傷心忘れる珍道中
「兄さんの国はどーなんだ? この国は増税増税。とうとう高原地域が『やってらんねー』って独立したってよ。香香様々だね」
ええーーっ、独立?! 香香はかんけーないからね。
「独立を。すごい」
「北の方じゃ、『北の国に治めてもらおう』ってみんなで言い合ってるらしい。もう戦う力ないんだろーな」
戦う力? 喋っていた兄もその言葉に引っかかった。兄は確認する。
「飢饉か?」
「ああ。逃げてきたヤツが言ってたぜ。酷いもんだってよ。こっちから食料が届くんじゃねーかって、運河沿いに人がずらーっと待ってて、待ちきれずに死ぬんだってよ」
「食料は届いたのか?」
「そこまでは知らねー。こっちじゃ食うもんには困らねー。儲からないくらいで文句言っちゃいけねーなって思ったよ」
ニュースだか噂だかに驚きながら麺を啜っていると、
[すっげぇ旨そう]
キラが涎を垂らしてる。そして。
[もう1つ[あ、キラ]
ジェスチャーで買うと示すキラに、兄が何か言いかけた。
[なに? 俊熙も食べるの?]
[いや。なんでもない]
美味しかったぁ。満足。
器を返すと、キッチン船の人はニコニコと受け取り、それをそのまま河で洗う。
3時間後、キラだけがお腹を壊した。
私? 大丈夫。
大運河は幅が広くなったり狭くなったり、分岐も多くて水路は曲がりまくり。この辺りは先々皇帝のときに大運河の工事を頓挫したまま。迷路をクリアするように目的地に向かう。
そんなこんなでやっと湾に出た。
そして華港。
[華港はさ、私、出歩いてもいーよね? 都から離れてて本物の香香知ってる人いないから]
[行こ。キラ、もう大丈夫?]
[なんとか。あの冷麺、やめときゃよかった。なんで麗は平気なんだよ]
[へへっ]
港は期待していたより小さい。期待に反して小さな手漕ぎ船が1曹停まっていただけ。とても異国へ行く船じゃない。がっかり。
外国の船が見たかったなー。央の国の船よりもっとでかいかも知んない。東の国の船だったら、金銀でぴっかぴかかも。
港の役人は暇そうに外で昼寝してる。のどか〜。
キラと兄も拍子抜け。食べるぞー遊ぶぞー買うぞーっと意気込んでたのに。
[おかしい。聞いてたのと違う]
キラは兄の腕をとんとんとんと指で突いた。兄は、船長のところへ行ってじゃらっと銅銭の束を渡す。すると、船が出航。なになになに。
しばらくすると、別の活気ある港に連れて行かれた。どう見ても隠し港。港を歩いてる人間の種類が、ちょっと、違〜う。こんなことが分かるようになってしまった自分って。
飯屋、出店、いろいろ。異人がいっぱい。
あ、立派な蔵が5つ並んでる。Cの印はない。けど、あれじゃない? 隠し港にある蔵に内閣府長の蔵があったらマズいからC印がないのかも。
兄に訊いてもらった。
「おい、陳氏様の蔵はこれか?」
「そーそー。手前の2つは絹織物、銅銭、陶磁器や絵。3、4番目が砂糖、香辛料、お茶っ葉、象牙、時計、東の国の刀、いろ〜んな珍しいもんが入っとる」
男はそこで喋るのをやめた。
兄はキラに通訳をする。
「5番目は?」
兄が尋ねると、男は声を落とす。
「硫黄や火薬、阿片が入っとるって話や」
都の隠し港にいたダミ声男は、銅銭と銀を交換すると話してた。
「銀は?」
大事な代価について尋ねてみた。男は私を見る。
「そんな大事なもん、ここに置かん」
だよね。いっぱい教えてくださってありがとー。
男はねっとりと私を見る。
「兄ちゃん、きれーやなぁ。その異人さんらに買われたんか?」
「失せろ」
即座に兄がドスの効いた声で追っ払ってくれた。やっぱここの人、ガラ悪っ。
酒、賭博、女、喧嘩、ぼったくり。風紀の悪さに耐えかね、船で宿泊することにした。陸の宿からは遅くまで騒ぐ声が聞こえた。




