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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第103話 ヒロインってみんな可愛い、それってすごい、私もなりたい、みたいな……

「転校ってどういう感じでするの?」

「あー私も詳しくは知らないんだけど……」


そう言って星宮さんは深山さんに転校の話を始める。

私は他の子と話しながらその内容が間接的に耳に入ってくるのを聞いている感じ。


——昼休み。


星宮さんが来たからと言って、教室の雰囲気は変わっていない。

上手く溶け込めるなんてすごいな、と思っている。


転校初日のあの言葉。


『私たちの間で恋愛って生まれなさそうだけどねー』


あれがずっと気になっている。

たしかに吉川くんは恋愛は生まれなさそうと言っていた。


そんなわけないじゃん。


あんなに距離の近い接し方をされて、男の子が好きにならないわけがない。

そもそもあの距離の近さ、星宮さんも吉川くんが好きじゃないとできないでしょ。


そのくらい星宮さんは、高校生としての接し方を超えていた。



昼休みのチャイムが鳴り掃除時間になったので掃除場所に向かった。


「今日はちょっと早いじゃん」

「なんとなくね」


明空さんに応えてから箒を取り出す。

階段掃除を担当するのは、私と明空さんの2人だった。


「明空さんって星宮さんと話してたりするじゃん」

「まぁ昼休みくらいしか話すことないけどね」


掃除をしながら明空さんは応える。


「星宮さんってどういう感じなの?」

「秋谷さんの方からでも話してるの聞こえない?」

「聞こえるけど」


全部聞き取れるわけじゃないから、と言い訳をしつつ話を促す。


「そういえば秋谷さんって話したことないんだっけ?」

「ほとんどないね」


プリントを後ろに回すときに一言程度。


そのころには私たちは少し近づいて話をしていた。

階段は話声が響くので、周りから聞かれるのを防ぐためだ。


「後ろの席だから話す機会多そうだけどね」

「実際、後ろの席だからって誰でもと話せるわけじゃないし」


私がそこまで社交的じゃないっていうのもあるだろうけど。


「次って体育だからそのときにちょっと話してみれば?」

「いきなり話せるわけないじゃん」


絶対気まずい感じになるって。


「でも星宮さんって普通に話せるタイプの人だよ」

「私が話せるタイプじゃないんだって」


他の子なら大丈夫だったと思う。

ただ星宮さんっていうのがマズい。


「じゃあ体育のときに私が話しているときに良い感じのタイミングで入ってくれば良いんじゃないかな」

「えー大丈夫かな……」


「1対1で話すよりは安心でしょ?」と言って、明空さんは笑みを見せた。



女子更衣室に向かい、体育服に着替えて体育館に集合する。

準備運動をしてから体育の先生の説明があって練習が始まった。


そして遂に訪れた。


明空さんと星宮さんが、壁に寄りかかって話をしていた。

どのタイミングなら自然か、色々考えながら少しずつ2人に近づく。


こういうときって私から話しかけたほうが良い?


