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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第106話 一番前の真ん中の席が最強!

「席って隣のほうがラブコメっぽいじゃん」

「大体はそうだね」


たまに違うのもあるけど。


「個人的には、だよ?」

「うん」


星宮さんに頷く。


「主人公がヒロインのことを好きになるんだったら、前側の席が一番穴場なんじゃないかって思うんだけど」

「穴場っていうのそれ?」


全然隠れてないけど。



休み時間、僕と星宮さんで話をしていた。

深山さんは席を立っていて、秋谷さんは他の女子と話をしている。


「その前にちょっと良い?」

「どうしたの?」

「星宮さんさ、めっちゃこっち見て話してくるじゃん?」


星宮さんは完全に僕の方に身体を向けている。


「気まずくない?」

「いや、気まずいって本当に思ってる人はそんなこと言わないって」


人の目を見て話しなさいっていう最低限の礼節を重んじてるだけだから、と星宮さん。でも休み時間の雑談でそんな真面目に守る必要あるかな。


「で、さっきなんて言おうとしてたの?」


話を元に戻す。


「ヒロインが隣に座る、みたいなヤツって本当にベストなのかなって」

「様式美だと思うけど」

「今から私、大事なこと言うよ?」

「メモ取った方が良い?」

「ボイスメモを用意して」


こっちは冗談で言ったつもりなんだけど。


「それで?」と話を促した。


「主人公から見てヒロインって間接視野にしか入らないわけじゃん」

「隣だったら、ってことだよね」


星宮さんは首を縦に振る。


「主人公の視界に一番入るのはどこですかって話」

「前の席なんじゃないの?」


その通り、と星宮さんは小さめに拍手した。


「なんの話?」


深山さんが戻ってきた。


「実は隣の席より前側の席の方がヒロインのことを好きになるんじゃないかって話だよね?」

「そうそう」


星宮さんは頷く。


「あーそれは私も前々から疑問に思ってたんだよね」


同じ問題意識を持つ人がこんな近くにいたとは。


例えばさ、と言って深山さんはノートを取り出した。

僕たちは深山さんのノートが見える位置まで少しずれる。


「完全に囲まれてる席だとするじゃん」


そう言って深山さんは9個の四角を書く。


「今だったら秋谷さんとか囲まれてるけどそう言う感じ?」


星宮さんが尋ねて深山さんは頷く。

秋谷さんはちらっとこっちを見たが他の人と話を続けた。


「で、真ん中に主人公がいるとするじゃん」

「ほう」


ちなみに黒板はこっちにあるイメージね、と言って長方形を書き込む。


「そして主人公が座ってる位置を中心とした円周上に他の席があるとする」

「かっこいい表現してるね」


円周上ってところが。


「円周から中心までの距離は全部同じだったら隣の席だと距離が近いっていうメリットはなくなると思う」

「実際さ、席って全部同じ距離にあるんだっけ?」

「一旦測ってみようか」


測った結果:

吉川-深山: 約50センチ

吉川-星宮: 約60センチ


完全な円ではないらしい。


「じゃあ前の席が一番良いって感じか」

「席次第でもあるけど」


実際、苦手な人が隣にいたらちょっと席離そうかなとか思ったりするし。


「ここで出てくるのが単純接触効果だよ」

「あっそれ聞いたことある」


星宮さんは深山さんに呟く。


何度も見たり聞いたりすることで好意的な印象が生まれる、みたいなヤツだろう。


その効果について僕はかねてから疑問視している。


だってその法則に従えば、幼馴染ヒロインが必勝するはずじゃん。

でも実際はそうじゃないから、単純接触効果は単純に接触しているだけなのでは?


「さっき黒板を書いたのには理由があってね」


そう言いながら深山さんは真ん中の席の上に円を書きこむ。


「ちょっと調べて欲しいんだけどさ、人間の視野って何度くらいある?」

「マックスで200度らしいよ」


僕が調べる前に星宮さんが口にする。


「でも、間接視野で入ってくるのってほとんど見えないじゃん」

「そうだね」

「実際、それなりの情報が見えるのは何度くらい?」

「有効視野というものは大体70度って書いてあった」


有効視野ゆうこうしやとは、「ヒトが眼を使い、生理的視野中心付近に固視点(注視点)を設けている際に外界から有効に情報を得られる範囲」のこと (参照: Wikipedia)


ちゃんと見えてる範囲って感じかな。


「授業中は基本的に黒板見るわけじゃん」

「うん」

「で、黒板が真正面にあるって考えると……」


そう言って深山さんは主人公と黒板を結ぶ逆三角形を書いた。


黒板左端が角度A

黒板右端が角度B

主人公がC


となっている。


「主人公の有効視野ってヤツがマックス70度だから、他の角度は55度ずつの二等辺三角形になるわけ」

「なるほどねー」


星宮さんは手を顎に当てながらそのノートを見た。


「この主人公の視野の中に入ってる席が単純接触効果の観点からも良いんじゃないかな?」

「そうなると主人公の前とギリ斜め前のところも入るって感じか」


そうだね、と深山さんは頷く。


僕の席だったら、深山さんと秋谷さんが入ってきそう。


「もし単純接触効果を利用して皆から好感度を勝ち取ろうとする策士が現れた場合、」

「だいぶ理論的な人だね」


話を遮らない程度に呟く。


「どの位置からでも有効視野の範囲に入る席がベストになるはず」


そうだよね、とこっちに確認してきた。

多分そうなんじゃない?


「そうなってくると……」


深山さんは9個の二等辺三角形を書き込んだ。

ノートがごちゃごちゃしてきたぞ。


「一番前の真ん中の席が最強!」


ここに座れば誰もが単純接触効果でメロメロに! と深山さん。


「そんな魔法みたいなことは起きなさそうだけど」

「あとその席、席替えだったらはずれの席だね」


星宮さんと僕は呟く。


次の授業開始を知らせるチャイムが鳴ったので、話はそこで切り上げた。

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