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神凪 (カナギ) の檻 ―5歳で拾われた美少年は、巫女を一生離さない執着魔王になりました―  作者: 神凪 永遠


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神凪の夏休み、三つの鼓動

 夏休みの静かな森の邸宅は、今や「聖域の主」であるリュカと、王都で研鑽を積み「次代の才女」となったマナによる、熾烈なまゆ争奪戦の舞台と化してた。


 ある日の午後、まゆがリビングのソファで読書をしようとした瞬間、左右から音もなく「影」が滑り込んできた。


「……まゆ。日差しが強いな。俺の魔力で少し遮ってやる。……ほら、こっちにおいで」


 左隣を陣取ったリュカが、当然のような顔をしてあなたの腰を引き寄せ、自分の肩に頭を預けさせる。

 オパール色の瞳は「これは俺の権利だ」と言わぬばかりに、鋭くも悦びに満ちた虹色を放っている。

 耳元の漆黒のピアスが、まゆの体温に触れてドク、ドクと勝ち誇ったように脈動した。



「お父様、暑苦しいわ。……お母様、王都で流行っているこの冷製ハーブティーをどうぞ? 私が淹れたの。お父様の重たい魔力より、ずっとリラックスできるはずよ」


 右隣に座ったマナが、漆黒の瞳をスッと細め、涼やかな微笑みと共にカップを差し出す。彼女の指先からは、まゆ譲りの清廉な魔力が漂い、リュカの独占欲に満ちた熱を鮮やかに「拒絶(中和)」していく。



「……マナ。お前、わざと俺の結界を相殺したな。……まゆは俺の妻だ。お前がいない間、ずっとこうして俺の隣にいたんだ。夏休みだからって、一歩も譲るつもりはないぞ」


 リュカが低い声で威嚇するように言えば、マナは


「あら、お母様は私の『お母様』でもあるわ。お父様が独り占めしていい理由にはならないわね」

 と、かつてのリュカのような狡猾な笑みを浮かべて言い返す。



「……っ、まゆ! 見たか、この子の無礼な態度を。……あんたからも何か言ってくれ。この家で一番あんたを愛してるのは、俺だろ? ……なあ、そうだよな?」


 リュカはたまらず、マナの前であることも忘れ、あなたの首筋に顔を埋めて子供のように甘え始めた。

 一人の男としての烈しい執着と、娘に場所を奪われたくないという必死さが混ざり合っている。



「お母様、困っていらっしゃるわよ。……お父様、向こうの部屋で一人で結界でも張ってらしたら?」


 マナが追い打ちをかけるようにあなたの腕を取り、自分の肩に抱き寄せると、リュカは

「……くっ、マナ……! お前、王都でどんな教育を受けてきたんだ……っ」

 と、絶望したような、けれどどこか誇らしげな……複雑な顔で唸った。







 キッチンは今、王立学院で最先端の魔導調理を学んできたマナと、この家で長年「まゆの好み」を支配してきた自負のあるリュカによる、静かな、けれど火花散る戦場となっていた。


 まゆはリビングから、キッキンから漏れ出る異常な密度の魔力波動を感じ取っていた。


「……マナ。王都の流行りなど知らん。まゆは、この季節にはうちの温室で育てている『雪解けハーブ』を使った、苦味のあるリゾットを好むんだ。余計なクリームなど入れるな」


 リュカは眉間にシワを寄せ、包丁を握る手から微かにオパール色の魔力を漂わせている。

 耳元の漆黒のピアスが、料理への執念と娘への対抗心で、ドク、ドクと鋭く虹色に脈動している。



「お父様、それは三年前の知識だわ。今の気候とお母様の魔力波長を見るに、王都で流行っている『琥珀魚のジュレ仕立て』の方が、お身体の巡りを助けるはずよ。古臭い味付けを押し付けるのは、独占欲の塊ね」


 マナは漆黒の瞳をスッと細め、流麗な手つきで魔法の火を操る。彼女の鍋からは、都会的で洗練された、けれどどこかまゆの故郷を思い出させるような芳醇な香りが立ち上っていた。



「……っ、古臭いだと? 俺がどれだけ毎日味を研究してきたか……。まゆ! どっちが食べたいか、今すぐここで決めてくれ!」


 リュカは耐えきれなくなったようにキッチンから顔を出し、エプロン姿のまま、縋るような、けれど一人の男としての烈しい「俺を選べ」という圧力を伴った虹色の瞳であなたを凝視した。



「お母様、お父様は放っておいて。私の料理、お口に合うように調整したの。……ねえ、どちらが『愛』を感じるか、教えてくださる?」


 マナもまた、母譲りの美しい微笑を浮かべつつ、瞳の奥にリュカそっくりの「逃がさない」という独占の光をぎらつかせてまゆを見つめる。


 左右から突きつけられる、究極の「愛の重い料理」。


「あらあら、私は幸せ者ね。両方いただきたいけど……ダメかしら……?代わりに、ふたりには私から特製のタルト・オ・シトロンをご馳走するわ?」


「……ずるいな、まゆ。そんな顔をされたら、誰も『ダメだ』なんて言えるはずがないだろ」


 リュカは愛する妻のふわりとした微笑みに肩の力を抜くと、手にしていたお玉を置いて、まゆの元へ吸い寄せられるように歩み寄った。


 オパール色の瞳は、聖母のようなまゆの微笑みにすっかり蕩け、呆れるような、けれど底なしの愛着を湛えた虹色に潤んでいる。


「まゆの特製タルト、か。あんたの手作りなら、俺にとってはどんな菓子より価値がある。……あぁ、もう。あんたにそうやって優しくされるたびに、俺、自分がどれだけあんたに甘やかされて生きてるか思い知らされるよ」



 リュカはまゆの腰に腕を回し、マナに見せつけるようにその額に深く、所有の口づけを落とした。



「お母様、本当にお上手ね。……お父様の独占欲も、私の対抗心も、全部甘い砂糖で包んで溶かしてしまわれるなんて」


 マナもまた、負けを認めたように漆黒の瞳を和らげ、クスクスと鈴の鳴るような声で笑った。


「いいわ、お父様。今夜は特別に、お互いの料理を半分ずつお母様に捧げましょう? その代わり、タルトの最初の一口は、私がお母様に『あーん』して差し上げるから」


「……マナ、お前! それは俺の役目だ! 特等席は譲らんと言っただろ!」



 結局、晩餐のテーブルは、まゆの作ったレモンタルトの甘酸っぱい香りに包まれながら、以前と変わらぬ「まゆを巡る親子喧嘩」という名の、賑やかで贅沢な幸せに満たされていた。


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