でも会話的には中学校の頃の部活動の話をしている。

中高帰宅部の私が「話に混ぜて!」 と言えるわけがない。


流石にキツイ、話題が変わるのを待とうかな。


そんなことを考えていると、明空さんがこちらに視線を向けて口を開いた。


「秋谷さんも一緒に話す?」

「あっ大丈夫?」


明空さんは星宮さんに目配せする。


「もちろん!」


明空さんの計らいで、私はものすごく不自然に会話に参加することができた。


「秋谷さんが近くにいるからどうしたんだろうって思ってたんだよねー」

「あーごめん、どのタイミングで入ろうかなって様子を伺ってた」

「あーそういうのあるよね」


「1人だとちょっと気まずいってときにそこまで話したことない人と一緒に話そうかなって思ってるときとかさ」と私をフォローしてくれる星宮さん。


どちらかと言えば、星宮さんに気まずい思いを感じているんだけどね。


「……それで何の話してたの?」

「中学校の頃、何の部活やってた? って話」


やっぱり私のフィールドじゃないって。


「明空さんは何の部活やってた?」

「私は帰宅部だった」

「私も」


すかさず明空さんに乗っかった。

綺麗ではないけど、ひとまず多数派に回ることはできた。


ありがとう明空さん。


「星宮さんは?」

「私は陸上してた」


……運動部か、話を広げられる自信ないぞ。


「でも中学校で最初に転校してから、別の学校で入り直すの面倒くさくってね」


周りの子の視線とかもあるし、と呟く。


「だからそれ以降は帰宅部って感じだから、四捨五入したら私も帰宅部だよ」


星宮さん、相手の懐に入るの上手すぎない?


「そういえば秋谷さんって星宮さんがいた最初の中学校の生徒だったよね」

「えっそうなの?」


星宮さんは目を見開く。


その後、明空さんは自然に話を広げた。

こういうのこそ私がするべきなんだろうけど、全然気が回っていなかった。


「流石に他の組の人のことまで覚えてなかったな」


そう言って星宮さんは私の顔をまじまじと見る。


「でも、こんなに可愛い人いたら学年の中で噂とかになってそうだけど」

「中学校のときは印象薄い感じだったから」

「あーごめん、余計なこと聞いちゃったね」


「そういうつもりで言ったわけじゃなくって」と手を振りながら謝る星宮さん。


「でも秋谷さんってめっちゃ可愛いよね」

「星宮さんも可愛いよ」

「いやそんなお世辞はいいってー」


程よく謙遜する星宮さんだが本当に可愛い。

普通の男子なら1か月以内に好きになってしまうかもしれない。


明空さんは程よく距離を取りつつ、会話からフェードアウトしていた。


「こういう例えが良いか分からないんだけどさ、秋谷さんって男性向けラブコメのヒロインみたいな見た目してるよね」


男受けを狙ってるって意味じゃなくってね、とすぐに補足する星宮さん。


「まぁ私もラブコメはたまに読んだりするから」

「え、マジ?」


意外だね、と星宮さんは呟いた。


吉川くんの話をするかどうか悩んでいた。

でも不自然に聞いたら、色々隠したいものがバレる。


「星宮さんは何でラブコメを読むようになったの?」


星宮さんに質問をして、聞き返されてから話をした方が自然、という判断に至った。


「最初にラブコメのワンシーンの広告を見たんだよね」

「うん」

「で、なんか面白そうって思って広告の作品を調べたら男性向けのラブコメだった、って感じ」


星宮さんは自分で見つけた感じらしい。


「それで秋谷さんは?」

「あーそうだね……」


そう呟いて、時間を稼ぐ。


肝心の返答を考えていなかった。


吉川くんから勧められて、みたいな話はしてもいいかな? でも高校になってヒロインっぽくなった、みたいな話をすると自然と吉川くんがその延長線上にいることがバレそう。いや、そもそも吉川くんが星宮さんに私のことをちょっと話している可能性もある? それなら隠すこと自体が不自然かも。本当は吉川くんのこと、どう思ってるんですか? って聞きたい。でも、それは私が吉川くんのこと気になってるって言ってるのと同じだし。


ヤバい、どうするのが一番良いんだ?


「……ヒロインになりたかったから?」

「なんで疑問形?」

「ヒロインってみんな可愛い、それってすごい、私もなりたい、みたいな……」


語彙力が完全に終わってる説明になった。

色んな事を隠しつつ話を続けるためには、こういう応えるしかできなかった。


「秋谷さんってめっちゃ面白いね!」


そういう感じの人って聞いてないんだけど、と付け加える。


「あとで連絡先交換しようよ」

「もちろん」


その後、授業が終わるまでは雑談をして時間を潰すことができた。


何事もなく終わる授業にこれほど感謝したのは初めてだった。

ありがとう明空さん、あとで飲み物を奢らせてもらおう。

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