告白
それは明け方のこと。
仄明るい水平線を見ていた。
海に映る三日月。
波が寄せて、消える。
[麗、おはよ]
[おはよう。キラ]
[眠れなかった?]
[ううん。日の出を見よーと思って]
こんなチャンスはきっと、一生に一度。
[見えないよ]
[え?]
[太陽が昇ってくるのはあっち]
キラが指差す方向には山。
[そーなの?!]
がっかり。海から生まれる太陽を見ようと思ったのに。
[港は海が荒れても被害を受けない場所に造るから、大きな海側の見晴らしは、今一つかな]
なーんだ。
[じゃ、もう1回寝る]
[夜明けは味わえるって]
言いながら、キラは私の隣に来た。船縁に両腕を置いて顎を載せる。
[だね。さっきより明るくなってるかも]
[静か]
[波の音だけ]
[麗]
[ん?]
[綺麗だな]
[うん。きれー]
暗い空の色にうっすらと青が混じり始める。
[麗が]
[え?]
[今の麗も。初めて都で見た麗の目も。ベッドで一緒にくっちゃべってたときも]
[どーしたの? 突然]
[オレにとっては、全然突然じゃない]
[……]
返答に困る。
[ぐちゃぐちゃの顔して泣いてても麗は綺麗でさ。ああ、なんでこの子、他の男のことで泣いてんだろって、すっげー苦しかった。今も苦しい]
[……キラ]
空が下の方から橙色に染まり、夜との交替を告げる。
[綺麗なものは欲しくなる。だから西の国の神は、綺麗なものは隠せって言うんだって分かった。欲しいのに、所有物みたいに自分のものにしたいわけじゃなくて]
[私は……]
[オレが想ってるみたいに、麗の中にオレがいたら、もう、オレ、なんもいらねーなって]
[なにも?]
[なんにも]
水平線に1隻の帆船が現れた。
暗く青いシルエットはどんどん大きくなる。
明るくなる空の下、2人でただ帆船を見つめる。
風が髪をさらう。
[……]
[ごめん。困るよな。こんなこと言われて]
[そんな。なんか、う、うれ? 嬉しい……]
自分の存在を肯定されたみたいで。
[西の国じゃさ、結婚した人を好きにならなきゃいけなくてさ。ちょっと大きくなると、家族以外、男と女は別々に育つ]
[そーなんだ]
[相手は親同士が決める。麗は親が知らない女で、異教徒で、他の男を好きで、他の男と一緒にいた。どう考えても、絶対OUTなわけ。なのに、どんだけ頭で考えても、なんか、ムリだわ。苦しい]
[くるしーの?]
キラの顔を覗き込むと、キラは、船縁にもたれていた体を起こした。
[どーにかなりたいけど、どーにもならない。麗の気持ちも、自分の気持ちも、自分が置かれてる立場も神も。だから気にするな]
ええーっ。こんだけ動揺させといて、何それ。
[気にする]
ちょっと怒ったように困ったようにキラを見る。と、キラは息を詰まらせる。
[っ。かっわぃぃ]
[ちょっ]
ちょっと、顔赤くするとか、やめてよ。調子狂う。
[はは。なんか、言ったらちょっと楽ンなった]
[そーなの?]
辺りはすっかり明るくて、さっきは水平線に見えていた帆船は港の中に入ってきた。巨大な蝶が休んでるような赤い帆。
[さっきから気になってたんだけど、麗。目クソついてる]
去り際に情緒的なものをぶち壊して、キラは船の中に消えた。
朝食のとき、キラは全くいつもと変わらなかった。くだけた口調なのに姿勢が良くて、紳士で。兄と3人、普段通りだった。
3人で風を浴びていると、どこからか人がやってきて、明け方見ていた赤い帆の船から積荷を下ろし始めた。
[ね、ね、昨日、陳氏の蔵って言ってたとこに運んでる。海から来た船、すっごく大きい。前、私が乗ってた船、ほら、大河で物を運ぶ用の帆船、あれの4倍くらいの大きさ]
見えない兄にも分かるよう、何番目の蔵に木箱を運んだとか、両腕を広げたくらいの大きな物を運んだとか説明する。
[皇帝の側近中の側近が密輸か]
兄は呆れた。




