宮さんは笑みを見せた。
「そのときはもちろん秋谷さんも!」
「ありがと」
ぎこちない作り笑いを見せた。
上手く口角を上げることができたかわからない。
「じゃあそろそろ帰るね」
「バイバイ」
すぐに星宮さんは教室から出て行った。
階段を下る音が聞こえてから、すぐ吉川くんに向き合う。
「……さっきの話ってマジ?」
「さっきのって?」
「中1のときに星宮さんが家に来たってヤツ」
逆にそれ以外ないでしょ。
「勉強会っていう形で来たね」
「そっか」
小さく呟く。
でも、と言って吉川くんは続けた。
「星宮さん、テスト前に転校しちゃったからね」
「テスト『前』に転校したの?」
「そうだね」
すぐに吉川くんは頷いた。
「ちなみに星宮さんの転校を知ったのはいつ?」
「うーん、正確には覚えてないかも」
「勉強会の前か後かくらいは覚えてない?」
そう尋ねると吉川くんはさらりと答えた。
「後だったね」
いきなり転校するって話が出てびっくりした、と零す。
頭が高速に回転し始める。
引っ越しはおそらく相当前から決まっていたはず。
少なくとも、数日前にいきなり決まったということは考えられない。
転校の日にちもわかっていたのであれば、自分が中間テストを受けないことは把握していたはず。
でも星宮さんは転校のことを伝えず、勉強会の体で吉川くんの家に行った。
それが意味していることは——
「秋谷さんはもう帰らないの?」
「あ、ちょっと待って」
吉川くんを呼びとめる。
「……そういえば吉川くんの誕生日ってもうちょっとだよね」
「うん」
「7月4日でしょ?」
「そうだよ」
よく覚えてるね、呟いた。
当たり前だ。
忘れるはずがない。
「その日って日曜日じゃん」
「うん」
だからさ、と言って一呼吸おいてから私は口にした。
「……誕生日プレゼント渡したいから、吉川くんの家に行っていい?」
*
「そういえば深山さんって誕生日いつ?」
「7月5日」
来週の月曜日じゃん、と明空さんが応える。
私は深山と明空さんと一緒に帰っていた。
たまにこういう日もある。
「そういえば、吉川くんの誕生日は7月4日らしいよ」
「えーマジ?」
一日違いなんだね、と驚く。
明空さんがいるときは基本的に話をしなくていいので助かる。
まぁ深山と一対一でもそこまで話さないけど。
「誕生日プレゼントとか交換したら面白そうじゃない?」
それとなく明空さんが提案する。
誕生日が近いだけでそんなことを普通の高校生がするわけがない。
「一応、誕生日を知っちゃった以上は何かしないとな、とは思ってるんだよね」
「律儀じゃん」
それをすることは正しい、という方向性で明空さんは応える。
逆に、それをしないことは律儀ではない、というニュアンスもあるんだろう。
本当に囲い込みが上手い人だ。
わざわざ首を突っ込まなくても良いと思うけど。
「吉川くんは深山さんの誕生日を知ってる感じ?」
「うん」
覚えているかどうかはわからないけど、と付け加える。
「なにを渡すのか決めた?」
「飲み物とちょっとしたお菓子くらいでいいかなって」
「いいね!」
そういうちょっとしたのが一番嬉しかったりするよね、と明空さん。
「これで、私が何も貰えなかったらショックかも」
「そのときは学校の自動販売機で散財してもらおう」
絶妙な嫌がらせだね、と言って深山は笑みを零した。




