賄賂は合法潤滑油
私は再び李氏様の家に身を寄せることになった。異人は目立つ。一緒にいると人目に晒されてしまうから。
キラの視線に焦げつきそうだったし、言われるままに従ったよ。
「お兄ちゃん、また会える?」
「いつでも」
嘘つき。
雲嵐と暮らしたい。お兄ちゃんも一緒に暮らしたい。目が不自由で大変だと思う。ゆっくり訊きたいこともある。
ねぇ、お兄ちゃん。私達は元チスタン人なの?
私のホントの名前は?
[あのさ、オレにも一応、挨拶くらいしてよ]
とキラ。
[兄をよろしくお願いします。それから、いっぱい、ありがとう]
[そんだけ?]
[これ以上何を言えと?]
困る。
キラに正面からじっと見つめられる。今日は目クソついてないはず。
[麗は、生涯で忘れえぬ人。だけど、思い出にはしたくない]
美しい言葉と熱を持つ響きに胸がざわつく。
去っていく馬車を見送っていると、ビシッとデコピンを喰らった。
「痛っ」
御者。
「浮気?」
「ち、違います」
食事を挟んで、第3部が始まる予定。が、食事中に第3部は始まってしまった。消化に良くないよー。
メンバーは、李氏様、燈実様、御者、私。
「財政はボロボロ。戦争、貿易、土木工事、長生き金、後宮。なのに役人達は賄賂で潤ってるから、増税くらいしかしていない」
李氏様の言葉は今更感。
「長生き金も大きいんですか?」
おじーちゃん、おばーちゃんが生活するために、それは出しましょうよ。いっぱい働いてきたんだから。もう体、しんどいじゃん。
「大きい。先先代の皇帝が制度を作ったときは、老人が少なかったんだよ」
「最近は薬が良くなって長生きになったしなー」
燈実様と御者の話を聞いて、老老不死の桃源郷を思い出す。あの、なんとも言えない閉塞感。寂寞感。話題変更。
「戦って、お金かかりそうですよね。私、素人ですが、そう思います」
「1番は武器と兵糧だ。賄賂で山ほど儲けている人間がいるというのに、国には金がないなんて。はあ」
李氏様は大きなため息をつく。
「内閣府長の陳氏様、相当儲けてますよ」
河港に立ち並ぶC印の蔵。華港の無印の蔵。穀物を握って、密貿易でもがーっぽり。はああぁぁ。うっとり。あるところにはある。
しつもーん。
「李氏様。例えば泥棒がいて、捕まったら、泥棒が持っていた物はどうなりますか?」
「捕まえた時に押収して、持ち主に返すが。?」
「じゃ、国のお金が横領されたときも同じですか?」
「同じだ。たまにある」
「それはどれくらいの期間で国のお金として使えるようになりますか?」
「裁判が終わればすぐ。裁判までは1日。国費の場合は大抵、皇帝が出てくる」
「戦費は、いっぱい持ってる人に出してもらいましょう」
「麗、命知らず〜。陳氏様のこと言ってんなら、アホ」
「燈実の言う通りだ。証拠なんて掴めるわけがない。それにな、陳氏様チェックがある。皇帝を引っ張り出すには陳氏様を通さなければならない。その時点で潰される」
「じゃ、質より量。そこら中に蔓延っている賄賂を取り締まりますか?」
「麗。賄賂を取り締まる法はない」
「はああああ!?」
マジで?
「賄賂は物事を動かす潤滑油だと考えられている。
例えば、面倒な仕事をお願いするとき、飴を1つ渡したとする。これは心遣いと言われる。菓子折りを渡したとする。これも心遣い。菓子を買う店がなかったからと小銭を渡したとする。これはグレー。だが、その金額が菓子折りを買えるほどだったとすると、少し賄賂っぽくなる。
では、大勢での大きな仕事だったとしたら? 菓子折りを1000個渡しても相手が困る。だったら金銭の方がいい。賄賂と呼ばれるが、本質は飴1つと変わらない。
という考え方が官僚の間では一般的だ」
「一理あります……か? なんか、今ひとつ釈然としませんが」




