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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第100話 廃墟にコンシェルジュっていることあるんだ。

ゴールデンウィークに収録された、夜野さんことミューさんのゲーム実況!



「Death Refuses You」


少し間を置いて話を始める。


「今回やるゲームは死ぬことの方が難しい、というコンセプトのゲームですね」


基本的に私は自己紹介をすることがない。

最初はやってたけど、1年後くらいにはやめた。


普通に恥ずかしくなったからだ。


「海外で人気の作品だったんですが、最近になって日本語版が出たみたいです」


ちなみにタイトルを直訳すると『死に拒まれる』という意味らしい。


「どんなゲームなのかってまだそこまで知らないんですけど、死ぬことが難しいっていうのはホラーゲームにはあるじゃないですか」


有名なゲームタイトルをいくつか上げてみる。

生き地獄を味わう系のゲームが多い。


「そういう感じゲームかなって思ったんですけど、ちょっと違うらしいんですよ」


とりあえず始めてみましょう、と言ってゲームスタート。




「あーホラーゲームと言えばって感じのムービーですね」


廃墟に行くまでの過程を示す感じの映像が流れる。


『俺は車で廃墟に向かっている』


主人公がぽつりと呟いて、テキストが表示された。


『調べによると、俺の家族と友人と恋人がその廃墟にいるらしい』


「そんなことある?」


ホラーゲームで行方不明になる定番の人たち、全員集合してるんだけど。


そんなこんなで廃墟に着いた。

主人公は車から降りて廃墟を眺める。


「おーいかにも廃墟って感じですね」


壁が剥がれ落ちて、苔に覆われている。

風が吹くたびに悲鳴のような軋みを上げる館。

あたり一帯が、鬱蒼とした森におおわれている。


主人公は恐る恐る館に近づいていくと、立ち入り禁止の看板が。


「いつも通り立ち入り禁止の看板を無視して……ってあれ?」


ホラーゲームのよくある展開になるかと思いきや、途中で画面が切り替わった。


看板に書かれている内容が拡大される。

私はその文章を読み上げた。


「えーと『本館は事前にアポイントメントを取らない限り、立ち入ることはできません。御用の方は以下まで……』ってなんだこれ」


後ろにE-mailアドレスが掲載されていた。


「え、これどういうこと?」


とりあえず、それは一旦無視して館の入り口に向かう。


すると突然、主人公が話始めた。


『……ここから先は行かないほうが良さそうだ』


システム的に入れないってヤツをこの段階で言われたの初めてなんだけど。


「え、じゃあ本当にメールを送らないといけないのかな?」


さっきの看板の場所に戻る。


E-mailのリンクをクリックするとメールの送信画面が開き、件名と本文を入力できるようになっていた。


もしかして、マジでメールを送らないといけない感じ?


「とりあえず、適当に入力してみようかな」


件名を『あ』、本文も『あ』と入力して送信した。



数秒後、メールボックスに一件のメールが。


件名は『先ほどのメールの件について』


英語と日本語の表記がなされていた。



Dear ミュー


Thank you for your email.

After careful consideration, we regret to inform you that we are unable to proceed with your request at this time.


We appreciate your interest and understanding.


Best Regards,

This Building



拝啓 ミュー様


メールをありがとうございます。

慎重に検討した結果、誠に残念ながら、現時点であなたのご要望に対応することができないことをお知らせいたします。


ご関心とご理解に感謝いたします。


敬具

本建物



「うわ、ガチのメールが届いてるんだけど」


私の書いたメールも適当だったけど、数秒で慎重に検討って適当過ぎない?


そんなことを言っているうちに画面は暗転し、英語が出てきた。



This Building Refuses You


Game Clear!



まだ何も始まってないのにゲームクリア?



「……とりあえず、さっきのところまで来ました」


最初のシーンはカットする前提で無言で進めた。


「で、メールを書くところですね」


そういって私はメールを開く。


『件名: 入館のお願い』


「確かにホラーゲームとかで普通に廃墟に入るのっておかしいとは思ってるけど、こんなメールを書く必要あるかな」


ぶつくさ言いながら入力していく。


『お世話になっております。

ミューと申します。』


「お世話になったことなんて1回もないけどね」


ビジネスメールと言えばの定型文である。

社会人は相互扶助の精神が高いから、そう言っているのだろう。


『この度は調査のため、本館への入館を希望しております』


誰にも頼まれていないのに調査するのもどうかと思うけど。


『つきましては、下記日時に入館させていただくことは可能でしょうか。


【希望日時】』


「えっ、マジの日にちとかも書く必要ある?」


そういうの知られるの、ちょっと恥ずかしいんだけど。

でも、入館するのに何時って提示しないのって向こうに失礼だよね。


向こうが誰なのかわからないけど。


『【希望日時】

 ・5月2日20時~』


とりあえず、今収録している時間を書いておいた。


『入館にあたり必要な手続き等ございましたら、ご教示いただけますと幸いです』


幸いというより辛いって言うほうが正しいかも。


『お忙しいところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願い申し上げます』


「相手が忙しいわけないじゃん」


絶対暇してると思うけど、向こうのことも気にかけていますよ、というニュアンスを滲ませた。そして最後に自分の名前を添えて完了だ。



こんな感じになった。




件名: 入館のお願い


お世話になっております。

ミューと申します。


この度は調査のため、本館への入館を希望しております。

つきましては、下記日時に入館させていただくことは可能でしょうか。


【希望日時】

・5月2日20時~


入館にあたり必要な手続き等ございましたら、ご教示いただけますと幸いです。

お忙しいところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願い申し上げます。


ミュー



「はぁーゲームで何やってんだろ」


ビジネスメールを初めての機会がホラーゲームってどうなの?


