河港-大運河-華港
浅はかだった。三度の食事とふかふかの寝床。返事をしたときは、それが自分にとって最も大事なことだった。
空腹のまま、河辺に佇む。たっぷり水を湛えた大河を見れば、小さな自分の悩みなんてどーでもよくなるはず。なのに、次から次へと涙が出てくる。
雲嵐。
会いたい。
ずっと一緒に暮らしたい。
それはひとりよがりな望み。
自分は「家族に申し訳ない」人間。
雲嵐は、人間は一緒って言ってた。下の下の下なんてあるのは変って。下の下の下の檻の前で堂々と私と喋ってくれた。そーゆー人。
だけど、世間は違う。
「おーい! おーい! おーい!」
誰かが大きな声を出してる。鼓膜が音に揺れても、意識は流れる河面が反射する光にあった。
ちらちらと煌めきながら、ゆったりと流れる河。大きく揺れることなく、流れに身を任せる。そーゆー生き方でいい。燃えるような想いを封印して。
あの気持ちとめくるめく日々を経験できただけで十分幸せ。
大切な人の家族を泣かせてはいけない。雲嵐は祝福されて暮らすべき人。
「おーい! おーい! 麗」
名前を呼ばれて顔を上げた。
そこにいたのは私の家族で。
「お兄ちゃん!」
兄が河岸の傍まで来た船にいた。
[呼んだのはオーレー!]
キラが叫ぶ。全身白の服の2人。船は小さめ。前乗ってた怪しい船の半分より小さい。船は止まってくれてる。
[どーしたの? 2人とも]
[いやそれ、こっちのセリフ。ツッコミどころ満載。乗れよ]
キラは簡単に言うけどさー、岸から船は結構な距離。9尺(3メートル弱)ぐらい。えーい、もし河に落ちても泳げばいっか。
「ちょっと待ってて]
私は荷物を背負い直し、10歩ほど下がった。よっし、行け。
土手を下り助走、ジャンプ!
[マジか]「飛んだの?」
すちゃ
着地成功。すぐ後、船が揺れに揺れてバランスを崩し、転んだ。
[あっぶな]
キラが起こしてくれた。どーも。
[[[何やってんの?]]]
尋ねたのは3人同時。
キラと兄は、先日言ってた、貿易拠点華港までの遊覧中。先ほど河港を出たばかり。船は貸切。
[こんな朝早くから、船、手配できたんだ?]
感心。
[昨日、宿で頼んだんだ。金払ったらすぐOK]
金かよ。
[麗、男のカッコして泣いてたって?]
兄が私を探すように手を伸ばす。
「お兄ちゃーん」
兄の胸に飛び込んだ。びーびー泣いた。この人の前では小さな子供でいられる。泣きじゃくりながら馬牧場での話をした。
そんな私を、キラは団扇で扇ぐ。
[バカじゃん。男なんていくらでもいるのに]
傷心で泣いてるのにバカって。キラこそ乙女心が分かんないバーカ。お兄ちゃんは優しいもん。
「家族か。大事だもんな。でも、この先どーするかは雲嵐と2人で決めれば? 麗が相手の家族のことまで考える子だってのは、オレがちゃんと分ってる。今は泣き止め」
「……ぅん」
[男のカッコまでして探すほどの男? そいつ]
[おい、キーラ。]
[そんなヤツ、忘れろ忘れろ。麗も西の国に来れ……]
キラはそこで言葉を止めた。兄は私をぎゅっとしてくれる。
[麗。船ではこのまま男のふりしとけ。なるべく西の国の言葉で話せ。麗は賞金首だから]
[うん、分かった]
[いつまでひっついてんだよ]
キラが兄から私をベリベリと引き剥がす。
蒸しパンを貰って食べたら元気が出てきた。さっき悲しかったのは空腹のせいもあったかもって思えてきた。
[国境にクソ長い城壁造ったり、どこまでも行ける運河造ったり、マジで央の国ってスケールがアホみたいだよな]
キラは感心しきり。兄は言った。
[すげー国力だろ? 大運河は民の汗と血も流れてるってさ]
せっかくだから船遊び。河を下り、大運河に入って海港の華港まで。




