都上陸守銭奴娘麗
おいぃ、足の錘外してよ。忘れてっじゃん。
「鍵は船長が持ってる」→「船長は船出てった」→「船長?いねーな」→「積荷んとこで待ってりゃ来るだろ」
そう言われ、私は重い錘をつけたまま下船。売られる女にしか見えないし。でもま、積荷は船のすぐ傍で、そこまで来る人はいないから、顔を見られる心配はなさそ。
陸に足をつけても、まだ足元が揺れている感覚。
長かった。
船から運び出された木箱や壺と一緒にしゃがみ込む。腹が減って足に力が入んない。
ぼーっとしてると、ダミ声の男に話しかけられた。
「ねーちゃん、その壺いくらだ? 他に品物はあるか?」
よく見ろよ。この足の錘を。
立ち上がるとダミ声男の息が顔にかかる。うっ酒臭っ。
「値段なんて知らねーよ。他にも陶器や絹がある」
ダミ声男は酔っ払っているのか頬が赤い。目ぇ座ってるし。
「いいもんあったら、買ってやるぜ。オレはな、海の向こうの東の国に行くんだよ。そこで売るもん探しに来たんだ」
男は「オレってすげーだろ」的に腕を大きく広げる。
東の国、本当にあるんだ? あまりにウソ臭くておとぎ話かと思ってた。
「すごーい! 東の国って金銀がざっくざく採れる国なんだろ?」
「らしーな。金銀あるのに銅銭が足りないんだと。こっちから船が傾かないように銅銭乗っけてくんだけどよ、銅銭持ってくと『央の国の銅銭だ』つってありがたがられて、こっちでの7倍の銀になるんだよ。はーはっはっはっは」
「マジで!?」
ボロ儲けじゃん。船でわざわざ繰り出す価値あり。おとぎの国。
「旦那、何か御用ですか? うちはいい品を揃えてますよ」
船員がきた。壺も木箱の中身もたぶん盗品流れ。金持ちの家から盗んできたものなら、いい品には違いない。
「まず、そのでかい壺は買う。他のも見せてくれ」
ダミ声男は次々と開けられる木箱の品々を確認して、購入を決めていく。
「旦那、お目が高い。じゃ、全部でこんなくらいでどうですか?」
船員は右手で2、左手で5を示す。25。
「んー」
ダミ声男が考える素振りを見せると、船員は広げていた左手を握った。20。
いやいやいや。私は両手をダミ声男の目の前に出す。15。
「これでどーだ!」
「アホか」
ばこっ
すかさず船員に頭を軽く殴られた。私は横目でギロっと船員を睨む。ちょっと黙ってて。
「ね、東の国じゃ7倍になるんだろ? だったら、これの3倍にしてよ。うちらも御相伴に預かりたいんだよ。海を越えるってすげーじゃん。応援する!」
私は右手で1、左手で5のまま、ダミ声男に笑いかけた。
「そーだな。7倍になるんだから。いいな、それ。よっし、それの3倍で買ってやるよ」
「漢だねっ。旦那。さすが海を渡る人は違う」
とヨイショ。
で、ダミ声男は気前よく金を払い、人足を呼んで荷物を運んで行った。
「あれ?」
船員は渡された銀の量に首を傾げてる。25で吹っかけて、20で売ろうとした。結果、45を手に入れた。
ダミ声の男はいくらで売るんだろ。7倍になるのは銅銭だけなのに。仮に商品も7倍で売れるとしても、こっちで3倍分頂いたら、ダミ声男は2倍ちょいで売れるだけ。ま、いっか。
「最後にいい仕事したなぁ、香……じゃなかった。麗。元気でな。ほい、餞別」
「わ、肉まん。ありがと。お世話になりました」
潰れてるし。
懐から出された人肌の肉まんを頬張っていると船長が来て、足の錘を外してくれた。
自由。
「お世話になりました。春玲をよろしくお願いします」
「おう。待っとる」
ここからは命懸け。都には下の下の下の顔を知る人がいる。見世物だったんだから。いくら風貌が違っても、バレる人にはバレる。私は西の方の顔。この辺りの人に比べて凹凸が大きい。
地味な服、若い娘に多い髪型。それでも道行く人の視線を感じる。振り返る人がいる。




