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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第102話 私たちの間で恋愛って生まれなさそうだけどね

「でも本当にびっくりなんだけど」

「なにが?」

「まず星宮さんが転校してくるのでしょ?」

「うん」

「あと、吉川くんと星宮さんが中学校の頃同じクラスだったっていうのが」


まぁ半年くらいしか一緒じゃなかったけどね、と星宮さんは付け加える。


今は星宮さんが来たあとの休み時間、教室は意外と静かだった。

秋谷さんは他の女の子と話しつつ、こちらの様子を見ている感じ。


「深山さんと星宮さんも同じクラスだったんだよね?」

「中2までね」


そのあとにまた転校したらしい。


「こういうこと言うのってどうかと思うんだけどさ」

「まぁ言ってみてよ」

「星宮さん転校しすぎじゃない?」

「それは私の親に言って欲しいんだけど」


それもそうか。


「まあ親から転勤するのはこれで最後って言われたかな」

「まぁオセロだったら挟めるし」


「なおきくん、相変わらず面白いこと言うじゃん」と言って星宮さんは笑った。


「そういえば名前呼びなんだね」

「中学校のときそうだったから」


深山さんに星宮さんが応える。


「だからほら、私のことも名前で呼んでみてよ」

「そのわざわざ名前呼びを強要するところが言いにくくさせるんだって」


中学校のころにも似たようなことを言った記憶がある。


休み時間が終わり、次の授業が始まる。

そして、あっという間に午前中の授業が終わった。


昼休み時間。


星宮さんはクラスの生徒たちとそれなりに話すようになっていた。

相変わらずのコミュニケーション能力の高さに感心する。


星宮さんは深山さんたちと一緒にご飯を食べるらしい。


僕は楠本くんたちの場所に移動した。


「あれって、中1のときに転校した人だっけ?」

「そうだよ」


「マジか、本当に覚えてないわ」と楠本くん。


「あのときの楠本くんって物心ついてなかったもんねー」

「なんで寺田が俺の中学時代知ってるんだよ」


「ていうか俺、ずっと前から物心ついてるわ」と言って唐揚げを口に放り込んだ。


その後は他愛のない話をして昼休みを過ごした。



*



「ていうかずっと言おうと思ってたんだけどさ」


昼休みが終わる直前に星宮さんが口を開いた。


「なおきくんがその席に座ったタイミングで私が転校してくるってヤバくない?」

「ヤバいね」


僕は頷く。


「なんか私、ラブコメのヒロインみたいな感じじゃん」

「流れ的にはそんな感じだね」

「ってなったらなおきくんがラブコメ主人公でしょ?」

「まぁ流れ的には」


そう言うと、星宮さんはさらりと爆弾を落とした。



「私たちの間で恋愛って生まれなさそうだけどねー」



星宮さんが言ったタイミングで、教室が静かになった。


昼休み時間とは思えないほどの沈黙。


「……あーまた後で話そうかな」


「冗談だからね?」と星宮さんが言うと、教室にはざわめきが戻った。


転校初日からとんでもないことするじゃん。



*


5時間目の授業が終わった。


「とりあえずQRコード見せてくれない?」


連絡できるように、と言って星宮さんはスマホを取り出した。


「私もいい?」

「もちろん」


そう言って星宮さんと深山さんも連絡先を交換した。


6時間目の授業も終わって下校時刻になった。

さっさと教室から出て玄関まで向かう。


靴を履き替えて帰ろうとしたそのとき——


「……今からちょっと話せない?」


僕が玄関から出る直前にまだ靴に履き替えてない秋谷さんに言われた。


慌てて来たみたいで、少し息が上がっている。


「今から?」

「うん」

「いいけど、話せる場所ある?」

「あー……」


どうしようかな、と秋谷さんは腕を組んだ。


「ちょっと待って、一旦履き替えるから」


すぐに靴を履き替えてこちらに視線を向ける。


「バスとかどう?」

「その中でって感じ?」

「とりあえず」


いいよ、と頷いて僕たちはバス停に向かった。


「中学校の頃の知り合いってことは中1だよね」

「そうだよ」

「へー……」


「そうなんだ」と呟いてから、秋谷さんはしばらく沈黙した。


「なんか聞きたいことある感じだよね?」


そうじゃないと話そうなんて普通言わないし。


「そうなんだけど、なんて聞けばいいのか上手く言葉が出てこないんだよね」


ちょっと考えさせて、と秋谷さんは口にする。



バスが来たので僕たちはバスに乗った。


「星宮さんってどんな人?」


バスが出てしばらくしてから秋谷さんが口を開いた。

このまま何も言わないんじゃないかって思っていたから少し安心した。


「ぱっと見明るい感じだよね」

「うん」

「そのぱっと見ってところに影があったら面白そう、とか自分で言う人だね」

「……難しいこと言うね」


秋谷さんが呟く。


「いつも相手に当たりが強い人は実はその人のこと好きなんじゃないの、とか」


「クールで無口な人ほど、付き合ったときにデレそう、とか」


「主人公のこと好きって周りに言ってるけど、実はそこまで好きじゃなくってその背後にあるものを手に入れたいからそういうスタンスを示しているだけなんじゃないか、とか」


そういうのを考えるのが好きな人って感じ。


「それで?」

「それでってなに?」

「ほら、吉川くんと星宮さんって仲が良い感じだったじゃん」


秋谷さんは車窓に視線を向けながら呟く。


「中学校のときからそんなに仲が良かったの?」

「まあそうだね」


「だって」と言ってから、僕は続けた。


「星宮さんは僕にラブコメを布教した本人だからね」

「……マジ?」


秋谷さんはこちらに顔を向ける。

かなり驚いている様子だった。


「そうじゃないと5時間目前にあんなこと言えないでしょ」


『私たちの間で恋愛って生まれなさそうだけどねー』はかなりメタい。


そんなこと、普通の人なら言うことはできない。

僕でも口にするのはかなりハードルが高い。


それくらい星宮さんはラブコメに精通している人なのだ。


「実際はどうなの?」

「まあ恋愛は生まれないだろうね」

「……そっか」


バスは時刻通りに目的地に止まっては進むを繰り返す。


「とりあえず、聞きたいことは聞けたかな」


「付き合ってもらっちゃってごめんね」と秋谷さんは視線を逸らして呟いた。


そして自宅から最寄りのバス停に到着する。


「じゃあまたね」

「うん」


そこで秋谷さんと別れた。



*



自宅に戻る間、スマホを取り出すと星宮さんから連絡が来ていた。


『もし今日のヤツ、周りの人に変に思われたらごめんね』


「そういうところは律儀だよなぁ」


距離は詰めるけど、最低限のラインは引くって感じ。

ただ距離感の近いだけの人だったら、たぶん仲良くなれてなかった。


星宮さんが星宮さんだったから、中1の中盤まで仲良くできたのだと思う。


家が見えてきたタイミングで、『気にしてないから大丈夫だよ』と送信した。

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