第104話 あーこれは『抹消するぞ』って意味だな。
「ずっと思ってたんだけどさ、グループチャットでの僕の扱い雑すぎない?」
スマホを見ながら僕は口にした。
今は昼休み時間、僕たち4人はご飯を食べながら雑談をしている。
「そんなことないと思うけどな」
「まず瀬野くんは返信しないでしょ?」
瀬野くんはだいたい2日後くらいに返信がくる。
このネット社会でどうやって生き延びているのか疑問だ。
「俺はちゃんと素早く丁寧に返信してるぞ」
「ビジネスメールと双璧を成す俺の返信を見てみろ」と楠本くんは豪語する。
「楠本くん返信って本当に丁寧?」
「もちろん」
「これを見ても?」
吉川: 明日のテストの範囲ってどこまでだっけ?
楠本: 1~300
「これ、教科書の全ページじゃん」
「間違ったことは言ってねぇだろ」
言ってないけど、有益な情報ゼロって丁寧じゃないでしょ。
「あと楠本くんって1文字で返信することとかあるじゃん」
「情報を圧縮してるんだよ」
「でもさ、流石にコレとかひどくない?」
吉川: とりあえず10時でいいんだっけ?
楠本: お
「これはオッケーって意味だろ」
「じゃあこれは?」
吉川: 明日の時間割って変更になるって言ってなかった?
楠本: 知
「『知らないから、他の人に確認したほうが良いぞ』って意味だな」
『知』だけだと知ってるって思うでしょ。
「一番ひどいのがコレね」
吉川: なんかもう大変そうだから楠本くんで良いんじゃない?
楠本: 抹
「あーこれは『抹消するぞ』って意味だな」
それがダメって言ってるんだけど。
どうしても非を認めない楠本くんの話はなかったことにして次に移る。
「寺田くんは送信する場所をよく間違えてるよね」
「そんなことあったっけ?」
白を切るので、以前のやり取りを読み上げた。
吉川: 国語の宿題の提出期限っていつまでだったっけ?
寺田: 明日って顧問来ないから走りはカットでよくない?
「これ、絶対サッカー部に送るメッセージでしょ」
顧問とか走りとか、明らかに運動部の話だし。
「あーこれは間違えてたね」
うっかりうっかり、と寺田くん。
「あとこれも絶対間違ってるよね」
もう一度やり取りを読み上げる。
吉川: とりあえず、数学は早めに片付けといた方が良い感じ?
寺田: 家電量販店に量子コンピュータは売ってないと思うよ、お父さん。
親子でそんな話をすることってあるの?
「なんか批判してきてるけど、吉川も大概だからな」
スマホえを見ながら楠本くんは口を開いた。
「そんなことないでしょ」
レスポンスは早いし、返信も丁寧だし、誤送信もしない。
少なくとも、この4人の中で自分が一番まともだ。
「だってお前メッセージってほとんど確認じゃん」
楠本くんは僕がさっき見せたメッセージをいくつか読み上げる。
吉川: 明日のテストの範囲ってどこまでだっけ?
吉川: とりあえず10時でいいんだっけ?
吉川: 明日の時間割って変更になるって言ってなかった?
吉川: 国語の宿題の提出期限っていつまでだったっけ?
「俺たち、お前のリマインダーじゃねぇぞ」
「そういうのは自分で管理しろ」とめちゃくちゃ正論を言われてしまった。
おっと、ここは分が悪い。
ちょうどチャイムが鳴ったので、僕は逃げるようにその場を後にした。




