第109話 パンダみたいな名前だね。
「おっも」
「あーそれ、寺田の机かも」
「あいつ教科書を持ち帰らないから机重いんだよな」と楠本くん。
「俺が運ぶわ」
「たすかる」
すぐに楠本くんに運んでもらった。
掃除時間、学年が変わっても掃除担当場所は変わらない。
私は2年になっても教室掃除をしていた。
昼休みが終わった後に移動しなくていいから助かっている。
楠本くんも同じ教室掃除だ。
サボってもバレないから、教室掃除にしているのではないかと私は睨んでいる。
私もサボってバレないから教室掃除にしてるし、同じ穴の狢ってヤツだ。
机を置いてから、楠本くんは口を開いた。
「ていうか前から思ってたんだけど、なんで夜野さんって休み時間とか寝てるの?」
「まあ眠いからだね」
素直に答える。
「俺、今後ろの席じゃん」
「うん」
今回の席替えで楠本くんが後ろの席になったけど、それはどうでもいいことだ。
これまでも近くの席になったことはあるし。
「で、休み時間とかでプリントを回すときあるじゃん」
そのときに私の前の席の人からプリントを貰うからちょっと手間だったらしい。
「ごめん、マジで気づかなかった」
「いや、別に眠いんだったら寝ればいいと思うんだけど」
楠本くんは壁に重心を預けて腕を組んだ。
よくそんな堂々とサボれるな、と思いながら続ける。
「寝不足なのは、遅くまでゲームしてるからかな」
「へぇ、どんなゲーム?」
名前は聞いたことあると思うんだけど、と言って私はそのゲームを教えた。
「あー、それ俺もたまにやってるヤツだわ」
「マジ?」
有名ではあるけど、周りでそのゲームの話を聞いたことがないので少し驚いた。
「俺、音ゲーとかあんまり得意じゃないんだけどさ、新曲とか頻繁に出すじゃん」
「出すね」
「だから気になってる曲が出たら起動するって感じだな」
曲から入るタイプらしい。
「夜野さんってガチ勢?」
「いや、そこまでやり込んでるわけではないね」
好きなキャラの為にガチャを回してる感じだし。
「だったらさ、いまキャンペーンでフレンドと一緒にプレイしたら無料で10連ガチャ引けるみたいなヤツあるじゃん」
「あるね」
「あれ、一緒にできる?」
楠本くんは自然に誘ってきた。
私のリスクマネジメント本能が色々囁いてる。
楠本くんって私の視聴者なわけだし、なるべく関わらない方がいい気もするし。
「周りでやってるヤツがマジでいなくってさ」
「そうなんだ」
情報を入手しつつ、どうするべきか考える。
「ネットの友達とかは?」
「いないな」
よく知らない人と繋がることは怖いかららしい。
そこは真っ当な感性を持ってるんだね。
「どうしても今回の期間限定ガチャで引きたいキャラがいるんだよ」
「誰?」
教室を見回してから、楠本くんはスマホを操作してこちらに見せる。
私の好きなキャラ『そうくん』の妹だった。
どちらかと言えばメインキャラ寄りだから、そこそこ頻繁にガチャに入ってくる。
「このイラストはマジでヤバくね?」
「ヤバいね」
有名な絵師さんが書いたイラストだ。
「これは絶対に欲しいんだよ」
「なるほどね」
無料ガチャの10連にかける熱い思いは伝わった。
「このキャラが好きって感じ?」
「さっきも言ったけど、そこまでやり込んでるわけじゃないんだよ」
一目惚れ的な感じで今は好きって感じらしい。
なるほど。
私のリスクマネジメント本能はゴーサインを出した。
「それなら一緒にやってみようか」
「マジで助かる」
楠本くんは頭を下げる。
掃除時間が終わり、自分の席に戻った。
「とりあえず楠本くんのユーザーネーム教えてよ」
「『ランラン』だな」
「パンダみたいな名前だね」
適当に付けた名前らしい。
まあ、自分の名前をもじるよりはよっぽど安全だと思う。
この時代、何があるか分からないからね。
フレンド申請を送る。
「あれ、さっき夜野さんってガチ勢じゃないって言ってなかった?」
スマホを見ながら、楠本くんは口にした。
「ガチ勢じゃないよ」
「でもここに出てるキャラ、全員排出確率めっちゃ低くなかったっけ?」
「ていうかレベルめっちゃ高いし」と楠本くん。
「キャラは普通に運が良くって、レベルはやってたらいつの間にかって感じかな」
本当は課金をしまくってて、せっかく課金したんだし遊ばないともったいないよなって思ったからなんだけど。
「今日の夜とか大丈夫?」
「時間次第かな」
収録もあるし。
「それなら8時頃に1戦だけ」と楠本くんが言ったので私は頷いた。
授業が終わり、下校時刻になる。
椅子から立ったとき、後ろの楠本くんから「じゃあ後でお願いします」と言われたので、軽く返事をして教室から出る。
今日は深山と一緒ではないので、早歩きで帰る。
いつもより10分早く帰宅することができた。
「とりあえず、収録を終わらせないとだよね」
帰宅してから、すぐに収録の準備を始めた。
8時からって言われたから、大体2時間30分は猶予がある。
Part 2の収録だから、そこまで気合を入れて収録に臨む必要がない、というと語弊があるかもだけどPart 1よりは気持ちが楽。エンコード以降の作業は後回しにして、それ以前の収録と編集のを終わらせることを目標にする。
できれば宿題も片付けた状態で8時を迎えたかった。
7時30分、思ったよりも早く片付けることができた。
収録が順調だったから、Part 3までやろうかなと思ったけど流石にやめた。
編集をしない動画を残しておくのが怖かったし。
食事も済ませ、かなり良いコンディションである。
「このキャラもだいぶニッチだな」
キャラのイラストを見ながら時間を潰していた。
メインキャラの友だちというポジション。
そして私の好きなキャラはその友だちの兄となっている。
Wikipediaには3行程度の説明のみ。
ちなみに私の好きな『そうくん』はWikipediaに載っていない。
8時になった。
システム的にはオンラインのフレンドに一緒にプレイしましょう、みたいなボタンが出てくるから、それを承認すると一緒にプレイできるという感じだった。
すぐに『一緒にプレイしましょう』通知が来たので承認する。
そしてすぐに1戦を開始し、それなりのスコアを出して終わった。
キャンペーンのボーナスを受け取る。
今回のものは有効期限が設定されていたので、特に何も考えずにガチャを回す。
「……あっ」
思わず声が漏れた。
楠本くんが欲しがってたキャラが出たからだ。
このキャラって排出確率かなり低いって話聞いてたんだけど。
まぁ貰えるものは貰っておこう。
このゲームではフレンドとチャットができるので、『欲しいキャラ出た?』と尋ねると、『出なかった』と淡泊な返信が来た。
まあそんなこともあるよね。
『課金しようかな』
『やめといた方が良いよ』
私が言う事じゃないけど、いちおう楠本くんに伝えた。
『一緒にしてくれて助かったわ』
『どういたしまして』
そこで私たちの会話は終わった。
すぐに楠本くんのアカウントはオフラインになる。
「これくらいなら大丈夫かな」
スマホの電源を消してベッドに置いてから、私は動画編集の作業に戻った。




