表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/253

告白




 それは明け方のこと。

 仄明るい水平線を見ていた。

 海に映る三日月。

 波が寄せて、消える。



(リー)、おはよ]


[おはよう。キラ]


[眠れなかった?]


[ううん。日の出を見よーと思って]



 こんなチャンスはきっと、一生に一度。



[見えないよ]


[え?]


[太陽が昇ってくるのはあっち]



 キラが指差す方向には山。



[そーなの?!]



 がっかり。海から生まれる太陽を見ようと思ったのに。



[港は海が荒れても被害を受けない場所に造るから、大きな海側の見晴らしは、今一つかな]



 なーんだ。



[じゃ、もう1回寝る]


[夜明けは味わえるって]



 言いながら、キラは私の隣に来た。船縁に両腕を置いて顎を載せる。



[だね。さっきより明るくなってるかも]


[静か]


[波の音だけ]


[麗]


[ん?]


[綺麗だな]


[うん。きれー]



 暗い空の色にうっすらと青が混じり始める。



[麗が]


[え?]


[今の麗も。初めて都で見た麗の目も。ベッドで一緒にくっちゃべってたときも]


[どーしたの? 突然]


[オレにとっては、全然突然じゃない]


[……]



 返答に困る。



[ぐちゃぐちゃの顔して泣いてても麗は綺麗でさ。ああ、なんでこの子、他の男のことで泣いてんだろって、すっげー苦しかった。今も苦しい]


[……キラ]



 空が下の方から橙色に染まり、夜との交替を告げる。



[綺麗なものは欲しくなる。だから西の国の神は、綺麗なものは隠せって言うんだって分かった。欲しいのに、所有物みたいに自分のものにしたいわけじゃなくて]


[私は……]


[オレが想ってるみたいに、麗の中にオレがいたら、もう、オレ、なんもいらねーなって]


[なにも?]


[なんにも]



 水平線に1隻の帆船が現れた。

 暗く青いシルエットはどんどん大きくなる。

 明るくなる空の下、2人でただ帆船を見つめる。

 風が髪をさらう。



[……]


[ごめん。困るよな。こんなこと言われて]


[そんな。なんか、う、うれ? 嬉しい……]



 自分の存在を肯定されたみたいで。



[西の国じゃさ、結婚した人を好きにならなきゃいけなくてさ。ちょっと大きくなると、家族以外、男と女は別々に育つ]


[そーなんだ]


[相手は親同士が決める。麗は親が知らない女で、異教徒で、他の男を好きで、他の男と一緒にいた。どう考えても、絶対OUTなわけ。なのに、どんだけ頭で考えても、なんか、ムリだわ。苦しい]


[くるしーの?]



 キラの顔を覗き込むと、キラは、船縁にもたれていた体を起こした。



[どーにかなりたいけど、どーにもならない。麗の気持ちも、自分の気持ちも、自分が置かれてる立場も神も。だから気にするな]



 ええーっ。こんだけ動揺させといて、何それ。



[気にする]



 ちょっと怒ったように困ったようにキラを見る。と、キラは息を詰まらせる。



[っ。かっわぃぃ]


[ちょっ]



 ちょっと、顔赤くするとか、やめてよ。調子狂う。



[はは。なんか、言ったらちょっと楽ンなった]


[そーなの?]



 辺りはすっかり明るくて、さっきは水平線に見えていた帆船は港の中に入ってきた。巨大な蝶が休んでるような赤い帆。



[さっきから気になってたんだけど、麗。目クソついてる]



 去り際に情緒的なものをぶち壊して、キラは船の中に消えた。




 朝食のとき、キラは全くいつもと変わらなかった。くだけた口調なのに姿勢が良くて、紳士で。兄と3人、普段通りだった。


 3人で風を浴びていると、どこからか人がやってきて、明け方見ていた赤い帆の船から積荷を下ろし始めた。



[ね、ね、昨日、(ちん)氏の蔵って言ってたとこに運んでる。海から来た船、すっごく大きい。前、私が乗ってた船、ほら、大河で物を運ぶ用の帆船、あれの4倍くらいの大きさ]



 見えない兄にも分かるよう、何番目の蔵に木箱を運んだとか、両腕を広げたくらいの大きな物を運んだとか説明する。



[皇帝の側近中の側近が密輸か]



 兄は呆れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