銀終着特殊関係人
[いくつかの箱、別の船に積み替えてる]
木箱が運ばれた先は、今乗っている船より大きい。怪しい船と同じくらいの大きさの河川物資運搬用タイプの帆船。
旅の最終日、偶然、華港で見た帆船が私達の船の少し前を進む。
帆船は、都の港に寄らない。もうに都の隠し港は通り過ぎている。時は太陽が落ちるころ。私達が乗る船では、船員達が、この後どこに遊びに行こうかと相談している。
[気になるな。後をつけよう]
兄が船長に交渉した。あ、嫌がってる。やっと帰れるって喜んでたもんね。そこへキラが近づいて、太い金の指輪を外して船長に渡す。即刻OK。金かよ。
帆船は大河の北側にある支流に入っていった。急に川幅が狭くなる。支流に入った帆船はすぐに停泊。そこには帆のない、竿で進む小船が3艘。今度は帆船から小船へ積み替えられる。
小船が箱の重みにちょい沈んでるじゃん。
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その様子を、少し離れたところに船を停めて見守る。
すっかり日が暮れて、空には星が瞬き始めた。
兄は船長に小船の後を追うよう指示した。が。
「これ以上はムリだ」
ニュアンスから、キラは船長が拒否したのを察したらしい。懐から銀の入った袋を出した。
[これでもダメか?]
「嫌だ」
船長は首を横に振る。そんなやり取りをしてる間に、小船は支流のまた支流に入って見えなくなった。帆船は大河へ戻った。
キラは懐からもう1つ銀の袋を取り出した。エゲツな。それでも船長は首を横に振る。そばにいた船員達まで一緒に。
「あの船はもっと小さい水路に入る。この船じゃでかすぎる」
そう言った船員に兄は詰め寄った。
「どこに行くか知ってんのか?」
兄の澱んだ眼球から目を逸らす船員は、ゴクリと唾を嚥下する。船長が、兄と船員の間に割り入った。
「これ以上は。首がなくなる」
キラは追跡を諦めた。
停泊していた船を動かそうとしたとき、風が荒れ、操舵に手間取った。それでもなんとか大河に向かって進む。船尾から景色を眺めていると、すぐ横の小さな水路から、さっきの小船が現れた。船体が沈んでいない。積荷を下ろした後!
首がなくなるような件だから、気づかないふりをした。
その夜、キラと兄が泊まる高級宿に身を寄せた。
時々視線を感じる。
焦げつきそうな。
それはキラから。
雲嵐。
心の中で名を呼ぶ。
たったそれだけで、きゅうぅっと胸が痛くなる。会いたくなる。こんな風になるのは雲嵐だけ。特別。
[後つけようとしてた小っさい船、変なとこから出てきてた]
報告すると、キラは都の地図を広げた。観光用の色付き絵地図。大河の支流の支流がループする場所を探す。地図には描かれていない。
翌日、その場所へ向かった。
途中、人だかりで馬車が立ち往生。
「自分らの街は自分らで治め、
自分らの税は自分らで決め、
自分らの国は自分らで考える!
貴族に民のことは分からない。結果、政治は賄賂と利権と増税。貴族と民の分断をなくすために、身分制度を撤廃し貴族から既得権益を引っ剥がせ。我が革命の英雄、香香に誓いを」
なんつー恐ろしい演説。聞いてる人たちは拳を振り上げてる。
自分の言葉が語られているからか、兄は静かに口角を上げた。キラも「ふっ」と笑う。
誰かが香香の歌を歌い始め、そして合唱。勘弁。
なんとか通り抜け、目的の場所へ行った。
通りから支流の支流は見えない。地図と照らし合わせると、それは家々の後ろにあるはず。
馬車を待たせ、歩いていく。でーんと、とんでもなくでかい屋敷があった。塀は高くどこまでも続き、門扉はぴたりと閉じている。
兄が道行く人に尋ねた。
「この近くに船着場はありますか?」
「お屋敷の裏にありますよ。でも、あれはあのお屋敷専用だから、えーっと、この道を……」
兄は説明を遮る。
「どなたの屋敷ですか?」
「さあ、分かりません。もと僧侶で、還俗された方みたいですよ」
「さぞ高名な方でしょうね」
兄の言葉に、通行人は口を手で覆う。
「高名な方の妾って」
ああ、金の匂いがする。




