イケメン異人三度
噂が届くには日にちがかかる。貴族の屋敷が放火されてるのが本当だったとしても、すでに終わったこと。たぶん李氏様の屋敷は最初に狙われたから。
李氏様はまだ都に到着していない。陸路は水路よりも遅い。噂を聞いても、旅を急ぐくらいしかできない。
都に着いたら、真っ先に翠蘭の無事を確かめなきゃ。
人々が興味のないことは噂にならない。伝わる前に消える。
流行歌までできてしまった香香の噂は化け物級。
「香香は碧の目ぇしてんだってよ」
「はーはははは」
「6尺の異人だと」
「確かに西の方の顔だけどな」
「噂なんてそんなもんさね」
港に、別の噂が届いたらしい。
「商人の暴動の先頭んなったって」
「商人って役人と繋がっとるんじゃねーの?」
「そんなん、金あるヤツらだけだけ。闇市のヤツらが店の品物を役人に押収されてよ。それ、役所から取り返したんだぜ」
「取られたものなら取り返すって?」
「おおっ、香香じゃん」
ちがーう!
「みんなが香香香香って歌いながら道歩いたってよ」
あー怖っ。
私じゃないからね!
「自分らの街は自分らで治めようとか、
自分らの税は自分らで決めようとか、
自分らの国は自分らで考えようだとさ」
そんなん君主制の反乱分子じゃん。暴動に便乗してっじゃん。どー考えたって、香香像とちげーじゃん。誰か否定して。
「「「「カッケー」」」」
ダメだ。
いつか雲嵐が言ってた。「必要な人には会える」って。
思わぬ人に再会した。
隠し港で船を修繕していた私達の隣に、1隻の船がやってきた。
同じくらいの大きさの船で、甲板にいると乗っていた人と目が合った。
[香香?]
[キラ?]
[すげっ。本物? ちょ、そっち行くわ]
キラは船にぶら下がっていたロープに掴まり、それを振り子のように揺らした勢いで私の目の前に飛んできた。まるでお猿さん。楽しそう。ちょっとやってみたい。
[本当に来た]
キラと私の周りを船員達が取り囲む。
「なんだよ、こいつ」
「盗賊?」
「異人だ。碧の目」
「西の国のキラです。よろしくです。香香の友人です」
キラは央の国の言葉で自己紹介をした。
「あ、まさか」
最新の噂は、香香が碧眼で異人。「自分らの街は自分らで治めよう、自分らの税は自分らで決めよう、自分らの国は自分らで考えよう」って、いかにもキラが言いそう。キラは民主制に憧れてた。
「央の国の言葉、覚えた。ちょっとだけ。歌も。
うちらのぉ米はうちらで食べよ
取られた米ならぁ取り返せ〜♪
増税官僚太った皇帝
うちらの米でいい暮らし〜♪
香香香香ンンン下の下の下〜♪」
後半は船員達と一緒に合唱。そして最後のフレーズを何回もリピートする。
「ストーップ!」
やっと歌が止む。周りは拍手喝采。指笛付き。
[香香、探した。すっげー探した。暴動があるとこにいるかもって、暴動の噂んとこ行って。こんなとこにいたんだ? 会えないはず。って、香香、捕まってんの?]
キラが西の国の言葉で喋り始めると、船員達は各々の作業に散っていった。
[うん。わざと。陸路は危ないから]
[なるほど。あ、オレが香香を探してたのはさ、知り合いが香香に会いたがってて]
[私に?]
[香香って、お尻に印あったじゃん?]
ちょっと! 西の国の言葉でヨカッタ。船員達に聞かれたら、勘違いされちゃうじゃん。それを知ってるのは、今となっては雲嵐だけ。まさか。
キラは大きな声で隣の船に向かって叫んだ。懐かしい名前を。
[おーい、俊熙、こっちに顔見せて]
「お兄ちゃん!?」
隣の船の方へ身を乗り出した。そこにいたのは前髪で右目を隠した男。面影がある。キラと同じ西の国の服。茶色の布に全身を包み、私の方を向いている。だけど、視線が合わない。




