米蔵騒動の語り部
港は船乗りにとってロマンなんだそうな。七つの海を渡る漢に「ロマン」は似合うかも。川は、どうかな。大河の流れはロマンだけどね。
小汚い男らは、髭を整え、精一杯のオシャレをして飲み屋や娼館へ行く。これは、牢の中にいたときは知らなかったことの1つ。
「港には2泊以上するんだよ。半分ずつ遊びに行く。船を留守にすっと、積荷を盗まれっから」
OUTな商人の周りには同じくOUTな生業の盗人がいる。盗んでも役人に届けられないから、この船は絶好のターゲット。
鼻歌混じりに下船した船員らは、巷の噂を持ち帰る。
「香香、お前の語り部までおるって話やぞ」
「語り部?!」
「なんや、割と綺麗なねーちゃんで、香香の米蔵ネタでそこら中で喋って、ぎょーさん儲けとるゆー話や」
庶民が喜びそうな話だもんね。
実際は商人の家の門破ったとき、丸太抱える1人だっただけ。なのに、米蔵を小指で持ち上げたことになり、鼻息で吹き飛ばしたことにアップグレードされてた。語り部の仕業なら厳重注意したい。
どーせなら、和平条約では偽の契約書が用意され、銅が銀に書き換えられてた「公文書偽造」についてと、それを告白した外交の大臣秘書の遺書&自殺が偽装かもってゆー「殺人事件」の可能性についても吹聴して欲しいとこ。そんな話聞いたら、誰だって外交の大臣が怪しいと思うはず。
次の日の午後、甲板で風を浴びていると、もこもこと動く袋を担いだ船員達がやってきた。袋の中はきっと人間。また拐ってきた?
「おーい香香、連れてきてやったぜ。語り部のねーちゃん」
船員達は嬉々として桟橋をのしのしと渡ってくる。そんな言い方、まるで私が頼んだみたいじゃん。やめて。
どさっ
甲板に下ろされた袋から女が出てきた。見覚えのある桃色の服。口を布で塞がれてても分かる。西の国境へ行く途中、監獄にいた美人の囚人。「次に出るのはアタシ」って言ってた。
「大丈夫ですか?」
縄で縛られ、芋虫のように転がされている女に駆け寄って、口に覆われていた布を外した。
「香香? マジで、香香?」
「はい。お元気ですか? あそこ、出られたんですね」
「どーしたんだよ、香香。捕まってんの?」
女は私の足についた錘を見た。
「はい。まあ、そんなとこです」
「香香、こいつら『船まで来て語ってくれ』とか言いやがってさ。真昼間に怖い面引っ提げて脅すんだよ。逃げたら、こんなんされて。おいっ、縄解けよ、こらぁ」
船員達は、語り部と私が知り合いだったことに驚く。
「なんだよ。知ってんのか、ねーちゃん。だったらこんな手荒なことしなかったのに。悪かったな」
ううん。手荒なことしなきゃ、誰だって逃げるから。連れてこられなかったよ、たぶん。船員達は一目でカタギじゃないって分かる面構え。
語り部の縄を解き、誤解を解いた。私が連れてきて欲しいと言ったわけじゃないこと、拐ったことに恐らく悪気はないこと。
いいんだよね? 別に、売り物として拐ってきてないよね?
「香香のことみんなに広めてくれてるのに、売るわけねーじゃん」
ヨカッタ。
「な、ホントに香香って、あの香香だったわけ?!」
語り部は、監獄で会った私と、噂の香香がまさか同一人物とは思っていなかったみたい。
「そーなんです」
身の安全を保証された語り部は、前金を貰ってからパフォーママンスを始めた。
「さあさあ、聞いておくんなせぇ。港から離れること遥か彼方。央の国、西の国境に香香という女がいたそうな。身の丈6尺(180センチ程)、長い黒髪、誰をも虜にする神秘的な瞳。すれ違う男は皆、この世のものとは思えない艶やかさに振り向いたってんだから罪作り」
扇子でぺんぺんぺんと船のマストを叩く語り部。
6尺は語り部のせいだったのね。許そう。めっちゃ綺麗な女ってことになってるから。気分ヨシ。