メールを送信すると、すぐにムービーが流れ始めた。

主人公視点で、周りをきょろきょろしながら廃墟に向かう。


それっぽいムービーだけど、丁寧なビジネスメール送った後だぞ。



主人公がドアノブを握ると、不快な音を立てながら扉は開いた。

館内では埃が舞っており、衛生状態は良くなさそう。


まぁ、ホラーゲームと言えばそんな感じだよね。


主人公が館内を見回していると、後ろからバタン! と大きな音が。


「あー、これもよくあるよね」


なぜか館内からは開けることができない一方通行の扉。


「とりあえず、入り口のドアが開くか確認してみようかな」


いつも通りだと、『ドアが開かない』みたいなメッセージが出てくるはずだ。


主人公がドアノブを手に掴むと——


「……えっ?」


思わず声が漏れてしまった。


なんと、ドアが今まで通り開いたのだ。


主人公はキョロキョロしながら自分の車に戻って帰っていった。

そして暗転して出てきたのはさっきと同じ英語。



This Building Refuses You


Game Clear!



その後、すぐにタイトル画面が表示された。


「……はい、さっきのところまで戻ってきました」


今は入館したところだ。

奥に進むと主人公が語り始めた。


『こんな廃墟に手ぶらで来るヤツなんているワケねぇだろ。俺はそこらへんのホラゲー主人公とは一線を画す……』


「やけにメタいこと言ってますね」


こんなのが主人公で良いの?


主人公のセリフが終わると、インベントリが強調されて光った。

それをタップしてみると、色々なアイテムが所せましと並んでいた。


・めちゃくちゃ長い時間点灯できる懐中電灯

・そこらへんに落ちているよりもちヤツよりいい感じの回復薬

・なぜか必要になってくるけど、実際は何なのかさっぱりなヒューズ

・館を一瞬で爆破できるダイナマイト!!!!!!!!!!!!!!!!!


主人公強すぎでしょ。

こんなのゲームのならないって。


「……このゲームで死ぬことを目標にやっていこうと思います」


いつでもゲームはクリアできそうなので、とりあえず館内を探索することにした。


「館の鍵とかとりあえず探してみようかな」


ホラーゲームと言えば、それ存在自体が謎の謎解きをして鍵を手に入れる感じだし。

ひとまず、館内の鍵が締まっているか確認してみると——


「館の部屋、全部開いてるんだけど……」


普通『この部屋の鍵は閉まっている』とか『鍵を見つけないといけない』みたいなメッセージが出てくるんだけど、この館は全部の部屋に鍵がかかっていなかった。


これじゃ館内ツアーじゃん。


「……あっなんか落ちてるな」


動画の尺とか考えながら探索を続けていると、廊下の片隅にノートを発見。

ゲームの世界観や敵の存在を知らせるために置かれていたりする。


「とりあえず拾ってみようか」


ノートを拾うと、こう書かれてあった。


『今日何時上がり?』

『24時っす』

『俺も同じだわ。終わったら飲みに行くべ』

『うっす! 館の前でいいっすか?』

『おう。俺、先週車買ったから乗せてやるよ』

『あざっす!』


バイト先の先輩と後輩が交換日記してるんだけど。

とりあえず最後まで読み進めてみると——


『やべ、マネージャー来たわ。後でな!』


すぐに『その日記はここで終わっていた……』と表示された。


よくある表現だけど、サボってる先輩と後輩が慌てて話を切り上げただけだから、そんなに物々しくないでしょ。


その後はしばらく歩いていても何も出てこなかった。

特に言うこともないので、この辺はカットしようと思いつつ探索を続ける。


「ん? なんかBGM変わったな」


敵にチェイスされているときっぽいBGMがぬるっと流れ始めた。


あたりを探索してみると、いた。

敵ですけどなにか? みたいなわかりやすいモンスターが歩いていた。


「足音ではこっちに気づかない感じかな?」


死ぬのを目標にしているのでモンスターの忍び寄ってると——


『うわぁっ!』


モンスターは腰を抜かして尻もちをついた。

なんでモンスターなのに驚いてるの?


『ちょっとマジでやめてくださいよ……』


でも私は襲って欲しいので、モンスターに更に接近してみる。

しばらくガタガタ震えていたが、正気を取り戻したようで恐る恐る口を開いた。


『……もしかして襲って欲しい感じですか?』


まぁそうだね。

主人公はこくりと頷く。


するとモンスターは頭に触れながら続けた。


『あのーすいません、今休憩中なんで後にしてくれません?』


「コイツ、バイトのどっちかでしょ」


モチベーションの低さが透けて見える。

よく見たら「アルバイトだしすぐ辞めれるでしょ」って顔してるんだけど。


無言で彼を眺めていると、モンスターは小さな声で続けた。


『本当に襲ってほしいんだったら、向こうに行けばいいと思いますよ』


「先輩の方が上手いんで」と言ってモンスターは去っていった。

このモンスターは後輩の方だったらしい。


たしかにモンスターなのに主人公にビビるところと後輩っぽいかも。


「……じゃあ、先輩の場所に向かおうかな」


主人公は真顔でその場を後にした。



そのあたりを探索していると、いた。

敵ですけどなにか? みたいなわかりやすいモンスターが歩いていた。


「さっきの後輩モンスターよりもモンスターしてそうな見た目ですね」


いや、さっきのもモンスターではあるのか。


先ほどと同じように、音を立てないで接近してみると——


『うわぁっ!』


さっきと同じように、このモンスターも驚いて尻もちをついた。

この廃墟のモンスターたち、ジャンプスケアに適性なさすぎない?


『え、後輩にあっちに行けば襲ってくれるかもって言われた?』


主人公が頷くと、先輩は深い溜め息を吐く。


『俺、アルバイトだからそういうサービスするつもりないんだけど……』


もうちょっと頑張ってくださいよ。


『でもまあ、後輩に言われたんならしょうがないか』


後輩想いのモンスターで助かった。


『じゃあ、今からダッシュしてくれない?』


そのあとに俺が追うからさ、と先輩モンスター。


「なんか出来レースみたいなことしようとしてない?」


主人公の顔色伺いながら追いかけるモンスターってなんか嫌なんだけど。

しかし主人公が一歩動くと、謎のカウントダウンがスクリーンに表示された。


「このままモンスターのところにいれば死ねそうだね」


カウントダウンがゼロになるまでキャラを放置させてみた。


5.


4.


3.


2.


1.


0.



『オッケー、俺のシフト今終わったから帰るわ』

「……え?」

『おつー』


そういって、先輩モンスターは帰っていった。

その後、どれだけ探しても彼らは見つからなかった。


先輩の新車で夜の街に繰り出したのかな。




「……なんか、マネージャーにメールでアポを取ればOKらしいです」


カンニングしたことを正直に報告する。

英語サイトを翻訳しただけだから何とも言えないけど。


マネージャーに会いたいという趣旨のメールを送信すると、すぐに返信が来た。

とりあえず中に入ってみると、いきなり誰かに話しかけられた。


『いつもお世話になっております。ミュー様ですか?』


そうですけど。


『シニアマネージャーは突き当り右の部屋におります』


そういってスーツ姿のモンスターは去っていった。

ホラゲーの廃墟にコンシェルジュっていることあるんだ。


「とりあえず指示された場所に向かおうかな」


ノックしてから入室すると、恰幅の良いおっさんが座っていた。


『どうぞご着席ください』


すぐ主人公は腰を下ろす。


『えー、ミューさんでお間違いないでしょうか?』


「はい、そうです」


なぜか返事をしてしまった。

別に関係ないんだろうけど。


『えーまず、志望理由を教えてもらえますか?』


「志望理由?」


なんか入社面接みたいなこと聞かれてるんだけど。


すぐに文章を入力しないといけなさそうなボックスが出てきた。

よくわからないけど、『死ぬためにここまで来ました』と入力して送信してみる。


『えーそれは死ぬまで本社に貢献する、ということでよろしいですか?』


「かなり好意的に受けとってもらってるけど、違うよ?」


死ぬためにここに来たんだし。


『あっ死亡することを志望する? 上手いですねー!』


マネージャーは手を叩いて笑った。

この人、ダジャレ好きそうだな。


マネージャーと談笑してから、主人公は部屋を出て行った。

館から出ると、いつも通り暗転してメッセージが。



This Building Accepts you


Game Clear!



「……あーなんかゲームクリアしたっぽいです」


すぐにエンドロールが流れ始めた。


E-mailの英文が流れており、『Best regards』 の下にスタッフの名前が出るという小粋な出し方だった。


「途中のメールの英文が良く分からなかったので、日本語訳を読み上げますね」


タイトル画面に戻ってから、スマホ片手にその内容を読み上げた。




『件名: 内定通知


親愛なるミュー様。


この度、弊社のエントリーモンスターに選ばれましたことをお知らせできることを嬉しく思います。


あなたのスキルと経験に感銘を受けており、私たちのチームにとって貴重な存在になると考えています。


まもなく、給与、福利厚生、勤務開始日などの詳細を記載した正式なオファーレターをお送りいたします。


ご質問がありましたら、お知らせください。


おめでとうございます。ご一緒に仕事ができることを楽しみにしています。


敬具

(以下、スタッフロール)』



「なんかアレだけど、うん、採用おめでとう!」



私はそこで収録を止めた。


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