金獅子香炉の記録
翠蘭が見つけたのは行間で区切られた、7番目の塊の中にあった。
「陶磁器 『金獅子香炉』 夏世界」
9番目の塊の中にも全く同じ一行。
「陶磁器 『金獅子香炉』 夏世界」
どーして8番目にはないんだろ?
7番目、8番目、9番目のリストは違う。芸術品は基本、1点物だからだろう。
とりあえず、7番目、8番目、9番目をメモ。
行間についてもメモ。
ん? 支払い記録あり。水運屋。
さっきも水運屋だったっけ。政府御用達なのかな。
調べていると、回廊を歩く音と話し声が聞こえてきた。翠蘭は素早く自室に戻った。
「「ど?」」
「何か分かったか?」
李氏様、燈実様、御者が私の部屋に入ってきた。御者は、翠蘭が座っていた辺りをくんくんする。
「なんか、いい匂い」
コイツ、天性の女好き。
「まだ全部には目を通してません。けれど、気になる点がありました」
最初に、北の国への賠償金が、1/3ではなく、1/4しか払われていない可能性があることを指摘した。
「あ、ホントだ」
「うーん」
「確かに」
次は貿易について。
李氏様は冊子を手に取ると懐かしそうに語る。
「多くの人が見送りに来てな、それはそれは輝かしい船出だった。私が小さなころに見たときは、貿易船はもっと数が多かった。年々少なくなる。財政難で多くの船を出せないのだろう」
「2年前は2隻だけでしたね」
と燈実様。しょぼ。大艦隊じゃないじゃん。李氏様と燈実様は、李家の船から観覧したのだそう。
「2隻でお土産積めるんですか? 東の国の貢物の10倍くらい持って行くんですよね?」
「それはだな、東の国からの船が小さいから大丈夫だ。こっちからの土産が多いからか、東の国は回を重ねるごとに船を増やした。たまったもんじゃない。結局、船は4隻までと制限したのだ」
あら〜。東の国の商売根性に親近感。
「こちらの方はまだ調べてる途中ですが、お土産リストの変なとこに行が空いてるんです。それと『金獅子香炉』がリストに入っています。2つも」
すると、李氏様が教えてくれた。
「これは、土産のリストじゃなくて積荷のリストだ。東の国への船に乗せるものだ。だから1番最初に食料がある」
李氏様は前に戻り、「準備 積荷 河港」と書かれた項目を指した。
「そーだったんですね。だったらこの行と行の間の空白は?」
「分からん」
「同じ物が書いてあるのは?」
「分からん」
う〜ん。
「金獅子香炉って載ってます。西の国境へ行く途中に寄った、金満寺へ持っていった香炉って、金獅子香炉だったのではないですか?」
「金獅子香炉か。気にはなる。が、小さいものなら、珍しくない」
そこで御者が一言。
「気になることは調べます。あの寺、変だった。絶対何かやってます」
「お前、スカウトされたもんなー」
「うっせー」
4人で記録を読み耽った。あ、燈実様寝てるし。
「コイツ、考えるの苦手だから」
と御者。脳筋って自分で言ってたもんね。
そういえば、李氏様に訊きたいことがあった。
「水運屋って、国の御用達なんですか?」
「水運屋は陳氏様と繋がっている商人だ。船を使うときは大抵水運屋に発注する。ま、政治の実権は陳氏様が握ってるからな」
「水運屋も陳氏様の商売かと思いました。C印の蔵、みんなが『陳氏の蔵』って言ってましたので、そこに運んでいる船も」
「蔵は陳氏様のもの」
「そーなんですね」
「陳氏様の商いは、物を買って売ること。その中で運ぶ部分を水運屋に任せている」
へー。
「賠償金がちょろまかされてたの、水運屋と陳氏様がグルんなってんですよ。どーせ」
御者が毒づく。
「だろうな。そうすると、手が出せない。内閣府長だから」
えーっ。
「悪いことしてるじゃないですか。法で裁けないんですか?」
「麗。李氏様が困ってるぞ」
ムリか。そーゆー世だよね。理不尽。
世は理不尽だらけ。私は語り部が牢獄にいた姿を思い出した。本来は被害者なのに、加害者として投獄された。煙草の煙。桃色の袖。




